四千八百字
企画書を直した。
記憶を売買できる都市の成り立ち。
記憶税。
違法売買。
保存技術。
冒頭だけで四千八百字になった。
「……長いな」
別ファイルを作る。
『設定_本文に全部入れない』
四千八百字をそっちへ移した。
本文に残したのは、主人公が給料の一部を「嫌な記憶」で納める場面だけ。
ヒロインの登場も十七ページ目から八ページ目へ動かす。
好きだった夜明けの場面は残した。
佐伯さんへ送る。
翌日。
「これなら読めます」
「前は?」
「資料でした」
「そんなに」
「そんなに」
企画は通った。
そのまま『空白都市のアリア』を書き始める。
一章を書いて、九条へ送った。
三十分後。
『面白いです』
「よし」
『七千字目から長いです』
「くそ」
電話する。
「どこ」
『記憶税の説明』
「必要なんだよ」
『必要なのは分かります』
「じゃあ何」
『この三ページ、今ここにないと話止まります?』
画面を見る。
税制の成り立ち。
階級ごとの納付方法。
違法業者の歴史。
困るのは俺だ。
読者は、たぶん困らない。
「……分かった」
『何がですか』
「一回切る」
税制の歴史を消した。
違法業者の説明は後ろへ回した。
階級ごとの納付方法も、必要になったところへ移す。
最後に残ったのは、主人公の母親が「夫を失った日の記憶」を税として差し出した一文だった。
送る。
十分後。
『こっちです』
「何が違う?」
『今の方が、この人のこと気になります』
画面を見る。
母親の一文だけは、最初から消す候補に入らなかった。
「……そっか」
『今さら?』
「うるさい」
切った設定は別ファイルへ移した。
消したわけじゃない。
今、ここに置かなかっただけだ。




