閑話 冒険者ギルドの受付嬢
今日も冒険者ギルドは賑わっている。
2ヶ月前は、『時の旅人』が一気に詰め掛けた為、一時期は業務がパンク寸前だったが、今はある程度の落ち着きを取り戻している。
しかしマキは、召還された『時の旅人』のことは好きになれなかった。
たまに好感がもてる人間もいることはいるが、殆どの者が私達の事を血のかよった人間としてみていないような素振りをみせる。
受付業務をしていても、御礼を言われることもごくたまにしか無い。
こちらがして当然。聞かれてもいない常識を教えてないからと言っては怒鳴り込んでくる。
ここ2ヶ月ほどで急に揉め事が増えたように思う。
ギルド長などは世界を救ってくれるかもしれない『時の旅人』達だから我慢しろとは言うけれど、日々対応に追われる私達はたまったものではない。
ギルド内の空気が一瞬にして変わった。
受付業務に就いている女性が一斉にはなやいだのだ。
原因は明らかです。
この時の為だけに、ここに居る女性人は熾烈きわまる争いを毎日繰り返しているのですから。
そういう私もその1人であり、また勝者の1人でもあります。
責任者権限で、私はこの特権を得ているのです。
「こんばんは。薫様。
本日のクエストは、Dランククエストの『蜂蜜』採取ですね。」
「お願いします。
それと、『女王ビー』の出没場所と蜂蜜の採取方法の情報などあれば教えてしただきたいのですが。」
薫様の来訪です。
端整な顔立ちに物腰は柔らかく、いつも丁寧に接してくださる方。
つい先日、『聖なる乙男』のパーティーメンバーと冒険者登録をされに来られたのが始まりでした。そして、すでにEランク。登録して5日というのになんと早いランクアップでしょう。
夕方遅くに討伐系あるいは採取系のクエストを受けに来られ、朝方、その報告と、料理系のクエストを受けて帰られます。
ですので、私達受付嬢達は遅番である時間帯にこぞって勤務したがるのです。
いや、受付嬢だけでなく、鑑定のアイツや事務のアイツなども、男がいた方がとかなんとかかんとかと理由をつけて薫様がいらっしゃる時間帯に勤務時間を合わせてきているのは、みな承知です。
アイツ等のせいで私達の勤務できる人数が減っていいるので、かなりうらみを買っていますが、そこらへんは気にしてないのか気づいてないのか・・・いえ、絶対、自分達が薫様タイムにわざと勤務を合わせていることに気づかれてないと思っているに違いません。
本当にお美しい顔立ちをされているのですが、いつもフード付きのレザーマントを羽織られていてお顔が少ししか見れないのは残念です。しかしそれも仕方ありません。
冒険者ギルド職員ならわかっていることですが、薫様の種族は魔人(吸血鬼)なのです。
吸血鬼は日の光にあたるとかなりステータスが落ちると言われています。
強い日差しの中では、歩いているだけで生命力を削られると聞いたこともあります。
ですのでいつも薫様は、日の落ちる時刻、城門が閉まる前ぎりぎりに来られます。
日よけのマントは必須アイテムなのも致し方ありません。
しかし、吸血鬼。
その牙を私の首筋にあてていただきたい。
血を吸ってしただければ・・・なんと官能的な。
想像しただけで、濡れてしまいますわ・・・・
「マキさん?」
「失礼しました。『女王ビー』の情報ですね。」
いけません。女、○○歳。乙女としてなんと恥ずかしいことを妄想してしまったのか。
これでは部下に示しがつきません。
「おつかれの様ですね。これ、よろしかったら皆さんでどうぞ。甘いものは疲れにいいと言いますので。」
薫様の笑顔が私を射抜きました。
鼻自が出そうです。
なんとか、御礼と『女王ビー』の情報をお教えして引き取っていただきました。
もちろん『ビーの羽』と『ビーの針』の情報もお教えします。今のところ高価な買取品目ですので。
しかし、これ以上薫様のご尊顔を拝見していれば妊娠してしまうかもしれません。
薫様の笑顔に勝るものなどなにもありませんわ。
たとえ魔物の王だろうと薫様に微笑みかけられたら、ひとたまりもないに違いありません。
薫様が出て行かれたとたんに、スズメどもがよってきてさえずっていましたが、薫様が差し入れてくださった『お菓子』という食べ物を前に、平伏しました。
目がらんらんと輝いて、獲物に視線が釘付けです。
どの子の目も獲物を横取りするハイエナのようです。
正直、この私ですら怖かったです。
「全部私達が頂いてよろしいのですか。」
一応、最年長の私にお伺いをたててきますが、その目が絶対渡しませんと語ってますよ。
私は、そんないはしたなくがっついたりしません。
広い心で譲って差し上げますわ。
なぜなら、薫様が、数が少ないので内緒ですようっと言って私にだけ小さく詰めた『お菓子』を下さったからです。私にだけ。
大切なことなので3度言いますわ。
私にだけ。
私だけを特別扱いしては他の者に示しがつきかないので毎度毎度、他の者達にも下さるのでしょうけれども、薫様にはいつも気を使っていただいて申し訳ありませんわ。
私も、受付業務の責任者ですので薫様だけを特別扱いするわけにもいかないですしね・・・。
今日もある意味平常運転で冒険者ギルドの仕事は回っていく。
一方、こちらもある意味平常運転の宿屋『止まり木』の食堂。
「薫さん、これどうするんですか?」
大量に作成されていくお菓子を前に俺は聞いてみる。
「私は甘いものは食べませんし、彩加にお菓子ばかり食べさすのはやっぱり栄養が偏えいますから、余らせてます。君達に食べてもらうにも限界がありますし。」
スキルのレベルアップの為に大量に作られてお菓子の山を前に答えを下さる神様、薫様。
突っ込まない。もう、突っ込まないぞ。俺達はそう決めたじゃないか!
『聖なる乙男』のメンバー間の最近の暗黙のルールは、薫さんには突っ込まないだ。
あの空気読まないあっきーですら、最近は黙ることが多くなった。
そもそも、ゲームの世界で栄養が偏るとか偏らないとかはありえない発想だろ?
といあえず、空腹ゲージをある一定以上に保っていればいいのだから。
女性陣などは、現実世界で太るからと制限している甘味をここぞとばかりに食べる事のほうが多いぐらいだし。(今は、その甘みもないのだが・・・)
「余ったものは女将さんや冒険者ギルドの受付の方々に差し入れしてます。腐らすのはやっぱりもうしわけないですから。」
はい、余計な一言がついてきました。さすが神様。
この行為がどれだけ、女性陣の心をもてあそんでるのか絶対この男わかってません。
女将さんのサービスが露骨なのが納得できました。
受付嬢の目がなぜハートだったのか理解できました。
しかし、性的なお誘いを受けているのは見たことないぞ?
はっっ!これが、天音いわくの『わかっていて、上手にかわし、コントロールしている』か!
このマメさか?このマメさがモテの秘訣なのか?薫さんの真骨頂なのか?
いつでも誰でも落とせる、しかし気が乗らないから落とさないだけ、状態か!
まさに入れ食い。恐ろしい。
横に居る正人に目で合図してみるが、正人の目はすでに虚ろである。
さらっと、お菓子を差し入れるってどうやるんだろ?
スマートに自然にって・・・駄目だ、想像出来ん。
正人のような自宅警備員にはハードル高すぎるよな。判るよ、判る。
彩加ちゃんの男の基準は、薫さんか・・・師匠と呼ぼうか?
リア充への道のりが険しいことだけは十分に理解した俺、アポ騎士でした。




