キッコさんとその過去
「ひいお爺ちゃん!?」
「年代から言ったら,そうなるんじゃよ」
「そんなのドコで分かったの?」
「てれびのお陰様じゃろか?教育てれびなる所で、歴史の事やっておったでな。それが元じゃ」
「じゃあ、キッコさんが惚れた人の名前は覚えてる?」
「・・・藤次郎じゃったな」
「藤次郎・・・ひいお爺ちゃんだ。聞いた事ある。それなら、間違いないね。しかし、そんな事もどこで?」
「健太郎のお父上から直接じゃよ」
「おっ、親父から直接!? ちょっと待って!親父は死んでるんだよ?」
「そうじゃな。だがな今、あたいの心の中に憑いて居るわ」
「心の中にって!もしかして呼び寄せたの!?」
「まあな。ちゃんとした恩返しも、まだだったから。それでだな」
「親父が居るんだ」
「健太郎」
「何?」
「お主の苗字は五井じゃったな?」
「そうだけど?何でも昔、五井って一族がその土地に居ついて、繁栄したらそのまま村の名前になったとか」
「ふーん。そうか。まあ、それでじゃな?藤次郎のうたを元に、この土地(木皿津)で後にそこそこ聴かれるうたが出来たそうじゃな?その歌い手が大野菊だとか?」
「そうだけど…何か年代が違くない?」
「後と言っておるじゃろ!藤次郎のうたが、外の漁師にも広まり、それを元に大野菊が木皿津甚句なるうたを広めたと、健太郎の父上が教えてくれた」
「もしかして、今なの?」
「そう、今じゃ」
「うーん。それはそれとして、キッコさんが妖怪だとバレた理由とかは?」
「それは、恥ずかしい事だから言わぬ!」
「えー?教えてくれないの?」
「だめ!」
「どーしても?」
「だめったらだめじゃ!」
「うーん。だめなのか。しかしまあ、ご先祖様が木皿津甚句の元になるうたを歌っていたとはね。驚きだ」
「健太郎」
「何ですか?」
「お前の父上が、話しをしたい事があるみたいじゃ。ちょっと体をかせ」
「へ?体を?どうして?」
「いいから!こっちへこい!」
「?」
僕はキッコさんに言われるまま、近づいた。するとキッコさんは再び石段に座る。
「もう少しこっちじゃ」
「はい」
僕がキッコさんに近づくとキッコさんはいきなり立ち上がり
両手でむんずと掴むと、再び座って僕の頭を太ももの辺りに乗せて、仰向けに僕を寝かせた。
でも、僕の顔はキッコさんのお腹のほうに向いていて若干苦しい。
「どうしてこんなカッコで寝なきゃいけないの?」
「こう密着させないと、伝わらないからのう」
「そうですか」
キッコさんの膝枕は柔らかくて、何だか心地良かった。
「健太郎。元気にしているか?」
どこからともなく、僕の意識の中に声が流れこんでくる。
この声は、僕の親父だ。
そうか。そういう事なんだ。
「元気にやっているよ周りの人達から、沢山助けられているのもあるし、大丈夫・・・」
それから。
親父から、これから先、いろんな所から知識を吸収して、それを自らの行動によって活かして生きていけだとか。
沢山の事をいわれた。
僕が一人になったのを心配しての事だった。
「親父が心配するの分かるけれど。今、親父が教えてくれた事を守って生きていくって!やっていけるから!」
「そうか」
・・・。
何だか、話せたのはいいけれど何か辛い。
「健太郎への、恩返しは出来たかなぁ?」
キッコさんは、そう言うと少し照れた。
「キッコさん。ごめんね。親父から教わったのはいいけれど何か辛いよ」
「なぬ?辛いとな?」
「そうだよ。思い出したく無い所も思い出してしまって泣けきたよ」
「そうだったのか!済まぬならばまだ、足りないかもな。健太郎や、お主は確かこの木皿津をもっと活気の有る町にならないかと希望してたな?」
「そうですけど?」
「よし!それなら、あたいが一肌脱ごうじゃないか!」
「なっ?何をするの!?」
「まあ見ておれ。近いうちに健太郎をぎゃふんと言わせてやるわい!」
「ぎゃふんって!言葉が違うと、思うんですけど!」
そして翌日。
夏休みも終わりに近くなり、もの凄い快晴。外は暑い。
「健太郎や。あたいをポン太郎の所へ連れて行ってくれ」
「わかりました。
僕は、かつて美徳にのって貰う為に付けていた自転車の後ろのステップを付け直して、キッコさんに立ち乗りしてもらう。
格好は、和服ではいけないので、ズボンを貸して着替えてもらう。
「用意出来ましたね?それじゃ、耳は隠して」
キッコさんは耳を隠し、そして自転車に乗って貰う。
「風が気持ちよいな」
そして、ポン太郎さんの店に着く。
「いらっしゃいませ~」
ポン太郎さんが出て来た。
「おや!キクじゃないか。どうしたんだポン?」
「ポン太郎。ちょいと相談があってさ」
キッコさんは、ポン太郎さんを連れて奥に行く。
僕はまた、置いてけぼりを喰らった。
「また、何を相談してるんだろ?」
「またせたな。健太郎。それでは、行こか」
「もう、話し終わったんですか!?」
「ああ。終わった」
あっさり終わっちゃった。
「なぁ健太郎。せっかく外に出たんじゃ。この街を散歩したいんじゃが。駄目じゃろか?」
「散歩ですか?うーん?」
「悩まんといてな?あたいは、最後にこの町をいっぱい見て置きたいんじゃ!」
「最後!?最後ってどう言う事?」
「はっ!しもうた!」
キッコさんは自分の口を塞ぐ。
「健太郎や。この町はの風景は変わったが、特に人は変わっておらんで安心した。それにいつまでもお主に厄介になるのもなんだからな?見納めになぁ」
「そんな」
「ええい!悩むな!健太郎。あたいは、消える事はあっても死にはせん!」
「分かったよ、キッコさん。じゃあ、自転車の後ろに乗って。出かけましょう」
僕は、キッコさんを載せていろんな所を回った。外の神社仏閣、木皿津の名所、アウトレットモールなど、様々な所だ。
そして、家に帰る。
「どうでしたか?キッコさん?」
「うん?しっかり、堪能したぞ。ありがとう」
「それは、良かったです」
そして、その日の夜。
キッコさんは、人を化かしに
行くのを見に行く様に僕は、キッコさんにいわれたのだ。
「ふぁー。眠い」
そして深夜。キッコさんが人を化かしに行くのを見るため、仮眠をとったんだけどまだ眠い。
でも、最後と言われたからには、どんなに眠くても、見に行かねばならない。
僕は、自分の頬を両手でピシャリと叩いて気合いを入れた。
そして自転車をこいで、キッコさんの居る証乗の近くにつく。
すると、どこからともなく男女の叫び声が聞こえた。
「あっちか!」
僕は、叫び声のする方へと向かう。
そして、叫び声のした方に近づいた時だった。
人が通り過ぎた後、妖怪の着ぐるみ2体と和服の金髪?が通り過ぎたのをみた。
「キッコさんか!」
僕は、慌てて追いかける。
キッコさんだけが、着ぐるみの姿になって居なくて、ほぼ「そのまま」の妖怪の姿だったのだ。
「なんであの格好なんだ!あれじゃ、人が本気で怖がるだろ!?悪戯所じゃ、なくなっちゃう!」
僕は夢中で追いかけた。
そして何とか追い付いた。
「キッコさん!」
「何か用かー?」
僕に呼び止められて、振り向いたキッコさんの顔は、人間の顔では無かった。
瞳は細く、口元は狐の姿そのものだった。
妖怪と言うよりも、獣人と言うほうが相応しく思えるその
姿に、僕は思わずのけぞった。
普通に驚かされたのだ。
「キッコさん。その顔はナニ!?コワいよ!!」
僕の問い掛けに、キッコさんが振り向く。
「おお?健太郎だったか。夢中で気がつかんかった。見に来たんだねぇ」
「そりゃあ、言われたしね。所で、どうしてそこまでしてるの?」
「うん?この姿か?それこそ妖怪らしくこの位せねば、みなの心に残らないと思うてな?それでだよ」
「心に残る様にする為ね‥」
だからって、あからさまにしないでもと、僕は思った。
「じゃあ、健太郎は遠くからでも見ておれ。一丁化かしてくる!」
意気揚々と走り出したキッコさん。
その姿をみて僕は、心の中で「ぎゃふん」と言わずには居られ無かった。
そして、キッコさんは遠くからと言ったのだが、そうはして居られない。
僕は後から追い掛ける。
そして、キッコさんはポン太郎さんと合流して、人々を化かす。
周りはギャラリーとして固まっていて、大して怖がらず面白がる人、逃げ出す人など様々だ。
中にはコンパクトカメラ等を構え、撮影する人も多数居る。
僕はその中に混ざった。
暫くすると、僕には見覚えのある、あの球がキッコさん目掛けて上から飛んで来た。
放物線を描いて飛んで来たその球の速度は遅く、キッコさんはその球を避ける。
球は地面に転がって停止。
それを、ひとつ目小僧に扮したポン子さんが触った時だった。
ボワン!
という音を立て、ポン子さんの変身が解けて狸の姿になる。
その状態になったポン子さんは、ギャラリーを踏み台にしたりしてお構いなく、
一目散にに逃げ出した。
「キク‐!あんたって奴は!?」
大声と共に月蓮(牡丹)さんが現れた。
皆が声のした方に振り向く。
僕も見たら、月蓮さんはいわゆる「戦巫女」の格好をしていた。
ギャラリーが驚嘆の声を上げる。
「来たなー?月蓮!あたいと勝負じゃ!」
キッコさんはそう言うと、月蓮さんと同じに化けた。
しかし、何故か耳だけは残して。
「キッコさん。完璧に化けろよ。ぎゃふん」
僕は、こう言わずには、居られ無かった。
そして、キッコさんと月蓮さんとの闘いが始まった。
キッコさんは直ぐにギャラリーを飛び越えて走り出した。
「キク!待てっ!」
月蓮さんは追い掛ける。
途中、ギャラリーを少し巻き込みながら、攻防が続いた。
キッコさんと月蓮さんの攻防は、証乗寺周辺から広範囲になり、深夜静かな筈の商店街が騒然となる。
携帯電話で撮影を試みる人、コンパクトカメラで撮影をする人など様々な人がいる。
月蓮さんは、何故無限にでもあるかの様に、呪符らしいものと、経文入りの球をキッコさん目掛けて投げる。
キッコさんはそれらを何なく避ける。
「月蓮なー?そんな攻撃は効かぬぞ!」
一方、キッコさんは、時折転がっている空き缶などを妖術を使って、月蓮さん目掛けて飛ばし、抵抗する。
そんなこんなで戦いは長引いてきた時、月蓮さんの方に加勢する人達が現れた。
それは、ギャラリーの人達であった。
「巫女さん!加勢するよ!!あの妖怪を、捉えればいいんでしょ!?」
「えっ?ええ。お願いするわ」
月蓮さんも、いきなりの加勢に困惑した様子だ。
しかし、それで一気に不利になったキッコさん。
「ぬうっ!月蓮!色香でも使うたかっ!」
「使ってないわよ!失礼ねぇ!だいたいあんたも同じ格好じゃないの」
と、そこへ、ひとつの人影がキッコさんの前に現れた。
「キッコ。助けるポン!」
そう言って現れたのは、人間の姿に化けたポン太郎さんだった。
「ああーっ!」
その姿を見て、叫ぶ人が現れた。
多分、ポン太郎さんの事を知っているのだろう。
加勢に入ったポン太郎さんは、風神に化けて、月蓮さんと、周りの人達を吹き飛ばした。
それに離れていた僕も、巻き添えを食らう。
「いてて。強力な風だこと」
この攻撃で、みんなが怯んだ。
その隙に、キッコさんとポン太郎さんは逃げたかに見えた。
しかし、その場から逃げて居ない。
「えっ!?何で?何で逃げないの?」
そう思ってキッコさん達に駆け寄ろうと動いた時だった。
妙に甘い匂いが周りに漂う。
その匂いに僕ははっとする。
この匂いは苺ミルクじゃないか!どうやら月蓮さんは
吹き飛ばされる際、とっさに、持っていた苺ミルクの缶をあけて、飛沫させたようだ。しかし、どこで知ったんだ?
それを心配して、僕は再びキッコさんに駆け寄る。すると、
「健太郎!お主は来るな!来るとややこしく成るんじゃ!もしもじゃ。お主が助けたとして、その言い訳をどうするつもりじゃ?」
僕の頭の中に直接キッコさんの声が響く。
「言い訳って。思い付かない」
「ならば大人しく見ておれ」
僕はこう伝えられ、これ以上は動け無かった。キッコさんは、匂いに釣られ、そして捕まった。
続く




