才能差
先に出たのは、栞の「映画館へ逃げる作家」の本だった。
初週の数字は、前作より明確に低かった。
「現実」
栞が売上速報を見ながら言った。
「へこんでる?」
「へこんでます」
「天才でも?」
「その言い方、最近便利に使ってません?」
「ごめん」
栞は少し黙った。
「でも、この本書いてよかったです」
「うん」
一か月後。
『君が読まなかった物語』も発売された。
重版はかからなかった。
「現実」
今度は俺が言う。
「現実」
栞も言った。
その同じ週、栞の前シリーズはアニメ化正式発表。
トレンドに名前が載った。
スマホには、栞の名前が並んでいた。
俺の本の重版通知は、まだ来ていない。
「栞」
「何ですか」
「今、めちゃくちゃ嬉しいし、めちゃくちゃ悔しい」
「はい」
「両方なんだけど」
「知ってます」
「なんで」
「顔が面倒くさいので」
「どんな顔だよ」
「三枝さんの顔です」
笑われた。
俺も笑った。
「差が広がってない?」
「私も頑張ってるので」
「知ってる」
さらに一か月。
俺の本は、ぎりぎり二巻を出せることになった。
三巻で終わらせたい、と佐伯さんには伝えた。
『二巻の数字を見て相談しましょう』
返事はそれだけ。
栞は俺の二巻のゲラを指した。
「私、これ最後まで読みたいです」
「三巻出なかったら?」
「その時は三枝さんが書けばいいでしょ」
「簡単に言うな」
「読むので」
差は埋まらない。
翌週、二人で書店へ行った。
栞の平積みは、俺の三倍くらいあった。




