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12日目

生命回復薬のビンに入れられた液体から泡がプクッ、プクッとわいている。

その液体に光が乱反射し綺麗な模様を石室の壁に映し出している。


フタを開けるとプシュッと音が出た。

それこそ薫が待ち望んでいたものだ。

薫の顔がこころなしかほっとしたように見える。


森で採取したアプーの実(見た目も味も青りんご)を砂糖とぬるま湯を加えて先日より温かいところで保管していたのだ。

本来これだけで糖分の多いものなら発酵が始まるのだが、ここは『冀望』。

ゲーム世界である。

現実の世界なら果実の皮に天然の菌が付いているのだが、ゲーム世界で菌という見えないものの存在まで再現されているか、薫は不安であった。

しかし、薫は賭けに勝った。

アプーの実を漬け込んだ液はしっかり発酵している。

その証拠が、ビンを開けたときに匂ったアルコール臭とさきほどまで絶えずアプーの実からでていた泡である。


現実世界において、実際のところは、作物・食肉・食品はすべての工程でオートメーション化され無菌室での栽培・育成・加工が行なわれているのだ。

現実世界の果物を購入して天然酵母を作るとかいうことは不可能である。

反して、この『冀望』世界では菌の存在まで再現されている。

開発者の『昔日』への思い入れが伺える。まさに執念であると言っていいかもしれない。

そして、そのはるか昔の技術を使って食材を作ろうとする薫にも驚かされる。


薫は、ビンから果実だけを取り出し、半分をもう一つのビンに移し、そちらに小麦粉を加えていく。

元だねを作っているのだ。


そもそもは、2日前に『モロコ』という魔物に遭遇したのが発端である。

『モロコ』は、ちょうど彩加と同じ位の背丈で円錐形の胴体に丸い黄色い粒を無数につけた、まさにトウモトコシのお化けであった。

それが、ピョンピョン飛び跳ねながら向かってきて、近づこうとすれば、その黄色い粒を飛ばしてくる。

彩加が地上を探索している時に遭遇することになったのだ。


その日、薫は、取得できたばかりの『隠密』スキルを使い木の上を移動していた。

その時、薫の耳に彩加のSOSが聞こえてきたのだ。

駆けつけた薫の目の前では一方的に大量の粒-『モロコの粒』と言う、そのまんまのネーミングのものであった-を浴びせかけられていた。

彩加は、明らかに不利な状態であった。

『モロコ』の攻撃に、彩加は近づけないうえに地味に生命力を減らされていたのだ。


とりあえず、撤退を決めた彩加の援護を薫は陰ながら行い、その後、そのままその場に留まり、『モロコ』が飛ばしていた『モロコの粒』を採取したのは別の話し。

しかし重要事項は、ここで『モロコの粒』が手に入ったいうことである。

いや、正確には、『モロコの粒』が現実世界でのとうもろこしであったことが、だ。


いくら工夫して料理を食卓に並べているとはいえ、硬いパンはどうすることも出来ないでいた。

硬いパンを食べるたびに眉を八の字にしている彩加を見る薫の顔も曇るがちになっている。

決して誰にも気づかれなくとも、薫の内心は暗雲が立ち込めている。

彩加には栄養のきちんと取れる美味しい物を食べさせたいと常々思っている薫である。

いつまでも、あの固いパンを食卓に並べるつもりはない。決意の堅い薫である。

ミルクスープに硬いパンを浸して食べる。

溶き卵と水をあわせ、塩コショウで味付けし、パンを浸してグラタン風に蒸し焼きにする。

これらは、なかなか彩加には好評であった。

しかし、それだけでは数食分にしかならない。


『ウッシー』の胃袋からミルクが採取してからはマシになった。

ミルクが手に入ったのだから、フレンチトーストをしてみるのもいいかもしれない・・・と薫が考えたかは知る由もないが、ミルクが手に入れば、生クリームもバターも、そしてチーズも作れる。

現に嬉々として薫がそれらを作る作業に入ったのは言うまでもない。

ミルクは放置してミルクと生クリームに分離させる。

後は、生クリームの方をビンにいれ、ひたすらシェイクすればバターが出来上がる。

バターの出現によって、ミルクスープがクリームシチューになる。

ミルクスープより風味もコクも断然上である。


チーズにするには、ミルクを温め、レモン汁を加え混ぜればいい。

分離して固まってきたら、布に包んでつるしておけば自然に水分が抜けてくれるので、頃合に食べればいいのだ。

ちょっと炙ってパンに乗せて食べるのも良いし、使いどころは多い。


レモンは『レモン』として採取できる。

卵は鳥の巣から拝借できる。『トリー』からも偶に収穫できる。

森の中は、なかなかの食材の宝庫である。

出来れば、もう少し小麦粉があればよいのだけれど。米も欲しい・・・パルムを呼ぶお金がない2人は自力で頑張っていく覚悟をしていた。




しかし、それよりなにより『モロコの粒』が手に入る、ということだ。

つまり、とうもろこし粉が手に入る可能性があるということだ。

それで少しはレパートリーも増える。

けっして、現実世界で食べるパンほどでなくても、今ある硬いパンよりはましなパンも作れる。

その為に、今、せっせと天然酵母を作っているのだ。

トルティーヤもアレパもクッキーだって焼ける。

もちろん『モロコの粒』をそのままコーンスープにするのも、バターと炒めてバターコーンにするのも美味しいだろう。

彩加の喜ぶ顔を思い浮かべて頭の中のレシピ集をめくっていく薫であった。


そして、自分の為にこっそり『モロコの粒』でお酒を仕込むのは別の話。





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