ウソとホントの落としどころ
「2番目に好きになったやつと付き合ったらうまくいくっていうじゃん
だから俺、今の彼女と付き合ってんだわ」
職場の飲み会中、
化粧室から帰ってきた私が聞いたのは
紛れもなく、"私の彼氏"が言った一言だった
え…?
2番目…ということは、1番がいるってこと?
はぁ…!?
《ん?どうかしたの?美奈?》
〔あ…ううん お酒おかわりしようかなって思って〕
《えー?飲みすぎじゃない?大丈夫?》
〔今日は飲みたい気分なの!水割りくださーい!〕
《もう…しょうがない…潰れたら連れて帰ってあげるから!飲も飲も!わたしには烏龍茶くださーい!》
彼女は田口梨香 同期である
私と彼…山本哲平が付き合ってることは梨香には内緒にしているから
さっきの哲平の発言を気にすることもなく
私の面倒を見てくれている
《ほんとに潰れるまで飲んじゃったのぉ?…
ねぇー美奈ぁ!起きてよぉー帰るよぉ》
『どーした?あ、なんだよ…中田のやつ飲みすぎたのか 俺が送っていこうか?』
《小松くんが送っていったら狼になるでしょ!
だめー!》
『ならねぇよ!寝てる女に手ー出すほど飢えてねぇの ほら、タクシーまで運んでやるから…』
「ちょっと待った!!」
《あ、山本くん》
「ったくコイツは…いい、俺が連れて帰る」
《え?》
『は?』
「小松!コイツ、俺のだから 触んじゃねぇよ」
『は!?ちょっと待て…じゃ、じゃあ…さっき言ってた…2番目がって話…あれ、中田の事なのか?』
「?そうだけど」
『じゃあ、そのせいで中田は潰れるまで飲んだってことか?』
「は?」
《…これさ…山本くんが連れて帰ったとするよ?
美奈が目を覚ましたときに、あの発言を思い出した美奈はどうすると思う?》
「は?別にどーもしないだろ」
『…やべぇな、まじで』
「?お前らさっきから何言ってんだ」
《本当にわからない?》
「わからないも何も、好きだから付き合ってんだし何が不満なんだよ」
《…》
『…1番好きなやつって誰なんだよ』
「は?」
『だってそういうことになるだろ 2番目が中田ってことはもっと好きなやつがいる、もしくはいたってことになるんじゃねぇの』
「…」
《…》
「いやいや、ちょっと待てって なんでそうなるんだよ 俺は…」
〔うるさいなーもう…気持ちよく寝てたのにー
寝てらんないじゃん〕
《美奈…》
「あ、起きたのか 飲みすぎたんだって?帰ろ…」
〔何で山本と帰らないといけないの〕
「は?」
『あー…俺が送ろうか?』
〔潰れてないから平気よ こんなもんじゃ酔わないの 私は!じゃあねー あ、梨香 またね〕
《あ、うん…気をつけてね!》
「おい、ちょっと待てって…」
〔触らないで〕
「美奈!」
〔…〕
あんな態度を取らないと泣いてしまいそうだった
そっか…1番がいるのかー
うまくいってると思ってたのになー
そう思ってたのは私だけだったかー…
大粒の涙がとめどなく溢れてきて
あー彼のこと大好きだったんだなぁ、なんて改めて思い知る
今までの哲平とのことを考えながら
確かに幸せだったはずなのに
この1年って何だったのかな なんて思いながら
早歩きで帰った
スマホには通知がたくさん来ていたけれど
誰の連絡にも返す気にならなくて
シャワーも浴びずに
ベッドに飛び込んだ
【哲平point of view】
「なんなんだよ…返事も返してこねぇし」
『この状況で返ってくるわけないだろうよ』
《わたしもそう思う…》
「…」
《その彼女が近くにいるなんて思わなくて…
いないからそんな話ししてたのかと思ってた》
『そりゃそうだよな そもそも、どこで聞かれるかわかんねぇのに何でそんな話ししたんだよ』
「何でそんなに大事になるんだよ…俺は美奈を選んでるんだし、うまくやってるんだから気にする必要ないだろ?」
《…今頃、泣いてるんじゃないかな》
「は…?」
『家とか寄った方がいいんじゃないのか?
拗れたら大変だろ』
「いやいや大げさだろ…?」
《…》
『…』
「行ってくるわ」
《うん…ちゃんと説明してあげて》
アイツが告って来てくれた頃は、そりゃ確かに…
そうだったんだけど…
でも!今は美奈と付き合ってるわけだし
美奈だからこんなに長く続いてると思ってるのに
そもそも、何でそんな会話になったかって言ったら
相手が誰かは話してなかったけど
俺に1年前から彼女がいるのを知ってた後輩が
うまくいく秘訣教えてください!なんて言うから
「2番目に好きになったやつと付き合ったらうまくいくっていうじゃん
だから俺、今の彼女と付き合ってんだわ」
って、そう言っただけなんだ
その後
「大好きな女の子と付き合えてほんとに幸せだ」
って、俺ちゃんと話したし…
秘訣教えろって言われたって
本人を目の前にしたら照れるから
アイツがトイレか?どっか行ったから話してたのに
まさか聞いてたなんて思わなかった
聞かなくていいところだけ聞いて
肝心なところ聞いてねぇんだよな
はぁ、はぁ…
走って来たから、息が切れる…
"ピンポーン"
…出ねぇな
鍵閉まってる…いつも閉めねぇくせに
こんな時だけきっちり閉めやがって…
"コンコンコンコンコンコン"
「美奈、俺ー開けろよ」
…居留守使ってんのか?
"コンコンコン…"
"ガチャ"〔うるさい〕
「返事も返さないし、ドア開けないからだろ」
〔何しにきたの〕
「美奈と話しに来たんだよ」
〔話すことなんかない〕
「美奈にはなくても俺にはあんの」
〔…何、別れ話?〕
「は?」
〔聞きたくない…そんなの…やだ…〕
「そんな話しするわけないだろ…」
〔…え〕
「早くチェーン外せ 入れねぇだろ」
〔…〕
チェーンを外して開かれたドアを強引に開けて中に入る
「早とちりしてんじゃねぇ」
〔…あんな会話してる方が悪い〕
「…お前の前で言えるわけないだろ
うまくいく秘訣なんか」
〔え?〕
「…あーーー…ったく…あのなぁ…俺が言ったのは
あの頃の事なんだよ」
〔1年前?〕
「そう 別に今お前の他に好きなやつがいるとか、そういうんじゃねぇ
ってか、そんなのお前が1番わかってるだろうが」
〔わかんないよ…〕
「はぁ…美奈が潰れたと思って
今まで隠してたのを解禁してまで部屋に送ろうとしてたってのに」
〔…話してよかったの?〕
「別に困ることなんかないからな
そもそも、美奈が嫌がったから話してなかっただけで 俺はいつだってお前のことを他の野郎どもに
触らせないように牽制したかったくらいだし」
〔哲平…〕
「…やめろよな 名字で呼ぶの 傷つく」
〔ごめん〕
「わかってくれた?俺がどんだけお前のこと愛してるか」
〔…ん〕
「で?他に本命がいたらどーしてたわけ」
〔それでもね…どうしても別れたくなくて…どうしよう、って思ってた〕
「それならいい 美奈に別れようなんて言われたって別れねぇけどな」
〔哲平…〕
「ったく ひでぇ顔してんぞ ほら、風呂入るぞ」
〔うん〕
普段から泊まったりしてたから着替えもあるし
今日も泊まるつもりで来た
一緒に風呂入って
ベッドに寝転がる
〔ねぇ〕
「なに」
〔1年前ってさ〕
「相手が誰かなんて聞くなよ」
〔…〕
「今はお前しか好きじゃねぇ 信じらんねぇの?」
〔信じてるけど…気になるよ…〕
「お前が知らねぇやつだから安心しろ」
〔…そっか それなら…うん 知り合いだったらどうしようかと思った〕
「んなわけねーだろ」
〔よかった…ごめんね 拗ねちゃって〕
「いや…俺が悪いからな いい」
〔ねぇ、明日デートしよ?〕
「いいぞ どこ行きたいか考えとけよ」
〔うんっ!!〕
…これだけは言えない
嘘ついてわりぃとは思うけど
安心してほしいから
…カーテン開いてる まぶし…
〔おはよー哲平〕
「なに もう起きんの?」
〔よく寝たーって思ったけど、5時だーまだ早いね〕
「んー…もう少し…」
〔うん!〕
【美奈point of view】
可愛いんだよねぇ
哲平の寝顔
いつも眉間にシワ寄ってるイメージなんだけど
寝てる時はね
子どもみたいなの
〔ふふ…寝癖ついてる〕
髪を撫でる
「んん…り、か…」
〔…へ?〕
「…すき、だ…」
やだなぁ…哲平…
私の名前、美奈だよ…
誰の夢、見てるの…?
りかって…誰?
ねぇ…もしかして梨香のことじゃないよね…?
お願いだから…違うって言って…
知らない人、なんだよね…?
信じて…いいんだよね…?
「…きろ、起きろって…
おーい いつまで寝てんだよー」
〔え…あっ!〕
「昼になっちまったな、わりぃ…寝すぎた」
〔ごめーん…私も…〕
「外どーする?行かねぇの?」
〔あ、行くよ!お腹もすいたし〕
「何食うー?俺何でもいいぞ」
〔…メイクしてくる〕
「おう」
夢だったのかな…
あの名前聞いたの…
もう、わかんないや…
忘れよう
今の哲平のことだけ考えよう…
そうしよう…
〔次はーあのお店行こう!〕
「元気だなーいいけど あ、これ可愛いじゃん」
〔え?〕
哲平がワンピースを見てる
白いワンピース
私、そういうの着たことないよ?
梨香なら…似合うね それ
「美奈、おい」
〔え?〕
「さっきからボーッとして、どーしたんだよ」
〔あ、ごめんごめん あ!そうだ!梨香たちも呼ぶ?〕
「は?なんで」
〔ほら、昨日迷惑かけちゃったし…〕
「やだ」
〔やだって…〕
「邪魔だろ あいつら来たって」
〔…〕
「ほら、美奈が好きな…ケバブ!食べに行こうぜ
確かこっから近かったよな?」
〔うん…〕
どうして?今会ったら、態度に出ちゃうから?
だから会いたくないの?
【哲平point of view】
まだ何か気にしてんのか?
もしかして、なんか疑われてんのか…?
急にアイツら呼ぶとか言い出すし…
とりあえずケバブを食べに来たのはいいけど
どーすっかな…
どう言えば、安心させてやれるんだろ
とりあえず
ちゃんと話さないとな
下手に隠し事しようとするから
不安になるんだよな…
「なぁ、美奈」
〔ん?〕
「食ったら帰るぞ」
〔え?〕
「俺さ、ちゃんと話すから 聞いてほしい」
〔哲平…うん、わかった〕
「さて、買い物だけして帰るぞ」
〔うん〕
途中で外に出なくてもいいように、食料やらいろいろ買い揃えた
さて…
作戦なんかない
俺の気持ちをぶつけるしかない
結果なんか考えたら
悪いほうに流れそうだから
ちゃんと話すから 聞いてくれよ
「どっから話せばいいか…まず、そうだな
美奈が告白してきてくれた日に何があったのか聞いてくれるか?」
〔え?…うん〕
「あの日はさ ちょうど、じゃんけんで負けた俺と梨香ちゃんで飲み物買いに行っただろ
覚えてるか?」
〔うん〕
「それでな、その時相談されたんだ」
〔え?〕
「誰かは伏せておくけどさ 好きなやつがいるって言われた」
〔うん…〕
「その時さ、あー…終わったなーって思ったよ」
〔やっぱり…梨香だったんだね…〕
「なんだよ、やっぱりって 気づいてたのか?」
〔…寝言で言ってた りか、すきだって〕
「は!?寝言!?いつ?」
〔朝 二度寝してる時〕
「いや、違う…あれは、そうだ!
たしか夢を見てたのは覚えてる 内容も
美奈と話してたんだ 夢の中で」
〔え?〕
「夜と同じ状況で梨香ちゃんが好きだったってさ」
〔好き、だった…?〕
「夢の中ではちゃんと説明したのに、昨日ははぐらかしちまって悪かった」
〔…うん〕
「あ、話しがそれたな それで、その後
美奈が気持ちを伝えてくれて
あの時、俺なんて言ったか覚えてるか?」
〔…中田のことを、すぐに好きになれるかわからんけど、それでもいいなら 付き合うか?って〕
「うん でもな その後、美奈が笑顔でありがとうって言ってくれた時にさ ドキっとしたんだ」
〔え…〕
「やべ、好きかもしれねぇって思った」
〔哲平…〕
「その時から、お前のとなりに誰かが立とうとしたり、触れようとする度にイライラするようになって 妬きもちなんだって思った時には、みんなに美奈は俺の彼女だって言いたくてたまんなかったけど
誂われるのが嫌だからって、美奈がいうから我慢してた」
〔…そんなふうに思ってくれてたの?〕
「俺、ずーっと愛してんの お前のこと」
〔哲平…!〕
「昨日はさ、別に今好きなのはお前しかいねぇのに何をそんなに…って思ってたけど、反対の立場なら
ブチギレてるな、俺 悪かったよ」
〔うん…〕
「ずっと、安心させたかった 梨香ちゃんだって
わかったら傷つけると思ったから
でも隠されてる方が嫌だったんだろ?」
〔うん…知らない人だって言われても、やっぱり気になってたし…〕
「すまん これからはきちんと話す
お前だけをずっと見てる
だから 許してくれないか?」
〔…ごめんなさい〕
「え?」
〔寝言を言った時も、ワンピースを見て可愛いって言ったときも、疑ってた…私じゃなくて、梨香がいいんでしょって…〕
「ワンピース?なんだそれ」
〔え?〕
「?何の話ししてんだ」
〔ケバブ行く前に寄ったお店で、可愛いって言って眺めてたワンピースあったじゃない!白い…〕
「あー!ちげぇよ!」
〔え?〕
「美奈ワンピース着ねぇじゃん 俺が見てたのは、そのマネキンがつけてたネックレスだよ!」
〔…どんなのしてたっけ…?〕
「…これだよ」
〔え?え!?〕
ガサガサと紙袋から出したのは…薔薇のチャームが
ついたネックレスだった
〔可愛い…え?いつ買ったの?〕
「…美奈がぼーっとしてる間」
〔気づかなかった…〕
「つけてやろうか」
〔うん!〕
「ほら 似合う 可愛いぞ」
〔哲平…ありがとぉー…!〕
「…慣れないことなんかするもんじゃないな
不安にさせて悪かった」
〔ううん…もう哲平のこと、疑ったりしない!
こんなに私のこと見ててくれるんだもん…〕
「だからいつも言ってんだろ
お前の事、愛してんの」
〔…私も…愛し…〕
「待った!」
〔え?〕
「今それ言われたら押し倒す自信しかねぇ」
〔…愛してる 哲平〕
「…ったく」
〔…ふふ〕
「美奈の不安をなくそうと思って話してるとこなのに」
〔もう、不安じゃなくなったもん〕
「…そーかよ」
〔大好き…哲平…〕
ーーーーー
〔ねぇ、哲平…〕
「んー?」
〔怒らないで聞いて?〕
「なんだよ」
〔もし、その時…1年前ね?
梨香が好きなのが哲平だったら梨香を選んでた?〕
「さぁな そんなタラレバ考えてもしょうがないだろ 俺が選んだのはお前なんだから」
〔…うん、変なこと聞いてごめん〕
「いや?不安になる前に聞いてくれたらちゃんと答える」
〔私、愛されてるなぁ…〕
「だからそうだって言ってんだろ」
〔ふふ うれしい!私もずーっと哲平だけだよ!〕
「おう!」
〔安心したらお腹すいたー〕
「そう言うだろうと思った
買い物してきて正解だったな」
〔うん!食べよ!〕
「おう」
〔ねぇ…〕
「なんだ」
〔私の好きなものばっかり…〕
「俺も好きなんだよ」
〔ふふ…〕
「ご機嫌さんか」
〔うん!〕
不安…消えちゃった
もう大丈夫
私、哲平にこんなに愛されてるんだもん!
幸せだなぁ…ふふっ
【梨香point of view】
あの2人どうなったのかなぁ…
まだ連絡来ない…
ん?Rileだ…
あ、小松くん
"今何してんの?暇だったら出かけない?"
うーん…
これからだと遅くなっちゃうし…
いつ連絡くるかわからないもんね
"ピンポーン"《はーい》
「おまたせ」
《おそーい…!》
「ごめんな なかなか話し合いが終わらなくてな」
《それで?どうなったの?》
「何も変わらないよ」
《よかった…2人が別れちゃったりしたら困る》
「わかってる うまくやったから」
《哲平くん…好きよ》
「俺も 梨香だけだよ」
《悪い人ね、本当に…》
「お互い様だろ」
《…食事は?してきたの?》
「あぁ 梨香は?」
《わたしは食べたから》
「じゃあ…デザートにするか」
《えっち…》
「好きだろ?」
《だーいすき…》
【↷1年前】
「買い出し、俺と梨香ちゃんか」
《うん、行こっか!》
「おう 荷物は俺が持つからさ」
《ありがとう!》
〔気をつけてねー!〕
『いってらー』
《はーい!》
「よし、こんなもんだな 帰るか」
《あ…山本くん…ちょっと、相談があるの…》
「ん?なんだ」
《あのね…山本くん、今好きな人いる?》
「…俺…君が…君が好きだ」
《わたしもね、山本くんが好き、なんだけど…》
「ほんとか!?じゃあ…」
《ちょっと待って》
「え?」
《…今日ね、美奈が告白するみたいなの あなたに》
「…え?」
《わたしが直接聞いたわけじゃないんだけどね…
美奈はわたしには何も言ってくれないから
でも、山本くんにはその告白を受けてほしいの》
「なんで…俺、梨香ちゃんのことが」
《お願い…わたし、人のモノじゃないとダメなの…》
「…性癖のようなものか?」
《…うん あー…引いたよね やっぱり忘れて…》
「いや っていうか…じゃあ俺…美奈を抱いたりしたほうがいいってこと?」
《うん…》
「そしたら梨香ちゃんと付き合えるんだよな
わかった 言うとおりにする
その代わり…」
《うん?》
「美奈とどうなったとしても梨香ちゃんとは絶対に別れない それだけは約束して」
《うん…約束する》
「わかった あとは俺にまかせて うまくやるよ」
《ごめんね 山本くん》
「名前で呼んでよ」
《哲平くん…大好き》
「俺も…梨香…大好きだ」
《ありがとう》
「俺の方こそ 帰ろう」
〔あ!山本、ちょっと話したいことがあるんだけど…今いいかな?〕
「…いいぞ」
ーー
《どうだった?》
「付き合ったよ ちゃんと」
《そっか キスとか…した?》
「うん」
《…上書きしてあげる》
「大好きだ…梨香…」
《ん…哲平…くん…》
ーーーーー
こんな関係、美奈にバレたら…
そう思えば思うほど
わたしたちの関係は強固になっていった
哲平くんがうまくやってくれているから…
《哲平くん》
「ん?」
《嫌な役をやらせてごめんね》
「いいんだよ 君がいてくれるなら」
《うん…》
「君がいてくれるだけでいいんだ」
《幸せ》
「俺も あー…」
《どうしたの?》
「君にプレゼントを買ったんだけど…話の流れで美奈に渡しちゃったんだ ごめんな」
《いいの こうして哲平くんが会いに来てくれるだけで…美奈とのことも上書きできたし》
「…ん」
《哲平くん…?》
「好きだ…」
この1年
ずっとこの関係を続けてきたけど
最近、
独り占めしたいな…なんて思うようになってきている
今までずっと "人のモノ"が好きだったのに
美奈に返したくないって
そう、思うの
勝手だよね…
この気持ち…あなたは、気づいちゃうかな
これ以上"最低な女"になりたくないのに…
「…愛してる」
《どうしたの?》
「…君だけを愛したら…だめか?」
《もしかして…気づいてた?》
「当たり前だろう?」
《…嫌われちゃうね 美奈に》
「誰も知らないとこに行こうか」
《…素敵だね》
「梨香」
《ん?》
「俺についてきてくれる?」
《…はい》
あなたと2人でいられるなら
例えそこが、地獄でも構わないーー
【美奈point of view】
〔え?小松…今…なんて言った?〕
『…山本と梨香が辞めたって』
2人が一緒かは知らないけど、
朝来たら、課長のデスクに退職届が置いてあったんだって
どういう…ことなの…?
連絡取ろうとスマホを確認すると
2人とも、Rileのアカウントが"no name"になってる
アカウントを削除したってこと…?
哲平…どうして…?
『大丈夫か?』
〔うん…もうすぐ終わる〕
『そうじゃなくて あいつらのこと』
〔…聞かないで〕
『…すまん 終わったら飯食って帰るか』
〔そだね〕
小松がご飯に連れ出してくれて
昨日のことも聞いてくれた
『じゃあ、その1番ってのが梨香だったわけだ』
〔うん〕
『で?仲直りした次の日に消えたんだな?』
〔そう…〕
『きっと一緒にいるんだろうな』
〔…〕
『別れ話とかは何も?』
〔全然…泊まらないで帰っていったけど
また明日な、なんて言って帰っていったのに〕
『昨日ならさ、俺も梨香を誘ったんだよ』
〔でかけたの?〕
『いや、返事が返ってこなくてさ
そんなのめずらしいから、気にはしてたんだが…』
〔…そっか もう、いいよ〕
『中田…』
〔…〕
『あーそういやさ アイツの癖知ってる?』
〔哲平のってこと?〕
『そう』
〔何のこと?〕
『アイツ、嘘付くときお前って言うんだよ』
〔…え…?〕
『嘘付こうとするとさ、
相手の名前が呼べないんだって』
〔そう、なんだ…〕
お前…
何回も呼ばれてた…
『山本?おーい、どうした?』
〔…あ、ごめん…帰る…〕
『おい、フラフラじゃねぇか…』
〔大丈夫だから〕
『こんな時くらい頼れよ』
〔…ん〕
お前のことをずっと見てる
お前のこと、愛してんの
俺が選んだのはお前だろ
そっか
私が欲しかった言葉は
ぜんぶ噓、だったんだね…
『俺、ずっと中田のことが好きだった』
小松に抱かれたのは私の意思だった
哲平のことを忘れさせて欲しかったっていうより
私のことを必要としてくれる人が欲しかったのかもしれない
『可愛い…好きだ…今だけでもいい
俺のことだけ考えてくれ…』
〔うん…〕
ーーーーー
『なぁ』
〔ん?〕
『俺がそばにいてやる』
〔…うん〕
『美奈…』
〔…ん〕
『…好きだ…これからも、ずっと…』
ーーーーー
結局小松の部屋に連れてこられて
小松が全然離してくれなくて
今も腕の中にいる
眠くなってきたかも
小松がいてくれるから安心してるのかな
【浩二point of view】
弱ってるとこに付け込んで
…かっこわりぃ…
美奈のことがずっと好きだったんだ
アイツら…絶対許さねぇ…けど…
戻ってきて欲しくないとも思う
戻って来たら
美奈はまたアイツを選ぶかもしれない
二度と俺たちの前に現れてほしくない
そうすれば…美奈は俺のそばにいてくれる
かもしれない
『…』
眠ってるのか
つらそうな顔して…
俺ならこんな想いさせない
おでこにキスして、水を飲みに部屋を出た
【美奈point of view】
…小松と一緒にいれば
幸せになれるかもしれない
今も、おでこにキスされた
ずっと好きだった、なんて言われて驚いた…
だって
梨香のことが好きなんだと思ってたから
梨香は本当にいい子で
優しくて、人のことをよく見ていて
自分が大変な状況にいても
困ってる人に手を差し伸べる人だった
梨香の浮いた話しは聞いたことがなかった
〔好きな人とかいないの?〕なんて聞いても
《今は仕事が恋人なの!》なんて…
言ってたのにね
それでも嫌いになんてなれないよ
梨香のことも、…哲平のことも
嫌いになれれば、楽なのにね
『あれ?起きてたのか』
〔いないから寂しかった〕
『あ、すまん…これ、水飲むか?』
〔うん、ありがとう〕
『今日はどうする?泊まってく?』
〔いいの?〕
『いいよ どうせならここに住んじゃえよ』
〔そうしようかな〕
『…離してやらないからな』
〔うん〕
ーー早いものでもう半年
〔浩二!こっちのまとめるの手伝ってー〕
『はいはい 早く終わらせて帰るぞ』
〔わかってるー〕
新しい人も入ってきて、ようやく慣れてきた
定時で帰れる日も増えてきて
私たちも
ようやく恋人になれた気がする
〔終わったぁー帰ろう!〕
『今日はさ、ちょっと予約してる店があんのよ』
〔えー?なになに?どこー?〕
『じゃーん!ここ!』
〔嘘…予約半年待ちの…!?〕
「そ!行きたがってただろ?」
〔ありがとー!早く行こっ!〕
…本当は哲平と行きたかったお店なんだけど
あの飲み会の日に梨香と話してたのを聞いてたのね
浩二との仲は、あまり変わってはいない
もちろん、恋人ではあるんだけど友達の延長にいるような…
あの日から、
浩二は私のために話し方を気をつけ始めた
"お前"って言わなくなったし
言葉遣いも少し柔らかくなっている
ありがたいことに、ずっとそばにいてくれている
私は、その気持ちに応えたいんだけど
『無理するな』って言われてる
『ただ、俺のそばにいてくれるだけでいい』
そんな風に言ってくれる彼を
大事にしたいんだ
〔おいしかったねぇ…!幸せーっ!〕
『そりゃ良かった!』
〔浩二、本当にありがとう〕
『なにが?』
〔浩二がいてくれてるから、毎日楽しいよ〕
『そっか よかったよ』
〔明日のお休みは何する?〕
『そうだなー 美奈は何がしたい?』
〔うーん…ゴロゴロ!〕
『はは、いいよ 先週は出かけたもんな
じゃあ、買い物して帰ろうか』
〔うん!〕
【浩二point of view】
…あの日から、美奈はずっと俺と一緒にいる
元気になったと思う
考え込むことも、夜中に泣くこともなくなって
…ただ、俺の方はというと…
あの時、美奈についた"たった一つの嘘"に今も苦しめられている
あんな奴より俺の方を見てほしくて
なにも知らない振りをして
…トドメを刺したんだ
『アイツ、嘘付くときお前って言うんだよ』
…傷ついたはずだ
どん底まで
だって…
俺は知ってたんだから
アイツが照れると名前が呼べなくなることを…
あの日ついた嘘が
日に日に俺の心を刺してくる
美奈が笑顔でいればいるほど
苦しくて…
それでも
手放したくなくて
そばにいてほしくて
俺の心は もう壊れてるのかもしれない
〔浩二?〕
『ん?』
〔何か軽く食べる?〕
『いや、いい 食いすぎたーうまかったな』
〔めっちゃおいしかった!
そうだ!明日ピザ頼まない?〕
『おー久しぶりだな そうしようか』
〔うん!〕
美奈、お前の心の中に、俺はいるのか?
【梨香point of view】
「梨香、ただいま」
《おかえりなさい!》
わたし達がここに引っ越してきて半年
早かったなぁ…
哲平くんが仕事に行ってる間に、
わたしは家でリモートで仕事をしている
家事もしたかったし、何よりも…
"おかえり"って言いたくて
哲平くんとの生活は本当に幸せで…
毎日楽しい
「そうだ、梨香 ちょっと座って?」
《ん?どうしたの?改まって…》
「そろそろ結婚しないか?」
《…いいの?》
「当たり前だろう?はい…
俺と結婚してください!」
取り出した指輪を、左手の薬指にはめてくれて
とても幸せでうれしかったはずなのに…
「どうかした?」
《わたしで…本当によかった?》
「俺が好きなのは梨香だけだよ」
《…うん、ありがとう 哲平くん…》
哲平くんは、嘘つきだね
そして、優しい
あの日、本当に焦ってた
わたしが嫉妬するくらい
《美奈が泣いてるかもしれない》そう言った後の
彼の顔は、心の底から心配していて
"わたしとのことがあるから別れたくなかった"んじゃなくて
"美奈と別れるのが嫌だった"んだと思った
だってね、最初の頃はすぐにわたしの部屋に帰って来てくれてたのに
段々と美奈の部屋に泊まることも増えてきて
わたしとの時間が減ってきてたんだもの
美奈のことを、"本当に"好きになったんでしょう?
だからわたし
美奈に返したくなかったの
わたしだけの哲平くんでいてほしかった
美奈のことを傷つけて
哲平くんの優しさを利用して…
そんなわたしが、
幸せになっていいのかな
わたしだけが幸せに…
それでも、美奈に返すなんて絶対に嫌だった
それなのに
迷っている
このまま、哲平くんをわたしに縛りつけていていいのかなって
「梨香」
《ん?》
「愛してる」
《わたしも…あい…》
「…梨香?」
言葉が…出てこない
喉に張り付いているようで…
どうして…
《哲平くん》
「どうしたんだ?」
《…》
「梨香?何で…泣いて…どうした?」
《…別れてください》
「…え?」
わたしは
嘘をついたーー
【哲平point of view】
何で…どうしてなんだよ…
幸せに暮らしてたはずなのに、
《…別れてください》
「…え?いやいや、待ってよ 何でいきなり…」
《人のモノじゃないあなたに飽きたの》
「…」
言葉が出なかった
確かにその話しは聞いていたし、理解もしていたつもりだ
だからって…
じゃあ、どうしてアイツから離れる選択をしたんだよ…
やっと俺を選んでくれたんだと思ってたのに
なんで…
《…指輪まで買わせてしまったのにごめんなさい
今月末には出ていくから、もうしばらくはここにいさせてください》
「俺はまだ了承していない」
《わたしの気持ちは変わりません》
「…あの時した約束は?」
《…》
「梨香とは絶対に別れない 約束してって
そう約束しただろう?」
《…そうだね》
「俺、絶対に別れない 離さない」
《哲平くん…》
「出ていくことも許さない」
《1つだけ、聞いていい?》
「なに?」
《あなたが本当に愛しているのは…誰?》
「そんなの、初めから1人しかいない
梨香だけだよ 俺には
だから…泣かないで」
《哲平くん…っ》
涙が溢れて止まらない彼女を抱きしめながら
この半年間
俺の知らない悩みとかを抱えていたんだろうなって
愛してる子の揺らいでる気持ちに
まったく気づけなかった
「…落ち着いた?」
《ごめんなさい…嘘ついて》
「…はぁーよかった…嘘、だったんだな?」
《…うん》
「どうして?急に離れようとしたの」
《…美奈から、奪ってしまったから》
「違う」
《…》
「美奈には悪いことをしたと思ってる
だけど、俺がずっと好きだったのは君だけだよ」
《…本当?》
「うん 美奈のことを好きになったと思った?」
《…うん あの日、本当に心配していたから…》
「あれはさ…2番目って言葉から梨香とのこともバレたらどうしようって思ったんだ」
《…え?》
「たぶんだけどさ
俺が梨香のことをずっと好きだったことを
美奈は気づいてたんだと思うんだよ」
《…そうなの?》
「あの頃さ、美奈が何かにつけて機嫌が悪くなることが増えててさ そういう時、決まって俺が梨香と話してた後だったから」
《知らなかった…》
「大変だったんたぞ…アイツをなだめるの」
《そっか…わたし…哲平くんが美奈を好きになったんだって思って…》
「勘弁してよ…君のために頑張ってたんだから」
《…ごめんなさい!!わたしのせいで…》
「謝るのはなし 俺もわかっててやってたことだから それにさ」
《ん?》
「君が妬きもち妬いてたのも可愛かったし」
《…!!!気づいて、たの…?》
「気づかないわけないでしょ
君の可愛いところを見逃すわけないから」
《…愛してるっ!》
「やっと言ってくれた」
《ありがとう…哲平くん》
「どういたしまして これでやーっと、俺の奥さんだね?梨香」
《うんっ!》
アイツのことを好きになってても
梨香にはバレないまま過ごしてきたと思ってたのに
はぁー危なかった…
別れられるかと思った
俺、美奈とのことがあったから
嘘つくのも、話し合わせるのも慣れちまったんだな
正直、自分でも自分の気持ちがわからなくなることがある
嘘をつきすぎた代償かもな
それでも梨香を手離すわけないっての
もう美奈とも会えねぇってのに
これで梨香も安心しただろ…
【美奈point of view】
〔浩二、このエビがたくさん乗ってるやつにして正解だったね!〕
『ほんとだなーうまい!次は蟹のピザにしてみるか?』
〔うんうん!きっとおいしいよ!〕
『ほら、ポテトまだあるぞー』
〔ありがと!あ、そうだ〕
『ん?』
〔ちょっと耳貸して〕
『2人しかいないのに何で?』
〔いいから!はやく!〕
『なに?』
〔私と結婚してください〕
『…へ?』
〔聞こえなかった?
結婚してくださいって言ったの〕
『いや…聞こえてるよ』
〔なんだーもう!返事、聞かせて?〕
『…はい よろしくお願いします』
〔よかったぁ!〕
『ちょっ、耳元ででけぇ声出さないでくれ』
〔あ、ごめーん〕
『っていうか、そういうの俺から言いたかったんだけど』
〔浩二のこと待ってたら何年も待たされそうなんだもーん〕
『…あーまぁな』
〔気にしすぎなの!浩二は!〕
『…美奈のことなんだから当たり前だろう?』
〔私はとっくに浩二じゃなきゃだめなのにー〕
『…!』
〔これからも…ずっとそばにいてね?〕
『…うん…』
〔泣かない泣かない〕
『幸せになろうな これからも、ずっとさ』
〔なれるよ 浩二と一緒なら〕
『…あぁ 幸せにする』
浩二、ずっとそばで支えてくれてありがとう
…
たくさん嘘ついてごめん
哲平が戻ってこないなら…
"誰でも"よかったの
私は大事にしているあのネックレスを触りながら
あなたに抱きしめられている
タイトル〘ウソとホントの落としどころ〙
Fin…
こちらの記事はnote様で同一名義にて投稿しております。
再編集して投稿しております。




