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ウタハの運転する車がカグラを乗せて刑務所へと向かう。引っ越しで刑務所を出た時と反対の車線を走りながら、カグラが感慨深げに声を出した。


「まさかあの部屋にもう一度行くことになるなんてねぇ」

「お前は戻る気でいたけどな」

「昔のことを蒸し返さないでよ。ウタハは最近僕に意地悪だ」

「我が子の成長を素直に喜べ。ほら。着いたぞ」


ブーとまだ膨れているカグラを無視して車は駐車場へと入って行った。




看守のいる扉を越えた先には長い廊下があり、その終わりにダイナ達のいる部屋があった。能力を使われてはいけないと力の届く範囲に人を配置しないためだ。極力人の出入りも無いようにされている。


「なんだ。面会したい奴ってのはお前だったのか」


部屋に入るとすぐにソファでくつろぐダイナの姿が見えた。隣には寄り添うようにリファがいる。

2人とも両手首にピッタリとハマるリングがつけられており、左には麻酔を、右には糸が出せなくなる薬が入れられている。部屋にある監視カメラで不審な動きが見られたらすぐに薬が投与される仕組みだ。


『意外と懐かしいとは思わねぇもんだな』


部屋はウタハ達がいた頃とは随分変わり、ベッドや机などの最低限の家具があるだけの簡素な空間になっていた。それでも刑務所であることを考えればソファがあるだけでも十分贅沢だろう。しかし、おもちゃを散らかしみんなと遊んだあの温かい場所とは似ても似つかぬ空間であることは確かだった。


「それで?今さら何の用があってきたんだ?」


部屋を見回すだけで黙っているウタハにじれったくなったのだろう。ダイナが要件を聞いていた。


「え?ああ。う〜ん。なんで来たんだろうな?」


首を傾げるウタハにダイナは呆れ果てる。

リファはただ笑顔でダイナに寄り添い、カグラはウタハの1歩後ろで静かに状況を見守っていた。


「何でって、お前が望んだんだろ」

「そうなんだけど。自分でもわかんねぇんだよな」

「はぁ。そうかよ。なら、俺が当ててやろうか?」


ニヤリと笑い、ダイナは真っ直ぐにウタハを見た。


「お前は俺と同じだからだよ」

「同じ?」

「能力に人生を狂わされた者同士だ。俺は加害者、お前は被害者としてだがな」


確かにダイナの言う通りだった。

能力が無ければダイナは周りの人間が欲望にとらわれることもなく、穏やかな人生を送れただろう。ウタハだって両親を亡くすこともエダに監禁されることもなかった。

そしてそれは能力があったせいなのか。それとも………


「……そうか」


なぜダイナと会おうと思ったのか。話をしたいと思ったのか。ウタハは今、理解した。


「……俺達は、何が違えば良かったんだと思う?」

「さあな。自分で考えな」


そっけなく言うダイナだが、決してウタハを邪険にしているわけではなさそうだ。


「そうだな。自分で考えなきゃいけないよな。……ありがとう」

「別に礼を言われるようなことしてねぇだろ」

「はは。なら感謝損にならねぇように1つ教えてくれ」


急に真顔になるウタハにダイナが身構える。

だが続く言葉は想像もしていなかったものだった。


「ゼロの好きなものは何だ?」

「……は?」


何を聞かれているのだろうとダイナは目が点になる。


「好きなもんだよ!好きなもん!甘いもんとか可愛い動物とかゲームとか!」

「……なんでそんなもん知りたがるんだ?」

「一緒に暮らせねぇ分、物で釣らないと俺の好感度が上がんねぇんだよ!」

「ゼロは甘い物好きだよ。トカゲが嬉しそうに買ってきてる」

「うっせぇ!圧倒的優位者は黙ってろ!」


カグラが嬉しそうに教えてくるのをウタハが一蹴する。そのテンションに言葉の出ないダイナの代わりにリファが質問に答えた。


「ゼロは猫が好きですよ。よく動画を見てました」

「よっし!なら」

「ルナ君にお願いしよう」


良いことを聞いたと喜ぶウタハの横で、カグラが名案だとばかりに目を輝かせている。キレたウタハはその頬を掴んで思いっきり左右に引っ張った。


「お前はこれ以上好感度上げなくていいだろ!」

「だって〜ゼロなかなか甘えてくれないんだもん。もっと色々したい〜」


びろーんとほっぺたを伸ばされながら反論するカグラと全く力を緩めないウタハ。そんな2人に頭を抱えるダイナを見かねてリファが2人の相手を代わった。


「ゼロは元気にしてますか?」


やはり仲間のことは気になるようで、心配そうに聞いてくる姿にウタハとカグラが喧嘩をやめて真面目に答えた。


「元気にしてるよ。まだ新しい生活に戸惑ってる感じだけどね。やることがないと落ち着かないと言うから、職場に連れてってスイレン君の手伝いをしてもらってる。能力に関しては僕がきちんと診察してるから安心して」


フワリと笑って伝えられる情報にリファもダイナも胸を撫で下ろす。


「あとの2人もそれぞれに頑張ってるよ。モガ君は覚えが早くて助かってるし、スイレン君達とも仲良く暮らしてるみたい。ジルバ君は高校に通い出したよ。毎日うちに遊びに来てる」

「こないだ俺が行った時も来てたよな」


そう言ってウタハがジルバに会った時のことを話しだした。




カグラに面会の同行の許可をもらいに行った日。無事に許可が出たのでウタハとキリとゼロでトランプで遊んでいると元気な声が響いた。


「ただいま〜。ゼロ遊ぼ〜」

「おかえり、ジルバ。また直接こっち来たの?」


高校から帰ってそのままカグラの家に来たらしいジルバは、当たり前のように冷蔵庫を漁りジュースを出してきて飲んでいる。


「だって今日家に誰もいないんだもん。あ、ウタハさん久しぶり〜」

「久しぶり。相変わらず元気いっぱいだな」

「取り柄だからね。なになに?トランプしてたの?俺もしたい!」

「宿題終わってからね。ほら。見てあげるから」


放り出されていたジルバのリュックをゼロが持ってきて宿題を出させる。文句を言うジルバを席に着かせてノートに向かわせた。


「なんか可愛いな。弟が増えた」

「だろ。見てて癒されんだよ」


そのままウタハとキリは可愛い弟達の鑑賞を堪能し、宿題が終わったあとは4人で遊んだ。すると夕方になって家に誰かがやってきた。


「ジルバ。帰るぞ」


キトラが帰ってきたらしくジルバを迎えにきたのだが、その姿を見てウタハが驚きの声をあげる。


「キ……キトラが……」

「?ウタハ?俺がどうかしたか?」


どうしたのかと首を傾げるキトラから目を離さず、ウタハが大声をだした。


「キトラが家にいる!!」


あ〜。と周囲が納得の声を出す中で、キトラだけがきまり悪そうにしている。


「そうか。ジルバと住みだしてから初めて帰ってきたんだもんな。最近は定時で帰ってきてんだよ」

「えっ⁉︎なんで⁉︎左遷⁉︎」

「お前な……。後輩達に高校生引き取って一緒に暮らしてるって言ったら『なら早く帰らなきゃダメでしょ』って言われて。アイツら、サポートはいらないと突っぱねるだけじゃなくて俺の仕事まで奪っていきやがった。ソラ兄もさりげなく早く帰るように手を回してくるし」

「は〜。慕われてるっつうか、なんつうか。コハクが何も言わねぇから知らなかったぜ」

「アイツはまだ俺が家にいることが信じれてねぇからな。毎日俺がいるのを見ては『夢じゃなかった』って言ってる」

「重症じゃねぇか」

「さすがに反省してる」


苦い顔をするキトラを「腹減ったから早く帰ろ〜」とジルバが引っ張って、2人は帰っていった。




「次の日コハクに『キトラ帰ってくるようになって良かったな』って言ったら、『やっぱりあれは本人?新手の能力者じゃなくて?』ってブツブツ言いながらどっか行った」

「それはジルバの近況報告じゃなくて、その2人の近況報告だな」


呆れながらも少し笑っているダイナに、「まあ、そんな楽しい家で過ごしてるって話だよ」とウタハも笑う。

すると初めて警戒をといた素の表情をダイナが見せた。


「変な奴だな。こんな犯罪者相手に、まるで何もなかったみたいに話をするなんて」

「何言ってんだ。俺はお前がヨルやルナにしたことを絶対許さねぇよ」


一瞬で。本当に一瞬で、先ほどまでとは別人のようにウタハの瞳に闇が広がる。

ダイナですらその迫力に寒気がするほどだ。


「必ず償いはさせるし、ここから出ようもんなら地の果てまででも追いかけて捕まえる。お前の犯した罪から絶対逃がさない」


凍りつくような瞳に、だが次の瞬間光が差した。「でも」とウタハは続ける。


「俺を育てたのは『犯罪者』って名前の人間じゃなくて、カグラっていうどこかのマヌケだからな。……ダイナという人間の話はきちんと聞きたいと思っただけだ」


憎しみも怒りも全て抱えて、何かを掴もうとする。それはウタハにしかできないことかもしれない。


「じゃあな。また来るよ」

「また来るのかよ。……次はもっとジルバ達の話持ってこいよ」


思わず出たダイナの人間くさいところに、ウタハは苦笑して部屋を後にした。

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