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読み切り短編集  作者: おしるこ


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51/61

一水四見

上司を好きになってしまった

その人は、私より20歳も年上の人

私は22歳

上司は42歳 バツイチ、お子さんはいないみたい


上司はとにかく優しい

私以外の人にも


男性、女性、問わず 平等に優しい

"特別"にはなれない


それでも良かった


だって、会社に来れば上司がいて

毎日お話しも出来て


上司のおかげで仕事も楽しくなってきたところで


苦手だった電話対応も上司のおかげで受け答えも

少しはマシになったと思う


そんなある日ーー


〔よかったらみんなで飲みに行こうか

明日は休みだし!あっ、来られる人だけでいいよ 無理はしないで!〕


上司のそんな一言から始まった飲み会


"特別"にはなれないけれど

少しでも意識してほしい…

せっかく誘ってくれたんだし


来られる人は、私の他に2人

4人で飲みに行くことになった


私は上司のとなりを死守している


話しは、仕事のことから他の2人の恋愛相談まで…

いろんな話で盛り上がった


2時間ほど経った頃…2人は帰っていった


〔さて、相沢さん駅まで送るよ〕

「あの…もう1軒だけ連れて行っていただけませんか」

〔や、でも…遅くなってしまうだろう?〕

「だめ…ですか?」

〔…んーじゃあ、そうだな…うちに来る?

その方が安心でしょ 最悪仮眠も取れるから〕

「…はい!」


思いがけず、上司…夏木さんの家にいけることになった 夏木さんの部屋には、ワインや焼酎がたくさん置いてあるんだって…

お酒、本当に好きなんだなぁ


私は、そんなに飲めないけど…

ジュースを買って割って飲めるようにって

買い物だけして部屋にお邪魔した


入って思った

元奥さんと住んでた部屋なんだ…

部屋数も多いし…


部屋には写真立てが並んでいて

指輪も飾ってあった


私は、それを見ないようにした


〔あー…それ、気になる?〕

「あ…すみません、見てしまって…」

〔いやいや 俺、バツイチなんだよね〕

「はい」

〔未練があるわけではないんだけどさ

戒めっていうか…〕

「?…そうなんですね」


なんて優しい顔をして話すんだろう

未練があるわけではないと話す時の

目がとても優しくて


あぁ…きっと今でも奥さんのことが…って


私のことを意識してない証拠だと思った

なんとも思ってないから奥さんの写真が飾ってあるこの部屋に私を連れてきたんだ


〔それで?何か悩み事でもあった?〕

「え?」

〔いや、もう1軒なんて言うからさ?〕

「…夏木さんと…もう少しご一緒したかったんです」

〔…そっか〕

「すみません 別に、どうこうなりたいとかではないので!安心してください…」

〔んー…どうこう…なりたいけどなぁ…〕

「…え?」

〔酔ってるから言ってるわけではないよ?

そこは勘違いしないでほしいんだけど

俺みたいな年上の上司に言われても困るとは思うんだけどさ 君のことは…

ただ、可愛い後輩だけとは思っていないよ〕

「…本当、ですか…?」

〔うん〕

「私、さっき…夏木さんは、奥さんのこと…まだ好きなんだって思ったんです」

〔えー?未練はないって言ったでしょ〕

「優しい目をしていたから…」

〔あー…それはね きっと、君の前だからだよ?

今は、そんな目をしてない?〕

「…してます、ね」

〔でしょ〕

「私…好きでいて、いいですか?」

〔ありがとう 嬉しいよ〕

「はい…」

〔今の、俺なんかずるいね〕

「え?」

〔もし、相沢さんさえ良ければ…付き合ってもらえないかな?〕

「はいっ…嬉しいです…!」


あー泣かないで…夏木さんは、そう言いながら

親指で涙を拭ってくれた


まさか、憧れの上司と付き合えるなんて

思ってなかったから…


嬉しくて…まだ信じられないけど…


普段はセットしている髪を下ろしている夏木さんが

目の前にいて


あぁ…私は今から…って


名前を呼ばれて

〔知香…〕

「信之さん…」



夢みたいな一夜を過ごした


でも…

この関係になったことをすぐに後悔することになる

後悔…ではないか 幸せだったんだし


ただ、急ぎ過ぎた ただ、それだけ


1週間後、私たちの部署に本社から派遣されてきた

女性がいた


人見知佳さん 漢字は違うけど、同じ"ちか"さん


嫌な予感って当たるんだよね

《ねぇねぇ…あの人、課長と距離近すぎない?》

「まぁ…本社の人だし…知り合いなんじゃないかな」

《いいの?彼女は知香ちゃんなのに》

「仕事中に浮気しないでしょ さすがに」


この子は私の同期、嶌谷結花ちゃん

この子にだけは私と課長のことを話してある


《あの人、同じちか、だね…もしかしてさ…

元奥さんだったりしない?》

「…私もね…そんな気がしてる…」

《…まさかねぇ…?》

「…」

あの時、写真立ての写真をよく見ておけば良かった…すぐに目を逸らしちゃったから…


『あっ!えーっと…相沢さんと嶌谷さんよね?』

その"ちか"さんが目の前にやってきた

「あ…はい…」/《はい…》

『明日から、2人にも加わってほしいの!

お願いできるかしら?』

「わかりました…」

《はい…》

『うん!じゃあお願いね!あっ、そうだ!

良かったらランチどう?おいしいところあるのよー行こ行こ!』

「え?あ…」

《わっ…》

半ば強引に連れ出された私たちは

この人見さんの人たらしな一面にやられてしまった


とても可愛らしい人だった

明るくて、話すのが好きみたい


女同士、メイクとかスキンケアの話になったりして


楽しくて仕方ない…

でもそうなると…この人は何者なのかが

気になって仕方なくて…


そんな時、結花ちゃんが…

《人見さんって、もしかして…課長と何かあったりしますぅ?》

なんて聞き出した…

『あ、うん 元旦那ー』

あっけらかんと答えた彼女に何も他意はなさそうで

《やっぱりー!仲良さそうだったから気になってたんですよぉーね?知香ちゃん》

「え?あ、うん…」

『ん!?あなたも"ちか"なの?私も!!知佳!』

「同じですねーはは…」

《どうして別れちゃったんですかー?》

「ちょっと、結花ちゃん…」

『あ、いいのよーうーん…自由に生きたかったから』

「え…?」

《束縛が激しかった…とかですか?》

『あ、違う違う!わたしが、縛られたくなかったの 彼氏とか、結婚とか そういうのに』

「じゃあ…嫌いで別れたわけではないんですね」

『そうだね 好きだったもん』

「…」

《それでも、別れちゃったんですよね?》

『うん 綺麗さっぱりー』

《じゃあ、よりを戻すなんてことは…》

『ないない!仕事楽しいし考えられなーい!』

《そうなんですね!あ、そうだ さっきからずっと気になってるんです…人見さん、肌が綺麗すぎる…

スキンケアとか何使ってます…?》


結花ちゃんが、話しを変えてくれたけど

私は、まだ気にしていた


信之さんが言ってた"戒め"ってなんなんだろう…

だって、嫌いで別れたわけではない

今も仲がいい…


この二人の間に割って入る資格なんて

私にはないのかもしれない




『あー食べた食べた!!午後からもやるぞー』

「ごちそうさまでした!ありがとうございます」

《ごちそうさまでした!》

『いいのいいの!可愛い後輩ちゃんたちとご飯が食べられるんだもん!安いもんよ!

さ、行こうか!』

「はい」/《はーい》


〔あれ?みんなでランチ行ってきたのかい?誘ってくれればよかったのにー〕

なにその地獄みたいな…勘弁してほしい…

『女子会してたの!邪魔しないでー』

〔はいはい じゃあ、午後からも頼むね〕

「はい…」/《はーい》


2人が離れていった

《課長いたら地獄だったね》

すかさず結花ちゃんがツッコミを入れてくる

「本当だよ…でも、人見さん、とても良い人だった」

《うん、それはわたしも思った 仲良くなれそうだもんね》

「うん!」


向こうでは、あの二人がワーワー言いながら話している

…


決めた 話しをしなくては


"課長 今日終わったらお時間いただけませんか?"


返事が返ってきたのは、定時が近くなった頃だった


"ごめん 遅くなった 大丈夫だよ

ごはんでも食べに行こうか!"


"はい 入口から、出たところで待ってます"


"なんで?一緒に出ようよ"


"あ、少し寄るところがあるんです"


"わかったよ じゃあ、下で、ね"


"はい"



〔あ!知香!こっち!〕

「お疲れ様です!課長」

〔…もう、課長の時間は終わったよ?〕

「…そうでした!信之さん 行きましょうか」

〔うん〕


今日は個室のある和食屋さんだった


お料理がおいしいー…

食べてからにしよう…!


〔おいしそうに食べるね 可愛い〕

「もうーやめてくださいよー」

〔気に入った?また来ようね〕

「…あの、信之さん」

〔ん?〕

「元奥さんを今でも大事に思うなら

私とは今すぐに別れてください」

〔へ…?〕

「人見さんなんですよね 先ほどお聞きしました」

〔あ、いや…隠してたわけではないんだ〕

「わかっています 私が…折れてしまったんです」

〔…何か、言われた?〕

「そういう人じゃないのは、信之さんが1番わかってるでしょう?」

〔…うん でも、俺は…〕

「私のわがままなんです ごめんなさい」

〔本当に…もう、終わり…?〕

「はい!明日からは、また上司と後輩の関係でお願いします」

〔…じゃあさ〕

「はい」

〔今日だけ、時間をちょうだい?〕

「…」

〔明日から、ちゃんとするから お願い〕

「…わかりました」


そのまま信之さんの部屋に帰った

でも、一緒に寝ただけ


寝るまで、少しお話しして…

上司と後輩として、たまにはご飯とかついてきてねとかたまにでいいから飲みについてきてね、なんて言われた


朝起きて、

〔ありがとう 時間をくれて〕

「こちらこそ、ありがとうございました

また今日からよろしくお願いします 課長」

〔…うん〕

「先に行きますね」

〔うん〕


こうして、振り返らずに会社まで急いだ

ゆっくりしていたら戻りたくなってしまいそうだったから


《おはよー知香ちゃん!》

「おはよ!結花ちゃん」

《ん?なんかスッキリしてない?》

「別れた!」

《え?え!?なんで!?》

「あの二人の仲に割って入るのは無理だよ…」

《あー…でも、あんなに好きだったのに…》

「好きだからだよ 別れても、私の気持ちは変わらないもん」

《そっか…》

「そろそろ人見さんも来る頃だし!頑張ろ!」

《うん!》


『おはよーう!可愛こちゃんたちー』

「おはようございます」/《おはようございます》

『今日はねー…』

今日の業務内容を確認して、外回りの準備にかかる

私たちはあくまでも人見さんのサポートだけど

これからのために顔を売る必要がある

私たちが上に立った時のために必要なことだ


『ここの社長は、数字がすべてだから』

『ここの社長は、泣き落としに弱いよ』

『ここは、社長よりも専務を味方にしたらいいよ』

など、先輩からの貴重なアドバイスをメモする


『ふー!お疲れ様!なんだかんだ夕方になっちゃったね お腹すいたでしょ』

「いえ、先ほど移動中に用意してくださったパンをいただきましたから…」

《あのパンどこのパンなんですか!?めちゃくちゃおいしかったです!!》

『ちょっと待って!え、あれで足りたの!?

やだぁー少食過ぎない!?

あれはね 駅前のー…』


良い人だー本当に…好きになっちゃいそうだもん


『ね!知香ちゃんに結花ちゃん!

明日のために、腹ごしらえしなーい?』

《いいんですか!?》

「ぜひ♪」

〔待った!今日は俺も行くから!〕

え…

『なんでよぉー女子会なんだけどぉ』

〔おじさんも入れて?ね?〕

断れるわけがなかった…

《は、はい…》/「はい…」

『しょうがないな…ご馳走してよ?』

〔はーい 財布は持ってまーす〕

『よろしい!じゃ行こっか!』


それでも、4人で歩きながら

気まずくなることもなくて

まぁ、あの2人はそういう雰囲気を出さないから…


『カンパーイ♪』


なにここ…おいしすぎる…

《焼肉最高…脂身うまぁ…》

「結花ちゃん これ、なんのお肉なんだろうね」

〔ザブトンだよ〕

「ザブトン?」

〔そう、座布団みたいな形をしてるだろう?

ほら、知香食べな?〕

「あ…」

『ふふ 好きな女は、甘やかすよねー』

〔しょうがないだろう?そういう性格なんだから〕

『知香ちゃんさ』

「はい…」

『この人のことお願いね?

あなたがいないと、この人 干からびちゃうから』

「でも…」

『知香ちゃんにしか頼めないの お願い』

〔別れないでくれ 頼むから〕

「…はい…」

《知香ちゃん、よかったね!》

「う、うん…」

〔ありがとうね と、いうわけで…ふたりっきりになっていいだろう?〕

「え!?」

『しょうがないわねぇ 結花ちゃんのことは

わたしがお腹いっぱいにして帰すから大丈夫よ!』

〔頼んだよ じゃあ、明日ね!〕

「えっ、信之さん!?」

〔知香、おいで〕


あれよあれよと、腕を引かれて

後ろを振り向いても残った2人は手を振っていて

助けてはくれない


信之さんのおうちまで来てしまった

写真立てと指輪はなくなっていた

〔…怒ってるかい?〕

「怒ってはいません…けど…打ち合わせしてたんですか?お二人で」

〔まさか してないよ〕

「え…」

〔知佳…あっちのね とっくに気づいてたからね

俺が誰を好きか〕

「そう、なんですか?」

〔うん 俺、わかりやすいみたいだから〕

「まさか、2人がかりで言われると思っていませんでしたよ…」

〔ナイスアシストだよねぇ〕

「他人事みたい」

〔いいじゃん こうして君が戻ってきてくれた

俺にとって、大事なのは君だけだ〕

「信之さん…」

〔戻ってきてくれてありがとう〕

「…もう、離れません」

〔そうして 心臓に悪い〕

「…ごめんなさい」

〔謝るのは俺の方だよ 気を病ませてしまったね

ごめんね〕

「…信之さん」

〔ん?〕

「ずっと…」

〔うん そばにいるよ 安心して〕


私たちの別れ話は

たった1日でひっくり返って


もう二度と、その話題が出ることはなかった




ーーその頃、千佳と結花は…


《お二人、すごいですねぇ…》

『んー?』

《連携取れてて!さすが元夫婦!》

『んー…どっちかっていうと…』

《?》

『これ、内緒にできる?』

《はい!》

『生贄みたいなもんよね…』

《…え?》

『わたしのところに二度と戻って来ないように?』

《もしかして、やっぱり…束縛とか、すごいんですか…?》

『…お気の毒にねぇ あんなのに捕まって…』

《知香ちゃん…》

『内緒よ?』

《はい…》




【人見知佳point of view】


〔知佳…愛してる〕

この男の愛は異常だ


同じ職場の上司と部下という関係のわたしたちは

毎日、職場でも家でも一緒にいたのに

他の男性社員と話すだけで間に割って入ってきたり

同僚に見せつけるように手を繋ぎ出社、退社をする


息苦しい…


付き合ってるときは一切そんな素振りを見せなかったのに

結婚して数日経った頃から、彼は変わった


結婚して、他人じゃなくなったんだから

これからの方が安心して過ごせると思うんだけど…

彼の考え方は違った

結婚前までは繋がりがないから好きにさせてたけど今はもう 繋がっているのだから

俺の言う通りにしてくれ…そういうものだった


ずっと思っていた この息苦しさはなんなんだろう


わたしは仕事が好きなのに

子どもが欲しいからと昇進試験も受けさせてもらえなかった

会社を辞めて家にいてほしいと何度も言われていた

もちろん、何回も話し合いをしたし

わたしの気持ちも伝えてきた


それでも変わることはなかった


ほぼ毎日身体を求められるようになって

避妊なんてしてくれないから

彼に内緒でピルを飲むようになった

こんな息苦しい生活から

早く抜け出したい…

結婚して半年…それしか考えられなくなっていた


でも、

周りは彼の外面のいいところしか見ていないから

1回、同僚に相談したことはあったけど


{愛されてるねぇー羨ましい!そんなの悩みに入らないでしょーあっ!惚気!?やめてよぉー}


そんなことを言われた

会社の人を味方にするのは無理だ…


だから、わたしは決心した


誰の力も借りずに

この男から何としても逃げきってみせるーー


建前は本社に呼ばれていて、こっちの仕事をしたいからっていうことにして


彼に少しでも疑われないようにした


他に男がいるのか?なんて疑われたりしたら

この計画は終わってしまうから


いやー揉めたよね

思い出したくもないけど


〔どうしてだ!?俺と一緒の職場では嫌なのか?〕

『違うの やってみたい仕事だったの!

応援してはもらえない?』

〔でも、だからって…別れる必要などないだろう?〕

『あなたの力がない状態でやってみたいのよ…

お願い…わたしのこと、応援して?

それに、一段落したらまた再婚できるんだし!』

〔…〕

『今回の仕事は、2年はかかるんだけど…それでも頑張ってみたいの!お願い…っ!!仕事を頑張った後の方が、子育ても頑張れると思うし!』

〔…会ってはくれるんだろう?〕

『当たり前じゃない!…愛してるもの』

〔…わかった〕


何回も何回も話し合ってようやく…

とてつもなく疲れたけど


まずは離婚さえ出来ればこっちのものだから


ーーそれから2年


週に一度は連絡が来て

身体を求められることがあったけど

半年前からそれがピタッとなくなった


…好きな女が出来たんだと思った


彼の同僚に探りをいれると

どうやら新入社員の子に夢中らしい


相変わらず歳下が好きなのね


しかも、わたしと同じ名前の子…


なんとなく、あの男の執念のようなものを感じて

身震いしたわ


最近飲みに行って結ばれたと聞いた


はぁーこれで本当に縁が切れる…


大変だったんだから

誰に聞いたのか、わたしに彼氏が出来そうになると泣きながら連絡してきて

〔俺のことを愛してるんじゃなかったのか!?〕

〔離婚なんかするんじゃなかった!!〕

〔会いたい 会ってくれないなら君の実家に連絡して取り持ってもらう!〕


そんなふうに言ってきて


そして、会えば当然のように身体を求められた

どんだけ体力あるのよ…本当に…


本社にもスパイのような人がいるんだと思った

こんなことが何回か続いたから

同僚と仲良くすることもできなかった


そんな時、彼の職場に出向くことになった

いい機会だから確認しなくては…

二人がうまくいってるかどうか


これからのわたしの人生がかかっている…


でもーー

心配したことが現実になる


どうやら、彼女はわたしとの仲を見て諦めてしまったようだ


冗談じゃない…うまくいってもらわないと困る


〔彼女がさ…君がいるのに付き合えないっていうんだ…やっぱり俺には君じゃないと駄目なのかな〕

はぁ…勘弁してほしい…

『何言ってるのよ!彼女が遠慮してるだけに決まってるじゃない!

相手の気持ちの上辺しか見ないのはあなたの悪い癖よ 女同士だからわかるの

彼女、迎えにきてくれるのを待ってるわ』

〔!!そ、そうか?〕

『えぇ わたし、あなたのことは好きよ

でも…あなたには幸せになってほしいの

もちろん、彼女にも

あなたは年上なんだから!しっかりと彼女を導いてあげなきゃ!』

〔知佳ぁー…〕

『しっかりしなさいよ 大事な人を、手放したらだめよ もう、二度と…』

〔…わかってる!今度は…うまくやってみせる

ありがとう、知佳〕

『ううん、あなたの幸せを願っているんだもの

このくらい…お安い御用よ!』


その後、あの男に聞こえるように

彼女たちを食事に誘う

〔待った!今日は俺も行くから!〕

よし…入ってきたわね

『なんでよぉー女子会なんだけどぉ』

〔おじさんも入れて?ね?〕

《は、はい…》/「はい…」

『しょうがないな…ご馳走してよ?』

〔はーい 財布は持ってまーす〕

『よろしい!じゃ、行こっか!』


ふーっ うまくいった…

きっちり彼のとなりに彼女を座らせて、

ある程度焼肉を食べすすめた頃…


《焼肉最高…脂身うまぁ…》

「結花ちゃん これ、なんのお肉なんだろうね」

〔ザブトンだよ〕

「ザブトン?」

〔そう、座布団みたいな形をしてるだろう?

ほら、知香食べな?〕

「あ…」

『ふふ 好きな女は、甘やかすよねー』

〔しょうがないだろう?そういう性格なんだから〕

『知香ちゃんさ』

「はい…」

『この人のことお願いね?

あなたがいないと、この人 干からびちゃうから』

「でも…」

『知香ちゃんにしか頼めないの お願い』

本当に…お願い そして二度と離さないで…

〔別れないでくれ 頼むから〕

「…はい…」

よしっ!!!

《知香ちゃん、よかったね!》

「う、うん…」

〔ありがとうね と、いうわけで…ふたりっきりになっていいだろう?〕

「え!?」

『しょうがないわねぇ 結花ちゃんのことは

わたしがお腹いっぱいにして帰すから大丈夫よ!』

〔頼んだよ じゃあ、明日ね!〕

「えっ、信之さん!?」

〔知香、おいで〕


腕を引かれて連れて行かれた彼女が振り返ってきたけど、わたしたちは手を振って送り出した


ふーっ…うまくいった…


《お二人、すごいですねぇ…》

『んー?』

《連携取れてて!さすが元夫婦!》

『んー…どっちかっていうと…』

《?》

『これ、内緒にできる?』

《はい!》

『生贄みたいなもんよね…』

《…え?》

『わたしのところに二度と戻って来ないように』

《もしかして、やっぱり…束縛とか、すごいんですか…?》

『…お気の毒にねぇ あんなのに捕まって…』

《…知香ちゃん…》

『内緒よ?』

《はい…》


その後、結花ちゃんを駅まで送って


最終段階の仕上げに取り掛かる


彼女ともいつまで続くかわからない

そうなった時、彼が戻ってくるのは

間違いなくわたしのところだ


そんなことになったらたまらない…


この日のために、

わたしの家族も引っ越しを完了している

家族の存在は、わたしの弱みそのものだから

離婚した後も、何かにつけて連絡を入れられていて…

連絡されてしまうと、どうしようもないから

電話番号も変えさせた

彼のことをわかっていた家族は同意してくれたから、早めに動けた


そして

わたしも新しい職場を探してある


こっちの職場はもう終わり


退職届を郵送で送る

明日から出社もしないで済ませる

何かあったら、代理人を通してくれと記入済みだ


明日になったら

わたしの連絡先も新しいものに変わる


そうなると、あの男とわたしを繋ぐものは何一つなくなる


2人が仲が良いうちに終わらせなければならなかった

これで、本当の縁切りというわけ



長年待たせていた、わたしの"彼"と

人生をやり直すために必死だったーー


彼は、あの男と知香ちゃんと同じ部署で働いていた

2週間前に退職している

もちろん、彼は3ヶ月前から辞めることになっていて

わたしとの関係を疑われないように配慮してある


『もしもし?うまくいったわ』

〈お疲れさま いやー長かったね〉

『本当に…彼女に押しつける形になっちゃったけど…

どうしても彼が嫌なら、逃げるでしょ…

わたしにもできたんだから』

〈そうだな これでやっと、君と暮らせるってわけだ 早く帰っておいで〉

『うん!今すぐ帰るよ!』


愛しの彼が待つ家に帰る


今までは帰り道につけられたりしてたから

見つかったら面倒で会えなかったから…


いい歳してルンルンで恋人の元へ向かうんだもん


やっぱり逃げてよかった…


ーーそれから数年後


〈ただいまー〉

『おかえりなさぁい!』

〈なぁ、久々に前の会社の同僚に会ったんだけどさ課長んとこ、今、子沢山なんだってよ〉

『わぁ…何人?』

〈えーっと…少し話しただけだからなぁ…

何人だったっけ

4人とかじゃなかった?もしかしたら5人かも〉

『すご…おめでたいねぇ』

〈目が笑ってないぞ…〉

『わたしには無理だもん 体力もたないー

仕事も辞めちゃったんでしょ?

知香ちゃん、あんなに楽しんでたのに…』

〈あーそれは最初っからだろ?

あれから、ずっと家にいるんだって〉

『…そうなんだーわたしはしばらくはあなたと2人がいいっ!仕事も楽しいし!

お風呂先に入るでしょ?一緒に入ろ!』

〈お?いいぞー〉


わたしには無理だったけど

あの子には、それが幸せだったのかな


それなら、せめて

笑顔でいてくれてますように…


そう、願わずにはいられなかった



その頃、こちらの知香は…



信之さんは、とても優しくて

とても心配性で

おうちでは甘えん坊


職場とのギャップも素敵…!


〔俺、君との子が早く欲しいんだ…

結婚したら、仕事辞めてもらえる?〕

「信之さんが…そう言うなら…」

〔良かった!俺、君のために仕事頑張るからさ

ずっと、大事にするからね〕

「はい!」


そのあとすぐに、信之さんは避妊をしなくなった

「信之さん…このペースでは…すぐに妊娠してしまいそうです…」

〔駄目?俺、すぐにでも知香と結婚したいなぁ〕

「ダメなわけでは…ないですけど…」

〔俺、もう間違えたくないんだ

君のことは、絶対に幸せにしたいから〕

「信之さん…!ありがとうございます!」

〔うん…愛してるよ 知香…〕

「私も…愛してます!」


案の定、すぐに妊娠した

信之さんが私の体調が心配だから、と仕事を辞めさせて籍を入れた

よりを戻したあの日からずっと一緒に住んでいるから、生活は変わらないけど

仕事を辞めた私は、家事を1人でこなすようになった


妊娠中だから、すべてを完璧に…とはいかないし、

休みの日は、信之さんも手伝ってくれるから


あぁ…素敵な旦那さんとお腹には可愛い子供…

こんなに幸せでいいのかな…!



ーーそれから数年後


「たつやー!みか!学校遅れるわよっ!

あー!しゅうーお茶こぼしてるっ、あなたーっ!

りんのオムツお願いっ」

〔はいはい 今すぐやるよー〕


4人の子育ては大変だ…


あれから信之さんの甘えん坊は日に日に増して

子どもを優先していると不機嫌になったりすることもあったんだけど…


それでも、子どもが増えていくにつれ

信之さんも落ち着いてきた


もしかしたら…ずっと不安だったのかな


「信之さん」

〔うん?どうしたんだい?〕

「今、幸せ?」

〔あぁ!もちろん幸せだよ…って、どうした?

知香は幸せではないのか…?〕

「いいえ、幸せですよ!あなたも優しいし!」

〔…良かった やっと…好きな人を幸せに出来たんだな 俺〕

「…いつもそばにいてくれてありがとう」

わたしが抱きしめると、彼は泣き出した

〔知香ぁー〕

「これからも、ずっとそばにいてくださいね」

〔あぁ…!もちろんだよ!〕


少し大きくなってきたお腹をなでながら

わたしは彼の涙を拭いた




タイトル〘一水四見〙

※一つの水を四種の存在がそれぞれ別のものとして見るという譬え(たとえ)

「同じものでも見る立場や心のもちようによって

違うように見えてくるという意味」



                      Fin…


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