書きたい
三年後。
九条栞、二十三歳。
アニメ二期。
劇場版決定。
累計部数は聞かないことにしている。
三枝悠人、二十七歳。
既刊七冊。
『君が読まなかった物語』は三巻で完結できた。
今のシリーズは一巻発売済み。
二巻が出るかは、来月の数字次第。
「タイトル決めた?」
栞が俺のPCを覗く。
同棲を始めて半年。
仕事部屋は別だ。
一緒だと互いの進捗が気になりすぎる。
「まだ」
「長くする?」
「二度としない」
「私、長いタイトル結構好きだけど」
「お前が言うな」
昔の投稿作は、まだサイトに残っている。
PV17から始まったやつ。
今読むと、やっぱり面白くない。
消す気もない。
スマホが震えた。
今のシリーズの売上通知。
一度だけ画面を見る。
伏せる。
栞が新企画のメモを覗いた。
「これ、面白い?」
「まだ分からん」
「売れそう?」
「それも分からん」
「成長してない」
「うるさい」
新規ファイルを開く。
白い画面。
三年前なら、まずタイトルを考えた。
読まれる言葉、クリックされる言葉、ランキングに入る言葉。
今も、それがどうでもよくなったわけじゃない。
売れたいし、読まれたい。できれば重版もしたい。
栞より売れたら、たぶんものすごく嬉しい。
「何笑ってるんですか」
「ちょっと野望を」
「怖い」
カーソルが点滅している。
「でも、書きたい」
栞が頷いた。
「じゃあ書けば」
「簡単に言うなあ」
「三年前も言いました」
「三年前の俺なら、その言い方めちゃくちゃ腹立ってた」
「今は?」
「今もちょっと腹立つ」
栞が笑った。
俺も笑う。
一行目を書く。
「できたら読んで」
「もちろん」
「恋人だから?」
栞は少し考えた。
「読者だから」
「そこは恋人って言えよ」
「両方です」
もう一行書く。
数字はあとで見る。
今は、こっちだ。
終




