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腕付きの銃の出ところを調べている14班は、キリの活躍で順調に捜査を進めていた。
「銃の部品の加工は他の機械の部品と偽って発注されてたみたいだな。まあ社長は設計図を持ってたくらいだから知ってただろうけど。んで、発注してたのは典型的なダミー会社。隠れてるのは結構派手に動いてる詐欺グループだな。なんでまた銃なんかに手を出したのか」
「………」
報告を聞くコハクが言葉を失っている。他のメンバーも同じ反応だ。
「このグループの情報なら公安から引っ張ってこれるな。この後行ってくるぜ。……どうした?」
「いや、ちょっと調べてくるでよくそこまで調べてきたなぁと」
会社の捜索が終わったあと、キリが銃の出どころに心当たりがあるというので自由に調べてもらっていた。その結果、想像以上の成果を見せられてコハクは感心しっぱなしだった。
「専門だって言っただろ。俺に自由にさせたコハクの手柄。それにこんなん技術の問題だから訓練すりゃ誰でもできる」
「いや。そんな簡単なことでもないと思うけどなぁ」
「そうか?まあ、とりあえず公安に行ってくるぜ」
「あ、なら僕はナミ君の顔を見に行ってきますね。母親の実家に行くことが決まったみたいなんで」
「そっか。わかった。行っておいで」
シュカの言うナミとは銃を突きつけられていた社長の息子だ。社長は逮捕されることが確実なので、母親と共に引っ越すことが決まっていた。
「……そんなこと、いつの間に」
「入院してる時とか時々顔出してたんだよ。すっかり懐かれちゃった。可愛いよ」
「……そうか」
先ほどまで意気揚々としていたキリの勢いが急に萎む。
『俺、また同じことしてる。犯人を追う方にばかり気を取られて、被害者のことなんて忘れてた』
キリの苦悩を感じ取ったのか、コハクが明るい声で話しだした。
「キリくんが頑張ってくれたおかげで余裕を持ってシュカくんを行かせられるよ。情報収集の秘訣を今度みんなに教えてもらおうかな」
コハクの意図を察してホムラも話題にのっていく。
「そうですね。ただでさえうちの班は力技荒事担当になってきてますから。捜査能力を鍛えるのも必要です」
「僕も怪力に対する畏怖の目だけじゃなくて、捜査能力に対する尊敬の目を向けられたいです」
フチの可愛らしい願いにみんなから笑い声があがる。コハクとみんなが作るこの温かい空気が、キリはすっかり好きになっていた。
公安に行った帰りにキリがルナの店の前を通りかかると、たまたまルナが出てきた。
「お。ルナ。すごい偶然だな」
「……あ。キリか」
声をかけられたルナは一瞬ビクッと怯え、キリの姿を確認すると安心したように肩の力を抜いた。
「どうかしたか?今、怯えてなかったか?」
「え?あ、いや、別に……」
目を逸してごまかそうとするルナ。だがそれを見逃すキリではなかった。
「何かあったな?隠しても無駄だぞ」
「……や、何も……」
「俺を信用できないのか?」
真っ直ぐに見つめてくる薄紫は、かつてルナが好きになった瞳だ。観念したルナは素直に事情を説明しだした。
「最近お店の外によく立ってる人がいるんだけど、なんだか私がいるとずっと見てくる気がして。帰る時も物陰からずっと見てくるし。でも気のせいかもしれないから誰かに言うのもなと思って…」
「それはすぐ相談するレベルのやつ!」
『いわんこっちゃない!』と『なぜすぐ言わない!』を言いたい気持ちをグッと堪えて、キリはルナの肩をガシッと掴む。
「どんなヤツだ!いつ現れる!っていうか、今はいないのか⁉︎」
グルルと周りにガンを飛ばすキリをルナは「どーどー」と落ち着かせる。
「今はいないよ。現れるのもマチマチだし。でも帰る時はよくいるかな。30過ぎくらいの男性なんだけど」
「ソイツが現れだしたのはいつからだ?」
「2週間くらい前かな」
「フチに言ってやれよ!」
おそらくこの場にいればすぐにでもルナを家に連れ帰るだろう後輩を思って、キリは可哀想になる。
「でも、仕事の邪魔になったら嫌だし…」
「お前に何かあったほうがアイツは悲しむわ!」
変なところで遠慮するルナが心配になり、キリはこの事件の早期解決を決意した。
「今日のシフトは?閉店までか?」
「え?うん」
「なら定時に帰れば間に合うな。俺とフチで迎えにくるから勝手に帰るなよ」
「でも……」
「反論は聞かない!これは決定事項だ!いいな!」
「……はい」
あまりの剣幕に承諾するしかないルナ。
そのまま店の中に戻るまで見守って、キリは署へと足早に帰っていった。
仕事終わりに合わせてルナの店に来たキリとフチとホムラ。店長は「まあ、素敵なナイト達ねぇ」となぜか楽しそうにしている。
「なぜ俺まで」
「仕方ないだろ。フチが暴走したら止められるのはホムラしかいねぇし」
「どこですか……ルナさんを狙う不逞の輩は……」
すでに目が血走っているフチを早速ホムラが宥めている。
「フチ君……ごめんね。忙しいのに……」
申し訳なさそうに謝るルナにフチが悲しそうな表情に変わる。このままではいけないと、キリが店の外へと視線を巡らせた。
「何にせよ、その怪しい男を捕まえりゃ済む話だ。ルナ、今日はいるか?」
店からガラス越しに外の様子を伺ったルナが「あ」と声をあげた。
「いる。あそこ。電柱の影」
スーツの男が怪しさ満載で電柱に隠れてこちらを伺っている。その姿を確認すると即座にキリとフチが店から飛び出した。慌ててホムラが追いかけ、ルナもそれに続く。
「え?何?」
物凄い形相で自分に向かってくる2人にスーツの男は慌てて逃げようとする。だが捜査官2人から逃げられるはずもなくあっさりとキリに拘束されてしまった。
「ちょ、いきなり何するんですか!」
「うるさい!てめぇ、何でルナを狙った!」
捜査官というよりは完全にチンピラにしか見えないキリが凄むと男は「ひいっ」と青ざめる。その男に真っ直ぐ対峙して、フチが声を張り上げた。
「ルナさんは、僕の恋人です!」
いきなり何だ?とキリと男が呆気に取られていると、フチはなおも大声で続けた。
「だからあなたが好意を持ってルナさんに近づこうとしていたなら諦めていただかないといけないし、もし、邪な気持ちでルナさんをつけ狙っていたんだとしたら……」
グッとフチの拳に力が入る。その反動で足元のアスファルトにヒビが入った。
「僕が絶対ルナさんを守ります!指一本触れさせません!」
2人を追いかけてきたホムラとルナにも、フチの宣言ははっきりと聞こえた。ルナの深い緑の瞳に嬉しさの涙が滲む。
「……好意?邪?……ち、違います!誤解です!」
どうやら自分がルナを見ていた理由が勘違いされていると気づいた男は必死の弁明を始める。
「は⁉︎何言ってんだよ!ずっとルナのこと見てただろうが!」
「そうですけど……それは能力者の方がどんな生活してるか知りたくて……」
「能力者狙いの愉快犯か?それとも誘拐でもしようと思ったか?」
能力目当てとわかりホムラもルナを守りながら警戒の色を濃くする。
「そんなんじゃありません!……ただ……」
奥歯を噛み締め、男は顔を歪ませながら自身の抱える事情を吐露した。
「子供が……息子が能力者かもしれないんです」




