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ウタハ達が過去について調べに行った日の夜。日付が変わる時間になっても、カグラは誰かを待つように静かにリビングのソファに座っていた。


「今日は2人とも帰ってこなさそうだね。カグラもそろそろ寝たほうがいいんじゃないかい?」


トカゲが隣にきて優しく肩を抱く。甘えるようにトカゲに身を預けてカグラが息を吐いた。


「ウタハ。思い出したかな?」


ウタハ達が何をしに行ってるかカグラ達はわかっていた。気づいていて知らないふりをしたのだ。2人が行きやすいように。


「どうかな。記憶というのは複雑だからね。簡単に思い出したり全く思い出せなかったり」


カグラ達も両親が死んだ時の記憶は見ていないので何が起きたかは知らない。それでもウタハが望むなら、キリと一緒ならと送り出した。

トカゲが休暇を申請したのは何かあった時にすぐ駆けつけられるようにするためだった。ゼロを泊まりに行かせたのも取り乱したウタハを見せないためだ。過保護かもしれないと思いながらも、カグラもトカゲも冷静に仕事に向かうことなどできなかった。


「でもキリがいてくれたから、ウタハは過去と向き合おうと思えたんだよね」


フラフラと不安定で危なっかしくて、でも2人で支え合って立とうとするウタハとキリ。カグラはまるで自分とトカゲのようだと、ウタハにそんな相手ができた喜びを確かに感じていた。


「キリにとってもウタハが前を向く力をくれてるんだ。あの子達はお互いを見つけたんだね」


幸せなんだと、カグラは思う。理不尽に家族という幸せを奪われたウタハが、必死に掴み取った幸せがキリなのだと。


「明日お腹すかして帰ってくるかもしれないし、今日はもう寝よっか。トカゲ、ベッドまで運んで」


寂しさと不安と喜びと悲しみと。色々な色を含んだ紫が甘えるようにトカゲを見上げる。それはウタハがカグラに与えた色だった。


「喜んで。私のお姫様」


我が子達がお互いを支えとするように。トカゲとカグラも2人で子供達を見守っていくのだった。




翌日。昼になる寸前のギリギリ午前中といえる時間にウタハ達は帰ってきた。

2人とも落ち着いてる様子を見て、カグラ達もひとまず安堵の息を吐く。


「おかえり。お昼は?用意しようか?」

「いや。朝が遅かったからまだ腹減ってない。……カグラ、ちょっと話いいか?」


追い詰められてるという感じでもないが、ウタハは真剣な表情でカグラをリビングへと連れて行く。キリは静かにそれについて行くだけだ。


「それで?話って何?」


テーブル越しのカグラの不安が伝わってウタハは少し気後れする。だがその手を隣に座るキリが優しく包んだ。


「……なあ。俺の能力を無くすことってまだできるのか?」


カグラが驚きで息を呑むのが見えた。少しの間の後、澄んだ紫がウタハを真っ直ぐ見た。


「できるよ」


答える体が少し震えているのにトカゲは気づいた。すぐにでも抱きしめたい気持ちをグッと押し込め、話の行く末を見守る。


「なら、やってほしい。毒の霧を出せなくしてほしい」

「……なんでなのか、聞いていい?」


責めるでもなく、純粋になぜなのかカグラは知りたがった。能力を無くすという責任ある行動を取らせるのだ。ウタハも理由は説明するつもりでいた。


「この能力を残したのは、カグラを守りたいとか何かの役に立ちたいとか、力を肯定したい気持ちでだと思ってた。それも嘘じゃないけど……でもだんだん復讐心が強くなっていった」

「復讐?」


何に?と訝しむカグラに、ウタハは包み隠すことなく全てを話していく。


「この力で親を失って、5年という時間を失って、人生を狂わされて。苦しんだ分どっかで取り返してやる、この力で何かを掴んでやるって躍起になってた。でも結果は、力に振り回されて自分を追い詰めただけだ。まわりを危険に晒しただけだ」


グッと、カグラの眉が悲しげに寄せられる。


「それは……」


いつだって明快に答えを語る唇が言葉を失っている。その優しさがウタハは大好きだった。


「……だから、もう自由になろうと思うんだ」


すっきりと。何かから解放されたようにウタハは微笑んでいる。


「………僕は力を無くすことはできても戻すことはできない。その覚悟はある?」


今ウタハがしてるのは後戻りのできない選択だ。そのことについて説明する責任を、カグラは決して怠ってはいけない。


「絶対後悔しない、とは言えない。でもキリがいてくれるから。後悔を受け入れる覚悟はできてる」


大切なのは失敗を恐れることではなく、失敗を受け入れることだ。ウタハはキリがその背中を押してくれた。


「わかった。なら、すぐしよう。僕の部屋に行こうか」


カグラがウタハのために睡眠すら削って研究した部屋へと向かう。この決断をするまでに10年かかったのかと、ウタハは長いような短いような時間を思い返していた。




その日の夜。仕事が終わったゼロが家に帰るとリビングにウタハだけがいた。


「ウタハ?帰ってたんだね。おかえり」

「ああ。ただいま」


少し顔色が悪いウタハを心配して、ゼロは近くまでいくとソファの前に座った。


「どうしたの?体調悪い?」

「大丈夫。少し疲れただけだ」


心配そうに顔を覗き込んでくるゼロの可愛さに癒されて、ウタハはその頭を優しく撫でた。いつもなら嫌がるゼロだがウタハの様子が普段と違うので大人しく受け入れている。


「カグラは力を使い過ぎて寝てんだ。トカゲが付き添ってる。キリが飯買いに行ってくれてるから、腹減ってると思うけどちょっと我慢してくれな」


ウタハの能力は複雑なのでカグラは力を無くすとすぐに寝てしまった。力の強さを調整した時もそんな感じだったので、明日の朝には目覚めるだろうと心配はしていなかった。


「えっ?今日は急患もなかったはずだけど」

「あ〜。実は俺の能力を無くしてもらったんだよ」

「………へ?」


先ほどからの妙な雰囲気に加えて唐突な告白にゼロは頭がついていかない。


「え?え?なんで?」

「いや。まあ色々あって」

「色々って………」


能力を無くすなんて余程の事情があるはずだと、心配に顔を曇らせるゼロにウタハは優しく笑う。


「ごめんな。今度ちゃんと話すから」

「……僕は頼りない?」


悲しそうに聞いてくるゼロにウタハは「ん?」と優しく先を促す。


「僕、この家に来れて幸せなんだ。みんな優しくて。本当の家族みたいで。だから、この家の誰かが悲しんでたら力になりたいのに」


実の家族には能力のことを伝えられず、相談しに行った先では突き放され、今も自分の能力がなんなのかわからない不安と闘っている。そんなゼロにとってこの家は数少ない安心できる場所だった。


「そんな顔すんな。ちょっと今は自分でも言葉にすんのが難しいから、待って欲しいだけなんだ」


困ったように笑うウタハに、ゼロは自分が子供じみたことを言っていることに気づいた。


「うん。困らせたくはないから。ごめんね」


しょんぼりと反省するゼロがやはり可愛くて、ウタハは温かい気持ちが湧いてくる。それは多分、みんながウタハに向けてくれた気持ちと同じだ。


「お前が来てくれて俺も幸せなんだぜ。……ゼロ、ありがとな」


急に感謝を伝えられてゼロはキョトンと首を傾げる。


「ありがとうは僕のセリフじゃない?」


どこかであったやりとりに、ウタハは自然と笑みが溢れた。


「そうか?まあいいじゃねぇか。言いたかったんだから」

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