まずは前菜から
[いらっしゃいませー何名様です…か!?]
〔え…あ、一人…です…けど?〕
[失礼致しました ご案内致します]
〔はい〕
ちょっと…なんで木瀧さんが…!?
この店を手伝ってることも、
そもそもプライベートなことは職場には内緒にしてるのに…
メガネもかけてないし、髪も下ろしてるしメイクもしてるし…バレてないわよね…!?
[こちらがメニューです お決まりになりましたら…]
〔あの…〕
[はい?]
〔オムライスがおすすめと聞いてきたんですけど
ありますか?〕
[はい、ございます
デミグラスソース、ケチャップソース、オムカレーがございますが、どれになさいますか?]
〔デミグラスソースでお願いします あと…食後にアイスコーヒーを…〕
[かしこまりました しばらくお待ちください]
…誰におすすめって聞いてきたの!?
え!?なに、この店のこといつから知ってるの…?
この店は私の父の店だ
本当はこの店にずっといたいくらいなのだが…
昔から調理はダメで…
それに商業高校に通っていたこともあって
資格も取ったし、事務の仕事に就くことになった
休みの日と、定時で上がれた日で
疲れてない時はこうして手伝っている
バイト代はもらっていない
そのかわり店の料理を賄いとして食べて帰る
それだけで十分なんだ
それにしても…はぁ
まさか会社の先輩がこの店に来るなんて
会社からも離れているし、木瀧さんてこの辺の人なの?聞いたことないからわからないけど…
〈オムライスできたよ〉
[はーい]
[お待たせ致しました
デミグラスソースのオムライスでございます
お食事がお済みの頃に、アイスコーヒーをお持ち致しますね
ごゆっくりどうぞ…]
〔ありがとうございます〕
〈ケチャップの方もできたよ 2番さんね〉
[はーい]
今日は少し混んでいる
父の料理はおいしいから
お客様にこの店を選んでもらえて嬉しい
[…]
木瀧さん、にこにこしながら食べてる…
おいしいって思ってもらえてるのかな
そうだったら嬉しいけど…
〔ごちそうさまでした おいしかったです〕
[ありがとうございます またのお越しをお待ちしております]
ふぅー…バレることもなく終わった…
さて、まだまだお客様がいらっしゃるから
頑張るぞー
【木瀧point of view】
あのお店 ずっと行きたかった店だった
今日はあの子がいた…
少し前にこの店の前を通った時に
お客さんをお見送りしてるのを見たんだ
どことなく…
内野さんに似てる気がして
内野さんは、謎めいた人だ
あまり人と話さないし
定時で終わるときはスッと帰ってしまう
何回か飲み会に誘われてるけど
来たことはない
だからと言って、嫌われてはいない
むしろ好かれている
不思議な人だ
僕も、食事に誘いたいんだけど…
断られるんだろうな…
あ、内野さんが来た
今日は珍しくまだ人が来てない…
今しかないかも…
〔おはようございます〕
[…おはようございます]
〔あの、内野さん〕
[はい?]
〔あの、今度良かったら…その、食事に行きませんか おすすめのお店があるんです〕
[え!?]
〔…オムライスがおいしいお店で…どう、ですか?〕
[いや、えっと…ごめんなさい]
〔あ…〕
断られちゃったか…しょうがないよな…
はぁ…
それでも、仕事中は避けたりとかはしないでくれてた
〚ねぇ、木瀧さーん、飲みに行きませんかぁ?〛
〔あ、いや 僕は、ちょっと用事があるから…〕
〚えぇーじゃあ、今度連れてってくださいね!?〛
〔機会があったら、ぜひ…じゃ、お疲れさま〕
はぁ…内野さんはまだ帰れないのかな
パソコンとにらめっこしてる
あの子に会えるかな…
あのお店行ってみようかな
〈いらっしゃいませー〉
あ、いない…はぁ ついてないな
〔一人なんですが…〕
〈あれ?お客さん昨日も来てくれてましたね〉
〔あ、はいっ あの、おいしくて…来ちゃいました〕
〈ありがとうございます そいつぁ、嬉しいな〉
〔あの…昨日いたウェイトレスさんは…〕
〈あ、お客さん、うちの娘が目当てなんだなー?〉
〔娘さんなんですか?〕
〈そうだよ 奈々っていうんだ 今日はまだ仕事が終わってないんじゃないかな〉
〔え…奈々、さん…?〕
内野さんも下の名前、奈々さんだよね?
〔あの、もしかして…マスターは内野さんって言うんじゃ…〕
〈え?よく分かったね〉
〔…〕
〈も、もしかして…奈々の職場の人だったり…するのか?〉
〔…はい 合ってると思います…〕
〈すまんが、聞かなかったことにしてくれ!!
あいつに怒られちまう〉
〔あ!はい…もちろんです…〕
〈あんた、奈々のこと狙ってんの?〉
〔狙うって…!!〕
〈俺の前でいい度胸してんなーって言いたいところだけど あんた良い人そうだしな 娘の事頼むよ〉
〔…は、はい…〕
〈あ、何食べる?〉
〔あ…オムライスを…ケチャップソースで…お願いします…〕
〈かしこまりましたー アイスコーヒーはサービスしとくからさ!〉
小声でそういうと、内野さんのお父さ…マスターは
キッチンに入って行ってしまった
なんてことだ…
あの内野さんと同一人物だったなんて…
[お父さん、遅くなってごめんなさい 今から入るわね]
〈お、おうーこれ、3番さん〉
[はーい]
[…!!!ケチャップソースのオムライスでございます お待たせ致しました…]
〔あ…ありがとうございます〕
「後ほど、アイスコーヒーをお持ちしますね」
〔は、はい…〕
やっぱり内野さんなんだぁ…
いつも髪をお団子に結んでて、眼鏡かけてるけど…
下ろしてるのも可愛いなぁ
昨日はドキドキしちゃってあんまり見られなかったけど…
お店ではメイクしてるんだ
【内野point of view】
[ねぇ、お父さん なんで3番さん、コーヒーサービスなの?]
〈え!?あー、さっきなー話しかけたら
オムライスがおいしかったって言ってもらってなー嬉しくてつい…〉
[そう…]
〈なんか、良い奴っぽいよな 彼!〉
[…うん]
〈ハンバーグできたぞー 5番さん〉
[あ、はーい]
やだ…お父さんったら…
いつもみたいに話しかけちゃったの!?
余計なこと言ってないといいけど…
それにしても、木瀧さん2日連続で来てくれるなんて…
朝は断っちゃったけど、この店のことなのかな
おすすめって…
さすがに、お父さんにバレるのは恥ずかしい…
絶対に無理!!
あ、そろそろかな
[アイスコーヒーお持ちいたしました]
〔あ、ありがとうございます…〕
[…]
お辞儀をして戻ってきたけど…
バレてなさそう…
はぁ…
まぁ、見た目も全然違うし、大丈夫か…
その日も閉店まで手伝って、お父さんと家に帰った
はぁ…なんだか疲れたなぁ
〈おう、悪かったなー今日は〉
[何が?]
〈いや、なんつーか、ほら サービスなんて滅多にしないからさ〉
[それは私が口を出すことじゃないから…]
〈あの人さ〉
[ん?どの人?]
〈さっきのサービスの人だよ
お前に会いたがってたぞ〉
[え!?]
〈良い奴だと思うんだよな 考えてやんなよ〉
[…会社の人なの バレたら面倒だから…]
〈話しちゃえばいいじゃん 父さん、彼は信用できると思うなぁ〉
[何でよーまだ1回しか話したことないじゃない]
〈父さん、見る目はあんだよ
伊達に客商売長年やってねーってな♪〉
[…それは、そうか…]
〈じゃ、風呂入ってくるわ〉
[はーい]
お父さんにも良い人に見えてるんだ…
確かに、木瀧さんは
うーん、他の人に比べたら…
裏表もなさそうで 優しい人だとは思うけど…
モテるんだよね…
夕方も誘われてたし…
別に私じゃなくても…
…こんなこと考えてる時点で
意識しちゃってるのかな…
お風呂空いたら入って寝よ…明日も仕事だー…
〔あ、おはよう 内野さん〕
[…おはよう、ございます]
〔あの、さ〕
[何ですか?]
〔他のお店でもいいから…食事…どう、かな〕
[…どうして私を誘ってくれるんですか?]
〔…仲良く、なりたくて〕
[仲良く…友達ってことですか?]
〔あ…最初は、うん…〕
[…じゃあ…お食事だけ…]
〔ほんと!?いつなら空いてる?〕
[えっと…じゃあ、明日はどうですか?]
〔…うん、僕も大丈夫 じゃあ、明日に〕
[はい]
約束、しちゃった
明日は定休日だから…
他のお店でってことになるだろうし…
ん?他のお店でもいいから…って言ってた?
オムライスが嫌いだと思われちゃったのかな…
まぁ、いっか
さて、仕事仕事…
【木瀧point of view】
よーし!
OKしてもらえた…嬉しい…
どこのお店にしようかな…
マスターのところは駄目だもんね
うーん…
イタリアン…とか?
後で聞いてみよ
あ、内野さん一人だ
〔あの、内野さん〕
[はい?]
〔イタリアンとか…好き?〕
[え?あ…はい、好きです]
〔わかった!じゃあ、予約しておくね〕
[はい…お願いします]
よしよし…さっそく予約して…
〚何見てるんですかー?あ!このお店あたしも行きたかったところー!〛
〔わ、びっくりした…そうなんだ〕
〚もしかして、あたしのこと誘ってくれるんですか!?〛
〔いや、これは別の人との約束だから〕
〚えー…誰ですかぁ!?〛
〔内緒 悪いけど、急ぐから…〕
〚あぁ!もうー木瀧さぁん〛
あの子、グイグイくるんだよな…
はぁ…
早く明日にならないかなー
〔あ!内野さん!こっちこっち〕
[…はい おつかれさまです]
〔お疲れーじゃあ、行こうか〕
「はい」
会社の人に見つかりたくないだろうから
少し離れたところで待ち合わせしてみた
お店はすぐそこだから
〔あ、ここ段があるから…〕
[あ、はい…]
テーブルに通された僕たちはメニューを見ながら
いろいろと少しずつ頼んで見た
女の子って少しずつ食べたい人が多いって聞いたから…
内野さんもそれで良さそうでよかった
〔ごめんね、無理させちゃったかな〕
[いえ…]
〔良かった…〕
[あの]
〔ん?〕
[おすすめのお店って…ここだったんですか?]
〔あ、ううん オムライスのおいしいお店があるんだ〕
[…キッチン ふわとろですか?]
〔あ…〕
[もしかして…気づいてました?]
〔ごめん…〕
[いえ…]
〔最初はわからなかったから、おすすめしたかっただけなんだ〕
[そう、でしたか…あ、オムライスがおすすめってどなたかから聞いたんですか?]
〔あ、うん 俺の家に兄貴が来た時に、寄らせてもらったみたいでね〕
[そうでしたか!
あ…じゃあもう、髪下ろしていいですね]
〔あ…〕
[ふぅ ありがとうございます おすすめに入れてもらえて嬉しいです
でもね?オムライスだけじゃないんですよ?]
〔だよね…メニューが豊富だったから
今から制覇するのが楽しみだなぁ〕
[制覇…しちゃうんですか!?
わたしもまだなのに…!]
〔はは そんな顔して笑うんだ…
僕ね 君が好きだよ〕
[え…?]
〔またお店にも通いたいし、こうして一緒にもいたくて…勝手に気持ちを伝えてごめん
でも…伝えたかったんだ
今すぐ返事を…なんて思ってないから〕
[あ…ありがとう、ございます…]
〔ここの料理もおいしいといいよね 楽しみ〕
[えぇ おいしかったら…また一緒に来てくれますか?]
〔…!もちろんだよ!〕
[…よかった]
まだ、お互いのことはよくわかってないけど
少しずつ、少しずつ
距離が近付けたらいいなって
大事にしたいから
君のこと
タイトル〘まずは前菜から〙
Fin…
こちらの記事はnote様で同一名義にて投稿しております。
再編集して投稿しております。




