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突入部隊が着々と成果を上げている頃、1人の看守がダイナ達の部屋へと続く廊下を歩いていた。


「1人でこの先に行くのは規則違反なんじゃないの?」


誰もいないはずの廊下に声が響き渡る。看守が驚いて周りを見渡すと、少し先に突然男が現れた。カグラである。


「なっ⁉︎どこから⁉︎」

「ずっといたよ。君には見えないようにしてたけど」


わざわざ感覚を狂わせる能力で姿を消してまで看守を出迎えたカグラは、心なしか怒っているように見える。


「たしか、能力の専門家の方でしたよね。なぜこんなことを?」


焦りながらも冷静に話そうとする看守に、カグラは冷やかな瞳を向ける。


「それは僕が聞きたいね。なぜ看守という立場でありながら守るべき囚人を兵器として売り渡そうとしてるのかな?」


男が驚愕の表情を見せる。だが全てがバレているとわかると実力行使にでた。


「なんで知ってんのかは知らねぇが、たった1人丸腰で来るなんてバカじゃねぇのか⁉︎お前も変な力が使えるんだったよな?ついでにお前もアイツらに売り飛ばしてやるよ!」


警棒を構えカグラに向かっていく看守は、あと少しというところで何かに強い力で吹き飛ばされた。


「私のパートナーに何をしている」


吹き飛ばした場所にトカゲの姿が現れる。作戦とはいえカグラに手を挙げられそうになったのでいたくご立腹だ。


「誰が1人だって言った?そうやって視野が狭いからくだらない犯罪に手を貸すことになるんだよ」

「ついでに言うと腕付きへの加虐クラブに行く時は注意したほうがいいぞ。あの手の店は秘密を守らせるために客の情報は必ず握っているからな。あっさりお前に辿り着けた」


リファの記憶を使ったメッセージは、看守がダイナとリファを武器商人に売ろうとしているという内容だった。トカゲ達が誰が関わっているかを探ると、この看守が腕付きを金で売るクラブに出入りしていることに気づいたのだ。


「はっ!腕付きなんてそれくらいしか使い道ねぇんだから別にいいだろ。有効活用してやってんだよ。囚人だってそうだ。犯罪者なんだから何したっていいだろ!お前らみたいな規格から外れた異常者がその辺ウロウロしてると吐き気がするから片付けただけだよ!」

「片付けるね。それは自分の目に見えないところにやれば一安心ってこと?まるで子供の理屈だね。いや、子供に失礼か」


まだ冷徹な表情を崩さないカグラが粒子を放つ。それは看守の頭で激しく弾け、看守は気を失った。


「君の持ってる武器商人の記憶は全て見せてもらったよ。これで君は司法取引する材料も何もない。これからは囚人として自分が虐げてきた人達の中で暮らすんだね」

「ダイナ達を引き取りに来た奴らも捕まえたみたいだな。みんなよくやってくれた」


トカゲのチームはこのために突入作戦に参加していなかった。武器商人の情報を手に入れるために、ダイナ達を囮にするかたちで罠を張ったのだ。


「これで万が一ルナ君が連れ出されても助け出せる確率は増えたけど……」


先ほどまでの冷徹さが嘘のように顔を曇らせるカグラの肩に、トカゲが手をのせた。


「大丈夫。あの子達は必ずルナ君を救ってくれる。私達が信じてあげないと」


優しく寄り添うトカゲにカグラは思わずその胸に飛び込む。そして静かに「うん。信じよう」と呟いた。




「……きた!」


男達に抵抗するためにルナが糸を出したことでスイレンは粒子の流れを感じ取った。


「コハクさん!管理官!3階北側、階段から西に3つ目の部屋です!」


すぐにミソラがウタハ達が迎えるように指示をしていく。それを聞きながらスイレンがルナの粒子を追い続けると、しばらく続いたあと粒子の流れがピタリと止まった。


『粒子が止まった?なぜ?』


ミソラ達に報告してスイレンはなおも粒子を探し続ける。不安に駆られながらも自分にできることに徹し続けた。




「みんなはすぐにルナくんのところへ」


ミソラの采配で自然な形でルナのいる部屋へと迎えるようになったウタハ達は、急いでルナの元へ向かう。


「さて。俺達はみんなの分もここを守らないとね」

「安心してください。俺が5人分働きます」


殺気を放つホムラは普通の人間ならそれだけで投降してしまいそうなほど鬼気迫っていた。後輩のために扉の前に立ちはだかる姿に、コハクは「一応俺もいるからね」と苦笑するしかなかった。




全速力で指示された部屋へと向かうウタハ達。扉の前に着くとキリが中の様子を伺った。


「話し声とかはしねぇな。俺が扉を開けるから、一気に突入するぞ」


キリの合図で一斉に部屋へと入る4人。想定していた敵の姿はそこにはなかった。


「フチ……君?」


中は薄暗く、奥にあるベッドで誰かが動いたのが見えた。

その光景にウタハが過去の記憶に囚われそうになった時。


「…………」


優しく、手を握られる感覚があった。キリだ。隣を見ると薄紫の瞳が真っ直ぐにこちらを見ている。


「……大丈夫だ」


一度強く握り返すとウタハは手を離してベッドへ向かう。それより早くフチが駆け寄った。


「ルナさん!」


ルナはベッドの上でうつ伏せに倒れている。何とか起きあがろうとするも力が出ず、慌ててフチが支えて上半身を起き上がらせた。

ルナは叩かれたせいで頬は少し腫れているが、それ以外は軽く揉み合ったあとしか見られない。だが、異常に衰弱していた。


「何が……」


ルナの状態を確認しながら、フチはある一点を見た時にビクッと動きを止めた。なぜか右の袖が破かれていたのだ。


「……腕を切られたんですか?」


それは古い拷問方法だった。

手脚が再生する人は切られても痛みは無いしすぐに新しいものが生えてくる。だが再生には大量のエネルギーを必要とするのだ。それが1回や2回なら腹が空く程度だが、連続で10回20回ともなれば次第に体は衰弱してやがて死に至る。

昔の戦争では手脚が再生する人が捕まると、情報を吐かせるためや見せしめとして腕や脚を幾度となく切られた。体が無理やり手脚を再生するたびに死が迫る感覚は筆舌に尽くしがたい恐怖だっただろう。

首輪を外されたあと、ルナは不安に負けずフチを信じて男達の誘いを断った。そのため無理やりルナを連れていくために男達は腕を切って衰弱させようとしたのだ。

辛うじてなんとか抵抗できるうちに警察が3階に到達したため男達はルナを放って逃げ出した。だが10回以上腕を切られたルナは死体のような顔色でまともに体を動かせない状態になっていた。その中で腕だけが再生されて美しいままなのが、フチに処理できない憎しみを植え付ける。


「やっぱり……来て……くれた……」


必死に恐怖と暴力に耐えて待ち続けた恋人が助けに来てくれた。そのことにルナが弱々しくも笑みを浮かべようとした時。


「…………殺してやる」


ルナの瞳に映ったのは、大好きな温かい笑みではなく殺意に満ちた鬼の顔だった。

フチはルナを優しくベッドに横たえると、大切な恋人に背を向けてルナを傷つけた男達を探そうと歩き出す。

絶望に染まったルナが声も出せず涙を流そうとした時。


バシンッ!


シュカが全力でフチの頬を叩いた。


「このバカ!今!この場で!一番傷ついてるのは誰⁉︎フチがしないといけないことは何⁉︎」


その言葉でフチの瞳に光が戻る。

振り返ると置き去りにしようとした恋人が目に入った。自分が更なる地獄を見せてしまった恋人が。


「ルナさん……」


弱々しく、まるでフチが暴力を受けたかのように重い足取りでルナの元まで歩くと、フチは膝から崩れ落ちた。


「ごめんなさい……ずっと……信じて待ってくれたのに……」


濃いピンクから雫が落ちる。それを拭おうと伸ばすも力の出ないルナの手を、キリがそっと支えた。


「会えた……フチ君に……諦めなくて……良かった……」


フチがルナの手を握る。その美しさに痛みを覚えながらも、真っ直ぐに深い緑を見つめた。


「もう大丈夫……助けに来ましたよ……だから、もう大丈夫………………生きてて良かった…………」


再び涙を流すフチに、ルナはやっと微笑みを浮かべたのだった。

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