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ルナが目覚めると見知らぬ部屋にいた。
ベッドに寝かされているのか、まだぼんやりとする頭に男の声が聞こえてくる。
「しっかし、本当にダメなのかよ。あんな美人なかなかいないぜ」
その声には聞き覚えがあった。店でしつこくルナを食事に誘ってきた男だ。
「ダメだ。あの能力者は取引に使うんだからな。アイツら、人を下請けみたいに使いやがって。能力者を欲しがってるアイツらにお望みの兵器を与えてやって、俺達が銃の流通の主導権を握んだよ」
もう1人の声は知らない男のものだった。兵器やら銃やらの物騒な言葉にルナはジワジワと恐怖が湧いてくる。
「だいたいあんな大男の何がいいんだよ」
「わかってねぇなぁ。ありゃ絶対ェ男に抱かれてるぜ。あの色気だ。さぞ具合がいいんだろうよ。あ〜。あの綺麗な顔を歪ませて思いっきり鳴かせてみてぇなぁ」
男の暴力的な欲望にルナが身をすくませた時、カチャリと金属のぶつかりあう音がした。
『……何?』
音のした方をみると壁から鎖が伸びている。それはルナの体を伝い、首まで届いていた。
『……首輪……?』
首に手を当てると硬い革の感触がある。それは首のまわりを一周して、ピタリと肌に張り付いていた。
「なんだ、起きたのか?」
音に気づいて、客として来ていたほうの男がルナの近くにやって来た。
「いいな。その怯えた顔。興奮するぜ」
ルナの両頬と口を片手で覆うように掴み、恐怖で声を出せない様子を男は楽しんでいる。
「そのまま大人しくしてろよ。兵器として活躍できりゃお前もいい思いできるからよ。せいぜいアイツらに気に入られるよう頑張んな」
そのまま男は手を離すとルナの震える姿に満足して去って行った。残されたルナは自分の体を抱きしめて必死に恐怖に耐える。
『大丈夫。絶対フチ君が助けに来てくれる。信じるんだ。だから、諦めちゃダメだ』
突入作戦を明日に控え、コハクは寝室のベッドに腰掛けながら不安な表情をしていた。
「アイツらをルナの救出に向かわせるのが心配か?」
部屋に入ってきたキトラに優しく頭を撫でられる。そのままキトラはコハクと並んでベッドの淵に座った。
「明日の救出メンバーは、みんな辛い思いをしても懸命に生きてきた子達だ。せめてその分、明るい未来を生きてほしいのに………」
もしルナが殺されていたら。生きていたとしても酷い暴力を受けていたら。その場に踏み込む彼等の心を思うと、コハクはこの人選にまだ納得はできていなかった。
「なあ。俺等も若い頃は随分と無茶したよな」
隣に座るキトラはコハクを優しく見つめている。
「お前なんて、ほんと無謀でさ。捜査官でもないのに1人でカグラに会いに行ったり。随分と心配させられた」
「……なんだよ。急に」
昔のことを言われてコハクは居心地悪そうにキトラのほうを睨む。それでも優しい金色は微笑みを崩さなかった。
「でもみんながさ、いつでも思うままに進めって背中を押してくれたよな。未熟で危なっかしくて心配させてばっかの俺達を信じて託してくれた。……だから、今度は俺達の番だ」
昔、ウタハを救いに行く時に向けられた強い瞳が再びコハクに向けられる。それは言葉以上にキトラの思いを伝えた。
「……そうだな。きっとあの4人なら大丈夫だ。それに彼等は誰一人諦めてない。ルナくんの無事を信じてる。だから俺達も信じよう」
「ああ。そうと決まればさっさと寝るぞ。明日はアイツらが自由に動けるように、建物にいるヤツら全員捕まえないといけねぇからな」
パートナーの頼もしいセリフにコハクの心が軽くなる。そのまま2人で並んでベッドに入り、ぬくもりを分け合うように手を繋いで眠りについた。
その頃。スイレンはリビングで眉間に皺を寄せていた。
「そんな顔しなくても、アイツらはお前を信用してるぞ」
ホットココアを持ったホムラが横に座る。スイレンは礼を言いながらマグカップを受け取った。
「アイツらを安心させるためにわざと大袈裟に話してただろ」
「……わかってましたか」
本当はスイレンだってルナの無事がわからなくて不安だし、粒子を追えるか自信なんてなかった。それでも自分以上の苦しみの中にいる後輩達には強い背中を見せたかったのだ。
「お前のことなら何でもわかってる。……お前が期待に応えてくれることもな」
10年前から変わらないその信頼に、スイレンは肩の力が抜けるのを感じた。
「なら、俺も信じないといけませんね。あの4人は絶対ルナ君を救えるって」
「もちろんだ。俺の自慢の後輩だぞ」
ホムラはずっとウタハ達を見守ってきた。捜査官として技術だけでなく心を成長させていくのを身近で見てきた。それは揺るぎない信頼となって彼等の背中を押す力となる。
「そろそろ寝ないとな。俺は明日5人分の働きをしないといけないし」
「ホムラさんならできますよ。俺はあなたの強さを知ってますから」
そして穏やかに微笑みあう2人は、明日に希望を持って夜を超えた。
救出担当の4人は、フチを1人にさせられないと全員でフチの家に泊まっていた。
リビングに並んで寝ようと横になっているとキリがフチに話しかけた。
「フチ。ルナは強い。絶対お前を信じて待ってる」
以前、ルナにキリのどこを好きになったのかフチは聞いてみたことがある。答えは「物事の本質をよく見ているところ」だった。
そのキリがルナを強い人だと言ったのだ。それはフチに希望を与えた。
「はい。約束しましたから。僕がルナさんを守るって。だから絶対助けます」
拳を握り決意を固める姿にキリとは別の所から声がかけられる。
「お前だけじゃねぇぞ」
「僕達4人で助けに行くんだからね」
自分達を忘れるなとウタハとシュカが存在を主張してくる。その姿にフチはルナがいなくなってから初めての笑みを溢した。
「そうですね。捜査官はチームで動くんですもんね」
不安で苦しくて今にもルナを助けに駆け出してしまいそうな心を、3人が強く支えてくれるのを感じる。そうやってフチは作戦決行の朝を迎えた。




