打ち切りの電話
その夜、佐伯さんから電話が来た。
『次巻、出ません』
「はい」
驚かなかった。
三作目。
分かっていた。
『数字が厳しくて』
「はい」
『すみません』
「佐伯さんが謝ることじゃないです」
通話を切る。
三シリーズ目の打ち切り。
不思議なことに、一作目の時ほど悲しくなかった。
慣れたのかもしれない。
それが一番嫌だった。
冷蔵庫から缶ビールを出した。
プルタブに指をかける。
電話。
九条。
「何」
『佐伯さんから聞きました』
「情報早いね」
『大丈夫ですか』
「何が」
『そういうの、一番面倒くさいやつです』
「天才に慰められたくない」
沈黙。
また言った。
九条にだけ、こういうことを言ってしまう。
『じゃあ慰めません』
「うん」
『悔しいですか』
「……うん」
すぐ答えられた。
「悔しい」
『なら、まだ書くんじゃないですか』
「簡単に言うなよ」
『簡単ですよ。私は書くので』
「君は売れるからだろ」
『売れなくても書くと思います』
「証明できないじゃん」
『そうですね』
淡々としている。
腹が立つ。
でも、通話を切りたいとは思わなかった。
『三枝さん』
「何」
『一作目、本当に好きですよ』
「……今それ言う?」
『今だから』
「売れなかったけどね」
『はい』
「そこ否定しろよ」
笑い声。
俺も少し笑った。
ビールは開けなかった。
代わりにPCを開いた。
三作目のフォルダ。
完結できなかった話。
最後まで書けば、あと一巻半くらい。
商業では出ない。
誰にも求められていない。
それでも。
俺は続きを一行だけ書いた。




