眠れぬ夜に抱きしめて
またあくびしてる
もうかれこれ3日目になるか
普段、しっかりしていてあくびしたところなんて
見たことなかったのに
「なぁ、なんか悩み事でもあって眠れなかったりすんの?ここ何日かあくびすごいぞ?」
〔え?あっ、すみません!気をつけます〕
「注意してるんじゃなくてさ 気になるだろ」
〔…えっと、最近同じような夢を見て…途中で目が覚めちゃって、その後眠れてなくて…〕
「どんな夢見たんだよ」
〔!!いえ、ちょっと…内緒です!〕
内緒、と言われると聞きたくなるなぁ
「とりあえずさ、1時間くらい寝なよ
そのソファ使っていいから」
〔あっ、いえ、私、その…お昼寝って出来ないんです それに仕事中ですし…〕
「寝っ転がって目を瞑ってるだけでもいいから
あくびばっかりされたら、気が散るだろ」
〔…すみません では、昼休みを先に取らせてください〕
「あぁ ここ閉めとくから ゆっくりしてなよ」
〔はい…ありがとうございます〕
昼寝できない、ねぇ?
俺なんかどこでも寝れるけどな
夢かー…
あの様子だとエロいのか、
何か失敗して恥ずかしい思いしたとかかー?
俺は江藤治 マネージャーをしている
このエリアの店を見て回っている
今週はここ ◯△店だ
彼女は中村友梨奈 社員の1人だ
付き合い自体は長い
この店には彼女がいてくれるから、何の心配もなく働いていたんだけど
その彼女がこれだ…
ま、たまにはそんな時もあるよな
人妻なのが本っ当にもったいないんだが…
そろそろ1時間経つか?
見に行ってみるか
俺が使ってる部屋には長いソファがある
たまに俺もそこで休んでるんだけど
「おーい、休めた…か… は?」
おい…よく眠ってるじゃねーかよ!!
可愛い顔してー…
頭撫でても起きねぇじゃん
誰だよ、昼寝できねぇとか言ってたの
…
〔ん…だめ…です、…〕
!!
「わ、悪ぃ…」
って、寝てる…?
寝言か…あぶねぇ、キスしたのバレたかと思った…
〔えと…さ…、だ…め、ん…っ〕
…は?おい、何の夢見てんだ てめぇは!!!
「おい、そろそろ起きろよ」
〔…ん…え…え!?江藤さん!?〕
「おはようさん よく眠れたか?」
〔あ、あれ…す、すみません!!寝てました!?〕
「おう よだれ…ほら」
ウェットティッシュを渡してやった
〔す、すみませ…あ!!今何時ですか!?〕
「んー?1時間くらいしか経ってないぞ」
〔あ…よかった…じゃあ、仕事してきま…〕
「何言ってんだ 飯行くぞ」
〔え?あ、いや、私は…〕
「さっきから腹グーグー鳴ってんの聞こえてんだよ 行くぞ」
〔…す、すみません…〕
まったく…俺はこの腹減り娘を連れて近くの喫茶店に来た
ここのナポリタンは絶品なんだ
「好きなの選べー」
〔すみません…じゃあ…ナポリタンにします〕
「だよなーここだと一択だよな すみませーん」
俺はナポリタンとアイスコーヒーを2つずつ頼んだ
「で?少しは眠れたか?」
〔あ、はい…!あの、不思議なんですけど…〕
「ん?」
〔横になってからの記憶が…〕
「昼寝できねーんじゃなかったのかよ うけるな」
〔いつもはできないんですけどー クッションがいい匂いで…〕
「クッション?あーあれな」
俺のソファに置いてあるやつか
たまに枕にしてるやつ 臭くなかったならいいや
「で?寝てる間夢は見たのか?」
〔…〕
びくっとして下を向いた
だよなー…覚えてるんだろーなー
「ん?何だよ 急に黙るなよ なんか見たのか?」
〔えっ、あ…み、見てないです…〕
「ふーん よく眠れたってことか 良かったな」
なーんて
わざと聞いたんだけど
リアクションがわかりやすくていじめがいがあるんだよなー
〔午後は頑張れそうです! その…ありがとうございました〕
「いいぞー また眠れなかったら俺の部屋来いよ」
〔あ…だ、大丈夫ですから…ごちそうさまでした
失礼します!〕
あ、俺の返事を聞く前に走って行きやがった
俺とセックスでもしてたんだろーなー 夢の中で
あいつ、欲求不満なのか?
旦那は何してんだよ
どっかの店長だったような…
まさか…あんな可愛いの放っておいてる、なんてことはないよな?
…
「おい」
〔は、はい…!?〕
「何避けてんだよ」
あの後、ずっと俺の事を避けてる女を捕まえて問いただしてんだけど
〔さ、避けてなんて…いないですよ…?〕
「ふーん?今も全然目線が合わないけど?」
〔あ、合ってます…〕
チラッとこっち見て すぐ逸らす
あー!!可愛いな、こいつは!!!
「なぁ、中村ー」
〔はい?〕
「今日旦那早いの?帰り」
〔え?何でですか?〕
「早いの?遅いの?」
〔あ…お、遅番で…〕
「へぇ?じゃあ、飯付き合え」
〔はい!?〕
「俺も1人なんだよ 飯くらいいいだろ?
さっきも食ったんだし」
〔いや、その…〕
「着替えたら駐車場に来い 逃げたら大声で探すからな」
〔…は、はい…〕
遅番な…よしよし
いない間に飯行くぐらいは許されんだろ
「おー ちゃんと来たな」
〔大声で探すなんて言われたら来ないわけに行かないじゃないですかー…〕
「逃げ足速いからなー中村はー ほら、乗れ」
〔はい…〕
「で?何食いたい?」
[うーん…お魚が食べたいです!]
「魚か じゃー…いいとこあるわ 行くぞー」
〔はい〕
シートベルトをギュッと握ってんな…
緊張してんのか?
「ここ」
〔え?あの…お店らしきものが見えないんですけど〕
「ついて来いよ」
〔あ、あの…〕
「ん、ここ ほら、入れ」
〔え…と、あの、ここは…〕
「俺んち」
〔はい!?いや、私、帰ります…〕
「何でだよ 魚食いてぇんだろ?」
〔…でも、江藤さんのおうちなんて…〕
「何意識してんだ 飯食うだけだろーがよ ほら」
〔…は、はい お邪魔します…〕
「てきとーに座ってろ うめーの作ってやっから」
〔自炊してるんですねぇ〕
「好きなんだよ 料理」
〔何でも出来るんだー…〕
「何でもは無理だぞ」
〔でもお魚の料理なんてハードル高いのに〕
「肉より魚の方が好きなだけだ」
〔すごーい…捌けるんですね…〕
「出来ねぇの?」
〔料理は苦手でして…〕
「へぇ?意外だな」
〔そう、ですか?〕
「それこそ、仕事出来るし 家事なんかも得意なのかと思ってたが」
〔いえいえ…家のことは丸っきりだめで…夫にも捨てられちゃいま…あ〕
「は?今、なんつった…?」
〔あ、はは…〕
「ちゃんと話せ 俺何にも聞いてないぞ?」
〔あー…〕
仕事をやめるつもりもない、家事が苦手ってことで
揉めることが多くなって 喧嘩が増えて
帰ってこなくなって、旦那の不倫が発覚して…
去年、慰謝料もらって離婚した、だと!?
こいつ、なんで早く言わねぇんだよ!
「店長とか人事には話してあんの?」
〔はい もちろんです〕
「俺にも言えよ!つか、中村ってのは?」
〔え?いや…すみません…旧姓で働いてたので〕
「ふーん ま、いいや できたぞー米食うよな?」
〔いただきますっ!〕
バツイチかー
じゃあ何も障害はないってことだな
〔ふーっ!おいしかったぁ!ごちそうさまでした〕
「そりゃ良かったなー」
〔あ、私が片付けますから…〕
「…家事苦手なんじゃねーの?食器洗えんの?」
〔そ!そのくらいはできますよー!!〕
「ふっ…じゃあ頼むわ」
さーて、どーするかなー
〔終わりましたー!〕
「サンキューな ほら、タオル」
〔ありがとうございます!じゃあ、そろそろ…〕
「おい まだはえーだろ!」
〔あんまり遅くなると…〕
「明日休みなの知ってんぞ」
〔あ…〕
「なんでそんな離れようとすんだよ 昼間も避けまくってたし」
〔いえ、それは…〕
「夢、見てたんだろ?俺の」
〔な!!そ、そんなこと…ありません!!〕
「寝言、言ってたぞ?」
〔え〕
「えとうさん、だめですってばぁー!あーん、て」
〔え、ちょ、嘘でしょう…?〕
「どーんな夢見てたんだよ 説明しろ」
〔嫌です!無理です!絶対だめです!〕
「ふーん なぁなぁ」
〔なんですか〕
「夢の中の俺、気持ちよかった?」
〔ぶっ!!!〕
「汚えねぇなー」
〔す、すみませ…あー!!絨毯が!
シミになっちゃう〕
「ほら、タオル 絨毯はいいよ、俺がやるから」
〔す、すみません…ベタベタになっちゃいましたね〕
「風呂入ってっていいぞ?」
〔だ、だめです!!〕
「その格好で家帰んの?」
〔う…お借り、します…〕
「服貸してやる その間に洗っといてやるから」
〔何から何まで…すみません…〕
ま、洗っても乾かしてやんねーけどな
ったく
絨毯にコーヒーぶちまけやがって…
シミにはならずに済んだが
やることなすこと見てて飽きねぇなーほんと
店にいる時と全然違うじゃねーかよ
〔ありがとうございましたー…〕
「なぁー
もうめんどくせーから泊まってけばいいじゃん」
〔な、なんてこと言うんですか…!?〕
「俺と一緒ならよく眠れるかもしんねーぞ」
〔え?〕
「あのクッションで眠れたんだろ?だったら、俺と寝れば安眠できるだろ」
〔…〕
「な?」
〔…何にもしないでくださいよ…〕
「わかってるわ!」
「じゃ、俺も入ってくるわ 服、ちょっと待っとけな 今やってるから」
やってねーけど
〔はい ありがとうございます〕
ふー…それにしても今日1日でまさか家に連れてこれるとはなー
どっちにしても、よく眠れればいいけど
明日は休みだし
今日はゆっくり寝かしてやるかー
「おい」
〔え?〕
「何で髪乾かしてねーんだよ
ドライヤー出しといてやったろ?」
〔あ、はは…テレビ見てました〕
「ずいぶんくつろいでんな
はぁ…ほら、来いよ 乾かしてやるから」
〔あ、そんなそんな、自分で…〕
「ついでだ ほら」
〔す、すみません…〕
なんかあれだな
好きな女の髪から自分と同じ匂いすんのやべーな
髪やわらけー…
〔江藤さん、さすが慣れてますね!〕
「は?」
〔ん?〕
「何がさすが、なんだよ」
〔ん?だから元カノとかたくさんいるんでしょ?〕
「どんなイメージしてんだ いねーよ 1人しか」
〔えーそうなんですね!〕
「仕事落ち着いたの、ここ最近だしなー」
〔大変ですねぇ〕
「だからさ」
〔はい〕
「俺と付き合わない?」
〔へ?…え!?〕
「ずっと好きだったの、気づいてなかったのかよ」
〔な…っ〕
「中村だって
夢に見るくらい俺のこと好きなんじゃねーの?」
〔そ、それは…〕
「ほら 来いよ」
〔…だめです 帰ります〕
「何で」
〔怖いんです…〕
「何が?ちゃんと話してみ」
〔好きになった人が…自分に対して愛想を尽かしたり
…嫌われるのが…〕
「そんなのさ みんなそうなんじゃねーの?」
〔…江藤さんも?〕
「当たり前だろ 俺だって怖えよ お前に嫌われるのも 離れて行かれるのも 避けられるのも、な」
〔あ…〕
「心変わりすることもあるかもしれない
でも、そんな"かもしれない"のために
今、そばにいたいって気持ちを抑えるのもどーなの」
〔…江藤さぁん〕
「ん」
抱きついてきた中村を落ち着かせて
ベッドに寝っ転がった
頭撫でてたら、スーッと眠りについた
このまま朝までゆっくり眠れるといいな
…ん、朝か
中村…は、寝てる、か
可愛い顔しやがって
頭を撫でてたら、起こしてしまったようだ
〔江藤…さん、おはようございます〕
「おはよ 眠れたか?」
〔はい よく眠れました〕
「そっか 良かったな」
〔江藤さん…〕
「ん?」
〔もう少しだけ…〕
「もう十分寝たろ?朝飯の前に…」
〔え?え!?〕
「充分待ったぞ、俺は」
〔う〕
「好きだ…」
〔…私も…好きです…〕
「…こっち向けよ」
〔は、はい〕
布団から顔を出した彼女は
本当に可愛くて
絶対にこの女を離さない、そう思った
タイトル〘眠れぬ夜に抱きしめて〙
Fin…
こちらの記事はnote様で同一名義にて投稿しております。
再編集して投稿しております。




