妖怪騒動 二
どやどやと、男達数人が集まり、こちらに向かって来る。
何だかマズイ。
それで僕たちは、一斉に逃げ出した。
追いかけて来る男達に紛れて、一つ目小僧の着ぐるみ妖怪が、宙を浮くようにして男達を追い抜き、こちらに向かって来る。
その追い抜く様を目の当たりにした男達は、びっくりしつつもまだ、
こちらに向かって来る。
そして一つ目小僧が男達の前にでた時に、その体が光を放ち、妖怪が真の姿を現した。
「あたいに何か用か?男ども?」
その姿は金色の短髪で、9つの尻尾が生えている。
そして背は高い。
そして、何より異様な威圧感があった。
「ほ、本物の妖怪!?」
男達は驚愕する。
「おんしらは邪魔じゃ!あっちへ退けぃ!」
九尾の狐の妖怪は、右手で空を払うと、衝撃波らしいものが発生し、男達は吹き飛ばされた。
そして九尾の狐はじりじりと男達に近寄る。
「うわー!本物だ!ヤバいぞ!逃げろー!」
そう叫ぶと、男達は反対方向に逃げて行った。
それを見た九尾の狐は振り返り、こちらに向かって飛んで来た。
そしてあっという間に追い付かれる。
「戦巫女。あたいを呼んだのはそなたか?」
なんと、九尾の狐自らが、月蓮さん相手に対峙してきたのである。
「藍!よくも、あたしの父を!」
「あたいが何かしたか? おお。思いだした。
お主は、あの退魔師の娘であったか」
「覚悟なさい!今度こそ、中国に帰ってもらうわ!父の仇っ!」
「ほざけ!何が中国じゃ!」
暫く、二人は微動だにしない。
しかし、そう言い放つと、九尾の狐は振り返り、逃げの体制を取った。
「待てっ!逃げるんじゃ無い!」
逃げる、九尾の狐の藍。
藍は、直ぐに姿をくらましてしまった。
「え!藍って狐は、腰抜けってやつ?」
「健太郎。あほ言うで無い!姿をくらましたのは、藍様の作戦じゃ」
「作戦?」
「周りを見てみい?」
「周り?」
そう言われて僕は、周りを見たのだけど、何の変哲も無い街で、夜にしてはひとが多いと言う事位しか思い付かない。
「キッコさん。何がどうだと言うの?」
「分からんようじゃな?今ここで河岸を変えないと、周りの人間は愚か、建物まで被害を被る。
藍様は、それを避ける為に、逃げ出したのじゃよ」
「其処まで考えてるのか!」
僕は、九尾の狐の気遣い?に驚いた。
「じゃあ何?其処まで凄いバトルになるの?」
「ばとる?」
「戦い!」
「ああ。凄い戦いになるぞ。ひとまず、藍様達を追いかけよう」
キッコさんと僕は、九尾の狐の藍と月蓮さんを追いかけた。
その途中、よくみると、あちこちの街灯に傷がついたり、家の塀に傷が見られる。
これは、月蓮さんがやった物なのか?
もしもそうなら、藍とキッコさんの考える通り、場所は変えたほうがいいのかも知れない。
そして程なくして僕たちは、藍と月蓮さん達に追いついた。
「やっと追いついたわ。藍!覚悟なさい!」
九尾の狐、藍は立ち止まっている。
「ノーマクサンマンダーボダナン~~オン!」
藍はそう言うと、その場から完全に姿を消した。
「くそっ。逃げられた!藍!卑怯なやつ!」
月蓮さんが、じたんだを踏む。
「ふふっ。健太郎。あたいらは藍様の所にいくぞ」
キッコさんはそう言うと、じたんだを踏んでいる月蓮さんを見つつ、僕の手を繋いできた。そして。
「ノーマクサンマンダーボダナンテンイセンジョウソワカ」
と言いながら、 片手で印を結ぶ。
そしてその動作の最中、月蓮さんが気付いてこっちに近づいてきた。
するとキッコさんは僕を胸の方へ強く引き寄せる。
「わぷっ!」
少しばかり、シュッ!と音がして、何処かへ投げ出された感じになったが、僕とキッコさんの体は密着
していて、変に跳ばされるだとか、ずっこけるまでには至らなかった。
キッコさんが支えてくれたのだ。
「健太郎。着いたぞ。周りをみてみい?」
キッコさんにそう言われて僕は周りを見る。
すると、天井にはちょっと安っぽいシャンデリアや小さなミラーボールが見えた。
それと、周りはカウンターとテーブル。
そしてお酒のボトルらしき物も見える。
「えーっと。ここって喫茶店みたいな所? それともバー?」
「ラウンジと言うそうじゃ」
「キク。それは違うぞ。ここはダイニング&バーじゃ」
いきなり、九尾の狐、藍が現れた。
僕が藍の方へ目をやると、格好がさっきとは違っていた。
色は紫色で、胸の辺りが大きく開いたワンピース。
スリットも入っていて、何だか妖艶な感じだ。
僕は思わず胸元に目が行く。
そして僕が、藍の姿に虜になっていると、何か足のかかとの方が何やら引っ張られる違和感を感じる。
「キッコさん。なんか足下に違和感を感じる。そう言えば月蓮さんは巻いたのかな?」
「どうだかのう?」
「どうだかのうって。え?あれ?後ろに引っ張られる!?」
僕は、かかとが引っ張られることに違和感を感じて後ろをみる。
すると、自分の影が、異様な形に盛り上がっている。
「うわわっ。何だこれ!」
そして、盛り上がった影が次第に形になっていき、その姿を現す。
その姿は人間の女である。
「げげっ!月蓮さん、なに人間離れした事やっているんだ! 僕の影を利用するなんて!」
僕は正直びっくりした。
その月蓮さんは、息を切らして、ぜーはー言っている。
「ふうっ。間に合ったわね!キミの足を掴んでなかったら、振り落とされてどうにかなっていたわ」
と、月蓮さんが言う。
その様子をみていた藍が、キッコさんを睨んだ。
「キク。テメェ~っ!」
藍は凄い怒りの形相をみせた。
そしてキッコさんが
「あちゃー」
とか言っていながらも、その顔は笑っていた。
しかし僕はキッコさんのその笑っている表情がいわゆる「不敵な笑い」にみえていた。
何か企んでるに違いない。
そして、姿をとり戻した月蓮さんが藍の元に歩み寄る。
「ここは、もしかして藍の店?妖怪風情が小さいながらも店を経営しているなんてね!何考えて居るんだか!」
「はあ?人間界で生きる術と、その様子を学ぶためにやっているのだが?別に悪い事はなかろう?」
「いーや。悪いわね!妖怪風情が人間相手に商売だなんて」
何か月蓮さん、妖怪を完全否定してないか?
「大体、妖怪なんて要らないのよ。全てが悪なのよ。神を気取ってみたり、人に憑いて惑わしたり、脅かしたり。人に百害あって一理無しだわ。それに、この世はもう人間の世界なのよ。妖怪なんて全て居なくなるべきだわ。それに、八百万の神なんかも要らない。仏教さえあれば十分なのよ」
僕は、月蓮さんの余りの発言に驚いた。
それに月蓮さんてば、一方的に酷いこと言っているように思う。
「月蓮さん。最初、木皿津の活性化の為に、キッコさん達を赦していた事があったけど。あれは何だったの?」
「ああ、あれ?妖怪達がどう動くのか様子見してたのよ。特徴とか弱点とか。それを探る為に泳がしてたの」
「・・・」
「あら?何だか不思議そうな顔してるわねー?意外だった?」
「意外だよ。僕は、僕の中では。こうして現れたキッコさん達と、認めあっていずれは共存できるような世界を望んでた。
だけれど。大人の事情だか何だか知らないけど、妖怪達を滅ぼすと言わんばかりの発言は、どうかと思う。」
「ほほう?そこの人間。言う事が違うな?どう言う風の吹き回しじゃ?」
藍が僕に質問してきたがすかさずキッコさんが、藍に耳打ちした。
すると藍は、僕の事には納得したのか、話す相手を月蓮さんへと向けた。
「月蓮とやら。お前は本気で仏教だけでよいとお思いか?仏教とて、中国から
伝来したものであろう?ましてや、人間が人間の業を戒めるの為につくったようなもので
ないのかえ?あたいのように、自然に生まれたようなものではないんじゃろう。
仏教なんぞは人間の為の人間によるものでしかない。
それからしたら、八百万の神とて、ひとがつくったものやもしれぬが、あくまでも自然に従い、霊的にも優れているものだと思うがのう?」
「『だと思う?』 へえ。九尾の狐にも、人間について分からない事ってあるのねえ?何が千年を生きる妖怪よ。悟ったふうな口きかないでよ」
九尾の狐がバカにされてる?
「ひとに悟りなぞないと思うが?あたいの見た中に悟りを開いたという輩は、やがて気がふれておかしくなっておるぞ?そして、あたいには悟りなぞないぞ?」
「それが千年を生きて学んだ事ぉ!?大したことないわねぇ。やっぱり大人しく中国へ帰ったら?」
「うつけが!仏教とて、中国から伝来したものであろう!二度も言わせるな!」
藍から鋭い爪が伸び、月蓮さんに襲いかかった。
「きゃっ!」
月蓮さんは、寸前で避ける。あのとき僕に捕まって来た際に、あの槍みたいのは持ち込めて居ないようだ。
「なあんちゃって!」
月蓮さんは、袴のポケットから、お札らしい物を二枚出す。
「コレでも食らいなさい!」
月蓮さんはお札を藍目掛けて投げる。
しかし、それは藍に、呆気なく避けられた。
「ふん!こんなもの。今度はこちらの・・!?」
藍の腕が途中から動かなくなっていた。
僕が、藍の後ろをみているとさっき投げられた札が壁に張り付いている。
そしてそこから、蜃気楼みたいに、一部の空間が霞んで、紐状になり藍の腕にまとわりついているのが僕にも見えた。
「ぬうっ!?」
藍がもがいていて動きがままならない。
それを見た月蓮さんは、藍に近寄りだす。
しかし藍は、近づいてきた月蓮さん目掛けて手の平から火の玉をだし、それを投げる。だが、狙いが逸れて、
当たったソファーに燃え広がった。
「うわっ!やっば!」
ソファーから上がる炎。
「キッコさん!何とかして消さないと!」
「その必要はない。藍様が健太郎を連れて逃げろってな!」
僕はキッコさんに腕を掴まれ、誘導されて店のドアを出る。
するとそこは2階で、急いで階段駆け降りた。
店の外に出て2階の2つある出窓をみると同時に、店の看板が僕の眼に飛び込んでくる。
その看板にはダイニング&バー Cu‐bi
と、書いてあった。
しかも、人間の女で、9つの尻尾が生えているイラスト入り。
「Cuーbi…九尾?なんかそのまんまじゃないか!」
それとなくわかるサインを出している看板に僕は驚いた。
そしてまた、上を見上げると、出窓が赤く光っている。
そして窓ガラスが一瞬膨らんだかと思うと、バリーン!と凄い音を立てて割れる。
「うひゃーっ!」
僕は思わず声を上げる。何だか大変な事になっているようだ。
僕は、あの二人がどういう戦いをしてるか知りたい所だけど、危険なため、それを見る事は出来ない。
「どうなってるんだろう?」
「さあの?ただ、月蓮は手強いようじゃな。藍様が押されとるようじゃ」
「えっ!キッコさん。中の様子が分かるの?」
「詳しくは分からぬが、藍様があたいの心に伝えてくれる。それにな。もうこの場から消えろじゃと」
「心が通じてるの?」
「そう。以心伝心ってやつじゃな。それよりも行くぞ。あたいと手を繋げ?健太郎」
「うん」
「よし!ノーマクサンマンダーボダナンテンイキサラツソワカ」
キッコさんがそう言うと、キッコさんの手を繋いでいた僕も一緒に跳んで、一瞬にして証乗寺の前に戻って来た。
「さあ。戻って来たぞ健太郎」
証乗寺の周りはもう、静かだ。
「うん。う言えば、ポン太郎さん達は?どうしてるんだろう」
「ちょっと待て?」
キッコさんがこめかみに手を当てる。
「通じんな。おそらくは寝てるんじゃろう」
「寝てるんだ。もう、人気もないし、帰りましょうか」
「そうじゃな」
・・・その日の昼。
何となく、昼のニュースをみていたら、地方ニュースの所でなんと、バーCuーbiの火事のニュースをやっていたのだ。
何でも、所有者と見られる人と連絡が取れないのと、そういう場合には、炎に巻き込まれるか何かで上がるであろう、それらしい遺体も見つかっていなく、消息不明である事が、ニュースとしての材料となったようだ。
「九尾の藍ってどうなったんだろう?」
「藍様か?逃げてるんと違うか?」
「もしかして通じる?」
「やってみよか?ちょっと待て・・うん、だめじゃな。姿を眩ませている」
「完全に逃げてるんだね」
続く




