53
ストーカー騒動の翌日。リイサがエテルと両親を連れてカグラのもとへやってきた。
「はじめまして。能力者対策室室長のカグラです」
よそ行き100%の顔でカグラが名刺を両親に渡す。そこに記された『医師』の項目に父親が反応した。
「お医者さん……なんですか?」
「はい。能力による不調を診たりもしますので」
「え?お注射するの?」
医者という言葉に注射を連想して怯えるエテル。カグラはしゃがみ込んでエテルとしっかり目線を合わせると優しく微笑んだ。
「大丈夫。注射はしないよ。力を使い過ぎて疲れちゃったりした時にお薬出すだけだよ」
「お薬?苦い?」
「う〜ん。お薬によるかな。できるだけ苦いの出さないようにするね」
「うん。苦くないのにしてね」
子供らしい可愛らしさにカグラはふわふわした気持ちになる。そして立ち上がり、医師という肩書きに警戒してしまっている両親に向き合った。
「よく勘違いされるのですが、能力は病気ではありません。体質です。治療が必要なものではなく、使い方を覚えるものなのです。能力によっては力を抑えたり無くしたりすることもありますが、それは最終手段で」
「力を無くせるのですか⁉︎」
父親が説明の途中にも関わらず縋るように大声を出す。
「なら、エテルの力も無くせますか⁉︎」
「……エテル君の能力を調べてみないとわかりませんが、力を無くす技術はあります。でも、やりません」
きっぱりと言い切るカグラに父親が「なぜ⁉︎」と食い下がる。
「それはエテル君の望みでは無いからです」
「……エテルの?」
「自分の力をどう使うか。活かすのか無くすのか。それを決めていいのはエテル君だけです。だから彼が自分の能力をきちんと理解し、自分で判断できるようになるまでは、私は何もする気はありません」
「……ですが……」
他人とは違う力。人からかけ離れた力。それが無くなればどれだけの悩みから解放されるだろう。掴みかけた希望を取り上げられ、父親は苦悶の表情を見せた。
「もちろん判断できるようになるまで放置するなんてことはしません。きちんとサポートし、能力を理解し危険のないようにするのが私達の仕事です。そして、それはご両親に対してもです」
「………」
穏やかに、全てを受け入れるように微笑むカグラに父親の表情は和らぎ、言葉を発せずにいる母親も肩の力を抜いた。
「今までさぞ悩み苦しまれたことでしょう。これからは私達が寄り添い必要な手助けをします。だから安心してください。……それに……」
カグラがゼロを見る。ゼロは強く頷くとエテル達の前に歩み出た。
「エテル君。ちょっと僕を見てくれるかな」
エテルがゼロのほうを向くと、ゼロの体の周りでわずかに電気が走るのが見えた。
「……パチパチ?」
「……やっぱり君は僕と同じなんだね」
驚くエテルの前に跪き、精一杯の優しい笑みを見せるゼロ。
「僕は君と同じ能力を持ってるんだ。この力はまだわかっていないことも多くて大変な思いもするかもしれないけど……必ず僕が君を守るよ。だから信じてくれるかな」
初めて見る自分と同じ人間に、エテルは少しずつ興奮を覚えていく。
「うん!お兄さん、僕と友達になってくれる⁉︎」
まさか友達になってくれと言われるとは思わずゼロは驚くが、次の瞬間、満面の笑みを見せた。
「うん。友達になろう。2人で一緒に頑張ろうね」
その頃。14班ではキリがフチからルナの様子を聞いていた。
「結局付き纏いはルナさん個人を狙ったものではなかったので安心しました」
「アイツもお前にすぐ相談すりゃいいのに。変なとこで気ぃ使うんだから」
「そうなんですよ。それで昨日ケンカしちゃって」
「えっ⁉︎大丈夫なのか⁉︎」
「……雨降って地固まる、ですかね」
なぜか嬉しそうな顔をしてフチは昨日帰ってからのことを話しだした。
家に着くとフチはルナをリビングに座らせ
、自分はルナの顔がよく見えるように真正面に座った。
「ルナさんに危害を加えるのが目的じゃなかったとはいえ、怖かったですよね」
「うん。ごめんね。迷惑かけて。結局勘違いだったし」
申し訳なさそうに顔を曇らせるルナに、フチは少しの怒りを滲ませる。
「ルナさん。僕、今ちょっと怒ってます」
「えっ⁉︎ごめん。やっぱり迷惑だったよね。仕事も早く終わらせちゃったし」
「違います!ルナさんが僕に何も言ってくれなかったからです!」
滲む怒りは少しの悲しみも含んでいて、ルナはフチの気持ちがジワリと伝ってくるのを感じた。
「キリさんから聞いて、僕がどれだけ悔しかったか。なんでルナさんが怖がってることに気づかなかったんだろうって」
「それは……私が隠してたし」
「それでも、僕が一番守りたいのはルナさんなんです!」
ガシッと肩を掴まれ、必死な瞳がルナを射るように見つめる。
「僕は、ルナさんに会ってから捜査官の仕事にもっと夢中になりました。それはあなたのいる世界を守りたいから。あなたとの幸せな日々を守りたいから。……だから僕が何より大切なのはルナさんなんです」
「……フチ君」
「迷惑だとか、そんな風に考えないでください。あなたがいなくなったら……僕は……生きていけません……」
深いピンクが涙で滲む。
初めて見るフチの涙にルナは胸が苦しくなった。
「ごめんね。私のわがままだったね」
フチを優しく抱きしめ、ルナは自分より遥かに小さい体の温もりを感じる。
「フチ君は優しいから。私が話せば仕事も放り出して来てしまうと思って。それは嫌だったんだ。一生懸命仕事をしてるフチ君が好きだから」
「コハクさんが言ってくれました。捜査官はチームで動くものだって。だから僕がルナさんを助けに行っても、みんなが助けてくれる。そしたら今度は僕とルナさんでみんなを助けたらいいんですよ」
「……そうか。素敵な関係だね。フチ君がいる場所が温かいところで良かった」
「ルナさんのお店も素敵じゃないですか。僕、みなさんのこと好きですよ」
「ふふ。ありがとう」
すっかり心のわだかまりも解け、2人の間には甘い空気が流れていた。
「フチ君……その……」
「はい。何ですか?」
抱きしめていた腕を離して俯き気味に顔を赤らめるルナに、全てをわかっているフチの期待の眼差しが向けられる。
「愛して……欲しいな……」
「はい。僕もルナさんが欲しいです」
いつものようにルナを抱き上げ、「まずはお風呂ですね」と浴室へ向かうフチ。珍しく積極的に首に腕を絡ませてくるルナを見て、堪らなく幸せな気持ちになった。
「でねでね。その後のルナさんが凄く可愛くて。いつもは離れて体を隠そうとするお風呂でもピッタリくっついてくるし。ベッドではこうして欲しいああして欲しいって素直に言ってくれるし。それに……ああ、これ以上はダメです。あんな可愛いルナさんは僕だけのものです」
頬に手を当ててうっとりするフチの横で、完全に惚気へと変換された報告にキリは固まってしまっている。
『あのルナが……あのルナがそんなこと……』
ルナに対してどこか純粋で清らかなイメージを持っていたキリは、光速で大人の階段を登っていく友人にショックを受けていた。




