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読み切り短編集  作者: おしるこ


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56/61

キミのためにできること

親指が、薬指にあった指輪を探している


無意識に、でもどこか意識的に


外された"それ"は引き出しの奥に…

そっとしまってある




「今日の飲み会、参加するよな?」

『うん』

「だよなー たまにはなー」

『でも、1次会で帰るからね』

「わかってるって 帰り送るよ」

『いいよ そんなに遅くないだろうし』

「そうか?ま、ジャンジャン…は飲まないだろうけど

楽しく飲もうぜ!!」


同期の篠塚に誘われて、会社の飲み会に行くことになった

普段はすぐに断っているのだけど

断りすぎていて、たまには来いよって他のメンバーにも言われてしまって…

まぁ、でも せっかく行くなら楽しんで帰ろ


〔梨沙さん!こっちこっちー〕

『はーい…って、なんで…』

右隣りには顔も見たくない男がいた

《…そんな顔するなよ》

『お疲れ様です…半田さん』

《…どーも 橋本さん》

最悪…席変われないのかな…

どうにもできなさそうなので、

なるべくとなりの男を視界に入れないように

左隣りに座っていたつぐみさんを捕まえて話していた


そろそろお開きね…

『じゃあ、わたし帰るから』

「おう!また誘うからな!お疲れ 気をつけろよ」

『うん!じゃーねー』


…うわ、店の外で立って待ってるやつがいる


わたしはその人を無視して歩き出す


《おいおい…つれねぇーな?橋本さんは》

『…お疲れ様でしたー 失礼しまーす』

《待てって》

『なに 話すことなんかないんだけど』

《俺にはあんだよ こっちに車置いてあるから》

『あんた、飲んでなかった?』

《飲むわけねーだろ 車なのに》

『…あっそ 飲まないのに何で来たの?』

《誘われたんだよ ほら、寒いから これ着ろ》

こういうところは変わってないな…

『…うん それで?話って何』

《あからさまに嫌そうな顔するなよ》

『ついてきただけでもありがたいと思ってほしいんだけど』

《…はいはい ったく》

『え?どこ行くの!?』

《シートベルト早くしろよ》

『いや、だから…もう!』

意味わかんない

シートベルトをしめ、睨みつけた


20分くらい走っただろうか

ここは、よく2人で来ていた公園だった

『なんでこんなとこに連れてきたの』

《お前、ここ好きだろ》

『…ねぇ、話があるなら早くしてよ』

《より戻そうぜ》

『嫌』

《なんで?もうほかに男できた?》

『出来ては…いないけど、嫌』

《理由は?》

『新しい女はどーしたの?もう別れたっての?』

《あぁ なんか違ったわ》

『最低…』

《お前がいいから別れてきたんだよ》

『振られたから戻ってきたいだけでしょ?』

《ふっ、そうかもなぁ?》

『答えはNO じゃ、帰るわ』

《待てって》

手首をつかまれる

『離して』

《離したら逃げんだろ?》

『当たり前でしょ もう嫌なのよ あんたに振り回されるの』

《でもお前、指輪の跡気にしてんじゃん》

『…え?』

《今もそうだろ そうやって、俺との繋がりを探してる》

『…』

《飲み会中もずっと、触ってたぞ?気付いてなかったのか?》

『そうだとしても…もう嫌』

《俺はお前じゃないと嫌なんだけど?》

『だったらなんで…っ!!』

《なんだよ 言えよ》

『いい もうどうでも』

《俺を諦めさせなくていいのか?》

『わたしにはもう関係ないから 離して』

《…最後に一つだけ》

『なに』

《お前は俺のとこに必ず戻ってくる…必ず、だ》

『ばっかじゃないの!?戻るわけないから!』

"バタンッ"

上着をぶん投げて思いっきりドアを閉めた

物にあたるなんて大人げないけど…


勝手にこんなとこまで連れてきて…

…はぁ…駅まで遠いし…

タクシー呼ばなきゃ…




…帰ってきて、お風呂に入って

髪も乾かさずにボーッとしていた

《お前は俺のとこに必ず戻ってくる…必ず、だ》

あの一言がやけに頭の中をグルグルしていて


ふざけんな…勝手なことばっかり!!


でも、そんな考えとは裏腹に

わたしの親指は、今も"それ"を探してる


指輪…どこにしまったっけ…


何ヶ月か振りに探してみた

この引き出しだったよね


あった 


…

箱は開けないまま 眺めてた


それと同時に、別れる間際の記憶も…


《わりー俺あいつのことが好きだわ》

『え?う、嘘でしょ?…わたしの友達なのよ?』

《わりーって言ってんだろ?じゃ、そういうことだから》

『…信じられない…!!!』


一発ぶん殴ってやった


…彼氏が友達に手を出して別れて

本当に辛かった

それでなくても会社の子に手を出すわ、見せつけるように仲良くするわ…嫌な想い出ばかりだ


それなのに、あんな一言に

まだ振り回されそうになっている自分がいる


馬鹿みたい…


引き出しの奥にそっと戻して

忘れることにした

本当は捨てちゃえばいいんだけど…



もう前に進まなきゃいけないのに


…忘れよう




『おはよー』

「おう!昨日は楽しかったな!」

『うん』

「また誘っていいんだろ?」

『うん!』

「おう!あ、それでよ 今日の打ち合わせなんだけど、3階の会議室な」

『え?何で?珍しいね』

「合同チームなんだよ ほら、なんつったっけ

半田さんだったか あそこと」

『え』

「ん?何?知り合い?」

『あ、ううん 全然…』

「そっか!ま、そういうことだからさ 後でなー

あ!終わったら飯行こうぜ」

『うん わかったー』


最悪…なんでよりによって…

はぁ…でも、仕事だもんね…しょうがない…




《今回は僕らのチームとの合同ってことで、

そちらの皆さん、よろしくお願いします!

それで、内容なんですが…》


2人1組のペアで現地調査、ね 

期間はそんなに長くないんだ 


《ペアはこちらになっております》


…は!?

はぁ!?!?!?


《…ってことで、よろしくな 橋本さん?》

『…このペア誰が決めたの』

《上が決めたんだよ》

『最悪…』

「おーい、橋本ー」

『あ!篠塚』

「あ、半田さんですよね!橋本のことよろしくお願いします!」

《えぇ、心得てますよ》

『それで、どうしたの?』

「昼メシ食うって言ってたろ?

これからペアで動くっていうからさ 伝えに来た」

『え、もう動くの?』

「だってよ じゃまたな」


《へぇ?あいつと飯食うはずだったのか?》

『関係ないでしょ ほら、仕事行くんでしょ』

《なぁ》

『なによ』

《あいつと仲良いの?》

『同期だから…って、あんたに関係ないでしょ』

《ふーん》

『それで?今からどこに行くの?』

《あーそうだな とりあえず行くか》

『どこに行くのよ』

《よし、行くぞー》

『ちょっ、ちょっと!』


まったく…書類も渡してくれないし…なんなのよ!


え… は!?え!?

『なに…仕事中なんだけど…』

《そうだけど?》

『なんで…ラブホ?』

《仕事だから》

『…は?』

《ほら これ》


最近人気の海沿い綺麗めラブホ特集!

…はぁ!?!?


『はぁ…』

《行くぞ アポは取ってあるから》

『嫌だな…』

《仕事だぞ、ちゃんとしろ》

「わかってるわよ!!!」


写真を撮ったり、取材をしたり


ここのホテルはロイヤルルームという部屋に

温泉宿顔負けのお風呂がついていて

《後ろ姿でいいから入ってくれ》とか言い出すし…

馬鹿なの!?

『あんたがやってよ!』

《女性誌だぞ!?あほか!》

『…はぁ 顔は写さないでよね』


バスタオルは使っていいって許可はもらってるから

そのまま入る

あ、気持ちー…

後ろからパシャパシャ聞こえてきて不快だけど…



《いつまで入ってんだ 出ろ》

『わ、わかってるわよ!』

《ほら、このくらいならいいだろ?

湯けむりでぼやけてるし》

『うん 着替えてくる』

《…》"グイッ"

『わっ!な、なに!?』

《悪い…》

『え』

《…我慢できねーわ》

『ちょ、まっ…』

《愛してる…梨沙》

『!!や、ちょっと!』


流される…やだ…


ーーーーー


『信じらんない…』

《…ま、よくね?》

『よくない!ふざけんな!』

《可愛かったのによぉ?最中は》

『…次行くんでしょ』

《行かねぇ》

『え?』

《今日はお前とずっとここにいる》

『はぁ!?仕事は!?』

《してんだろ》

『…はぁ』

《なぁ》

『…』

《なぁって》

『なに』

《戻ってくる気になった?》

『なるわけないでしょ』

《ま、いいけど まだ日にちあるし》

『ペア変えたい』

《わがまま言うなよ》

『はぁ…』


《なぁー》

『なによ』

《ここ、飯うめーんだよ ルームサービス頼もうぜ》

『…来たことあるの?』

《おう》

『最低…』

《あーお前とじゃなかったか》

『…』


なんでこんなやつが好きだったんだろ…

本当に最低…

《なぁ》

『さっきからやめてよ…』

《なにが》

『耳元で話かけてくるのやめて』

《好きだろ?》

ぶん殴ってやろうかと思って腕を伸ばしたら

手首をつかまれた

『っ…』

《可愛いなぁ、お前は やることがわかりやすくていいや》

『…』

《睨んでるのもいいけどよーそろそろ笑ってくんねーか》

『嫌』

《あいつには笑いかけてただろーが》

『あいつ…?篠塚のこと?』

《…梨沙》

『…名前で呼ばないで』

《梨ー沙》

『うざ…』

《俺さ》

『…』

《ヤキモチ妬いたわ》

『は?』

《あいつにも 昨日の飲み会の時に話しかけてきたやつらにも》

『あんたヤキモチなんて妬くのね 知らなかった』

《初めてだわ》

『ふーん』

《俺、ヤキモチ妬いたから》

『聞いたわよ…ってちょっ』

《こんなに愛してんのによー…ん、んんっ》

『ちょ、ん、…ん、ゃ…』

《嫌じゃねーくせに 好きだもんな?俺のこと》

『嫌い』

《好きって顔してる 身体も》

『ばかじゃない!?帰る』

《帰れればいいな?橋本さん?》

『…はぁ』


しっかりホールドされてる…

最悪…

逆により戻すって言ったら解放してくれるのかな


『ねぇ』

《ん?》

『わかったわよ…より戻す』

《へぇ?戻ってきてくれるのか》

『うん』

《良かった…お前が戻ってきてくれるなら、もう何もいらねー》

『…っ』

何で…なんで、そんな事言うの…


《梨沙…今までごめんな 愛してるぞ》

『う、うん…今日はさ、会社戻ろ?』

《なんか仕事でもあんの》

『うん…別件のデータまとめないと…それにこういうのは、これからいつでもできるでしょ?』

《そらそーだ んじゃ帰っか》

『…うん』

…なんか…悪いことしてるみたい…

いや…いやいや…いいの!これで!

会社に戻ったら裏口から出てしばらく会社休んで…


《梨沙?》

『え?』

《聞いてんのかよ》

『あ、ごめん…なに?』

《お前が行きたがってた飯、予約してあんだよ》

『え…もしかして、あの三ツ星の!?』

《そう やっと予約取れてさ 行くだろ?》

『あ…うん…』

だって…あのお店全然予約取れないのよ…?

夜ご飯だけ…うん

あとは何とでもなる 早く帰ればいいから…


《楽しみにしてるからな!》

『え?うん』

《じゃ、また後でな 終わったら迎えに行く》

『わかった』




『お疲れさまです』

〈おつかれーどうだった?〉

『行ってきましたよ 取材 あちらのチームの方が写真も撮ってくれてるんで、今頃まとめてくれてると思います』

〈そうか うまくやれた?〉

『え?あ、はい』

〈彼さ、どうしても君がいいってきかなかったからね 惚れられちゃったのかね?〉

『ま、まさかー…はは』

〈ま、とりあえずはうまくやってよ あっちチームのエースだからね 彼は〉

『…はい』


どうしても…?上が決めたって言ってたのに…


より戻す、なんて言わなきゃよかったかな


どう考えたってわたしは悪くないはずなのに

罪悪感のような

胸が痛くなってくる…


《橋本さん》

『え?あ…』

《…あれー?名前で呼んでほしかった?》

『呼ばなくていいわよ… え?もう行くの?』

《おう 店に行く前にちょっと寄るとこあっから…》


「あれー?橋本」

『あ、篠塚、お疲れさま 今戻り?』

「そうなんだよ そっちはまだ仕事?」

《いえ これから食事に行くんですよ》

『ちょっ』

「え?あー…そうなんですね じゃ、またな」

『あ、うん お疲れさま…ちょっと!』

《なに》

『…なんで話しちゃったの?』

《食事行くくらい話したって別にいいだろ》

『…でも、前はそれも隠してたじゃない』

《あの時はあの時 今は今》

『…』

《隠していたかったのか?》

『やりづらくなるじゃない…』

《堂々としてればいいだろ あ、そうそう

先によ、俺んち寄っていいか?》

『え?なんで?』

《予約の紙、印刷したやつ置いてきたんだよ

それがないと店にすら入れねぇ》

『そうなんだ』

《せっかくだから、コーヒーでも飲んで行こうぜ》

『え?わたしも行くの?車で待ってるよ?』

《おい、まだ時間には早いぞ?

さっきの取材レポートのレイアウトもできたんだ 見てくれ》

『仕事早いね』

《なんたってエースだからなぁ?俺は》


エース、か 仕事はできるんだよね、この人…


《さ、どーぞ 久々だなぁ?》

『お邪魔します…』

《これ、見といて コーヒー淹れてくるわ》

『あ、うん…』

さすがね…お風呂のこともそうだけど

アメニティのことやベッドにひいてあるマットレスのことまで…

仕事はできるんだよね…ほんと…


《どうだ? はい、コーヒー》

『うん!よくまとまってるし、これなら一発でOKでるんじゃないかな』

《だろー?あとさ、もう1パターンあんだよ》

『ん?うん…あ、このコーヒーおいしいー…』


こっちは写真を少し大きくして、枚数が多めになってるのね

こっちの方がわかりやすいかも

『わたし、こっちの方が見やすい…あれ……俊樹…?

なん、で…』"バタンッ…"

《…》




【俊樹point of view】


やーっと眠ったか

んじゃ、今のうちにやることやって…っと

あいつの部屋にも行かないとな

荷物もそうだけど、"あれ"がないとな…


つか、捨ててねぇだろうな…




『ん…ん?え?ちょっと、ねぇ!』

《なんだよ》

『なにこれ…どういうこと!?』

《やっと起きたのかよ 待ちくたびれたぜ》

『ちょ…なに、どういうことなの…?』

《今日からお前はずっとここに住むんだよ》

『は!?』

《もう籍も入れてある 俺のものだから お前は》

『な、なに勝手に…!!っていうか婚姻届偽造したの!?』

《んなことするわけねーだろ!ほら、半年前くらいに酔っぱらって遊びで書いたやつあったろ

アレ出したんだよ》

『あ…そんなことも…あったかも』

《より戻すって言い出したときは、こんなにうまくいくなんて思わなくて笑いそうになっちまったぜ》

『え…?』

《もちろんわかってたぜ?よりを戻す気なんか

これっぽっちもないってこともなぁ?》

『…』

《でも、お前は 自分から言い出した手前、

必ず俺の部屋に上がり込んでくると思った

わかりやすいからな お前は》

『信じらんない…』

《お前がぐっすり寝てる間に、荷物と"それ"を取りにいっといたからな》

『え…?あ、これ…!?』


梨沙が薬指にはめられた"それ"を見て驚いてる


《ったく…わかりにくいところに隠しやがって…

手間取ったぞ 探すの》

『なんで…こんなことするの』

《は?好きだからに決まってんだろ》

『じゃあ、何で!?わたしの友達にまで手を出したの!?』

《お前の側から引き離すために決まってんだろ》

『…は?』

《あの女も邪魔だったからなーもちろん手なんか出してねぇよ あの女じゃ勃たねぇしな

今頃は俺のあてがった男とうまくやってんじゃねーか?》

『…意味がわからない…』

《わかるだろ お前をひとりぼっちにしたあとで、俺が拾って側に置くように仕向けたんだよ》

『じゃあなに…あの子も会社の女の子たちも…そういうことなの…?』

《当たり前だろ 俺にはお前がいればいい

お前にも俺だけがいればいいんだから》

『勝手に決めないで…わたしは…!』

《あー篠塚だっけー?》

『!?』

《あいつと仲良くしだしたからさすがに焦ったぞ

早くお前をこの部屋に連れてこなきゃってよー

わざわざ合同チームまで作ったんだぜ?》

『あの仕事、あんたが仕組んだってこと!?』

《当たり前だろ 男女二人っきりでのラブホの現地調査なんてこのご時世にあるわけねーだろ

ばーか》

『信じられない…』

《まぁ、仕事が好きなお前で助かったよ

風呂に入った写真まで撮らせるなんてなぁ?

誰にも見せる気ねーけど》

『…』

おーおー睨みつけてくれちゃって…


《いいだろ、別に 俺浮気してねーし》

『嫌い…大っきらい!!』

《俺は好きだ 愛してる

お前だけをずっと、ずーっと愛してんだからよ》

『…』

《つか、お前の意思なんかどうでもいいんだよ

俺の側にいてくれさえすりゃあ、なぁ?》

『これ、外してよ』

《外すわけねーだろ》

『やだ…仕事にも行きたいし』

《そのことなんだけどよー》

『…?』

《寿退社してもらったわ》

『…は?』

《お前、そろそろ妊娠するだろーしな》

『え…ちょっとまって…嘘でしょ…』

《俺はもう二度とお前に嘘なんかつかねぇ》

『やだ…なんで、そこまで…?』

《言っただろ お前の意思なんかどうでもいいんだよ》

『あんただって…わたしがあんたを好きな方がいいでしょ?』

《どうでもいいっつってんだろ お前はここから出られないんだ ずーっと俺と一緒、だからな》

『どうしたら…考え直してくれる?』

《なに、そんなに嫌なのか?》

『…』

《そうだな…それなら、"わたしとずっと一緒にいてください"って言えよ》

『え…』

《言ってくれたら、仕事もしばらくは続けていいぞ どうする?》

『…』

《言いたくねーよなぁ?わかるぜー?お前の気持ちはさ》 

『…』

《もうおとなしく俺の側にいろ な?》

『俊樹…』

《ん?》

『ふざけんな!!』

《…ってぇ…相変わらずおてんばだなぁ?》


キスしようと顔近づけたら

頭突きしてきやがった…ふっ…

そうそう、こういうところも好きなんだ


『わたしの人生はわたしのものなの あんたのものじゃない 今までのことは許すから

早くこれ外して!!』

《嫌だね》

『それならいい わたし、もうあんたと口きかないから』

《へぇ?できるのかぁ?》

『…』

《ふっ…頑張れよ?すぐに口きかしてやるからよぉ》

『え』


《お前の好きなとこ、ぜーんぶわかってるからなぁ

ほら…ここ、とかよぉ?》

『…っ、く、』

《ここ、なんかどうだぁ?》

『や、…』

《でも、お前が1番好きなのはー…

ここ、だよなぁ!?》

『…!!!ん、ぁ…』

《可愛いなぁ、お前は 我慢しろよぉ?できるんだもんなぁ?》

『ぁ!やだ、だめ…そこ、やめて…っ

あぁっ…』


ーーーーー


《ったく…全然我慢できねーんだもんなー

可愛いけどよー》

『…』

《俺はいいぜー?そのままでも

もっかいヤルか…よっと》

『ちょ…休ませ、て』

《嫌だね》


『あああっ、ゃ…もうむり!!むり、だからぁ…っ』

《俺はまだイキ足りねぇんだよ…っ》

『むりむり…!やだぁ!!…っく…んんんんっ』

《あーあーかーわいいー》


ーーーーー


『はぁ…はぁ…休ませて…』

《仕方ねぇなー

あ、そうだ 飯なんだけどよー さすがにあの店は無理だったけど、もう一つ お前が行ってみたいっていってた店のデリバリー頼んであんだよ》

『…』

《一緒に食おうぜ?かつサンド》

『!!!もしかして、あの…?』

《そうだよ》

『…食べる』

《だよなぁ 食べたがってたもんな

あ、ちょっどいいタイミングだ 待ってろ》


《ほら 外してやる》

『いいの?』

《いいよ お前がよろこぶ顔が見てえだけだし》

『…』

《逃げねぇんだな》


な?こう言えばお前は逃げ出すなんてしないもんな


『…おいし』

《…ふっ》

可愛いなぁ ほんとに

うまそーに食ってる 


俺だって、ここまでやりたかったわけじゃねーんだ

お前がずっと俺だけのものでいてくれるなら

それでよかった


どん底まで嫌われたとしても…な


『はぁ…おいしかったぁ』

《そら何よりだ》

『あれ、ねぇ あんたは食べないの?』

《お前のために買ったんだ 俺はいい》

『…』


《それより、ほら もう動けるだろ 落ち着いたら

シャワー行こうぜ》

『…うん』


シャワー浴びて、髪乾かしてやって…


あー…またこうしてこいつと一緒にいられるんだなー

無理やりにでもこうして連れてきて良かった


!!!…っ、はえぇだろ…

半月は先だと思ってたのに…

くそっ…

『…ねぇ、なんか顔色悪くない?』

《あぁ?別に ちょっと寝不足なだけだ》

『…』

《そろそろ寝るか 疲れた》

『うん…』


はぁ、…っ


あぶねぇ…こいつにバレねぇようにしねーと


寝付いたか…?


薬飲まねぇと…くそっ、いてぇ…


…ふー…これでしばらくは…


『ねぇ、今…何飲んだの?』

《なっ!?》


【梨沙point of view】


たまに見せる優しい顔…あの頃のまま…

わたしがご飯食べてる時

髪乾かしてくれてる時

本当は昨日の運転中の顔…

わたしが好きな俊樹がそこにいる


それなのに、やってることは真逆で…

わけがわからない…


でも、ご飯食べてから拘束されることもなくて…

何考えてるんだろ…

これじゃあ、すぐに逃げられるのに


それにおかしい…

飲み会の時も、今も、全然食べてない

たまに辛そうな顔してるし…


いつもだったら、まだ寝る時間でもないし…

寝たフリしてたら、部屋を出ていった


…息が荒かった…わたしには隠そうとしてたようだけど…

どこか痛いのかな…


何か…飲んでる?薬の袋が見える


『ねぇ、今…何飲んだの?』

《なっ!?お前…寝てたんじゃねーのかよ…》

『見せて』

《何でもねぇ 早く部屋に戻れ》

『俊樹!』

《!》

『何を隠してるの?ちゃんと話して』

《何でもねぇから…な?戻るぞ》

『妻なんでしょ?わたし ちゃんと話して?』

《…はぁ 俺、余命半年なんだよ》

『…は?』

《肝臓がちょっと…な どうせいなくなるなら、

お前に何か残してやりたくてさ》

『ちょっ、ちょっと待ってよ…』

《んだよ》

『…治療、してるんでしょ…?』

《するわけねーだろ》

『なんで…』

《移植しないと助からねぇのに、身寄りがいねーのはお前も知ってるだろ

生きててもいいことねーもん あんだけ嫌われることしといてお前の心は俺のもんにはならねーのは

分かってるし

病気がわかったから別れたんだけどな

余命、なんて言われたら

最期にそばにいたくなった》

『…ふざけんな…』

《すまねぇとは思ってるよ》

『違う!!勝手に決めつけないで!』

《…は?》

『明日病院に連れてって』

《いいって 俺は…》

『連れていきなさい!』

《…わーったよ だから話したくなかったんだ》

『最初から話してくれればよかったじゃない…』

《そんな顔するだろ、お前は…》

『監禁するのはいいっていうの?』

《いずれ俺はいなくなるんだ 恨んでくれてよかった そうしたらすぐに忘れられるだろ》

『馬鹿じゃないの…!!』

《泣くなよ…悪かったって…

でも、俺がお前にできることなんか、これぐらいしかなかったからよ…》


視線をそらしてぽつぽつと話している彼が

いつも自信満々でイキってる彼とはまったく違く見えて

放っておけるわけがなかった


《お、おい…?》

『わたしが…そばにいるから…』

《…》

こうして抱きしめておかないと…

どこかに行ってしまいそうで…


《…はぁ…あ、そうだ 仕事は辞めさせてねーよ》

『…え?』

《籍は勝手に入れたけど、

新婚旅行に行くとか言って2週間くらいならいいかと思って有給申請しただけだ

辞めるのは俺 こうなったらもう働けねーからな

あと、保険金の受取人はお前にしてるし、

これからの生活に困ることはねーと思うぞ》

『そんなことにはさせないから』

《はぁ…あのなぁ…》

『わたし、ドナーになる 検査してもらう』

《駄目だ》

『どうして!?』

《万が一適合したとしても

お前の体に傷をつけることになるし、

肝臓だって1つになれば今後何かあった時にお前が…》

『あんたが…いなくなる方が嫌っ!!』

《…!!》

『1人に…しないでよ…』

《…だから言いたくなかったんだよ…》

『あんたが友達に手を出して1人になるようにしたんじゃない…

いなくなっちゃうなら何であんなことしたのよ!』

《あの女どもは…お前のことを陥れようとしてたんだ》

『…え』

《篠塚いるだろ》

『うん』

《あいつら、篠塚に手を出されてたのに急にお前のことを好きになったからってこっぴどく振られたんだよ

その頃から、陰でめちゃくちゃ悪口言いまくってたんだ

俺、それ聞いちゃってよ ミスを押し付けちゃおうよ、なんて言ってたから むかついてさ》

『そう、だったの…』


確かに、思い当たる節はあった

いつからか、ランチに誘われることがなくなって…

ハブられてるとまでは思ってなかったけど…


《ま、あいつらが辞めても仕事に全く支障がなかったの知ったら顔真っ赤にして乗り込んでくるんじゃねーか? ざまあねぇな》


いい顔してる…こういう時の俊樹はある意味無敵だ


『ねぇ…』

《んだよ》

『これからは何でも話して』

《…》

『今は痛いところ、ない?』

《大丈夫だ》

『休もう?明日は病院行くんだし』

《…あぁ》


次の日、さっそく病院に行って病状を話してもらって検査した



【1年後】


『俊樹!遅れる!』

《わーってんだよ、うるせぇな…》

『あ!!指輪置きっぱなし!忘れないで!』

《へいへい…》


あれから、ドナーとして適合したわたしと俊樹は

手術を受けた

先に退院したわたしは、彼が帰ってくるまで

少しずつ環境を整えながら仕事にも復帰した


それから7ヶ月後、彼も退院して

無事に寛解ということになった

完治まではまだしばらく検査があるけど

元気に戻ってこられてよかった


彼も職場に復帰できることになって、

夫婦でバリバリ働いている


そろそろ子どもも欲しいけど…

仕事もしてたいしー…なんて幸せな悩みを抱えている




《なんだよ、じーっと見て 惚れた?》

『うん!愛してるっ』

《…ばーか》

『なによー!』

《愛してるぞ…俺も…》

『え?なに?』

《お前っ!!!二度と言わねぇ!!》

『ちょ!?なによー!?なんて言ったのー!?

もう1回言って!!』

《うるせぇ》


…ほんとは聞こえてたけど


この生活ができるようになって

本当によかった…だって、ずっと…


ずっと大好きだったから



タイトル〘キミのためにできること〙


 

                    Fin…


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