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ダイナとの面会から数日後。仕事が終わりウタハが寮でゆっくりしていると、非番だったシュカが帰ってきた。
「大変大変!ちょっと!一大事だよ!」
バタバタと騒がしくリビングに入ってくるシュカにウタハはめんどくさそうに読んでいた本から視線を上げる。
「なんだよ。うるせぇな」
「何?本読んでたの?『誰でもわかる法律入門』?口が悪過ぎてついに訴訟でも起こされた?」
「違うわ。ちょっと読んでみようと思っただけだ」
「ふ〜ん。って、それどこじゃないんだよ!ロクイさんが浮気してるかもしれないんだよ!」
あのロクイが浮気?と、あまりにありえない話にウタハが「は?」とまるで信じていない顔になる。
「ほんとだって!僕見たんだよ!カフェで人と話してるとこ!黒髪のすっごい美人!」
「ただの知り合いじゃねぇのか?」
「あれはそんな雰囲気じゃないね。その人すっごい笑顔でロクイさんの話聞いててさ。ロクイさんも楽しそうだし。しかも何か小さな箱を渡されてたんだよ!あれは指輪だね!」
鼻息荒く捲したてるシュカにだんだんとウタハはめんどくさくなってくる。
「ならロクイさんに直接聞けばいいだろ。明日13班行って」
「本人に聞いたってしら切るに決まってるでしょ!でも13班に行くってのはいいね。よし!ウタハ!僕たちの捜査官としての手腕を今こそ発揮する時だよ!」
言うだけ言ってシュカは部屋へと入って行く。「変なことになんなきゃいいけど」とウタハはゲンナリした声で呟いた。
翌日。フチとホムラまで巻き込んで4人は13班に来ていた。
「なぜ俺まで」
「シエンさんとロクイさんの一大事ですよ!ほっとけません!」
やる気満々のフチに対して、ホムラは渋々ついてきたという感じだ。
「あら。なあに?みんな揃って」
扉のところで中の様子を伺う4人に気づいてアギが話しかけてきた。
ちなみにロクイは外出中である。きちんとロクイの不在を調べて13班へ向かったシュカに『コイツ、公安に向いてんじゃねぇか?』とウタハは複雑な気持ちになった。
「アギさん!実は聞きたいことがあって。最近ロクイさんに変わったことってないですか?」
「変わったこと?」
「やたらソワソワしてる日があるとか。ちょっとオシャレになったとか」
「なんでそんな具体的なんだよ」
過去に何かあったのかと思うようなシュカの質問にアギが「んー」と記憶を探る。
「そういえば、休憩時間にやたらとスマホでアクセサリーを見てたわね。シエンちゃんへのプレゼントかしら」
「それだー!」
我が意を得たりとシュカはアギに礼を言って走り去る。慌てて追いかけるウタハとフチの後を、アギに丁寧に礼を言ったホムラが追いかけて行った。
「なんだかよくわからないけど、みんな元気で嬉しいわぁ」
ほっこりと呟きながらアギは仕事へと戻っていった。
「絶対浮気相手へのプレゼントを考えてたんだよ!」
「でも箱をもらってたのはロクイさんなんだろ?」
「僕が見てなかっただけで先にロクイさんがプレゼントを渡してたのかも!」
「シュカさん。ダメですよ。捜査はきちんと証拠を揃えないと」
「フチはすっかり捜査官らしくなったな。嬉しいぞ」
「ホムラさんのおかげです!」
だんだん話が逸れていく4人に誰かが声をかけてきた。
「お前達、何してるんだ?」
14班の扉の前で部屋にも入らず騒ぐ4人に、たまたま用事で来ていたシエンが不思議そうに声をかけてくる。全員の顔が凍りついた。
「シエンさん!そそそその、あの」
シュカがなんとか誤魔化そうとするが口から出るのは意味をなさない言葉だけだ。
「ロクイさんがどうとか言ってたか?何かあったか?」
「いや!何もないです!そんな浮気なんて!」
「浮気?」
うっかり口を滑らせたフチが慌てて口を押さえる。だが、すでに遅かった。
「バレてしまったなら仕方ありません。シエンさん。落ち着いて聞いてください。ロクイさんは浮気してます!」
まだ確定してないだろうとシュカを止めようとするウタハよりも早く。廊下に響き渡るくらいの大声でシエンが笑った。
「ロクイさんが⁉︎浮気⁉︎あり得ないだろう!お前達、何を言ってるんだ」
はーはーと息を切らし目に涙を浮かべながら笑うシエンに、シュカはなぜかムキになって食い下がっていく。
「でも!でも!昨日の非番どこに行ってたとかわからないですよね!」
「ああ。昨日はどこかに行ってたみたいだな。前から欲しがってたハンドミキサーがキッチンに増えてた。最近俺が糖質を気にするから砂糖控えめのお菓子を作るそうだ」
「えっ⁉︎美味しそうですね!」
「フチもまたルナ君を連れてうちにおいで。フチは食べっぷりがいいからロクイさんが喜ぶ」
「いいんですか⁉︎やったー!」
喜ぶフチの横で「良かったな」とホムラも嬉しそうにしている。
そうしてどんどん話が逸れていく中で、シュカだけは納得いかないように叫びだした。
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょう!わかりました!僕が必ずロクイさんの浮気の証拠を掴んでみせます!」
宣言するとどこかへ走り去るシュカ。
残った面々はなぜあそこまでムキになるのかわからず首を傾げていた。
「シュカはどうしたんだ?なぜそんなにロクイさんを浮気男にしたいんだ?」
「さあ?今回はなんか変ですね。アイツはいつも変ですけど」
「はは。ウタハも苦労させられてるな」
「……まあ。助けられてる時もあるんで」
憮然として言うウタハにシエンは苦笑する。
「そう言えばシエンさんはなぜこちらに?合同捜査でもするんですか?」
「そうだった。今日は面白い人に会えるぞ」
質問したホムラに含みのある笑みを向けて、シエンは14班の部屋へと入って行った。
その頃。みんなの所から走り去ったシュカは署の入口付近で悶絶していた。
『勢いよく宣言したのはいいけど、どうしよう。なんの手がかりもないし、そもそもロクイさんが本当に浮気してるかなんて……』
珍しく自信を無くして落ち込んでいるシュカの横を職員達がどうしたのだろうと見ながら通り過ぎていく。その時、誰かが声をかけてきた。
「あの……」
その人物を見た時、シュカは驚きで目を見開いた。
ウタハ達は14班の部屋に入り誰が来るのかとシエンに問いただすが、「まあしばらく待て」となかなか教えてもらえない。
するとバタバタと足音がしてシュカが誰かを引っ張って入ってきた。
「シエンさん!見つけました!決定的な証拠です!」
シュカは連れてきた人物をみんなの前に突き出す。黒髪のその人物はまさに昨日ロクイが会っていた人物だった。
「え?シュカ、なんでその人を…」
「お知り合いですか⁉︎そうです!この人こそ僕の話してた…」
「兄さん⁉︎」
「そう!兄さんです!……兄さん?」
驚くホムラに兄さんと呼ばれた人物が近づいていく。そしてガバッと抱きついた。
「ホムラ!元気にしてたかい?まったくお前ときたら全然連絡をくれないんだから。シエンさんやロクイさんやスイレン君が気をつかって色々教えてくれているからまだいいが、もうちょっと兄さんに声だけでも聞かせておくれよ」
ギューッと抱きついて離れない兄を「兄さん!わかったから!」となんとか引き剥がすホムラ。何が何やらという顔をしている後輩達に軽く咳払いをすると兄のことを紹介した。
「えっと……この人は俺の兄のアカリだ」
「初めまして!いつもホムラがお世話になってます!」
ニコッと笑うその顔はホムラにそっくりで。ホムラの顔でホムラが絶対しない表情をされて後輩達は化かされているような気持ちになった。
「そうか。昨日ロクイさんはアカリさんに会ってたんですね」
「はい。ホムラの近況をたくさん教えてもらいました!」
満面の笑みでシエンに答えるアカリ。どうやらすっごい笑顔(シュカ談)で聞いていたのはホムラの話だったらしい。
「結局お前の勘違いだったんだな。全く迷惑かけやがって」
「う……でも!でも!ロクイさんに何か渡してましたよね」
「あ!それは…」
しまったと言う顔をするアカリにシュカがやった!と勝利を確信しかけた時、浮気を否定したのはシエンだった。
「ロクイさん、やっと結婚記念日のプレゼント決めたみたいですね。アカリさんに相談してましたか」
「……気づいてましたか」
降参と手を挙げるアカリに他の面々は「結婚記念日?」と頭にハテナを浮かべる。
「何にするか迷ってるみたいだったからサナ君に頼んだらと提案してみたんです。ちょうど私がサナ君に会う用事があったから、出来上がった物を受け取ってきてロクイさんに渡してたんですよ」
「兄さん、サナにまで連絡とってるのか」
ゲンナリするホムラがサナのことをわからない後輩達に「俺の同期だ」と説明する。あらかたの事情を察して後輩達はホムラに哀れみの目を向けた。
「これでホントに勘違いが証明されたな。ほら。シエンさんとアカリさんに謝れ」
「……すみませんでした」
珍しく。本当に珍しく。しおらしく謝るシュカにシエンが「もういいよ」と優しく言う。
「でもシエンさんは少しもロクイさんを疑いませんでしたね!素敵です!僕も見習わないと!」
「そんな大したことじゃない。ただ信じてるだけだ。ロクイさんは俺を悲しませるようなことは絶対しないって。それが俺なりのあの人への愛だからな」
初めてじゃないかと思うシエンの惚気に、みんなは白旗を上げるしかなかった。




