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研修期間の残りを使ってそれぞれの捜査官の仕事を見学する日々を送っているウタハだが、この日はカグラと共にダイナの所を訪れていた。

ウタハとカグラはのんびりとした雰囲気で話をしながら部屋への廊下を歩いている。


「ダイナとリファの診察もしてたんだな。知らなかったぜ」

「能力者である以上は誰でも僕の患者だからね。ダイナは珍しい能力だから研究を進めたほうが今後のためになるし」


『今後って、ダイナと同じ能力者が現れた時のことかな』


当たり前のことだがカグラの研究も能力者を守るために使われている。日々誰かのために懸命に働く姿が、ウタハには改めて誇らしく感じられた。


「でもいつもはトカゲが付き添いなのに、今日はウタハで嬉しいなぁ」


ご機嫌でダイナ達の部屋へと入っていくカグラに、ウタハは少しだけトカゲが可哀想になった。


「よお。今日の付き添いは旦那じゃねぇんだな」

「おや。ウタハ君。久しぶりですね」


ピッタリ寄り添ってソファに座る2人に『相変わらずだな』とウタハが呆れていると、カグラがなぜか怒った様子でダイナに近づいて行く。


「……いつから?」

「何のことだ?」


子供を叱る親のようなカグラの態度に、リファは困った微笑みでダイナに絡めていた腕をほどき少し距離を取った。


「また力を抑えて体調悪くなってるでしょ!そうなったら薬をだすからすぐ呼んでって言ってるのに!」

「うるせぇな!大丈夫だよ!お前は俺の親か!」

「主治医だよ!」


ダイナの耳を摘んで叱りながら、鞄をガサゴソ探ると小さな錠剤を出してきて無理やり飲ませるカグラ。それを何が何だかわからず眺めるウタハのところにリファがやってきた。


「ダイナさんは能力を使わない状態が続くと脳が勝手に力を使おうとするんですよ。それを無理に抑えると頭痛や吐き気が起きてしまうんです。力を抑える薬を飲めば大丈夫なんですが、カグラさんを呼ぶのを嫌がって」

「へえ〜。そんなことになってるとはなぁ」


驚くウタハの視線の先では、ダイナがすっかりカグラにやり込められている。


「お前は他にやることあるだろ!俺なんかに構うなよ」

「能力者は等しく僕の患者!誰一人不調を見逃したりなんてしないよ!君の能力はまだ研究中でこの方法しかないんだから、大人しく薬を飲みなさい!」


さっきカグラが言った『今後』とはどうやらダイナも含まれているようだ。犯罪者であろうと能力で苦しむ人は逃さないカグラの姿勢にウタハはやはり誇らしくなった。

隣ではリファも困ったような嬉しいような微笑みを浮かべている。


「まったく。ほら。薬飲んだしこれでいいだろ。さっさと帰れ」

「何言ってるの。1時間は様子をみるからここにいるよ。ゼロ達の話も聞きたいでしょ」


そのままカグラは勝手にゼロ達の近況報告を始める。

ジルバは部活でレギュラー入りが決まり毎日遅くまで練習していること。ゼロは職場でみんなの手伝いを頑張りながら、エテルとよく会ってること。モガは簡単な診察なら任せられるようになってきたこと。

ソファに戻り楽しそうに報告を聞くリファの隣で、ダイナもどこか機嫌良さそうにしている。


「あれ?もう1時間経っちゃったね。2人とも体調は大丈夫そうだし、今日は帰るね」


話し足りなそうにしながらカグラが帰ろうとすると、ダイナがなぜかウタハへ話しかけてきた。


「おい。旦那が来ると思ってたからそっちに話そうと思ってたけど、お前も捜査官ならわかるだろ。腕付きの銃は出回りだしたか?」

「……なぜお前がそれを知ってる?」


ずっと刑務所にいるダイナが知るはずのない情報に、ウタハは警戒しながらカグラを後ろに隠す。


「俺が持ってた銃。あれを売ってきた奴らが腕付きの銃を作ろうとしてたんだよ。取引相手のことはとことん調べる性分でな。リファに洗いざらい記憶を見てもらったらわかった」

「……それで?捜査協力でもしてくれるってのか?」

「まさか。お前らに協力する気なんてねぇよ。でも一つだけ忠告しといてやる。あいつらが売ろうとしてるのは腕付きの銃だけじゃねぇぞ。能力者も兵器として取引に使おうとしてる」

「……は?」


突拍子もない話にウタハが戸惑いの声を上げる。すると静かに話を聞いていたカグラが前に出てきた。


「人間兵器ってこと?能力者を唆して戦場に送り込む?それとも拉致して無理やり戦わせるつもりかな?」

「さあな。でも後者のほうが確率が高いだろうな。詳しくはリファの記憶を見な」

「……なんでわざわざ教えてくれたの?」


少し期待するようなカグラの問いに、ダイナはそっぽを向いて答えた。


「ただの気まぐれだ。まあ薬代だとでも思っとけ。どっかのマヌケは馬鹿みたいにお節介みたいだからな」


ぶっきらぼうなダイナの物言いに、ウタハとカグラは顔を見合わせて笑う。

そして記憶を見せようと近づいてきたリファにカグラが向き合った。


「………!」


記憶を見終わって驚いた顔をするカグラに、リファが唇に指を当てて目線で何かを伝える。それに頷いて部屋を後にし、カグラとウタハは車に乗り込んだ。




捜査に関する情報があるということで車はそのまま公安へと直行した。

カグラからの報告を聞いてトカゲとセキトも眉を寄せている。


「リファの記憶では能力者の情報をそれほど得ているようではなかったけど」

「ひとまず国に登録されている能力者達には注意喚起と警察によるパトロールを行おう。しかし、2日後に銃に関係するグループへの突入を計画している時にこの情報とは。タイミングがいいのか悪いのか」

「ミソラさんと人員配置について練り直さないといけませんね。まあ今回は本部が主体ですから、うちやコハクさんのチームで能力者達の警護にはあたれそうですが」

「それについて、もう一つ情報があるんだ。リファが記憶を通して伝えてきたことが」


カグラの報告に捜査官達3人の顔が険しくなる。


「わかった。そちらも同時に動こう。カグラも今回は作戦に加わってもらうぞ」

「もちろん。モガ君が成長してくれてるから安心して留守を任せられるよ」


事態の深刻さを感じさせないカグラの弟子自慢に、少しだけ場の空気が緩んだ。




ダイナの情報で捜査官達が慌ただしく対策に追われている頃。その日は休みだったルナが大量の食料を持って家に帰ってきた。


『やっぱり小型の冷凍庫を用意しといて正解だね。帰ったら下拵えして冷凍にまわせるものはまわして。今日もフチ君は遅いかな。お弁当と夕方食べるおにぎりはあれで足りたかな?』


サポート役とはいえフチも突入作戦には参加する予定なので、最近は毎日帰りが遅かった。


『明日は早番だし、今日にできることはしておかないと』


帰ってからやることを整理しながらポケットから鍵を出すために荷物を下ろすルナ。

フチにもらったキーリングを嬉しそうに眺めながら扉を開けようとした瞬間……


誰かに後ろから口を塞がれ、そのまま意識を失った。




ルナが失踪した翌日。14班の部屋ではフチが絶望と怒りに沈んでいた。


「ルナくんが買い物して帰る所までは姿を確認されてる。おそらく家に入る隙を狙って拉致されたんだろう。スマホは家の近くに捨てられてるのが発見されたよ」


ルナ捜索の結果報告に班員の顔は暗く沈む。それでもコハクは冷静に話を進めた。


「シエンくんがルナくんの働いてる店に聞き込みに行った結果、今回突入を計画しているグループの一人が店に出入りしてたことが確認できた。ルナくんをしつこく食事に誘ってたからよく覚えてたそうだ。そこから考えても、ルナくんが突入予定の建物にいる可能性は高い」


フチの瞳に憎しみの炎が燃える。

それを見て僅かに悲しい表情を見せながらもコハクは部屋の外へ向けて声をかけた。扉が開いて入ってきたのはウタハとトカゲだった。


「ウタハ?」


なぜここに?と問おうとするキリより早く、コハクがはっきりとした声で指示を出す。


「ルナくんの救出はウタハくん、キリくん、シュカくん、フチくんに担当してもらう」


救出メンバーの名前を聞いて、ホムラが驚いた顔をする。ルナと親しい者達に任せるのは、もしルナが亡くなっていた場合などに心のダメージが大きすぎるからだ。


「……本当は他の人に任せたいけど、今回の救出はうちのメンバーにしか任せられない」

「ルナが犯人達の仲間として扱われるかもしれないからか?」


ウタハの適切な問いにコハクが苦しそうに頷く。どういうことなのかわからない他のメンバーにウタハはアカリから聞いた話を伝えた。能力者は加害者として扱われる可能性があることを。


「ルナの状態はわからねぇが、拠点にいた能力者ってなれば犯人とグルだと考えるヤツもいるかもしれない」

「捜査官が全員そうとは言えないけど、ルナくんを見つけた捜査官が能力者に偏見のある人物だったらどうなるかわからない。トカゲのチームは別件で動かないといけないし、ルナくんの救出はうちで動くしかない」

「なら、俺もメンバーに加えてください。後輩達だけに辛い思いはさせられない」


後輩思いのホムラらしい言葉だが、コハクは首を縦には振れなかった。


「ルナくんの救出はあくまでも偶然うちが見つけたというカタチに持っていかないといけない。うちの班が最初からルナ君救出に向かうと、かばってるんじゃないかと疑われる。だからホムラくんに犯人確保で活躍してみんなの目を欺いてもらって、ミソラさんが作戦全体の指揮をとりながらうまく4人をルナくんのところへ行けるようにするつもりだ」

「でも、ルナさんのいる場所がわかりませんよね」


意外と冷静さを保っているシュカの疑問に、扉が開いて答えが返ってきた。


「それなら俺に任せてくれたらいいよ」

「…スイレン?」


パートナーの突然の登場に驚くホムラ。だがスイレンはドンと胸を叩いて力強い声で話を続けた。


「ルナ君が糸を出せば俺が粒子を読み取れる。10年前、ルナ君を見つけて能力者として保護したのは俺だよ。僅かでも粒子の流れがあれば見つけられる」

「ルナさんが糸を出さなければどうするんですか?」


とにかく冷静なシュカにスイレンがうっと言葉に詰まるが、コハクにはちゃんと考えがあった。


「警察が突入すれば犯人達はルナくんを連れて逃げようとするだろう。ならそこで抵抗するなり移動するなりで必ず糸を使うはずだ。そこをスイレンくんに読み取ってもらう。ルナくんが眠らされて運ばれる可能性もあるけど、人を1人運ぶのは容易じゃない。それはそれで痕跡を追えるはずだ」

「わかりました。なら僕達はルナさん救出のために全力を尽くすだけです」


そう言いながら、シュカはテーブルの上でかたく握られているフチの手を包み込む。キリとウタハもルナが無事でいることを強く信じてフチを見た。

そんな先輩達の姿に、フチの絶望に落ちていきそうな暗い瞳に希望の光が差した。

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