幕間 でこぼこな二人の思わぬ騒動 中
倒れた男達を放置しつつ、渋々といった様子でついてきたベールと共に女性を衛兵の詰め所に預けたイストは再び路地裏まで引き返す。
その道中でイストはベールに自身の事情と男達を見逃した理由を簡潔に伝えた。
「――――ふーん、つまり、貴方はギルドの依頼でここ最近頻繁に起きている誘拐事件を追っていて、あいつらに辿り着いた、と。それであの女の人を餌に監禁場所を突き止めようとしたってわけね」
移動しながらあらかた話を聞き終えたベールは非難するような視線と共にイストへそんな言葉を返す。
「……話聞いてた?誘拐事件と監禁場所を探してたのは事実だけど、誘拐の場面に出くわしたのはたまたまだし、あんたが割って入らなくても元から助けるつもりだったよ。実行犯さえ分かれば拠点を抑えるのは容易だからな」
「…………何、私が余計な事したとでも言いたいのかな?」
「そうは言ってない。ただあんたの決めつけ染みた疑問に答えただけ」
あくまで喧嘩腰のベールに対して冷静ながらも面倒くさそうに答えるイスト。彼からすれば事情を説明した時点でベールには帰ってほしかったのだが、彼女は不機嫌そうな表情を浮かべながらもついてくる。
結局、事情を知ってもベールが帰る事はなく、イストと共に元の地点まで戻ってきてしまった。
「……今更、戻ってきてどうするつもりなの?拘束してたわけでもないから当然、あいつらは逃げてるけど」
「言われなくても分かってる……っていうか、いつまでついてくるつもり?事情を説明したんだからもういいでしょ」
早く帰ってほしいと暗に告げるイストだったが、ベールはその意図を知ってか知らずか、一向に帰る素振りを見せない。それどころか積極的にイストが受けた依頼に首を突っ込もうとしてくる。
「いつまでって……もちろん、誘拐を企てた組織を潰すまでに決まってるよね?」
「……いや、俺が受けた依頼は拠点の捜索なんだけど?」
「ギルドに報告したところでどうせ潰すんだから一緒だよ。それにせっかく不満を解消できそうな相手をみすみす逃すわけないでしょ」
「えー……はぁ…………薄々、分かってたけど、こりゃ言っても聞かない種類の奴か……面倒くさ」
まるで人の話を聞かず、我が道を行くベールの物言いに呆れ、イストは深いため息を吐く。実のところ、彼が受けたのはギルドからの指名依頼だった。
魔女殺しの魔女であるルーコとパーティを組んでいたイストに目を付けたギルドマスターが彼を呼び出し、その能力に目をつけた結果、誘拐事件の捜索を請け負う事に。
その際、ギルドマスターからは拠点の捜索、可能なら制圧も、と言われたものの、イストは自身の戦闘能力を鑑みてそれを拒否。能力を生かしての捜索までにとどまった。
そして、ここで重要なのがギルドとしては制圧まで依頼したかったということ。
つまり、ベールの言うように拠点に乗り込み潰してしまっても特にお咎めはない。
だからといってイストも乗り気ではないが、ここでベール一人に行かせてしまえばせっかくの労力が無駄になり、依頼の報酬を貰い損ねる可能性だってある。
もちろん、拠点の情報を握っているのはイストなのでそれを教えないという選択肢もあるが、ベールが大人しく引き下がるとは思えないし、余計に面倒くさい事になる予感しかしない。
なら面倒でも一緒についていってある程度、行動を抑制した方がいくらかマシだろう。
「ぶつぶつ言ってないでさっさと行くよ。ほら早く案内して」
「……はぁ、分かった。案内はするけど、その代わり頼むから着くまでは大人しくしといてくれよ?」
案の定、強引に話を進めて迫ってくるベールに再びのため息を吐いたイストは憂鬱な足取りで路地裏を進んでいく。
目指すのはさっきの男達が気絶から目覚めて逃げ帰った道。
あらゆる音を拾い、聞き分ける事のできるイストの耳は多少の負担を無視すれば個人の鼓動を判別、追跡する事もできるため、その能力を生かして追跡を続ける。
道中、イストの言葉を聞いてくれたのかは分からないが、ベールが口を開く事はなく、そのまま目的地である誘拐犯の拠点……廃墟と見紛うほどボロボロな一軒の酒場へと辿り着いた。
「……本当にここであってるの?中に人の気配がしないけど」
中の様子を窺いながら疑いの眼差しと言葉をぶつけてくるベール。確かに連なる建物に挟まれる形で立つ酒場は寂れており、人の気配もなく、拠点と呼べるような広さもない。
けれど、それは一種の偽装。音の反射から内部構造を把握したイストは隠された地下室の存在とそこに入っていった男達、そして複数の息遣いを捉える。
「……中に隠し扉から繋がる地下がある。あの男達の他にも音が聞こえる以上、仲間か、誘拐した人達だろうな」
「音、ね……それだけでそこまで分かるなんて随分と便利そうな能力…………ちょっと検証してみたいかも」
少しだけ考える素振りを見せたベールはイストの方にちらりと値踏みをするような視線を向けた。
「…………そんなことより、本当にこのまま突撃するつもり?下はそれなりに広いけど、集団で囲まれたら面倒だし、向こうが人質を取ってくる可能性もある。はっきりいってギルドから応援を呼んだ方が賢明でしょ」
そんな視線と言葉をまるで無視するかのごとく、あからさまに話を逸らしたイストはベールへ当たり前の正論をぶつける。
「もちろん、そのつもりだけど?だって応援なんて呼んだら鬱憤が晴らせなくなるじゃん。それに囲まれようと人質を取られようと私なら問題ないしね」
話を無視された事には触れず、当たり前かのようにそう言い放つベール。
その自信はどこからくるのか、問題ないと言い切れる根拠は何なのかと問い詰めたくなるイストだったが、その気持ちを抑え、あくまで冷静に最低限の疑問を口にする。
「……さいですか。ちなみにだけど、その形で近接職だったりする?」
「んや、私は見ての通り魔術師だよ。それがどうかしたの?」
心底不思議そうに首を傾げるベールに対してイストは何度目か分からないため息と共に何でもないと諦めの言葉を返した。




