同じお題
一週間後。
九条からメッセージが来た。
『勝負しません?』
『嫌です』
『まだ内容言ってません』
『君と勝負する時点で嫌』
『雨の日に別れる男女。五千字以内。来週まで』
『無視します』
『佐伯さんにも読んでもらいます』
『なんで俺の担当巻き込んでるの?』
無視するつもりだった。
でも書いた。
悔しいから。
雨の日に別れる男女。
俺は一週間使った。
推敲もした。
主人公は傘を持っていない。
ヒロインだけが傘を持っている。
最後、別れた後にヒロインが傘を置いていく。
ベタだが、自分では悪くないと思った。
締切の日。
出版社近くの喫茶店。
九条と佐伯さんが先にいた。
「九条先生の、昨日来ましたよ」
「昨日?」
俺は九条を見る。
「何日かかった?」
「一晩」
「帰る」
「まだ読んでませんよ」
交換して読む。
九条の短編は、雨宿りしている男女の話だった。
別れ話をしに来たのに、雨が強すぎて帰れない。
しょうもない会話。
コンビニの肉まん。
濡れた靴下。
別れることは決まっているのに、二人とも今日だけ少し楽しい。
最後。
雨が止む。
男が言う。
『じゃあ、帰るか』
女が答える。
『うん。別々にね』
終わり。
俺はファイルを閉じた。
分かる。
悔しいけど分かる。
俺のより上だ。
「どうでした?」
「むかつく」
「感想になってません」
「上手いよ」
口にすると、本当に負けた気がした。
佐伯さんも困った顔をしている。
「三枝さんのも悪くないですよ」
「その言い方、負けた時のやつじゃん」
「いや、ちゃんと良いです。ただ――」
「言って」
「傘を置くラストを成立させるために、途中全部が配置されてる感じがするんですよね」
痛かった。
九条の話は違う。
途中が生きている。
最後のためだけに存在していない。
「才能って残酷だな」
思わず言った。
九条がこちらを見る。
「そうですね」
否定してくれなかった。
その方が、なぜか少し楽だった。




