夫婦喧嘩と北風は夜凪がする
Xデーまであと1年
【妻point of view】
思えば、結婚してからというもの
専業主婦としてずっと家事や育児を担ってきて
その生活自体はありがたいものだったけど
事あるごとに、自分のことを下に見られて
いつからか歯向かうこともなくなって
好感度なんてもう、地に落ちているのに
この人はそれをさらに下げてくる
《お母さんは今でも料理失敗するもんなー?
まずいときあるもん》
…は?
今目の前にいる次男に
《自分が作れもしないのに、
人様が作ってくれた料理をまずいとか言うな》
って説教してたよね?
次男が学校で後輩の女の子が作ってくれたお菓子をもらってきたんだけど、
それが少し味が薄くて合わなかったみたいで
もちろん、本人にはおいしかったとお礼を言った
そうだけど 帰ってきて思い出したのか
あれちょーまずかった!と発言したのだ
これはいけない、と思って
「本人の前でおいしかったって伝えたことはよかったけど、一生懸命作ってくれたんだろうから
本人がいないからって せめて、口に合わないとか 言い方があるでしょ」と私が言ったあとに
次男は、わかった 気をつけると言っていたが
少し暗くなっちゃったかな?と思って
ちょっと笑わせるつもりで
「お母さんもね、結婚してから最初の方はずっと
失敗ばっかりでねー料理って慣れるまで大変なんだよー」
なんて言ったのがいけなかった
その後に、父親である旦那がさっきの発言をした
自分は家事なんて一切やらないくせに
外食もそこまで多くないから、
ほぼほぼ私が毎日3食用意しているのに
私にはまずいと言ってもいいのね?
最近はイライラするのも馬鹿らしくなっていたけど、なんだか限界に達してしまった
いつもそう
二人きりのときは何も言わないのに
人がいると私を下げる
私を下げて、ドヤ顔で他の人を上げたりする
どうしてこの人を選んだかって?
結婚して妊娠するまでこんな人だって気づかなかったってだけ
昔は、何でも引っ張ってくれて男らしい!と思っていた長所は
自分の思い通りにならないと不機嫌になるという
短所に上書きされてしまった
それでも子宝には恵まれた
子どもがいてくれたから、今までもったのだ
長男(25)は優しい子で、少し泣き虫だった
下の子の面倒もよく見てくれていたし、
とにかく優しくていい子だったのに
旦那は《男のくせに泣くな!!》と言った
私が、「感受性が豊かなだけよ」と言っても
《弱いから泣くんだろ》などと言い放った
普段子どもと遊ぶこともしなかったくせに
こういうときに自分の価値観を押し付けるのが嫌
長男は高校を卒業後、働き始めて一人暮らしをして家に寄りつかなくなってしまった
私には連絡くれるけどね
長女(21)は、自由人だ のびのび育っている
旦那は女の子だからと甘やかしていた
長男のときは厳しくしていたのにえらい違いだった
長女も働き始めて、今は彼氏ができて同棲中だ
旦那はそれも気に入らないらしいけど
本人には伝えられないから私にチクチク言ってくる
次男(17)は、父親によく似ている
自分の思い通りにならないと機嫌が悪くなっていた
このまま育ったら旦那の二の舞だと思って、
自分の思い通りになんてほとんどならないよ、と
教え込んできた
旦那は長男を厳しくし過ぎた反動で
次男にすり寄ってるけど
次男はそういうのを嫌がるタイプだ
今も、もう少し話そうとしていたようだけど
友達が迎えに来て、ふいっとでかけてしまった
次男が高校を卒業したら、私の子育ても終わる
その時が、Xデーである
子どもが小さいうちは、家にいてあげたいと言えば
働きにでろ、と言われて
いざ働きに出たら、今度は辞めて家にいろと言われた
旦那の気分で考えがころころ変わることも
仕事が忙しくて少しでも余裕がないと、
不機嫌をばら撒くことが積み重なって
もう我慢ならなかった
今後の自分の生活なんて考えるまでもなく不安だ
だからと言って
この人とこれから先ずっと2人でいることを想像する方がきつかった
次男が高校三年生になった今
あと、1年
そう思って過ごしてきた
こんなに我慢したのに…
つい、口に出してしまった
「次男が卒業したら離婚してください」
《…え?》
「もう限界なの」
《ちょ、ちょっと待ってよ、何でいきなり…》
「20年前から考えてたことよ」
《…は?え、20年!?》
「私の分は書いてあるから」
離婚届を見せた
《…》
記入済みのそれを見て、私が本気だと悟ったらしい
《そんなにしたかったら書いてやる
書きゃいいんだろ》
「お願い」
用意しておいたボールペンを渡す
少し黙ったあと、受け取って書き始めた
《…これでいいか》
「うん」
記入されたそれを受け取って封筒にしまっておいた
まだ、出すつもりはない
あくまでも次男が卒業してからの話だ
《それ、勝手に出すなよ 卒業してからなんだろ》
「そうね」
《…》
「とりあえず、ご飯作るわ まずいものしか作れないけど、我慢してね」
嫌味ったらしくそう告げると、
息を飲む音が聞こえた
《いや、あれは…冗談のつもりで…》
冗談?そういえばいいと思って…
散々私のことを下げてくれてありがとう
本当はそんな風に言ってやりたかったけど
聞こえていないふりをして、料理を作り始めようとした
《…ちょっと出てくる》
「そう 行ってらっしゃい」
《実家泊まるかも》
「そう」
それならそれでいいわ
次男は明日からの連休の約束のために
友達の家にお泊りさせてもらうことになっているし 気にせずにゆっくり眠れる…
1人で寝るなんて何年ぶりだろう
あ!ご飯も食べに行っちゃおうかな!
作るのやーめたっ!
何食べようー!わくわくしてきたっ!
記入済みの離婚届があることが
こんなに心強いなんて…!!
私は1人焼肉をしてお腹いっぱい食べて来たあと、帰ってきてお風呂にゆっくり浸かって
早めに寝ることにした
はぁー1人って幸せっ!
【旦那point of view】
何で…何で急に…?
ずっと俺が一馬力で養ってきた
あいつは専業主婦でゆっくりする時間だって
たくさんあったはずだし
昼寝だってする時間もあったのに
働き始めたって、家事も疎かになって
家の中でまで仕事のメモ書きして…
俺の休みにまで仕事入れて…
仕事内容を聞いていたらパートの域を超えてて
疲れてるのが分かってたから、半年で辞めさせた
その後は仕事もさせずにゆっくりさせてたっていうのに
何の不満があるっていうんだよ…
《おー悪いな、急に》
〔いや、いいっすけどーどうしたんすか
珍しいですね〕
《無礼講だから!飲んで飲んで!》
部下を呼んで飲み会をすることにして
離婚してくれって言われたことは伏せて
少し愚痴ったんだ
嫁さんが専業なのに文句言ってるって
もっと大人しい子が良かったなーって
そしたら…
〚あのぉー…〛
《どうしたの?北野ちゃん》
この子は部下の女の子 可愛くて職場での癒しだ
〚確か、奥さまって主任が夜中に起きるのに自分も起きて朝食もお弁当も用意してくれるんじゃなかったでしたっけぇ?〛
《ん?うん そうだよ》
〔え!?そうなんすか!?〕
《うん》
〔えーうちのは、起きてすらこないっすけど〕
《え?》
〚…2時出勤で勤続25年、毎日ですよね
そこまでしてくれる人なかなかいないですよぉ?〛
《や、でもうちのは専業だしさ…夜だって早く寝るんだぜ?昼寝だってするし》
〚そりゃ、睡眠時間削られてますもん 眠いですよ
子育てしながらだったんですよねぇ?
というよりー…貧血とか、そういう心配ってしないんですかぁ?〛
《…え?あ、たしかに…立ちくらみが、とか…言ってたような…》
〚主任って外面良いだけで
想像力皆無なんですねぇ〛
《ちょっと!言い過ぎっすよ》
《…》
〚少し昼寝しただけで、すごい言われようですけど…日頃の感謝もないんですよねぇ…?ちょっとがっかりですー〛
日頃の感謝…したことなかった…
だって俺が養ってるんだし…
いや、
北野ちゃんの言うことは至極真っ当だった
心にグサグサと刺さる
〚それに仮に新しく彼女ができたとして…
今の奥さまの家事の水準をクリアしなかったら、
こうして悪く言われてまた新しい人探されちゃうってことですよねぇ?〛
トドメを刺された
〔き、北野ちゃーん…酔っちゃったのかなぁ?〕
〚無礼講って主任言ってたしぃ…〛
《あ、うん いいんだ その通りだよ…》
〚さ、お腹いっぱいになったし帰りまーす
主任、ごちそうさまでーす〛
《あっ、送ってあげて!危ないから》
〔はい、わかりました すいません…ごちそうさまです!〕
《いやいや、いいよいいよ じゃ、また月曜日な》
はぁ…
なんつーか…本当に想像力ないんだな、俺…
ずっと、眠いって言ってたのを
全然心配なんかしてなかった
ただ、呑気でいいなーこいつはくらいで…
あー
実家帰るっつってもなー
普段帰らないのに、急に帰って大事になっても面倒くさいな…
家帰ろう…
謝らないといけないしな…
【妻point of view】
"♪〜♪〜"
…ん…何…?電話…?
旦那からだ 何よこんな時間に…
せっかく寝てたのに…
「…はい?」
《あ、えっと…▲▲■■さんの知り合いの方ですか?》
「え?あ、えっと…はい 妻です」
《奥さんでしたか!こちら◯▲病院の…》
え…
旦那が事故にあったって…意識が、ないって…
え、あ、落ち着け…落ち着け…
保険証、お金、えーっと あと何を持っていけばいいの?
とりあえず、早く…
あ、タクシー呼ばないと…
落ち着け…
深呼吸をしながら、どうにか落ち着かせる
心臓がバクバクいっていて
手が震える
タクシーに乗って、言われた病院に来た
時間外だから、裏から入ってと言われてたっけ
看護師さんが案内してくれた
こちらの部屋です、と通してもらった部屋にいたのは間違いなく旦那で
まだ、目が覚めていないようだった
担当の先生や警察の人からも説明を聞いて
少し落ち着いてきた
家の近くで、車に轢かれたみたい
怪我はそこまでひどくないけど
頭を打ったみたいで…
ようやく、旦那のそばに来れたんだけど
本当に寝てるみたいで
「ねぇ…大輔くん…起きてよ」
《…》
全然起きない
手を握ってみる ピクリともしない手は
あたたかいのに 力がなくて
このまま起きなかったらどうしよう…
起きるよね?
元気になるよね…?
…震える
「大輔くん…」
ん?指が…動いた気がした
「大輔くん!?ねぇ!起きて!?」
《…ん》
「大輔くん!」
《…ひさしぶりに、よばれたなぁ》
「え?」
《麻里…》
「どっか痛い!?あ!先生呼ばないと…」
《…》
震える私の手を引いて、彼が抱きしめてきた
《ごめん…ごめん…》
「え…なに?何で謝るの」
《心配かけた…そんな顔させるなんて》
「…」
《ごめんな》
「っ…く、よかったぁ…何ともなくて…」
泣き声を聞いて、彼も驚いたみたいで
《ど、どうした?おい》
「大輔くん…」
《落ち着けって、なぁ…?》
「怖かった…」
《…っ、うん ごめんな》
ーーあの時のことがなかったら、
どうなっていたかは今となってはわからない
今もこの人と一緒にいる
あれから、夫婦の関係は変わった
嫌なことを言われたら言い返すし、
たまにはこっちからも嫌味を言う
彼は苦笑しながら
《言い過ぎたよ ごめん》なんて言う
《なぁ?》
「ん?」
《あれって、捨てたのか?》
「まだあるよ」
《何で捨ててないんだよ》
「何かあったらすぐに出せるように」
《…そんなことさせねぇよ》
「あなた次第ね」
《ふん》
記入済みの離婚届なんて もう、とっくにないの
だって…気づいちゃったから
いなくなったら困るって
でも…教えてあげない
ーーー
【由真point of view】
あーあ…来なきゃよかった
休みの日に呼び出されたから、奥さまもいるんだと思ってたから来たのに
なんで、こんな話を聞かされなきゃいけないんだろう…
せっかくのおいしいお酒とお料理なのに
もったいないなぁ…
ちょっとブチギレていろいろ言ったあとに
〚さ、お腹いっぱいになったし帰りまーす
主任、ごちそうさまでーす〛
ってスタスタと早歩きでお店を出てきた
全然お腹いっぱいになんかなってないけどさ
《あ、送ってあげて、危ないから》
〔はい、わかりました すいません…ごちそうさまです!〕
そんな会話が聞こえて来たけど…
一緒に帰る気なんてないから
〔ちょっ、ちょっと待って!きた…ゆまちゃん!〕
〚今日は自分の部屋に帰る 送らなくていいし〛
〔え!?どうしたの!?なんで?〕
〚さっきのー言さぁ、あれ、言わなきゃだめだった?〛
〔え…さっきの…?〕
〚思ってることがあるなら、わたしに直接言えばいいのに
なに?あなたも、誰か人がいないと何も言えない人なの?〛
〔え、ちょ、ちょっと待ってよ…何の話?〕
〚…うちのは、起きてすらこないって言ったじゃん〛
〔…あ、いや、それはさ…〕
〚悪かったわね…主任の奥さまみたいに、毎日起こしてもあげないし、朝ご飯も作らないし?〛
〔違う!そういう意味で言ったんじゃない〕
〚何が違うの?なんであの状況で、あんな言い方したの?〛
〔いや、それはさ、起こされない人もいるんだよ…的なフォローのつもりで…〕
〚はぁ…もういい 帰る〛
〔待ってよ、ねぇ!〕
〚ついて来ないで!〛
〔あ…〕
繋がれた手を振りほどいて速歩きで歩く
そりゃわたしだって、毎日起こしてあげたいよ
そうすれば、安心して眠れるだろうし
お弁当だって作ってあげたいし、なんでもサポートできることはしたいよ
でも、わたしだって仕事があるし
彼が3時〜14時、わたしは8時〜17時なんだもん
だから、休みの前の日は一緒にいようねって
散々話し合って決めたのに…
彼は何気なく言ったのかもしれないけど
〔えーうちのは、起きてすらこないっすけど〕
なんて言い方…とうてい看過できなかった
そのせいで、イラついて主任に言い過ぎてしまったところもある、けど…
そもそも、専業主婦になったとしてもだよ!?
子どもが出来ても毎日そんな風にやれって?
夜泣きとかしてる間もってこと…?
無理に決まってる…
2時に出勤ってことは、遅くても1時…0時半じゃなきゃ無理かも…には起きて
朝ご飯にお弁当まで用意するんだよね?
無理無理
そりゃ、たまになら…
年に何回かとかならできると思う
それを毎日出来てる人だからこそ奥さまがすごいって話しなのに
その奥さまを軽く見てる主任にも
その主任の顔色を伺って
わたしの発言をオロオロしながら聞いてた彼にも
イライラしてしまった
そもそも昼寝くらいさせてよね
貧血とかじゃなかったとしてもさ
はぁ…何かやけ食いしたくなってきた
せっかく、しんちゃんとゆっくりしようと思ってたのに…
〚バカ慎二!!〛
〔っ、ひどい…〕
〚え!?ぁ、びっくりした…ついてきてたの?〛
〔…心配で〕
〚ついてこないでって言ったじゃん〛
〔ゆまちゃん、ごめんね〕
〚…それは何に対して謝ってるの〛
〔俺ね、ゆまちゃんに起こしてほしいなんて思ってないよ〕
〚ふーん〛
〔そりゃ、主任の奥さんはすごいとは思うけどさ
俺、そういうんじゃなくてさ
2人で協力していきたいんだよ〕
〚…〛
〔2人で働いて、2人で家事してさ
どちらかが大変な想いする、とか 嫌だから…〕
〚うん〛
〔正直言うとさ、主任の家がどうなろうがどうでもよくて〕
〚え?〛
〔他所の家の話だしさ でも、ゆまちゃんは真剣に話し聞いて、真剣に奥さんの味方しててさ〕
〚うん〛
〔そういうの、すごいなって思ったよ〕
〚…しんちゃんは知らないから〛
〔え?〕
〚いつもね、飲み会に連れてこられた奥さまは
わたしたちに笑顔を見せながら、
テーブルの下でハンカチを握りしめてたの〛
〔…〕
〚主任があーいう言い方をするのに、わたしたちは誰も主任を止めないし、誰も奥さまのフォローもしなかったでしょ〛
〔うん…〕
〚しんちゃんも、そうなるんじゃないかって…疑った〛
〔…ごめん〕
〚ううん、こちらこそ イラついたからって…当たり散らしてごめん〛
〔ゆまちゃんの優しいところ、好きだよ〕
〚ん…〛
〔ねぇ、帰ろう?〕
〚うん〛
〔あ!バカ慎二はやめて…〕
〚あ…ごめん…〛
〔嘘だよ 久しぶりに名前で呼んでくれたね〕
〚いつもしんちゃん、だもんね〛
〔うん その呼び方も好きだけどね〕
〚…もうー〛
彼は、そう言って笑った
彼なら…大丈夫、なのかな…
【慎二point of view】
まさか、てきとーに言ったことがこんな喧嘩に発展するなんて思わなくて…
ゆまちゃん、会社では大人しくていつもにこにこしてるから
俺も最初はびっくりしたけど
でも、こうやって物事をはっきり言ってくれるところとか
正義感が強いっていうのかな
思ったことを我慢できなくて当たり散らしちゃうところも可愛いんだ
会社では、付き合ってることは内緒にしてるけど…
もう話しちゃおうかな
結婚も考えたいし…
〔ゆまちゃーん〕
〚ん?〛
〔やっぱり一緒に住まない?〕
〚うーん…〛
〔休みの日だけじゃ、物足りないんだよ〕
〚会社でも会えるのに?〛
〔それでもさ、帰って来て君の顔が見られるのと
見られないのでは全然違うんだよ〕
〚でもさ〛
〔うん〕
〚わたしたち、時間全然合わないし…だから休みの日だけってことにしたじゃない〛
〔それは、うん そうなんだけど…〕
〚…しんちゃんの負担になりたくないの〛
〔ならない〕
〚え?〛
〔ゆまちゃんがいることで、負担になんてなるわけがない それにさ、それは俺も同じだよ
俺の方が起きるのが早いし 起こしちゃうかもしれない〕
〚わたしは…平気〛
〔なら、俺も平気だよ 決まりだね〕
〚…うん〛
〔そんな難しく考えないで しばらく住んでみて、駄目だったらまたその時にまた一緒に考えよう〕
〚うん〛
〔俺たちは話し合いができるんだから
我慢もしないで、さ だから大丈夫だよ〕
〚…しんちゃん〛
〔…惚れ直してくれた?〕
〚うん!〛
可愛いなぁ 手を繋いでブンブン振りながら歩く
この子と結婚したら
毎日笑顔でいられるんだろうなー
〚あ…主任に謝らなきゃ…当たり散らしちゃったし〛
〔そうだね、俺も一緒に行くよ〕
〚何で?付き合ってるの内緒なんだから、ついてきたらおかしくない?〛
〔えー?二人きりで話す気?〕
〚いや、2人っきりってさー他の人もいるじゃん〛
〔ゆまちゃんが俺以外の男に会いに行くの嫌だな〕
〚会いに行く、じゃない 会社にいるの!もう〛
〔ねぇーもうオープンにしちゃおうよー〕
〚えー?自分が隠したいって言ったんじゃん!〛
〔でもさぁ…〕
〚別れたら気まずいから嫌〛
〔別れない!〕
〚いや、そうだけど 先のことはわからないし〛
〔わかる!絶対に別れない〕
〚うるさーい まだだめ 内緒!〛
〔…〕
じーっと見つめて訴えても、ゆまちゃんは首を縦に振ってくんない
なんでよー…
もしかして別れる気あんの?ねぇ…
【由真point of view】
なんか、土日すごかったな…
ずっとくっついてきて、そばにいて離れたがらないし…
なんなの…この大型動物は…
〔ゆまちゃあん〕
〚なに…〛
〔ここ〕
〚ん?〛
〔ここ座って〕
…自分の足の間に座れ、と指示してくる…
〚となりでよくない…?〛
〔1回だけ!ね?〕
〚なーにー?もうー甘えん坊?〛
〔そうだよ ゆまちゃんだけに見せる顔〕
〚…〛
なんなの…ドキドキするからやめてよ…
ちょこん、と座ると 満足気にしている
はぁ…
〚そろそろ寝なきゃじゃない?〛
〔ん、もうちょっとだけ〕
〚起きれなくても知らないよ…〛
〔…わかってるけど〕
ブーブー言いながらベッドに向かった彼を見送って
わたしはもう少しだけ夜ふかし
夜ふかしってほどでもないんだけどね
2時間くらい好きな動画見て、ベッドに向かったら
彼は爆睡していて
起こさないように布団に潜り込んだ
〔ん…〕
起こしちゃったかな…ごめん…
〔…んー〕
彼の腕がわたしを捕まえて離さない
その体勢、きつくないのかなぁ…
寝てるみたいだし…いっか…
さ、わたしも寝よ…
しんちゃん、おやすみなさい
"ピピッ…ピピッ…"
ん、目覚まし…ふぅ
起きよう
しんちゃんはいない 先に出たみたい
しんちゃんが起きたこと、気づかなかったなぁ
さ、わたしも準備して仕事仕事…っと
〚おはようございまーす〛
あ、主任いた
〚主任…〛
《やあ、おはよう 金曜日は悪かったね》
〚あ、いえ…こちらこそ、言い過ぎました…すみません〛
《そんなことないさ 北野ちゃんに言われて目が覚めたんだ 実はさ…ここだけの話なんだけど、飲みに誘う前に離婚届叩きつけられちゃってさ》
〚えっ!?〛
《それで俺も1人でどうしたらいいかわからなかったんだ
帰りに事故に遭うしさー踏んだり蹴ったりだったよ》
〚え!?なんか情報量が多い…大丈夫なんですか?
仕事に出てきて〛
《うん、怪我もほぼないしね 頭の検査も異常なくてすぐに帰されたんだ》
〚そうだったんですかー〛
《あの後さ、ちゃんと話し合ったんだ その機会をくれてありがとうね》
〚いえ、わたしは…きゃっ〛
〔ゆま…いつまで主任とコソコソ話してんの〕
〚ちょ、しん…杉田さん!〛
後ろから抱きしめられてる…何してるのよ!もう!
《あれ?どうしたの?杉田くん…もしかして、2人って付き合ってるの?》
〔はい!〕
〚…はぁー…〛
最悪…はい!じゃないわよ…
《そっか!お似合いだなぁ!うまくやれよー?
俺みたいになったら駄目だぞ 杉田くんは》
〔いやいや、そんな…でも参考にさせてもらいます〕
《うんうん!じゃあ、仕事頼むね 北野ちゃん》
〚はい…〛
〔さ、行こ…〕
〚…〛
わたしはしんちゃんをシカトしてデスクに戻った
〔ゆ、ゆまちゃ…〕
〚仕事中に公私混同しないで〛
〔ごめん…〕
小声で言う事だけ言って、とりあえず仕事に集中した
しんちゃんがどうしてたのかは知らない
彼には彼の仕事があるし
《北野ちゃん…》
〚はい?〛
《なんか、大丈夫?》
〚…すみません 内緒にしておくって言ったのに、
バラされて機嫌が悪いだけですから…〛
《そっかーいろいろ大変だねぇ》
〚なんか…変なんですよ〛
《ん?》
〚急にベタベタくっついてきたり、一緒に住もう、とか言い出すし…〛
《んー…結婚とか、考え出したのかなぁ》
〚…はぁ…〛
《わかんないけどさ…俺たちの揉め事を聞いてさ
自分はそうはなるまいって思ったのかも》
〚そうなんですかねぇ…彼、今何してるんですか〛
《営業先に向かったはずだよ》
〚そうですか しばらく静かでいいですね〛
《…あんまりいじめないであげてな?》
〚彼次第ですね〛
《はは…》
その後、彼は帰る時間になったけど
わたしのところに来ることはなかった
まぁ、それはいつものことだから別にいいけど
今日、どっちに帰ろうかなぁ…
さて、わたしも帰…げっ
Rileの通知がバグってる…
いや、これたぶんしんちゃんだ…
あー…ほら…
おっと、通話してきた…
〚なに?〛
〔ゆまちゃん!やっと終わった!?今目の前の喫茶店にいるから〕
〚わかった〛
家に帰らなかったのかな…
〚何してるの?〛
〔待ってた〕
〚いや、うん それは分かってる
ずっと待ってたの?〛
〔ううん 家に帰って風呂入ってきた
あの…ごめんね、バラしちゃって〕
〚ほんとだよ…〛
〔でも俺…もう我慢できなくて〕
〚はぁ…いいよ、もう〛
〔ほんと!?〕
〚う、うん〛
何そのパァッとした笑顔…
これに弱いんだよなぁ…はぁーあ
〚帰ろ!〛
〔うんっ!〕
こうして、また手を繋いでブンブン振って
わたしたちは家に帰る
時間は合わないけど、
2人の心はおんなじ気持ちって分かったから!
タイトル〘夫婦喧嘩と北風は夜凪がする〙
Fin...
こちらの記事はnote様で同一名義にて投稿しております。
再編集して投稿しております。




