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「ウタハです。今日からこちらでお世話になります。よろしくお願いします」


ウタハとキリを交換するように行われる異動はすんなり手続きが済み、数日後にはウタハは公安へと出勤していた。


「そんな堅苦しい挨拶しなくても知ってるよ」


ウツギの明るい声にみんなから笑いが起きる。何度も捜査で一緒になっているメンバーだ。気心知れた顔ぶれにウタハも緊張がやわらいだ。


「ウタハはアカリさんのサポートのためにうちに来たからね。基本は捜査よりそっちの対応を優先してもらうよ」

「はい。わかりました。トカゲさん」


ウタハの返事にトカゲが胸に手を当てて感極まっている。


「何⁉︎どうしたんですか⁉︎」

「トカゲ、さん付けなんて誰もしてくれないから喜んでんだよ」

「そうなんですか?でも上司になるわけだし」

「俺に敬語とかやめてよ。落ち着かない。うちはさん付けも敬語もなし」

「う〜ん。まあ、それなら」


寒気をこらえるポーズをするウツギにウタハは渋々了解する。トカゲは「え!嫌だ!私には敬語を使ってくれ!こんな可愛いウタハを見逃したくない!」と叫んでいたが、可愛いの言葉にウタハが反応して「絶対使わない!」と言われてしまった。

その光景にムジナとハリアはほっこりしている。


「何だか楽しいね」

「うちはメンバー変わることなかったものね。たまには新鮮でいいわね、こういうのも」


そんなのんびりとした雰囲気の中、ウタハへの説明の準備をしていたダダが部屋に戻ってきた。


「ウタハ。待たせたな。別室に資料を用意したから来てくれ」

「はい。わかりま……わかった」


なんとなく敬語の抜けきらない様子を見守られながら、ウタハはダダについて別の部屋へと移動した。

そして、長机に山のように積まれた資料に絶句することになる。


「ひとまずうちにある能力者関係の資料だ。事件のものもあれば、カグラのところにきた情報でうちがマークしているものなど、種類は様々だ。アカリさんはすでに目を通してあるからお前も頭に入れておいてくれ。ちょうど今日はアカリさんは来ないし、1日あればできるだろう?」

「……了解」


『キリ、いつもこんなハードな内容こなしてんのか?』


舐めていたわけではないが、公安の仕事のハードさに初っ端から打ちのめされそうなウタハだった。




一方、ウタハの代わりに14班に来たキリはそののんびりっぷりに戸惑っていた。


「コハクさん、また書類が不備だらけですよ。ほら。俺が一緒に見ますから。直しますよ」

「ごめんねぇ。事務仕事だけはいつまでたっても苦手で。シエンくんがいつもやってくれてたから」

「シエンさんに甘え過ぎです。仮にも班長なんですから。しっかりしてください」

「仮にもは余計だよ〜」


ホムラに叱咤されて書類の直しに勤しむコハク。かたやキリを囲んでシュカとフチはお喋りを楽しんでいる。


「結局ウタハはキリが綺麗にしてったの気づかなかったんでしょ?ほんとダメなやつだよねぇ」

「ルナさんが心配してましたよ。あんなにすれ違ってて大丈夫かなって」

「いやダメでしょ。キリもウタハも仕事のことばっか考えすぎなんだよ」


ここはカフェか何かか?と、キリはこの研修は果たして正解だったのだろうかと既に不安になってきていた。




1日の勤務タイムを終え、なんとか資料を頭に叩き込んだウタハのもとにトカゲがやってきた。


「お疲れ。ウタハ。今日はもういいよ」

「ああ。わかった。みんなは?もう帰ったのか?」

「ちょっとだけ歓迎会しようかって残ってる」


そう言われてウタハが部屋に戻るとジュースとお菓子が用意されていた。ウタハが驚いているとウツギが慌てて帰ってきた。


「間に合った⁉︎」

「時間ギリギリだな。ちゃんと情報は取ってきたのか?」

「もちろん!報告は後でいいだろ。まずは乾杯しようぜ」


そのまま紙コップがみんなに配られ、トカゲの乾杯の合図で歓迎会が始まった。

ワイワイとみんなで騒ぐ中、ムジナがウタハのところにやってきた。


「驚かせちゃったかな?メンバーが変わるなんて初めてだからみんな浮かれちゃって」

「あ。いや。なんか意外で。もっとストイックで余計なことはしないチームかと思ってたから」

「ハードな仕事だからね。表に出ることもないし。でもその分、仲間内はすごく仲が良いんだよ。僕は時々ダダとハリアの家に行って子供達と遊ぶのが楽しみなんだ」

「キリも可愛いって言ってた。いいな。なんか、そういうの」

「ウタハ君ももう仲間だよ。また僕たちの家にも遊びにおいで」

「ああ。ありがとう。……キリはここで育ててもらったんだな」


闇に紛れて裏から国を支えている普段の姿とは違う、騒がしいくらいの空気にウタハは恋人を想う。


「家族みたいなもんだからね。だから、キリに恋人ができてみんな嬉しいんだ。……2人で幸せになってね」

「……はい」


目の前の温かい光景に、本来の目的は別だとしてもここに来れて良かったとウタハは感じていた。




その頃。キリは14班での初日を何事もなく終えようとしていた。そこへ1本の電話が入る。


「はい。14班。……わかりました。すぐ向かいます」


電話を切ると、コハクは先ほどまでの情けない表情から一変して真面目な顔でみんなに声をかけた。


「ごめん。今日は残業決定だ」


部屋の雰囲気はガラリと変わり、「了解」と言うとホムラとフチはそれぞれの相手に帰りが遅くなると連絡を入れた。


「説明は現場に向かいながら。時間がない。急ぐよ」


全員で車に乗り込みホムラの運転で出発する。すぐに助手席のコハクが今から向かう現場について説明を始めた。


「男が子供に銃を突きつけて騒いでるらしい」

「「銃⁉︎」」


ホムラとシュカから驚きの声が上がる。


「2人の予想通り、男は腕付きだよ。銃も腕付き用のものだ。だから警官達は射程内に入れなくて男を捕まえられない。俺たちが呼ばれた理由だ。……どこで銃を手に入れたのか疑問はあるけど、まずは子供の解放が最優先だ」


そのまま細かく作戦の指示をしていくコハクに、連絡が入ってそれほど時間も経っていないのにそこまで対応していることにキリは驚いた。


「キリくんはまだ連携もわからないと思うから、現地にいる警官達と待機しててね」

「了解」


初日から役に立てると思えるほどキリは自惚れていない。せめて足手まといにならないように命令に従うのみだ。


「あとは事件の基本情報。現場は小さな会社で、男はそこを先月解雇された。人質にされてる子はその会社の社長の子供。だいたい事件の理由はわかるね。男は社長と話をさせろと叫んでるらしい。要求をのんで社長が行っても行かなくても、いつ男が暴れるかわからない。とにかく急いで解決するよ」


了解!と全員が気を引き締めて、車は現場へと急いだ。

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