幕間 でこぼこな二人の思わぬ騒動 下
「――――あん?じゃあ何か、お前らはみすみす商品を取り逃がした上に相手が何をしたかも分からないまま気絶させられて、おめおめ逃げ帰ってきたってか?」
少し薄暗い地下の部屋で先程の男達が恐怖で縮こまりながら詰問を受けている。
その相手は周囲にいる男達の仲間であろう奴らと比べて身なりが良く、それだけ見れば浮いているともいえるのだが、鋭い視線と纏う威圧感によって誰よりもこの場に馴染んでいた。
「そ、それは……いや、やったのは誰かは分かってるんです。だからまず兄貴に報告を…………」
「そうだな。報告は大事だ。だが、現状を見る限り、ただ逃げ帰ってきたようにしか見えねぇぞ、なぁ」
男の一人が恐る恐るといった様子で口を開くが、兄貴と呼ばれた人物は言葉上、肯定しながらも、明らかな怒気が込められている。
「で、でも、目が覚めた時には誰もいなくて……」
「はぁ……そりゃそうだろ。余程の馬鹿じゃなきゃ商品を連れて立ち去るだろうよ。問題はお前らがどうしてここに帰ってこれたのか、だ」
「え、ど、どういうことですかい兄貴?」
他の男達の言い訳を聞いたその人物は呆れ混じりのため息を吐き、くだらない事を聞き返してきた一人に鋭い視線を向けつつ、言葉を続けた。
「……少し考えりゃ分かるだろ。お前らが逆の立場だったら気絶した犯罪者をそのまま放置するか?俺だったらしない。止めを刺すか、衛兵を呼ぶ。少なくとも拘束すらせずに放置はあり得ない――――」
兄貴と呼ばれた人物がそこまで口にしたその瞬間、地下に続く階段の方から派手な破砕音が轟いた。
地下でのやり取りの数分前、ボロ酒場の前で待機していたイストとベールは周囲を警戒しながら中へと足を踏み入れた。
内装もまた、外観のボロさに違わぬほど廃れており、今にも壊れそうなテーブルやテーブルが並んでいる。
「誰もいない……でも確かに人の出入りした痕跡はあるね。それで?地下への入り口はどこにあるの?」
空瓶ばかり並んだ棚とその前にあるカウンターに目を向けつつ、イストへ尋ねるベール。建物や備え付けの備品のボロさの割に埃が溜まっておらず、よくよくみればところどころに薄っすら足跡のようなものも見え隠れしていた。
「……音がするのはそのバーカウンターの下辺りだな。どこかに隠し階段があるはず」
「ふーん、あの辺りね。それじゃ……」
「ちょっと待――――」
イストが止めるより早く動き出したベールは魔法を発動させ、水の塊を生成し、慎重さなんて欠片もない様子でバーカウンターに向けて撃ち放つ。
撃ち放たれた魔法の威力は凄まじく、バーカウンターごと後ろの棚も吹き飛ばし、派手な破砕音と共に着弾した辺りを更地にした。
「――――なるほどね。隠し階段は棚の後ろにあったんだ。全然分からなかった」
「……その棚ごと吹き飛ばしておいてさも上手く見つけたように言わないでくれる?慎重に行動してくれって言わなかったっけ、俺」
あそこまで派手に音を立ててしまった以上、地下にいる誘拐犯たちにも襲撃は伝わってしまっただろう。こうなってしまえば奇襲の意味はない。
せっかくの機会をあっさり無駄にしたベールへ胡乱な眼差しを向けるイストだったが、当の本人は全く悪びれた様子もなく肩を竦める。
「?だから入るまでは大人しくしてたでしょ。もうここまできたら突入するしかないんだから」
「いや、せめて隠し階段から突入するまでは大人しくしてくれない?というか、これじゃどう見ても奇襲の意味がないでしょ」
イストが詰めるように言葉を並べ立てるが、ベールは心底不思議そうに首を傾げるだけ……まるで伝わっていなかった。
「意味ならあるよ?今の破砕音で地下は何事かって騒いで混乱するでしょ。そしたらその隙に突入して制圧すれば正面から突っ込むより効率的じゃない?」
「……それなら慎重に隠し階段を下って様子を窺いつつ、静かに仕掛けた方が効率的かつ、確実だと思うんだけど?」
「細かいなぁ……過ぎた事を気にしても仕方ないでしょ?もう事態は動き出したんだから私の作戦で行くしかないんだから。ほら、さっさと突入する!」
「ちょ、分かったから手を引っ張らないでくれる?」
互いの理論をぶつけあった末、最終的に面倒くさそうなため息と共にそんな言葉を吐いたベールはイストの手を引き、隠し階段の方へ無理矢理進んでいく。
そして時は冒頭に戻り、派手な破砕音と衝撃を受けて地下にいた男達はベールの言う通り、混乱し、慌てふためいていた。
「っ襲撃……くそっ落ち着け馬鹿ども!!まずは商品の確保!あぶれた奴は戦闘準備だ!さっさと動け!!」
誘拐犯の頭目と思われる男の一声で我に返った手下たちは指示に従い、どうにか動き始めようとする。しかし、事は誘拐犯たちの思い通りにはいかない。
混乱が収まりかけたその瞬間、階段の方から凄まじい勢いで水弾が降り注ぎ、男達に襲い掛かる。
再び訪れる混乱。それに加えて降り注ぐ水弾に当たった者は次々に倒れていくため、より一層に混乱は広まっていく。
「――――ちょ、むやみやたらに魔法を撃って誘拐された人達に当たったらどうするつもり?少しは慎重に…………」
「うるさいなぁ、ちゃんと狙いを絞ってるから大丈夫だって。そんなに心配なら貴方が保護したら?」
水弾の飛んできた方向から聞こえてきたのは誘拐犯達からすればなんとも緊張感のない男女の声……奇襲を仕掛けたイストとベールのものだった。
(……たった二人で襲撃だと?それも片方はおかしな格好をしてやがる。あいつらはまさか――――)
二人の姿を確認した頭目と思われる男が思考を巡らせ、結論に至ろうとしたその時、部下たちが叫び、図らずもその答えを知る事になる。
「あ、あの女です!あの女ですよ兄貴!!俺達に突っ掛ってきたのは!!」
「チッだろうな。でけぇ声出さなくても聞こえてる。いいからてめぇらはあいつらをさっさと仕留めろ」
頭目の男は叫ぶ部下に対して苛立ちを隠す事もせず、指示を下し、自らは後方に下がりつつ、状況の観察に徹し始めた。
「はぁ、まぁ、きちんと狙ってるってるならいいか…………というか、ここまできたら保護するより制圧する方が確実でしょ。俺が援護するから後はよろしく」
「…………文句言ってたくせに調子がいい事を……任されなくても元からそのつもりだったし、それに援護だって必要ないし」
「はいはい、分かった分かった。いいからさっさと終わらせる」
軽口を叩き合いながらそれぞれ標的に向かって攻撃を始める二人。その会話内容とは裏腹に二人の攻撃は正確無比、互いの邪魔はせず、むしろ隙を補い合っているようにも見える。
「っ魔法使いの女を潰せ!接近すればこっちのもんだ!!」
誘拐犯の一人が叫び、ベールを仕留めんと殺到するも、辿り着くより前に魔法の餌食になるか、イストが援護に放った魔力弾よって気絶するかの二つに一つで、ただ悪戯に数を減らすだけ。
さしもの誘拐犯たちもこのままではまずいと気付き、今度は人質を取ろうとする。
しかし、誘拐した人達が捕らえられている檻に向かおうとする彼等へ魔力弾が襲い掛かり、そこまで近付く事ができない。
いつの間にかというべきか、すでにと言うべきか、最初に指示を受けて誘拐した人達を確保に向かった人員も全員倒されてしまっていた。
「ちょっと、あれは私の獲物なんだけど?」
「……どう考えてもあれを放置してたら近付かれてたでしょ。むしろ――――」
イストが言葉を返し終えるより先にベールが動き、彼に近付こうとしていた男を水弾で制圧。得意気な顔……いや、最早、煽るような表情をイストへ向けて口を開く。
「少し警戒が足りないんじゃない?仕方ないから援護してあげるよ」
「……ちゃんと分かってましたけど?援護なんていりませんでしたけど?」
「はいはい、そうですね〜偉い偉い」
「…………」
「…………」
売り言葉に買い言葉を重ねた二人は最終的に無言で睨み合い、凄まじい勢いで誘拐犯達を制圧していく。
互いに連携しているどころか、いがみ合っているはずなのにまるで息ピッタリな二人な攻撃に誘拐犯達はなす術もなく倒れ、あっという間に頭目一人だけになった。
「…………おいおい、嘘だろ。三十人以上はいたはずだ……それがたった二人……ギルドはどんなパーティを――――」
「「パーティじゃない」ねぇよ」
静まり返った空間に響く頭目の呆然とした呟きに対し、イストとベールは声を揃えて否定する。
「……ハッ、息ピッタリじゃねぇか」
魔法の矛先と銃口を向けられた頭目は最早、逃げる事を諦めて両手を上げ、降参の意を示したところで決着。
そして頭目もろとも倒れていた誘拐犯を縛り上げ、攫われた人達を解放し、ギルドの応援が後処理がやってきた辺りで一連の事件は解決を迎えた。
ここまでお付き合いくださりありがとうございます。
長い幕間を経て、次回から物語は動き始めます。
二年後の物語……ここまではプロローグ。動き出す転生者と相対する謎の組織、その渦中に飛び込むルーコ達のパーティの行く末は?
そして未だその一端すら見せないルーコの実力はいかに……?
それでは、彼女の物語をこれからもよろしくお願いします!
……差し支えなければブックマーク、評価をしていただけると、とても嬉しいです。




