9日目
青く澄んだ空が木々の間から覗く。
コバルトブルーと深い緑のコントラストが美しい。
「大漁」
爽やかな風が頬をなでていくなか、彩加から笑顔がこぼれる。
それはまさに夏に咲くひまわりのようである。
それもそのはず、一昨々日からやっと外の探索が可能になって、外を自由に移動できるのだ。
さらに、川にウケを仕掛けたり、落とし穴を掘って魔物を落として仕留めたり。
レベルもどんどん上がって、楽しくないはずがない。
竹で、1度入った魚が出れないように返しを付けた円筒の物-ウケ-を薫が作り、中に食べきれない魔物の肉を入れて川底から浮き上がらないように彩加が設置した。
ウケの中に入っていた魚もどきは薫が捌くことでトドメを刺し、魔石を回収する。
薫が木の上で辺りを警戒する中、彩加は落とし穴を掘り、その底に魔物の骨を尖らせた槍を突き立てた。
落とし穴に落ちていた間抜けな鹿もどきは『火炎』で蹴散らし、魔石と肉をゲット。
薫が、草をよったロープの先に魔物の骨から作った返し針をつけ、これにも余った魔物の肉を付け、木の上から川に吊り下げておいた。
ロープを食いちぎろうと暴れるドジョウもどきから魔石は採取できなかったが、その身は脂の乗った鰻のようで美味だった。醤油がないのが悔やまれる一品であった。
ハネワナにひっかっかた熊もどきは、彩加のレイピアで仕留められた。
そう、やっと彩加の『双剣』と『連撃』、『戦闘』スキルが役立ったのだ。
彩加のご機嫌な様子はここに由来している。
罠に掛かった獲物のレベルがやっと鑑定で判定できるようになり、レベル的に即死の可能性がなくなったことが判ったので、地上に降りての物理攻撃にシフトチェンジしたのだ。
そして、気の向くまま、体力尽きるまで狩りを続ける彩加であった。
一方の薫は、仕留めた獲物の処理に追われていた。
大型の魔物の皮はを剥いでなめし作業である。
皮を剥ぐことにも大分慣れてきたのか、薫はスムーズに作業を進めている。
『一角兎』の時同様、すり潰した脳と少量の水を煮立てたものを毛のない方にすりこんみ、乾かしていく。
この作業はまだ慣れないのか、一枚一枚脳と水の分量を変えたり、乾燥方法を自然乾燥にしてみたり、『生活魔法・乾』を使ってみたり・・・試行錯誤している様が伺える。
なめし作業と平行して、本体の処理もしていく。
肉は、焼いて味を確かめ、調理できそうなものは、今晩のシチューに。
因みに、肉の味から、ブラウンシチューに決定したようである。
スキルレベルが足りず(?)に調理できないものは、次の獲物をおびき寄せる為のエサに。
余ったお肉は、ボウルの底に乾燥させた香草と薬草を敷き詰め、その上に枝を並べ肉を置き、フライパンで蓋をして焚火にかけ、燻製にしていく。
骨の一部は、落とし穴の中で獲物を待ち構える槍へと変貌を遂げる。
残った骨は、一番大きな鍋で数時間煮込んでいく。アクを丁寧にとって、布で濾せば、透き通った黄金色の液体はスープの元となる。
脂の一部は、遠火でじっくり炒めて脂を溶かし、草をよった芯を中心にすえた竹で作った容器に流し込む。キャンドルである。
彩加が、外部データを写すときに手元を照らす為に必要であろうと薫は製作したのだ。
乾燥させた香草や竹炭を砕いて混ぜたもの等々、肉の臭み消しの為に細心の注意を払って数種、作り上げていく。
臭いに敏感なお年頃の彩加の為に掛けるひと手間は決して惜しまない薫であった。
魚は開いて塩水に漬け込んだ後、『生活魔法・乾』で干物に。
ナマズもどきは3枚におろしてミンチ状にし、塩を混ぜてすり鉢ですり潰していく。
砂糖と卵白を入れてさらに混ぜて完了である。
半量は半分に割った竹にのせ蒸す。
半量は枝に巻きつけて焼く。
蒲鉾とちくわの出来上がりである。
こんなものまでどうするかといえば、外を出歩くことが多くなった彩加のお八つ代わりに薫は作ったのだ。
青空の下、蒲鉾を1本丸かじりしている美少女・・・シュールである。
2人は飽くことのなく、仕留めた獲物でより高度な罠を作り、それによって仕留められた獲物で保存食の作成と罠の発達というサイクルを繰り返していく。
「解体スキルが取得可能になってるな。」
例のごとく水晶で自身のパラメーターチェックを行っていた薫である。
「解体スキルってあったんだ。
このゲームって、アイテムがドロップしないのがめんどくさいよね。」
スキルポイントもあるので解体スキルを取得することにした薫の横で彩加は暢気にくつろいでいた。
「普通はそうなのか?」
「大体、モンスター倒すと、ポリゴンになって消滅。その後に何かしらのアイテムが落ちてるもんだよ。もしくはアイテムボックスの中に自動で収納されるかかな。」
このゲーム、アイテムボックスも魔法の鞄もみかけないけどねとなどと続けながら、ダークグレーの尻尾をゆっくり揺らし四肢を弛緩る彩加。
たとえ父親しかいないとはいえ年頃の少女としてはいかがなものか。
もちろん『冀望』も一般的には魔物を倒せば魔物が消滅しドロップアイテムが手に入る仕様である。
ただし、『採取』スキルが必要である。
これはどの攻略サイトにも明記されていることであり、重要スキル・必要スキル一覧のトップに常に花丸付きで表示されていたことである。
彩加もちろん目にしているのだが、アイテムは自動的にドロップするものだという思い込みがあったので必要性を感じず『採取』スキルの取得にいたらなかったのである。
薫にいたれば、『昔日』の現実世界と同じ感覚でいたので、始めから自分で解体することしか頭にない。
ランダムにアイテムがドロップされる『採取』スキルより、全て採取できる『解体』スキルのほうが採取量は必然的に多くなるで利益は大きくなる。
あとは、生き物を解体するグロテスクさに耐えられるかと、解体にかかる時間的ロスと経験の兼ね合いになる。
彩加はしばしばこうゆう思い込みによる失敗をするのだが、なぜか何時もそれがプラス方向に転じている。
こうゆうところはかや乃の血かもしれない。
こういった経緯を経て、薫は『解体』スキルも、ついでに『料理』スキルも取得を済ませている。
さらに『なめし』スキルも取得可能になっていたのだが、レシピがない段階で必要性が認められなかったので取得は見送った。
後日、薫は『ウッシー』を『水球』で仕留める事が出来たので、その傷1つない綺麗な皮を、どんぐりから抽出したタンニン液に漬けてなめし、日よけとしてレザーマントを作った。
脳漿なめしが、そこそこ確立できてきたので、タンニンなめしの試運転に移ったのだ。
『レザーはタンニンなめしだよ。』という、ある意味、無意味なこだわりが顔を覗かせたという一面もなかったわけでもない。
しかし、
「さすがの薫ちゃんでも紫はないわー」
の彩加の心無い一言でお蔵入りになった。
まだまだ『おっさん』と呼ばれたくないアラフォー男性の心は繊細なのだ。
現実世界の”澤木香”は紫のスーツもさらっと着こなし、世の女性陣から熱い視線を集めているのだが、さすがにそのファッションセンスと美貌をもってしても牛柄の紫のマントは着こなせなかったようである。




