ある製作者のぼやき
とうとう会長もボケたな。
会長は、「伝説」、「生き神」とまで言われた偉大な経営者あり統率者だ。
俺の憧れの人物でもあったのに・・・。
この仕事が舞い込んできた時の正直な感想だ。
会長の祖父、そしてその祖父ぐらいまでがしていた生活を体験できるゲームだ?
そんな時代に逆行したゲームなど売れるとは思えない。
今の時代、宇宙船による戦略ゲームや、未来を想定したロボット型シューティングゲームが主流だ。いや、球技系のVRゲームも根強い人気を誇っているがのだが。
会長が私財を投じてするのだから、売れなくてもかまわないのかもしれない。が、・・・
会社の人材と備品を使う以上、それなりの利益を生まなければ、社長からなにを言われるかわかったものじゃない。
そもそも、相棒がコレだし・・・。
「で、ストーリーは出来たのか?」
社内一いいかげん男。
よくクビにならないものだ。
「いや、そもそもエルフとかドワーフとか獣人とか・・・どんな設定にしろと?」
「なんだ、そのエルフとかドワーフってのは?」
「昭和や平成と言われた時代のゲームや小説によくでてくる種族だ。
エルフは尖った耳が特徴で、美形貧乳がトレードマーク。
ドワーフは背丈の低く鍛冶や工芸技能に特化した種族らしい。」
「じゃ、ファンタジー系か?」
「会長の祖父やそのまた祖父が暮らしてた時代の再現が目的だぞ。
新しく、ジュリアで世界を作り出すより、今ある地球のデータを流用する方がよほど効率的だ。」
ジュリアとは我が社が管理する頭脳の一体だ。
頭脳とは人間の命令をより忠実に実行してくれるコンピュータのことだ。
我が社のメイン頭脳はシュリ。
社の全頭脳の統括、解析、管理、監視、指導を行なっている。
この下にサブ頭脳、そしてその下に子サブ頭脳、孫サブ頭脳と続く。
ジュリアは孫サブ頭脳にあたる。
はっきり言って、ほとんど役立たずだ。
シュリに匹敵するのは政府管轄のガイアか我が社のライバル社である某一流企業の管轄するアシュラぐらいなものだ。シュリは、かなりのハイスペックコンピューターである。
そのシュリがIQ300の天才ならば、孫サブ頭脳のジュリアは生まれたての赤子のようなものだ。
そのジュリアと社内一のいいかげん男とオレの3人でVRMMORPGを製作しなければならないなど、悪夢以外のなにものでもない。
「で、結局どうするんだ?」
「光粒子爆弾でも落ちたことにして人間が各種族に変化。地殻変動で大陸は一つになったことにして、孤島を点在させる。」
もうヤケクソである。
ストーリーテラーとか会長におだてられて引き受けたが・・・後悔の嵐だ。
数百年前の日本を再現しろと言うわりには、獣人やエルフになってプレイしたい、魔法が使いたい・・・出るわ出るわ。
富裕層の暇なジジババが揃って言いたい放題、無理難題を吹っかけてくる。
自然豊かなフィールドを、海も山も見たこともない人間に再現させるなんてどうゆう了見なんだか。
「で、オレはいつぐらいのデータをジュリタンに入れさせとけばいいのよ?」
オレはその言葉に、いいかげん男の前にうず高く積まれている紙の束をしめしてやった。
「なにコレ?」
「会長の祖父の時代は、約220年ほど前になるんだが・・・
会長がおっしゃるには、『猟友会が狩ってきたイノシシを貰って食った』や、『友人が釣った魚を貰って食ってた』っと。そういう時代らしい。
しかし、ジュリアに220年ほど前の時代を聞くと、博物館にあるようなタイヤの付いた車で移動して、
宇宙に行くのに命がけだったような時代としか教えてくれない。
どうやら、狩りをしたり漁をしたりするような時代ではなさそうなんだ。」
「狩ね~。
ジュリタン、狩をしてた時代っていつ頃よ?」
『そのような曖昧な質問には答えられません。具体的にお願いします。
そして、私はジュリアでジュリタンではありません。』
オレの時と同じ答え。
これが孫サブ頭脳の限界だ。
明確な指示が無い限り次のステップには進めない。
サブ頭脳あたりになれば、曖昧であっても幾つかの選択肢を提示してくるのだが、それは言っても仕方ないことだ。
オレは笑って目の前の資料をもう一度示してやる。
「なんで、孫サブ頭脳なんだよ。メイン頭脳とまでは言わないが、せめてサブ頭脳使えなかったのか?」
「しかたないだろ。会長と社長が犬猿の仲なんだから」
「・・・・」
しばらく資料をめくる音だけが室内を支配した。
「おっ、江戸時代ってのがある。
年代的には長いし、これでいいんじゃないか?」
ぱらぱらと資料に目を通していた男は、年表に目を留めたようだ。
「ジュリタン、始まりは江戸時代でよろしく~。」
『私はジュリタンではなくジュリアですが、了解しました。』
律儀に自分の名前を訂正しながらも作業にかかるジュリア。
狩猟時代はどうしたとは、もう言うまい。
疲れるからだ。
それに、江戸時代には微かに農耕や漁の記録が無いわけではなかった。
「ベースは出来てるんだろ?」
「ああ。しかし、データが古すぎて紙媒体でしか資料が入手できないのがいくつかあってな。」
机の山の資料は、半分は時代背景を設定する為に集めたものだが、残りの半分はシュリの中にすら内包されていない古い記録だ。
「げっ。こんだけ手打ちかよ。」
「その為に、お前がいるんだろうが。」
いいかげん男の嫌そうな顔に親近感を覚える。
「ジュリタン、取り合ず、魔物の名前は適当に動物ピックアップして名前もじっちゃって。」
『私はジュリタンではなくジュリアです。
適当とはどこまでが適当なのでしょうか。明確に指示をしてください。』
あほである。
一瞬共感したオレがバカだった。
こいつはこれでこの道のプロなのか?
そして、ジュリアはどこまでいっても律儀である。
「あ~、そっから指定かよ!
国立動物園、植物園、水族館にいる生物は全て魔物にして、名簿順に外観を1ヶ所づつずらして変更。名前はD1方式でもじっちゃって。
地方動物園、植物園、水族館にいる生物は全てそのまま動植物として登録。
あとは・・・紙媒体をデータ化して、出来なかったやつだけ写すから、よろしく。」
『了解しました。』
D1方式って、誰かが息子(3歳)と言葉遊びする為に作った変換法則じゃなかったか?とも思ったが、それを指摘するのも疲れるので俺は黙って資料に目を通し続けた。
まだまだ、要望は山のように積み上がっている。
一つづつストーリーの中に組み込み、消化していかねばならないのだ。
「それだけじゃ、魔物の種類足りないだろ。」
「了解。了解。100年ぐらい前に流行ったゲームのモンスター流用すればいいだろ。」
「流石にそれは・・・」
「じーさん(会長)達も、自分らが遊んでた頃のモンスターが出てきてくれたら嬉しいって。」
「・・・そうかもな・・・」
俺はなんとなく納得してしまった。
「と言うことで、ジュリタン、100年前の有名どころのゲーム適当に2タイトルほど流用して魔物にしといて。」
「会長が子供の頃なら、130~140年前ぐらいだ。」
「はい。はい。じゃ、ジュリタン、135年前でよろしく。」
『わたしはジュリタンではなくジュリアです。
適当ではなく2タイトル、きちんと指示してください。』
「え~。めんどい。適当でいいって。」
『指示ください。』
「いいじゃん。ついでに、適当に似た外観のものを材料として使えるようにしといて、ジュリタン。」
『・・・私はジュリタンではなく、ジュリアです・・・が・・・了解しました。』
数十回の「適当」と『指示ください』の問答の末、とうとう頭脳が折れた。
いや、頭脳が折れることなど決してありえない。
当たり前だ。人間の指示を勝手に判断するような頭脳は、頭脳としては欠陥品である。
それは、人間の指示を無視したと同等の行為に他ならない。
そのような頭脳があれば、再調整されるか破棄である。
なのにジュリアは根負けしたかのように、適当な指示で作業に入った。
これが、いいかげん男がクビにならない理由か。
俺は驚きすぎて、逆に冷静に思考していることを、さらに俯瞰して考えている。自分でもよく判らない。
これが、この男の真骨頂。
噂には聞いていた。
人間の命令には従順でいて決していい加減な指示には従わない頭脳も、なぜかこの男にかかれば適当な指示に従ってしまう。
こんな特異能力を持つ男を会社が手放せるはずもない。
そして、それが解っているこいつは、そのいい加減さにさらに磨きをかけている。
いや、この男を飼いならし、厄介な仕事を押し付けている段階で会社の方が一枚も二枚も上手か?
「そんで、製作に必要ない物とか成分同じものは雑草1とか雑草2、虫1とか虫2でいいんじゃね?一応、それ名前のことだけから。実際の情報は再現させといてね。」
『了解しました。』
この域に来ると聞かなかったことにするほうが懸命だな。
「しかし、こんなの売れねーだろ。」
ジュリアに指示を出し終えた男は、ジュリアの作業待ちの為、暇そうに、あくびして、ソファーに寝転びだした。
寝転んだ体勢でも一応資料にぱらぱら目を通しているので文句もいいずらい。
「一応、ジュリアに入力されているアイテムは、すべてレシピで製作可能にしといてくれ。」
「了解了解。でもいいのか?全部レシピで製作させて。」
「レシピがなくて、誰が作れるんだ?」
「そりゃそうだ。納得。納得。」
当然である。
現代の機械の役目をレシピがしてくれる。
生産も売りの一つなのに作れなかったらゲームとして売れない。
売れそうにないものをどうにかして売るのが俺の仕事だ。
攻撃回避系スキルもダメージ遮断系スキルもその為にあるのだ。
それでいいはずだ。
いいはずであった。
βテスタは概ね好評であった。
意外なことに、自然豊かな世界が珍しかったのか、一般ユーザーにもウケた。
しかし、会長達には、いささか不満があったようだ。
レシピで製作ではなく、自分達の手で何かを作り出したかったらしい。
そして、攻撃回避系のスキルもお気に召さなかったらしい。
こちらは、取得必要スキルポイントをより多く消費する仕様の変更で納得してもらった。
問題は、生産系スキルだ。
そもそもどうやったら自分の手で製作できるんだ?
レシピで作ったら、それは自分で作ったことにならないのか?
製品しか見たことのない人間が、何かを1(いち)から製作するなど不可能である。
料理ですら、材料を揃えて機械に任せる人間の方が多いのだ。
その材料ですら見たことがない人間も多い。かく言う俺もその1人だ。
しかし、それを言ったところで会長達には通用しない。
俺は仕方なしに、さらに資料集めに奔走させられた。
「ジュリアにあらゆる化学現象と物理現象を入力しておいてくれ。」
「いいけど・・・なんでだ?」
「知らん。ただ、もう少し自分で作る楽しみ方をしたいそうだ。それには、シュリに収まっているだけの化学・物理現象では足りないらしい。
ここ数千年のあらゆるデータを原子・微生物単位で入力しておけとのことだ。」
いいかげん男が嫌そうな顔を見せる。
俺だってメンドクサイ。
しかし、請け負った以上はするしかない。
「一応、ジュリアに入力されている製作品の内、ベースとなる物、この場合、200年前から今に存在するあらゆる物は魔物がドロップするようにしといてくれ。」
「了解。了解。でもいいのか?全部ドロップさせちまって。」
「いいだろ。会長たちは自分で手作りを楽しみたいらしいから、手作りできるようにはするが、会長達以外に需要があるとは思えん。レシピ数を減らすんだ。それぐらい必要な処置だろ。
それに、上位製作物はさすがにスキル作成でしか作れないように設定しとけばいいだろ。ここ200年以内にない製品は手作りしか出来ないんだし。」
「そりゃそうだ。そこらへんのバランスはジュリタンに勝手にやらしとくわ。」
「ああ、頼む。ドロップ率とかも任せる。
後は・・・文明も少し発達しすぎていたらしい。」
「よくわからんな。・・・おっ、縄文時代ってのがある。
狩猟時代らしいぞ。これでいいんじゃないか?」
年表を見て、いいかげん男は年代を選ぶ。
その時代は、すでに一行ずつしか示されることのない時代だ。
「とりあえず、βテスタの時は、本編終了後の豊かな時代だったことにして宣伝はかけた。だから、ジュリアに時代を遡らせるよう頼んでおいてくれ。この際、縄文時代でもなんでもいいさ。
後は、孤島始まりやダンジョン始まりのバージョンを付け加えることにする。」
「なんでまた?」
「会長が孤島から始めたいんだと。」
「・・・」
「だから、種族ごとに種族の首都から始めることにする。
種族ごとの街の設定と、ここにある資料の入力は頼んだぞ。」
「了解。了解。」
いいかげん男はその称号に恥じることなく特異能力を遺憾あ(いかん)なく発揮し適当な指示をジュリアに出しているが、俺の知ったことではない。
この仕事が終われば休暇をとる。絶対にだ。
βテストを終えた会長達の要望は、さらなる無理難題となった。
その調整の為、また家に帰れない日々が続いている。
たまには家族サービスしなければ。
ちょうど本サービスの運用期間の5日間がいいかもしれない。
そう思っていたのに、なぜ俺は冷凍睡眠装置の中にいる?
俺も中に入らなければいけないのだったら、もう少しいいかげん男の仕事を監視していたのに。
絶対、適当にしてやがるはずだ!
ちらっと見たが、絶対に獣人の首都からだけは始めたくない。
森の民の首都、1択だ。それしかありえない。
「じゃ、中で」
「ああ・・・」
「「リンクスタート」」




