憧れを追いかけて
キラキラした想い出だけを置いて
キミは遠くに行ってしまう
おいていかないで…
この想いは、どうすればいいの?
ーーー
「いつもここで弁当食ってんね 玉子焼きうまそう」
初めて言葉を交わしたのは
高校1年生の5月のことだった
まだクラスに馴染めてなくて
教室で1人でお弁当を食べるのがなんとなく嫌で
最上階の端の階段に座って食べていた
誰も来ないと思ってたのに
そこに来たのは
高野颯太くん
バスケット部の人気者
この人の周りには人がたくさんいて
笑顔が優しくて、眩しい
そんな印象だった
〔あ、良かったら…食べる?〕
「いいの!?いただきーっ
あ、うめぇー俺こういう甘い玉子焼き好きなんだよ
お前の母ちゃん料理うまいんだな」
〔あ、えっと、これは…自分で作ってて…〕
「まじで!?藍沢料理できんだ!すごいな」
〔そ、そうかな…〕
「うん あ!よかったらさ、俺のも作ってくんない?材料費払うから!」
〔え、あ…いいけど…〕
「よっしゃ!明日から頼むな!」
こうして、私の青春は始まった
高野くん、すごくモテるから
周りにバレないように、朝早めに来てロッカーに
お弁当箱を入れて
帰りに回収するようにしていた
空のお弁当箱には、いつも手紙がついていて
ありがとうだったり、こういうのが食べたいっていうリクエストだったり
その手紙が嬉しくて それだけで良かった
そんな生活が半年くらい続いた頃
私は友達もできて、教室でお弁当を食べていたんだけど
高野くんの周りにいる女の子が
私のお弁当と彼のお弁当の中身が同じだと気づいた
[え…もしかして、付き合ってるの?]
いつも賑やかな教室は、
その一言でシーンと静まり返ってしまって
「あー…弁当作ってもらってるだけ
藍沢、料理うまいからさ」
彼がそういうと、その子が
[それなら明日からあたしが作るよ!]
そう言った
彼は「あぁ」そう言った
…私が作った玉子焼きじゃなくてもいいんだ
そっか
明日からは自分のだけ作ればいいんだ
高野くんは私に何も言ってこなかったし
そういうことなんだ、ってそう思った
〈ねぇ、なにあれ…今までみかちゃんに作ってもらってたのにお礼もないの?〉
〔いいのいいの…〕
〈みかちゃんがいいなら…いいけど…〉
その日空になったお弁当には
手紙はついていなかった
ちょっと悲しかったけど…
しょうがないよね
お弁当を作らなくなったことにも慣れた頃
いつものようにお弁当を食べていたら
高野くんに話しかけられた
「藍沢」
〔高野くん…なに?〕
「…玉子焼き、食いたい」
〔…どうぞ?〕
「ん」
お弁当の蓋に乗せて渡したら
「やっぱうめぇ」
〔そう、ありがとう〕
〈高野、取り巻きに作ってもらってるんじゃないの?〉
「…断ったし」
〈なんで?〉
「…藍沢の弁当がいいから」
〔え…〕
「ちょっときて」
〔え、あ、うん…〕
腕を引かれてあの階段に連れてこられた
女子の悲鳴のようなものが聞こえてきて
どうしていいかわからなかった
「ねぇ、なんで弁当作ってくれないの」
〔え?いや、だって…
他の人に作ってもらってると思ったから…〕
「俺、これからも頼むって書いたじゃん」
〔…え?〕
「手紙、置いといたろ」
〔…どこに?〕
「は?いつもみたいに蓋の上に置いたろ」
〔最後の日ってこと?あの日、手紙はおいてなかったよ?〕
「え?なんで…俺、手紙書いたのに
藍沢の弁当食いたいって、好きだって」
〔…!!〕
「それなのに、返事も弁当もないし…」
〔いや、あの…読んでなかったから…〕
「じゃあ、明日からまた頼んでいい?」
〔あ、うん…〕
「で、俺に返事は?」
〔え?〕
「好きなんだけど」
〔…私も、好きです〕
「知ってる」
〔…高野くんってば…〕
「弁当さ、もう直接渡してきて」
〔いいの?〕
「うん」
〔わかった〕
「はぁ…よかった…」
〔?どうしたの?〕
「嫌われたかと思ったから」
〔そんなことになるわけないよ〕
「…ん」
〔私こそ、そう思ってたから…良かった…〕
「…あるわけないだろ」
〔…うん〕
「なぁ」
〔ん?〕
「5時間目サボろーぜ」
〔だめです〕
「ちぇー」
こうして私たちは付き合うことになったんだけど…
彼の部活は忙しくて
朝練、放課後は20時まで練習があるし
もちろん土日も…
それでも、頑張ってる彼を応援したかったし
教室では会えるし、お弁当で繋がれているから
不満はなかった
でも、彼はプロから声をかけられて
"時の人"になってしまって
ルックスもいいから、街で声をかけられることも増えたみたい
キラキラした彼は、どんどん遠くへ行ってしまう
応援はしたい
したいけど…
「お前がいてくれるから頑張れる」
そう言われていても、何回も出る熱愛報道に、
信じていた心が疲れてしまった
その頃私も専門学校に通っていて
料理の資格を取るのに忙しくしていたし
彼も試合や練習、遠征でバタバタしていて
自然消滅したみたいになっていた
彼の活躍はテレビで見て知っていたし
相変わらず熱愛報道も出ている
あれから3年
私は資格も取って就職して
レストランで働いていた
彼とは連絡を取っていない
キッチンは忙しいけど、お客様がよろこんでくれる顔も見られて、やりがいもあって楽しい
その頃、同窓会の案内状が届いた
懐かしいなぁ…
ちょうどお店もお休みの日だった
友達に連絡したら行くって言ってたから
私も行くことにした
高野くんは…さすがに来ないかな
有名人だもんね
自分の部屋で
想い出を整理している
何枚もくれた手紙…
一枚一枚は短い文章だけど
丁寧なその字を毎日見るのが嬉しかったなぁ
デートもしたことないし
キス、とか…そういうのもなかったから
付き合っている、なんて言えないような関係だったけど
間違いなく、"それ"は私の恋だった
…だった、過去形にはしたくないけど
そろそろ前を向かないと…
いつまでも綺麗な想い出に縋り付いていては
良くない気がする
とりあえず、同窓会は楽しみにしておこう
〈みかちゃん!〉
〔なおこちゃん!久しぶりー!〕
〈元気だった?〉
〔うん!元気!なおこちゃんも専門だったよね!
どう?仕事は〕
〈ちゃんとなれたよ!美容師!〉
〔やったね!私も調理やってる!〕
〈みかちゃんはなれると思ってたし!〉
〔ふふ ありがとう〕
〈あいつ、来てないの?〉
〔…んーわかんない〕
〈え?別れたの?〉
〔連絡取ってないから…〕
〈そうなんだ…あ!みんな来たよ、行こ!〉
〔うん!〕
懐かしい面々に会えて、みんな盛り上がっていた
彼は来てないけど
彼の話もやっぱり出て…
{え?藍沢と別れたんなら、俺なんかどうよ}
〔え?〕
{ずっと好きだったんだよーあの頃}
〔そうだったの…?でもあの…〕
{あ、抜け出さない?2人で飲みに行こうよ}
〔いや、私は…〕
{行こ行こ!ほら…}
「触らないでくんない?俺の彼女に」
〔え…〕
{た…高野ー!?}
突然現れた彼に、会場は賑やかになった
「待て待て!ちょっと待てって!俺、藍沢を迎えに来ただけだから!」
〔ちょ、ちょっと高野くん…?〕
「早くお前の玉子焼き食いてぇ 行くぞ」
〔わっ、待って…〕
腕を引かれて車に乗せられて
連れてこられたのは、とても高そうなマンション…
「ひどいよなー全然連絡よこさないし」
〔それは…お互いさまだと思うけど…〕
「まぁ、な」
〔頑張ってるね、バスケ 活躍見てるよ〕
「見てるだけ?」
〔…うん〕
「あ、言っとくけど、あんなの全部ガセだからね」
〔…うん〕
「俺、ずっと 藍沢のことだけしか考えてない」
〔ありがとう…〕
「恋人らしいこと全然してあげられなくてごめん」
〔そんなこと…〕
「まだ、俺のこと好き?」
〔…うん〕
「知ってる」
〔何その自信ー〕
「さっき俺のこと見た時の藍沢、俺のこと好きだって顔に書いてあったもん」
〔…そう、かも〕
「だろ」
〔うん〕
「あ、ちょっと着いて早々悪いんだけどさ」
〔え?〕
「作ってくんない? 玉子焼き」
〔はーい〕
料理したことないんだろうなっていう綺麗なキッチンに真新しい調理器具が並んでいる
今日のために用意したのかな
冷蔵庫には卵と調味料以外には飲み物しか入っていなかった
〔玉子焼きしか作れないね…いいの?〕
「とりあえずは、な」
〔うん 待ってて、すぐ作る〕
この家には当たり前だがエプロンもない
いつも何食べてるんだろう…
プロなんだから…身体が資本だと思うけど…
そんなことを考えながら
ささっと作り終えて
テーブルに出す
彼は立ったまま熱々の玉子焼きを口に放り込んだ
「あちっ…これこれ…!」
この笑顔にやられちゃうんだよね…
一瞬で食べ終わった彼は満足そうに皿を片付けた
「うまかったーありがとな」
〔どういたしまして〕
「なぁー」
〔ん?〕
「また毎日食いたい」
〔…〕
「なんだよ」
〔プロポーズみたいだなって…〕
「そうだけど」
〔!!〕
「俺のために、毎日作ってくれよ」
〔…作ってあげたいよ〕
「一緒に住もう?そしたら、一日のうち必ず一回は顔も合わせられるだろ?」
〔…〕
「帰ってきて、藍沢がいてくれたら 俺もっと頑張れる」
〔ずるい…〕
「…俺の専属の栄養士になってくれないか?」
〔うん…〕
「…好きだっ」
〔私も…好き…〕
抱きしめられてる…
これで、あなたを支えられるのかな
食事の管理だけでも…あなたの役に立てるのかな
それから、彼のオフシーズンの間に
籍を入れて引っ越しをして
お世話になったレストランに挨拶をして辞めて
結婚式も挙げて
少し前から一緒に住んではいたけど
仕事を辞めてから、彼のいない間はずっと1人で
彼を待つだけの生活になった
望んでいた生活なのに
彼は昔も今もずっとキラキラしていて
手の届くところにいるはずなのに
どんどん遠くに行ってしまうようで
私がこうして悩んでいるのを
彼はすぐに察知して
一緒にいられる時間を増やしてくれているのに…
いない間に
あの頃の手紙を見返す
あぁ…あの頃は、この手紙があるだけで良かったのに
随分と欲深くなったなぁ
涙が出てくる
「美佳」
〔あ、ごめんなさい…気付かなくて
おかえりなさい 颯太くん〕
「…あのさ」
〔今すぐ用意するから、先にお風呂入って…〕
「美佳 聞いて」
どうしたんだろう…
もしかして…別れよう、とか…?
いつまでもグズグズしてるから…
「美佳 俺たちのチームのために働いてくれないか?」
〔…え?〕
「ずっと家に一人でおいておきたくない
チームに入ってくれたら、ずっとそばにいられる
監督にもメンバーにも話してある
美佳さえよければ…だけど」
あ…颯太くん、こんなに考えてくれてるのに…
私は…
〔はい…よろしくお願いします!〕
「よかったぁ…」
その後、彼は
本当は俺以外に食わせたくないけどさ、なんて
笑った
彼やチームのために勉強して
チーム専属の公認スポーツ栄養士として働き始めた
少し時間はかかったけど、
これからはみなさんのために…
それから、彼の引退まで見守って
彼がコーチになってもその生活は続いた
若い子がどんどん入ってくる
お母さん、なんて呼んでくる子もいるのよ…
チームの子たちはみんな可愛い
私たちの子どもみたいなものだから
まだまだ、夫婦揃ってチームのために働くの
「ねぇ 美佳は昔から俺がキラキラしていて、
君のことをおいていくって言ってたけどさ」
〔もう…いつの話してるのー?〕
「美佳はずっとキラキラしてるんだよ 昔も今も」
〔え?〕
「…だって、俺の好きな人だもん」
タイトル〘憧れを追いかけて〙
Fin…
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