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「思ってたより話の規模が大きくなってきたな」


腕付きの銃について詐欺グループを調べていたキリは、背後にいる組織に気づいてコハクに報告していた。


「武器商人か。なるほどね」

「戦場で腕付きが銃を使ってる国もあるけど、ほとんどが普通の銃の延長だからな。警察で使ってるものほどの精度はない」

「13班とシエンくんの努力の結晶だからね。……腕付きの銃が開発されてから20年弱。この展開は遅すぎるくらいかな」

「手頃な犯罪グループに声かけて、銃の情報収集やら試作の手引きやらしてたみたいだな。この詐欺グループを捕まえることはできるけど、蜥蜴の尻尾切りだ。大元は捕まえらんねぇよ」

「かと言って野放しにもできない。でもうちで対処するには相手が大きすぎるね。公安や本部に相談に行ってくるよ」

「場合によっちゃ、俺は公安に戻るかもな」

「そうだね。その方がキリくんは力を発揮できそうだし。……うちとしては残念だけど」


眉を寄せて困ったように微笑むコハクに、キリは強い瞳を返す。


「そんなことねぇよ。公安では学べなかったことをたくさん学べた。俺は強くなった」


関係者との距離の近さに、キリは公安にいた時では考えられないほど心が動いた。日々懸命に生きる人達の尊さを感じた。


「まあ、そうは言ってもまだまだだからな。また修行には来たいぜ」


ははっと笑う顔は年相応で。若くして公安という厳しい世界に入った仮面が自由に外れるようになった姿に、コハクは嬉しさを感じずにはいられなかった。


「修行じゃなくて研修ね。いつでもおいで。キリくんはもう、うちのメンバーだよ」




その日の夜。キリはウタハに公安に戻るかもしれないことを話していた。


「お前の方は?アカリさんのサポートはどうなんだ?」

「そうだな。俺にできることはやってるけど、課題が増えただけで力になれた実感は全くない」

「まあ一朝一夕で解決するもんじゃねぇからな。アカリさんも色々な立場から見れるお前の話が聞きたかっただけで、結論を出して欲しいとは思ってないだろ」

「でも、何か力にはなりたいなぁ」


悔しそうにするウタハにキリはスマホ越しに苦笑する。


「そういや、俺が公安に戻ることになったら14班で呑みに行こうってみんなで話してたんだ。俺は酒飲めないけどな」

「まあ、コハクもだしな。うちは俺もカグラもトカゲもみんな飲めねぇな」

「トカゲはチーム全員飲めねぇから、食事っつってもジュースが大量に並ぶな。……ん?」


話の流れでキリが何かに気づき言葉が止まる。それはウタハも同じだった。


「なあ。能力者で酒飲めるヤツって誰かいたか?」


何かを期待するような、少し高くなった声でキリが問う。


「いや。セイもライカも酒は飲めない。ヨルはわかんねぇけど、ルナは?」

「たしか飲めないって言ってたな。……これは偶然か?」


不確かな、でも無視するには重なり過ぎている偶然に2人は鼓動が早くなる。


「ちょうど明日、アカリさんについてイシのところに行くんだ。……今の話をしてみる」

「わかった。なら、そろそろ寝ないとな。……明日もまた連絡する」

「…ああ。また明日な」


この偶然は何かの希望になるのか。期待と不安の間で揺れ動きながら、ウタハは眠りに落ちた。




翌朝。ウタハとアカリが研究所を訪れると、イシが入口で待ってくれていた。


「お久しぶりです。アカリさん」

「イシさん。カグラさんの紹介する専門家ってあなただったんですね」


2人は知り合いだったのかと驚くウタハにイシがその関係を説明してくれる。


「私のところにいた腕付きのみんなの弁護をしてくれたのがアカリさんなんだ。今回の話を聞いて、あの時の恩返しができると喜んでいたんだよ」

「恩返しだなんて。私は仕事をしただけですよ」

「あなたが担当だったから、彼等が不当に扱われずに済んだのです。どれほど感謝したことか」


不当な扱い?と話の仔細が読めず不思議そうな顔をするウタハに、アカリがごまかすように話題を変える。


「今日は能力者についての話を聞きに来ました。彼等の今後のためにご協力いただけたらありがたいです」

「もちろん。私の研究室で話をしましょう。案内します」


先頭に立つイシに続きアカリとウタハが廊下を進む。歩きながらも、ウタハは先ほどの会話が頭を離れなかった。




イシの研究室では何人もの人がそれぞれに話し合ったり研究結果をまとめていたりと忙しそうに働いていた。奥にあるミーティングルームへ通され、向かいに座ったイシに早速アカリが今回の訪問の趣旨を伝える。


「カグラさんから話は聞かれたと思いますが、能力者かどうかがわかる方法がないかを私は調べています」


アカリの隣に座るウタハも緊張しながらイシの答えを待つが、それは予想通り望ましいものではなかった。


「私も話を聞いてから色々と資料を調べたりしたのですが、やはり能力の発現以外で能力者と判断する材料は見つかりませんでした。力になれず申し訳ない」

「そうですか」


落胆しながらも、やはりという気持ちがあったのでアカリは諦めのついた様子で返事をする。


「しかしアカリさんのおっしゃる通り、能力者ということが事前にわかれば対処できることも増えるはずです。これから能力者特有の体質などがないか調べるように研究方針を変える予定です」

「…ありがとうございます」

「研究や開発というのは、それが必要だ、やろうという意識がなければ誰も取り組みませんからね。アカリさんの意見はとても貴重なものでしたよ」

「いえ。実は私の案ではないのです。ウタハ君が自身の経験から私に話してくれたもので…」


アカリがウタハのほうへチラリと視線を移す。イシもつられてウタハを見て驚きの声をあげた。


「ウタハ君が?」


2人から賞賛の目を向けられて戸惑いながらもウタハは静かに頷いた。


「そうか。やはり当事者でなければわからないこともある。研究室にばかり籠っていては本当に能力者のためになる研究はできないのだな」


真摯な瞳は研究者としての誠実さを映している。ウタハはこの人なら真剣に話を聞いてくれるかもしれないと、昨夜のキリとの会話を話してみた。

イシは驚きの表情を見せている。


「やっぱり荒唐無稽な話でしょうか?」

「……いや。あり得なくはない。アルコールに強い弱いというのは基本は分解する酵素の問題なんだが、脳が耐性をつけるとよりたくさん飲めるようになるという研究結果もあるんだ。これは脳がアルコールへの感受性を下げているからなんだけど、能力者では逆のことが起きていると考えたら説明がつく。つまり脳が発達した能力者達は、アルコールへの感受性も高いとね。……仮説にしてもかなり乱暴な意見だが」


そう言いつつも、イシの瞳には希望の光が映っていた。


「どう調べるのか、証明できたとしてもどう活用するのか、問題は山積みだけどね。まさか赤子や小さな子供にお酒を飲ませるわけにもいかないし。でも、これを糸口に能力者だけの特性が見つかるかもしれない。いや、必ず見つけてみせるよ」

「……ありがとうございます。俺も能力者が苦しみから解放される日が必ず来ると信じます」


自分達の進める一歩は小さくても、いつかは理想とする場所へ辿り着ける。ウタハはアカリに協力して初めて、自分が一歩に貢献できたと感じた。

そんなウタハを見てイシはしみじみと感じ入ったように言葉を繋ぐ。


「やはり対話というのは大切だね。一人一人が考えていること感じていることが大きな発見へと繋がる。実際に今を生きている人達ときちんと向き合うこと。私もまだまだ成長しないといけないことは多い」


自分よりも親世代に近い人の謙虚な態度に、ウタハも決して考え続けることをやめてはいけないと実感してその日の話し合いは終わった。




ウタハ達を見送る時、イシは思い出したようにシュカのことを聞いてきた。


「ウタハ君はルームメイトだったね。彼は元気にしてるかい?」

「相変わらず無茶苦茶ですよ。最近は会ってないんですか?」

「しばらく連絡ができてなくてね。そしたらセイ君から結婚を延期するかもしれないと言われたから、少し心配で」

「えっ⁉︎俺、聞いてないですよ⁉︎」

「そうなのかい?すまない。もしかしたら話してはいけないことだったかな」


口を滑らせたことを後悔して「聞かなかったことにしてくれ」と頼んでくるイシに頷きながら、いつもやりたい放題の友人の意外な秘密にウタハはどうすべきか頭を悩ませていた。

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