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読み切り短編集  作者: おしるこ


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52/61

君の笑顔が好きだから

「こいつはさぁ、爪も綺麗にしないし化粧もしない ほーんと、色気がねぇよなぁ」


…この人は何を言ってるんだ…

高校時代のみんなの憧れを掻っ攫っておいて

まだ3年しか経ってないのに

もうこの言いよう…

夏さんはずっと、笑顔が素敵で綺麗なのに


俺達は社会人野球チームのメンバーに所属している

ほとんどは同じ高校からの持ち上がりメンバーだ

先輩が野球チームを作ったんだ

俺も、夏さんがいたからこの会社に就職した

今日は先輩の家で飲み会が開かれている


そんな先輩は…夏さんではない女をとなりに座らせてとても上機嫌だ


「それに比べて、うちのチームのマネちゃんは可愛いよなぁ?若いし!可愛いし!今日のネイルもセンスいいしなぁ」


…みんなも一緒になって笑っている

目の前で笑顔でじっと耐えてる夏さんを、

飲み物を持ってくる名目で連れ出した


〔大丈夫ですか…?〕

《うん、いつものことだから平気》

〔あんな言い方しなくても…〕

《…みんなと飲めて楽しくて調子に乗っちゃってるのね、きっと

私は気にしないから ありがとね!竜樹くん》

〔いえ…〕

《さ!飲み物も出来たし、戻ろう!

竜樹くん、全然食べてないんじゃない!?

私が作ったんだから、たくさん食べなさいね!》

〔…はい!〕


気にしない、って顔じゃないのに…


「おい、竜樹!」

〔はい〕

「遅かったじゃんか!これ食えよ!

マネちゃんが作ったんだって!うめぇから!」

〔え?でも、これは…〕

「ほらほら!取っといてやったからな!」

〔あ、はい いただきます…〕


この人は、夏さんが作った料理の味もわかんないのか?

あんなゴテゴテのネイルしたやつが料理作れるわけないだろうに…


その後も、先輩は人目も憚らずマネージャーの髪を触ったり顔を近づけたりしてイチャイチャし続けた


1時間程してお開きになったけど、

先輩は夏さんを置いて

他のメンバーたちと二次会にでかけてしまった


《あれ!?竜樹くん、行かなかったの?》

〔えぇ、片付けもありますし〕

《やだ、私がやるからいいのよ!

まだ間に合うでしょ 行っておいで!》

〔こんなにあるのに…一人でなんて大変ですから

…誰も手伝わないんだもんな〕

《いいのいいの!いつものことよ》

〔夏さん…〕

《んー?》

〔どこが良くて付き合ってるんですか?〕

《…難しいこと聞くね》

〔あんな言われ方してるのに…いつまで耐えるんです?〕

《私ね そんなに弱くないから、安心して》

〔…何かあったら、いつでも言ってください〕

《ありがと!手伝ってくれるんでしょ?

ちゃっちゃと終わらせよ!》

〔はいっ!〕


あの人数分の皿洗いと、残飯の処理

ゴミも片付けて…二人でやったのに1時間もかかった

…どうして、夏さんがこんな思いさせられてるんだよ


〔じゃあ、俺帰ります ごちそうさまでした〕

《ありがとうね!ごめんね、こんな時間まで》

〔いえ、したくてしたことですから では…〕

《竜樹くん》

〔はい?〕

《ごちそうさまって言ってくれたの、君だけだよ

ありがとう 報われた気がする》

〔嘘でしょ…〕

《言ってほしかったわけじゃないから、もういいの でもうれしかったーありがと!じゃあねー》

〔…はい〕


何なんだあいつら…

このチームやめようかな…

そんな気にさせられた


【次の日】


「おい!」

〔おはようございます 先輩〕

「あいつ、どこ行ったか知らねぇか?」

〔あいつ?〕

「夏だよ!!」

〔え?一緒じゃないんですか?〕

「俺が帰った時にはもう家にはいなかった

どっか買い物でも行ってんのかと思ってたんだけど…俺寝ちゃってさー

起きたらいねぇし連絡がつかねぇ」

〔…先輩〕

「なんだ?」

〔出ていかれてもおかしくないことしてた自覚あります?〕

「…は?」

〔一生懸命作った料理も、他の女が作ったことにされて 自分の目の前で散々他の女とイチャついて…

朝帰りならまだしももう昼前ですよ…

俺だったらぶん殴っても足りないぐらいですね〕

「いや、あれは…」

〔先輩、自分の彼女が作った料理の味もわかんないんすか?それに…料理もしないんですから、あの子がネイルしてたり、化粧ばっちりしてるのはおかしくないですよ 夏さんが何人分作ってくれたと思ってんですか…この暑い時期に、15人分ですよ?

ネイルなんかできないし、化粧だって取れますよ…〕

「…お前、もしかして夏のこと…」

〔はぁ…そんな考えしかできないんですか?〕

「んだとぉ!?」

〔正直引きました チームも会社も辞めてもいいと思ってます〕

「おい、それは…」

〔じゃ、失礼します 夏さんもいないんじゃ、

こんなとこいる意味ないですし〕

「おい!ちょっと待てって!」


さて…夏さんを探さなきゃ…


電話…出てくれるかな…

《はーい?》

〔あ!夏さん!出てくれた!〕

《どうしたのー?》

〔先輩に文句言って辞めてきちゃいました!〕

《え!?ちょ、ちょっと待ってよ…》

〔すっきりしたんで、会ってもらえませんか?〕

《会うのは構わないけど…辞めたのはどうして?

もしかして私のせい?》

〔違いますよ 嫌になっただけですから

それに…誘われてるんです 〇〇に〕

《あの強豪に!?すごいじゃん!竜樹くん!》

〔えぇ、だから…迎えに行きますから〕

《…うーん》

〔だめですか?〕

《私がそばにいても、何も役に立てないよ?》

〔そばにいてくれるだけでいいです〕

《…》

〔迎えに行きますから、位置情報送ってください〕

《…うん》


俺は送ってもらった場所に急いだ




〔夏さん!〕

《やほ》

〔好きです…俺と付き合ってください!〕

《うーん》

〔俺、夏さんを守ります お願い…〕

《うん…ありがとう よろしくね》

〔はいっ!!〕


【夏実point of view】


ほんと…何で付き合ってたんだっけ?


あぁ…

ちょっと口が悪いところも

後輩への面倒見がいいところも

笑顔がかっこいいところも

全部好きだったんだ


付き合い始めは私にべったりで、嫉妬深くて

私のこと褒めて褒めて褒めまくってくれてたのに

1年経った頃からこれだもん


今度はこのマネちゃんかぁ

この子で何人目だっけ


でも、私だって泣き寝入りなんかしない


これの片付けだけしたら出ていくし

準備も出来てる


こんな指輪も、もういらない


…片付けなんかしないでそのまんま出てきてもよかったんだけどねー

竜樹くんが手伝ってくれるって言うから


竜樹くんは本当にいい子

いつも気にかけてくれるし、

こうして手伝ってくれる

もしかしたら私のこと…?なんて思うこともあるけど


ううん、そんなことあるわけがない


チームの要だし、これからもっともっと有名になる

そうしたら引く手あまただろうし

何より…

邪魔、したくない


そう思ってたのに…


なぜか、私は

今彼と一緒に住んでいる


あの日、部屋はこれから探すと言ったら

問答無用で彼の部屋に連れてこられて

ここで一緒に住みましょう!なんて言うんだもの


《待って!いきなり一緒に住むなんて…まだ付き合ってもないでしょう?》

〔さっき、よろしくって言ったじゃないですか!〕

《いや、それは…》

〔わかりました!結婚して下さい!!〕

《へ!?》

〔そうしたら一緒に住めますし!ねっ!〕

《えぇ!?そんな大事なこと、ノリで決めたら…》

〔…心外です 俺、ずっと夏さんが好きだったのに〕


いきなり真剣な眼差しで言ってくるから…

何も言えなくなっちゃって

〔コレにサインして下さいね〕

《え?》

半分記入済みの婚姻届を渡された


こうして、私たちは

"0日婚"をしたーー


竜樹くんは、SNSで

〇〇会社に勤めることになったことと、

結婚しましたーー 

とだけ発表して

私のことは徹底的に隠している


新しいチームの人には紹介してくれたけど、

メディアの人たちは

私のことはチームのマネージャーの1人くらいに

思ってると思う


とても大事にしてくれている

試合が終わって疲れてるのに、

家事も手伝ってくれるし、私の顔を見て

何かあった?って察知してフォローもしてくれる


こんなに大切にしてもらっていいの…?って思うくらいに

幸せな日々を過ごしている


そして、ついに古巣との試合の日ーー


私は家にいるように言われてるから、動画で観戦していたけど

大差で勝ってた!


目の前で応援したかったなぁ…

美味しいもの、作って待ってようっと…


【竜樹point of view】


夏さんと結婚して、本当に幸せで


でも、今はまだ

夏さんをオープンにしたくないから


夏さんにいらない心配をかけないように、

SNSで軽く報告はしたし

チームメンバーにだけ紹介した


さて…

ついにこの日が来た


古巣対決


絶対に負けられない


夏さんのことは知られてるかもしれない

そう、思ってたんだけど


先輩はそんな素振りも見せず

「お手柔らかに頼むぜー竜樹さんよー」

となりにはあのマネがいた


良かった…家に置いてきて

もう悲しむ顔は見たくないから…


でも、この事が

俺の闘争心に火をつけた


もちろん最初からお手柔らかに、なんてするつもりなんかなかったけど

絶対に大差で勝つ…


そう決めて挑んだ


結果はーー


15-0で俺たちの勝ち


よしっ!!!


みんなの力もあって、勝てたぞ…


夏さんからRileが来てた

"すごいよ!大差で勝ったね!!

美味しいご飯作って待ってるね!

気をつけてね♪"


これだけで、頑張った甲斐があった…

そう思えた


初めてヒーローインタビューに呼ばれた俺は

今までに見たことがないくらいのカメラの数と

人の多さに驚いた


やっぱり強豪にもなると、こんな感じなんだな…


おめでとうございます!

今日の試合を振り返って…どの辺りがポイントでしたか?


そんなことや


先日SNSで結婚した、と報告なさっていましたが

奥様にはよろこびの想いはどうお伝えになりたいですか?


とか…


一般の方、だと伺っておりますが

どんな出逢いだったんでしょうか!?

なんて関係ない質問までされたから、

強制終了になった


なかなかめんどくさいなぁ…


早く帰りたい…夏さんのご飯食べたい


【夏実point of view】


それにしても…ヒーローインタビューもかっこよかったなぁ

あんなかっこいい人が私の旦那さんなんだもんね…


あれ…帰ってこないなぁ


Rileの返事もまだだし…既読はついてるけど




【3時間後】

…ちょっと遅すぎない?

あの男でさえ、こんなに遅くなったことないのに…


何かあったのかな…

電話…してみよう…


…ツーコール…スリーコール…

{はいはーい?竜樹くんのスマホですぅ}

…は?

《あ、あの…主人は…》

{竜樹くんならぁ

あたしのとなりで寝てますよぉ?}

《え?あの、起こしてもらえます?というか、そこどこですか?》

{✕✕っていう、ホテルぅ?ですけどぉ

ねぇー竜樹くぅん、電話だよぉ?}

〔ん…なに…いいから……せて〕


…ラブホじゃん え、今やらせてって言った?


{もぉ!奥さん聞いてるのにぃー

えーっとぉ、奥さん、お迎えに来ますぅ?}

《いえ、ごゆっくりどうぞ その人のことよろしくお願いしますね》


ブチッと通話を終わらせた


男ってみんなこうなの?


はぁ…この部屋ともお別れかぁ


短い間でしたが、お世話になりました

離婚届は、後日郵送しますので、

記入したら提出お願いします…っと


よし!


【竜樹point of view】


…ってぇ…頭痛い…

ここ、どこ…

〔夏、さん…?〕

…え!?何?誰だ、この人…

なんで、裸…

{あ、おはようございますぅ 昨日は激しかったですねぇ}

〔は…?〕

{奥さまから電話来てたんでぇ、ちゃーんと説明しておきましたからぁ}

〔は?電話?え!?おい、俺のスマホどこだよ!〕

女が持ってるスマホを奪い返した

{こわぁい…昨日は優しかったのにぃ}

〔あ、ほんとだ…履歴がある…


…くそっ、電源切ってる〕

俺は急いで服を着て

誰だかわからん女を置いて出た


…写真を撮られてるのも気づかずに


家に帰ると、夏さんの荷物は綺麗になくなっていた

テーブルの上には手紙…


あぁ…何で、俺…

あの人と同じこと、いや それ以上のこと…


夏さん…

電話に出て…お願い…


その願いが叶うことはなくて


代わりに、

全く意図してなかった相手からの着信が…

〔はい〕

「よぉ、俺ー」

〔あの、先輩すみません、今ちょっと手が離せなくて〕

「お前さぁ?ちょっと調子に乗りすぎなんだよ」

〔はい?〕

「俺の女に手ー出しといて、マネにまで手ー出すとはなぁ?」

〔マネ…?は?〕

「さっきまで一緒にいただろ 気づかなかったのか?」

〔…〕

嵌められた…くそっ!!!

「写真、あるけどーどーする?」

〔…は?〕

「今すぐ夏を返すか、金用意しとけよ?じゃーな」


…ツー…ツー…ツー


無機質な音が響く


最悪だ…

何で昨日、お疲れ会になんて参加したんだ、俺…

もしかして、あれも仕組まれてたのか…?


もう、誰も信じられない

夏さん、だけだったのに…

夏さんさえいてくれたら、俺は

それだけで良かったのに




【啓介point of view】


「よぉ?夏ー早かったじゃねーか」

《…あんた…最低ね こんなことして…》

俺は夏を呼び出していた

旦那のイケナイ写真持ってんだけど、

週刊誌に売っていい?

来たら処分してやってもいいけど

って言ったら 夏のやつ、すぐ来た

ほんと気に食わねぇ


「あいつが、あんな風に勝ちに来なければ俺だってそこまでしなかったぜ?」

《真剣勝負なんだから、仕方ないじゃない!》

「っつってもよぉ?俺にも一応あんだわ

プライド?ってやつ」

《ねぇ、早く写真処分してよ》

「いいぜ?その代わりよー

お前、俺のとこに戻ってこいよ」

《…》

「そしたら、すぐにでも処分してやる」

《目の前で処分して 今すぐに》

「戻ってくんのかよ」

《…戻るから》

「ふっ…あいつのこと本当に好きだったんだなぁ?

いいぜ、ほら、データ消したぞ」

《他にはないでしょうね》

「ねぇよ マネのスマホでは撮ってないしな」

《(ほっ)…》

「…気に入らねぇ」

《何が?》

「脱げよ」

《え?》

「おら、いいから 早く脱げ」

《ちょ、啓介!?》

「…戻ってきたんだろ? やることは一つだよな」

《…っ》


ーーーーー 


《…》

「機嫌直せよ」

《…》

「このデータあいつに送ったら機嫌直してくれんのかなぁ?」

《…は?え!?》

「ほら」

画面には、今俺たちがしてた行為が映っている


《や、やめて…》

「機嫌直してくんねーんだもんよ」

《…啓介、お願い》

「くく…しょうがねぇなぁ?

なぁ、夏ー久しぶりなんだ もっとくっつけよ」

《…うん》


お前がそんなにあいつのこと好きだったとはなー

あいつのこと、傷つけないように必死じゃねぇか


でもよぉ

お前わかってねぇな


お前が一番傷つけてんだぜ


お前が今、俺のところにいること自体が

あいつをどん底に突き落としてんだから


【竜樹point of view】


夏さん…もう3日も…


もしかして…あの人のところじゃないよね…?


どうしよう、足がすくんで…

一緒にいるところなんか見たら、俺


今すぐに会いたいのに…


もう一回、電話…


…プルルル…プルルル…

え?繋がった…

「よぉ」

"ブチッ"

あ、切ってしまった…だって、どう考えても、

あの人の声だったから


あ、かかってきた…

嫌だ…出たくない…嫌だ…

〔…〕

「何で切るんだよー夏と話したくないのか?」

〔…一緒にいるんですか〕

「そりゃそうだろ」

〔あの、お金なら払いますから…夏さんを返してください〕

「へぇ?払う気になったのか いくらにしようかな」

〔いくらでもいいですから!

…夏さんに、代わってください〕

「いいぜ?ほら、夏ー」

《もしもし…》

〔夏さん!!すみません、今すぐに迎えに行きますから!待っててくだ《悪いけど!》

〔え〕

《私、啓介のところに戻ることにしたの

離婚届送ったから提出しておいてね》

〔待って!夏さん!〕

《啓介ね、もう私だけなんだって 私だけを愛してくれるっていうから》

〔夏さん!違う!その人は、マネージャーと〕

《…邪魔しないで じゃあ》

〔夏さん!夏さん…〕


折り返しても、電話は繋がらなくて


何で…どうして戻っちゃったの…


俺は、これからどうしたら…


【夏実point of view】


涙が止まらない…

彼のために…そう思ったのに

彼の声は、つらそうで…

ごめんね、ごめんなさい

私なんかに優しくしたばかりに…


でも安心して

私がこの男のそばにいる限り、

あなたに被害が出ることはないと思うから


こんなことしか、できないから…


「なーつ」

《…なに?》

「お前が作った飯、食いてぇなぁ」

《今作るね》

「おう!」


それからの私の生活は

この男の機嫌を損ねないこと

それだけのためにあった


「おい、夏」

《んー?何?》

「…ちょっとこっち来いよ」

《どうしたの?》

「ほら」

《…》

…彼の試合の動画

悪趣味ね、本当に

「愛しの男が頑張ってんだ 応援してやれよ」

《…興味ないわ》

「ふーん?」

《私、火をつけっぱなしだから 行くわね》

「夏」

《…なぁに?》

「お前、うまくなったな 声出さずに泣くの」

《…っ》

「飯頼むわ」

《…うん》


いけない…

気をつけてたのに…

泣いてるのがバレたら

竜樹くんが、何か嫌な思いするんじゃ…


【啓介point of view】


…


あいつが笑わなくなってからもう1週間か


声は笑ってるときの声なのに

表情は能面みてぇだ


俺、夏の笑った顔が好きだったのにな


はぁ…そんなにあいつが好きかよ…


もう、俺のそばにいても

夏が笑うことなんかねぇのかもな


…



「よぉ」

〔…夏さんは!元気に…してますか…?〕

「…迎えに来い 俺の家だ わかんだろ」

〔今から行きます〕


試合終わったばっかりだってのに

必死なもんだ


《啓介?電話してたの?》

「おー 今から客が来るんだわ

飯、そいつが来てからでいい」

《わかったー足りるかな…何人?》

「足りるだろ 気にすんな」

《そう、わかった》


"ピンポーン"

「よぉ、入れよ」

〔夏さん!!〕

《え?…竜樹、くん…?》

〔夏さん…会いたかった…〕

「ストーップ」

〔え…〕

夏に抱きつこうとしてるこいつを止めた

「おい、とりあえず飯食おうぜ」

〔…あの、返してくれるんじゃないんですか〕

「返すよ でも最後に一緒に飯くらい食わせろよ」

〔…〕

《啓介…?》

「お前も、ほら 座れ」

《う、うん》

「俺のとなりだ、ほら」

《…うん》

〔…いただきます〕

「おう」

〔夏さんの…ごはん…うま…〕

《…》

「本当だなぁ お前の飯、こんなにうまいんだよな」

《啓介…》

「夏、俺 お前の笑顔が好きだった

それなのに、その笑顔を奪って悪かった

好きな女が全然笑わないの、結構きついんだわ」

《…》

「竜樹に迎えに来させたから食ったら帰っていいぞ」

〔先輩…〕

「夏のこと、頼むな

あーそれとな

お前、あの日は酔っ払いすぎて使い物になんなくてな マネちゃんとはヤッてねぇぞ

俺が運んだんだぜ くそ重たかったわ まじで」

〔はぁ…良かった…〕

「あーうめぇや これが食えなくなると思うと…

はは…自業自得だよな」

《…啓介》

「なんだよ」

《私…》

「だめだ」

《…》

「一時の感情に流されるんじゃねぇよ

お前が好きなのは竜樹だろうが

竜樹の゙そばにいるのが、お前の幸せだろ

俺のことは気にすんな」

《…でも》

「…バカだな 竜樹が不安になるだろ」

〔夏さん……?〕

《竜樹くん、ごめん 少し考えさせて》

〔え…〕

「おい」

《1人で考えたいの 気持ちが固まったら、連絡するから》

〔…はい〕


やれやれ

俺がお膳立てしてやったのに

どこまでお人好しなんだよ お前は


【竜樹point of view】


あれから1ヶ月半

夏さんから、まだ連絡が来ない


俺じゃなくて、あの人を選んだのかな…


それでも、今やるべきことをやらないと

夏さんが帰ってきてくれた時のためにも


試合も、家のことも

きっちりやった


今日も勝ってきたし

次の試合も…勝つ!!


ふぅ、でもちょっと疲れた…


夏さんのごはん、食べたいな…



"ピンポン"

〔はい?〕

《…私》

〔夏さん!!!〕

ドアを開けて、すぐに家に引き入れて

抱きしめてしまった

《竜樹くん、苦しいよ…》

〔もう、どこにも行かないで…お願い…〕

《ごめんね、ごめん…》


しばらく抱きしめてたんだけど

ずっとそのままってわけにはいかないから

リビングへ

〔帰ってきてくれたんですよね?〕

《待って その前に…あのね…》

〔はい〕

《あの人の部屋にいるときに、私あの人に何回か…

それでも、ここに帰ってきても…》

〔もちろんです!いいに決まってます!〕

《…ありがとう 遅くなってごめんね

妊娠してないことを、確認したかったの》

〔…夏さん〕

《うん?》

〔ごめんなさい、俺…謝んないと〕

《ん?なに?》

〔離婚届…出してないんです〕

《えっ!?》

〔ごめんなさい!!でも…帰ってきてくれるって

信じていました!!〕

《…竜樹くん》

〔おかえりなさい!夏さん!〕

《ただいま…ただいまぁ!竜樹くん!》


そりゃ、先輩に抱かれてるかも

なんて考えるだけで嫌だったけど…

俺だって不安な思いさせたし…


何より、夏さんが帰ってきてくれたら

俺はそれだけで…


〔夏さん…愛してます〕

《竜樹くん、私も愛してる…

ごめんね、生理が来たからしばらく出来ないけど…》〔もちろんです お腹痛くないですか?〕

《うん、大丈夫!》

〔良かった…これからは、夏さんには俺だけなんですからね〕

《うん!ずっとそばにいてね》

〔もちろんです!〕

《ありがとう!》

〔でも…キスはさせて?〕

《うん…》



大切にします

ずっとそばにいますから

その笑顔、ずっと見せてください


ーー竜樹END



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


【啓介point of view】


二人を返して

後片付けをする


いつも夏に任せっきりだったからな


…洗い物も結構大変なんだな

夏、いつも嫌な顔せずにやってくれてたってのに


俺は…


"パリンッ"

っ、皿割っちまった

指切ったか…

えーっと、絆創膏、どこだっけ…


確か、ここらへんに夏が用意して置いてあるやつがあるはずなんだが…


《…啓介!?どうしたの!?》

「は?」

《待って、今手当てを…》

「おいおい、出てったのに何で帰ってきてんだよ」

《いいから、黙ってて…これでよし!

片付けなら私がやるから!座ってて》

「いいよ 帰れ」

《…私の家はここだから》

「…離してやれなくなるぞ」

《望むところよ》

「バカだな お前は」

《…》


竜樹を選ばずに、俺のそばにいることを選んだ夏は

その日帰ってきてからは昔みたいに笑うようになってた


あぁ、いつもの夏が戻ってきたんだな


《帰ってきてから、ずっと優しくしてくれた

私だけを見てくれてるし

あの子のことも切ったんでしょう?

抱かれてるときも…昔の優しい啓介だった

それに気づいてね 思ったの

そばにいたいのは…私の方だって》


そんなの…何の償いにもなんねーのに…



《啓介のこと好きなの 

ずっと好きだったんだもん 忘れられないよ》


…そりゃ、最初もお前から告白してきてくれたけどな

俺、散々お前のこと傷つけたってのに

まだ好きとか言うのかよ


お人好しもここまで来ると心配になってくるぞ


《啓介、ぼーっとして…どうしたの?》

「いや?昔のこと想い出してた」

《いつ頃の話?》

「お前に告られた時のこと」

《もう…まだ覚えてたの?》

「忘れられるわけないだろ?好きな女から告られてうれしかったんだからよ」

《ふふ 今も大好きだよ》

「…俺も」

《俺も?》

「…」

《あっ!寝たふりしてる!くすぐっちゃお》

「バカ!やめろ!」

《俺も、なぁに?》

キラキラした笑顔で覗き込んでくんじゃねーよ

照れるだろーが


「…愛してるよ」


ーー啓介End



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


【夏実point of view】


ずっと悩んでる

私、どっちが好きなんだろうって


今は1人でアパートを見つけて住んでる

仕事も続けているし

昼間は悩むこともないんだけど


夜、1人で家にいるとだめ


啓介のことも竜樹くんのことも

どっちも好きなような

どっちも選びたくないような


そんな感傷に溺れている


あーー!やめたやめた!!


一人で生きていこう!


この先自然に好きな人が出来るときまでは


そう決めた私は

どちらも選ばずに、さよならを告げた


啓介は、元々私を手放す気だったから

「ふーん まぁ、そう選んだならそれがお前の幸せなんだろ?元気でやれよ」

って


竜樹くんは

〔…どうしてもだめなんですか!?

俺、夏さんじゃないと、だめなんです…〕

《ごめんね これからも応援してるから》

〔…決意は変わらないんですね

わかりました 俺、ずっと忘れられないかもしれませんけど…

夏さんが幸せに生きられるように祈っています〕

って言われた


2人が元気に試合しててくれることを願って

私は私自身を幸せにしよう




3ヶ月後ーー


《おひとり様、さいっこう!》


キッチンでビール片手に

唐揚げを揚げる


ふふ

これ、ぜーんぶ私の!


…と言いたいところだけど


はぁ…

これから厄介な2人がご飯目当てにくるのよね


私のご飯がおいしいばかりに…

全然離れてくれない


「よぉ、邪魔するぞ」

〔夏さん!差し入れ持ってきました!〕


《はいはい!いらっしゃい!

あ!つまみ食いしないの!!2人とも!

先に手を洗ってらっしゃい!》


ねぇ

私、もしかしてお母さんになってない!?


〔夏さん!ご飯よそいます!〕

「あーやっぱお前の飯サイコーだわ」


《早く彼女見つけてよ…》

「無理」/〔無理です〕


はぁ…


でも


これはこれで…楽しんでる私もいる



ーーおひとり様END


タイトル〘君の笑顔が好きだから〙


  

                     Fin…


こちらの記事はnote様で同一名義にて投稿しております。

再編集して投稿しております。

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