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楽しい楽しい動物園での時間が終わり、ウタハとキリはカフェにきていた。


「で、なんだよ話って」


なぜか妙な迫力で聞いてくるキリに、ウタハは『何か怒らせることしたっけ?』とやや怯えながら今日呼んだ理由を話しだす。


「あのさ。こないだダイナに会ってきたんだけどさ」

「ああ。カグラに聞いた」


あれ?と、てっきり2人のことについて話すのかと思っていたキリは肩透かしを食らう。


「自分でもなんで会いたいと思ったのかよくわからないまま面会に行ったんだけど、ダイナと話してるうちに自分が何を求めてるかわかったんだ」


語るウタハの真剣な様子に、キリは気持ちを切り替えた。


「あのさ。キリ。もし嫌ならこの話はやめるから素直に言って欲しいんだけど………お前は何が違ったら、トカゲのところに行くことにならなかったと思う?」

「……何って……」


過去を思い出して辛いというよりは、戸惑った声でキリが呟く。慌ててウタハはフォローした。


「あ。もちろん今のお前を否定してるわけじゃないぜ。トカゲんとこにいなきゃ俺はお前に会えなかったわけだし。ただ、キリが苦しい思いしないためには何が必要だったのかなって」

「……それは、お前がカグラのところに来ないで済む人生には、どうだったらなってたかってことだな」

「そうだ」


言いたいことを確実に理解してくれるキリに、ウタハはじわりと喜びが湧いてくる。


「能力者というものがきちんと理解され、保護される世の中。でもそれは夢物語だろ。みんな違うものは怖い」


薄紫の瞳に影がおりる。化け物だと言われた過去を思い出したのだろう。


「もちろん人の意識は簡単には変えられない。でも、そもそも能力者でなくても諍いはあちこちで起きてるんだ。それでも社会が成り立つのは法や仕組みがあるから、だと俺は思うんだけど」

「……政治家にでもなるつもりか?」


急に話が大きくなり、キリは恋人が何がしたいのかわからなくなってきた。


「そんな大それたこと考えてねぇよ。でもさ。何かできないかなって。……色々見てきた俺だからこそ、何か」


ダイナと対峙した時、ウタハの武器になったのはみんなが与えてくれた経験だった。それが足をしっかりと地面につけて立たせてくれたことが、ウタハの自信につながっている。

前を見据える澄んだ瞳に、はぁっと息を吐いてキリも覚悟を決めた。


「……アカリさん。お前もこないだ会ったんだよな?」

「え?ああ」


突然でてきた名前にウタハは戸惑いながら返事をする。


「最近俺が忙しかったのは、あの人のサポートしてたからなんだよ」

「サポート?」

「能力者の事件の資料整理とか。うちは捜査官も能力者だし、色々と参考になりそうなことを話したりカグラやスイレンと連絡とったり」


『忙しそうだとは思ってたけど、そんなことしてたのか』


相変わらずどんどん前へと進んでいくキリにウタハは追いつけた背中がまた遠のいた気がした。

だが、そんなことはなかった。


「でも俺がやれるだけは手伝えたからさ。お前、引き継ぐか?」

「へ?」


よほど間抜けな表情になっていたのか、キリがしてやったりな顔をしている。そして楽しそうに話を続けた。


「俺1人の知識や経験に頼るよりいろんな人間が関わったほうがいいだろ。まあ、お前がやりたければだけど?」

「!やる!やりたい!」


前のめりに答えてくるウタハに満足して、キリはスマホを出して誰かに連絡をとりだした。


「よう。トカゲ。今どこだ?……そうか。話があるから今からウタハ連れてく。コハクもそこにいるんだな?そのままいるように言え。え?ちょっとくらいいいだろ。可愛いウタハのためだって言っとけ。じゃあな」


言いたいだけ言って通話を終わらせるキリ。ついていけてないウタハに向けてイタズラな笑みを浮かべた。


「さて。じゃあ保護者達をたらしこみに行くか」




キリに連れられて公安へ行くと、トカゲとコハクが何が何やらわからないという感じで出迎えてくれた。


「ウタハくん。どうしたの?わざわざ非番の日に」

「えっと。なんて言えばいいのか」

「それは俺から説明するぜ」


颯爽とウタハの前に出て、キリがことの経緯を説明する。


「なるほど。つまりアカリさんのサポートをウタハに任せたいと。別にそれはいいんじゃないかな」


可愛いウタハのお願いが聞けるのが嬉しいのか、トカゲはご機嫌で承諾する。


「でもコハクさんのところの人手が足らなくなりませんか?」

「そうだねぇ。フチくんが来てくれたからそこまでだけど、さすがに彼もまだ1年目だし」

「そこでだ。今度は俺の希望を聞いてもらいたい」


キリが意味ありげにトカゲに視線を送ると、あ!っとトカゲが何かを思い出したように声を上げた。


「そうか。14班に研修に行きたいって言ってたな」

「え?そうなの?」

「そうなのか?」


同じような反応をするコハクとウタハにキリは楽しそうに説明する。


「ダイナの件で、公安しか知らないままじゃ成長できないって思ったんだよ。だから他んとこに修行に行きたいってトカゲに頼んでたんだ」

「修行じゃなくて研修だ。コハクさん、良ければキリを預かってくれませんか?代わりにウタハはアカリさんのサポートが終わるまでうちできちんと世話をしますので」

「俺はいいよ。ウタハくん、しっかり役目を果たしてくるんだよ」

「だってさ。良かったな」


『何度もチャレンジして駄目だった公安に、こんな形で入ることになるなんて……』


目まぐるしく開いていく新しい扉に、ウタハが感じたのは戸惑いよりも希望だった。


「……ありがとうございます!よろしくお願いします!」


全力で頭を下げるウタハに、3人が向ける笑顔は温かさに溢れていた。




キリはトカゲの車に乗せてもらって帰るというので公安で別れ、1人で寮へと帰るウタハ。

まだ興奮冷めやらぬ感じで部屋に入ると、スマホがなった。


『ヨルから?何だろう?』


その頃。キリも自室で満足そうにベッドにダイブしていた。同じようにスマホの鳴る音が聞こえる。


『ルナから?』


2人に送られたメッセージは全く同じ内容だった。


『ちゃんと話はできた?』


「「………あーーーー!」」


別々の場所で同じように叫んでスマホに顔を埋める2人。


『公安行きが決まって嬉しくてキリと話すの忘れてた!』


『話がうまいことまとまったから満足してウタハと話すの忘れてた!』


後悔してももう遅く、キリは自室で1人ベッドに沈んでいき、ウタハは帰ってきたシュカに洗いざらい今日のことを聞かれて「ほんとバカだねぇ」とトドメを食らっていた。

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