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ある晴れた日の朝。ウタハは動物園へとやってきていた。待ちに待ったキリと会える日を迎えたのだ。

しかし園の前でまだかまだかと待つウタハの元へとやってきたのは、ララを連れたヨルとハナだった。


「ウタハ。早いな。待たせてしまったか?」

「いや。俺が早く着きすぎただけだ。他のヤツらもまだだしな。ララ、元気にしてたか?」

「うん!元気だよ!ぼく今日はひつじさんとお話したい!」

「そうか。ルナにお願いしような」


そんな話をしていると、キリとルナもやってきた。


「俺たちが最後か。待たせて悪かったな」

「いえ。私達も今来たところですよ。じゃあ行きましょうか」

「ルナさん、ひつじさんとこ行こ〜」

「いいよ。でも走ったら危ないからゆっくり行こうね」


ララに手を引かれるルナに続き、大人達も入り口へと向かう。その大所帯に嬉しいような残念なような複雑な気持ちでウタハは足を動かした。




なぜそんなことになっているのかというと、キリからの返事が来たところまで話は遡る。


『キリも忙しいみたいだな。休みが合うのはこの日だけか』


部屋でくつろぐウタハがキリからのメッセージを確認する。あらかじめ送っておいたウタハの予定にキリが自分の予定を合わせた結果は、1日だけ会えるというものだった。

それでも会えるならとウタハが返事を返そうとした時、ヨルから連絡が入った。


『あ。動物園行けそうな日決まったかな。……へ?』


ララとの約束を果たすためヨルとも予定のやりとりをしていたのたが、どうやら向こうも忙しいらしく希望日が1日だけ送られてきた。

それはキリが指定してきた日と同じ日だった。


『……しかたない』


そう腹を決めると、ウタハは2人に対して同じ内容を返信した。




その結果が今の状況である。キリも含めたみんなで動物園に行き、帰りにキリとカフェででも話をすればいいやとウタハは判断したのだ。

ちなみにデートプランをノリノリで考えていたシュカからは「バカだねぇ」の一言をいただいた。


「ひつじさんはあっちにいるみたいだね。ララ君、行こうか」

「うん!」


すっかりルナに懐いたララ。ルナも予定が合えばと誘ってみて良かったと思いながら、ララと歩く姿を見てウタハはルナの変貌っぷりに感心していた。


『ものすっごい綺麗になったな』


もともと整った顔立ちはしていたが、フチと付き合いだしてからのルナは纏うオーラが別物になっていた。

シュカのアドバイスで美容にも気は使っているのだろうが、何より内面から出るものが違っている。


「……ルナに見惚れてんのか?」


横にいたキリが茶々を入れてくる。恋人が嫉妬してるのかとウタハは慌てて否定した。


「いや!そんな!そんなことは!」

「いや。嫉妬とかじゃねぇから。俺から見ても見惚れるくらい綺麗になったからな。店でもルナ目当てに買いモンを何回にも分けて来るヤツいるらしいぜ。こないだ店長さんが言ってた」

「はあ〜。そりゃ凄えな」


更に感心しながら、ウタハはふとあることが気になった。


「てか、店長にって。店に行ったのか?今日もルナと一緒に来たし、随分と頻繁に会ってんだな」


別に浮気を疑ったりはしていないしルナと仲がいいのは元からなので気にしないが、そんなによく会ってたっけとウタハは疑問を感じた。


「ああ。まあ、事件のことを引きずってないかとか、心配だからちょこちょこな」


やましいことはなさそうなのだが、歯切れの悪いキリにウタハはなんとなく釈然としない。でもそれ以上何を聞いていいかわからないので、その話題はそこで終わってしまった。




その後、ウタハはヨルと2人になるタイミングがあったので事件の後どうしてるのかを聞いてみた。


「穏やかに暮らしてるよ。できるだけ薬の開発に協力してるから忙しくて。キリとのデートを邪魔して悪かったね」


ヨルは家族の殺人について無罪であることがわかり、薬の製造についても脅されていたことが証明されたので不起訴となった。

そして今は糸を出せなくする薬の研究に協力している。ダイナ達へ使っていたように能力を使う犯罪者への抑止力としての使用や、能力をコントロールできない者の力を抑えるために使えないかという意見が出たため、ヨルへの協力依頼がきたのだ。司法取引というわけでもないので断ることもできたが、ヨルは自分の力が役立つならと快諾した。

現在は無給で協力しているヨルだが、さすがにそれは良くないだろうとどこかに所属して有給で働いてもらおうという話も出ている。


「ララも元気そうで安心したよ」

「幼稚園に戻れて友達と楽しく遊んでるみたいだ。来年は小学校への入学も控えているけれど、腕付きにも理解のあるところを見つけられたからそこにしようと思ってる」

「そうか。学校でも友達がたくさんできたらいいな。まあララなら大丈夫だろ」


未来ある幼い命が眩しい。自分を見守ってくれた人達もこんな温かな気持ちだったのだろうかと、ウタハは大人になる喜びを感じていた。

そしてヨル達が幸せに暮らしてることに安心すると、どうしても聞きたいことがもう一つだけでてきた。


「……ハナとはどうなった?」


何をとは言わなくともウタハの表情でヨルには質問の意味がわかる。


「……とても幸せな時間でした」


顔を手で隠してそれだけ言うヨルに、急にウタハが縋りついてきた。


「なあ。なあ。最初はどうやってヤろうって話になったんだ?」

「なっ⁉︎なんでそんなこと知りたがるんだ!」

「キリと全然そんな雰囲気になんねぇからだよ!」


情けなさ全開でなりふり構わずに聞いて来るウタハに、ヨルは哀れみを感じてしまう。

仕方なく自分達の初めてのことを語りだした。




ダイナ達が捕まり家に戻った数日後。ララが寝た後のリビングでヨルは悩んでいた。


『あのまま逮捕されてハナ達とは離れ離れになると思っていたから、まだ先だと思っていたけれど……。いつでも私はハナに抱いてもらえるんだよな』


元の生活に戻るための雑務で忙しなく過ぎる日々が落ち着き、置き去りにされていた問題がヨルの頭を悩ませる。

そんな苦悩する主のもとへ、ハナが紅茶を淹れて持ってきた。


「どうしたんですか?そんな難しい顔して」


結局ハナのタメ口はあれから一度も出ていない。そういう時のためにとっているのだろうかとヨルは勘繰ってしまい、試すような提案をしてしまった。


「……敬語禁止」

「え?」

「敬語禁止……してみないか?前にやったみたいに」

「……いいですよ」


そう言うとハナはソファに座るヨルの隣にやってきた。ピタリと密着する体にヨルがビクッと反応する。


「ヨルと離れることにならなくて本当に良かった」


頬に手を添え、真摯な愛を含んだ瞳が近づいてくる。リビングは一瞬で愛の空間へと変わっていった。


「もう一時もあなたを離したくない。あなたを私の愛で溺れさせたい。あなたの全てが欲しい」


ハナにそれほど激しい情熱があったのかと、ヨルは眩暈がしそうだ。


「……敬語禁止の理由は何?」


わかっているだろうに。ハナはヨルの言葉を求めてくる。


「……約束を……願いを叶えて欲しい」


今までで一番優しい微笑みをヨルに向けると、ハナは恋人の額にキスをした。


「愛しいヨル。今は気持ちいいことだけ考えて」


そして壊れ物を扱うように唇に触れ、ハナはヨルの体を少しずつ快楽へと誘っていった。




ずっと手で顔を隠して話された内容に、ウタハは悪態をつく。


「俺の敬語禁止をいいように使いやがって!羨ましいなぁ、こんちくしょう!」

「な!君が聞いたいと言うから話したのに!」


理不尽にキレられてヨルは珍しく少し怒った。


「ああ。悪かったよ。聞かせてくれてありがとよ。でも俺とキリじゃとてもじゃねぇけどそんなやりとりできねぇ」


あ〜と地の底から響くような声を出すウタハに、さすがにヨルも可哀想になってくる。


「君とキリはいったいどうなってるんだ?」

「……いいとこまでは行ったんだぜ?でも場所が悪くて……その後は強制同室生活に入ったのにとても恋人らしいことできる状態じゃなかったから、だんだん兄弟だった頃の感覚に戻っちまって……今さらどうやったら甘い雰囲気だせるのか検討もつかねぇ」


恋人期間も新婚期間も全てすっ飛ばして、熟年夫婦のような関係に達してしまった2人。それを打破するにはかなりの衝撃が必要だった。


「素直にしたいって言ったら駄目なのか?」

「……やっぱそれしかないか」

「君達はきちんと話せば上手くいくよ。私も応援するから」


全ては自分次第とはいえ、ヨルの寄り添おうとしてくれる気持ちは素直に嬉しい。ヘタレを自覚しているウタハだが、それでも頑張ろうと思えたのだった。

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