ぼくたちの愛のカタチ
「…あなたが"円さん"?」
『はい "螺旋さん"ですね はじめまして』
まさかこんな日が来るなんて
私はSNSで毎日ひとことだけ
疲れた とか 今日は楽しかった
と呟いている
フォローしているのも数人程度で、
誰も見ていないようなアカウントなのだが
ある日から、コメントがつくようになった
"螺旋"という名のその人は
私のつぶやきに何も関係のないことをコメントしてくる人だった
疲れた、に対しては「推しができた」という報告であったし
楽しかった、対しては「玉子焼きは甘いのとしょっぱいのどっちが好き?」という質問だった
最初は意味がわからず、変わった人だなと思っていたのだが
やりとりが続くうちに、なんだか興味がでてきた
やりとりしてから数ヶ月
ふと思い立ってDMを送ってみることにした
"会ってみませんか?"
唐突に届いたそれに引いたのか、
私のつぶやきにもコメントがつかなくなった
まぁ、そうだよね
いきなりすぎるし
私に他の人から同じ文面が来たとしても
同じ対応をすると思うし
"どこで会います?"
と返事がきたのは、それから2週間経った頃だった
…え?
2度見、いや5度見くらいした
"会ってくれるの?"
"うん"
そこからはトントン拍子に話が進み…
「…あなたが"円さん"?」
『はい "螺旋さん"ですね はじめまして』
…目の前に若い女の子がいるんだが
ハタチくらいかな?髪が長くて、綺麗だ…
「…男の人だったんだ」
『うん こっちもまさかあなたがこんなに若い女性だったとは…』
「何で誘ってくれたの?」
『どんな人なんだろうって興味を持ったから…』
「ふーん」
『がっかりしたよね?
せっかく会いに来たらおじさんで』
「そんなことない それよりお腹すいた」
『何か食べようか ごちそうさせて』
「自分で払う そのほうがおいしいから」
『そうか じゃあ、行こう』
食事を終えた私たちは駅前まで歩いていた
螺旋さんが海が見たいと言ったから
電車を乗り継いで、ようやく海沿いにやってきた
この時期はあまり人がいないんだな
静かだ
『海、好きなの?』
「うん」
食事中も、会話はほとんどなかった
それでも
不思議と気まずい感じはなかった
「…」
泣いている
波を見ながら、静かに
声をかけるなんて野暮だと思った
きっとなにかあったんだろう
「ありがとう」
『え?』
「待たせてごめんね」
『いや、大丈夫だよ』
「何も聞かないんだね」
『聞いたら答えてくれたのかな?』
「答えないかも」
『そうか…もう少しここにいる?』
「もういい どこ行く?」
『どこに行こうか』
「明日は空いてる?」
『うん 休みだけど』
「なら、遠出しない?」
『いいよ』
「水族館に行きたい」
『うん 行こうか』
調べたらここからは電車で
1時間程度かかるようだった
少し、心を開いてくれたようで
電車の中で彼女自身の話をしてくれた
高校3年生の彼女は学校に行っていない
高校1年の時に急に友達から避けられるようになったんだという
理由は今でもわからないそうだ
学校は辞めてしまって、家で勉強をしているという
そんなときに、私のアカウントを見つけたそうだ
私のたったひとことの呟きを見て
「この人も同じなんじゃないか」そう思ったそうだ
『仕事には行ってるけど空気のような存在でね
友達がいないという点では同じかもね
仕事は生活のためにしているだけだし』
「そうなんだ」
『螺旋さんの言う、同じかはわからないけれど』
「うーん…同じ、かな」
『そっか』
「あ、着いたんじゃない?」
『うん、降りよう』
それにしても高校生だったのか
門限なんかもあると思うし、早めに家に着くように送って行かないと
でも、海経由の水族館
待ち合わせした駅からだいぶ遠いぞ…
早めに出ないと遅くなるな…
「円さん」
『ん?』
「ちょっとだけ…」
『クラゲ、好きなんだ』
「うん」
『大丈夫だよ ゆっくり見てて』
海にいた時と同じ顔をしている
泣いてはいないが、今にも…
そんな顔だ
私もクラゲは好きだ
何も考えずゆらゆらと浮かんでいるような
それなのに、どうしてこうも惹かれるのか
「ねぇ もう十分見た」
『そっか そろそろいい時間だから送っていくよ』
「どうして?」
『え?』
「…高校生だから?」
『まぁ、うん 親御さんも心配なさるだろうし』
「…みんなと同じなんだね」
『え?』
「何かあったら、迷惑になるもんね」
『いや、そういうことではなくて…』
「今日はありがとう ひとりで帰れるから」
『待って、送るから!』
「いらない じゃあね」
『あ…』
いらない…か
気づいたら、私は螺旋さんの手を掴んでいた
『…行こう』
「え?」
『まだ私といたかったんでしょう?』
「…うん」
『どこに行く?』
「ホテル」
『…どうして?』
「お泊りしたいから」
『そうか』
「やめる?」
『いや?行こう』
「うん」
絶対にやばい
高校生とホテルなんて
ラブホじゃなくたってやばいに決まっている
それでも彼女を放っておけなかった
「ラブホじゃないんだ」
『わがまま言わないでくれ』
「…まぁいいか」
『それで?おうちに連絡はしないつもりなの?』
「しない」
『そうか』
「迷惑かけないから」
『かけてもいいよ』
「え?」
『迷惑かけてもいいよ
明日も君がしたいこと、しよう』
「いいの?」
『もちろん』
「ありがとう あのさ、デートがしたいの」
『え?それは、私とじゃなくても…』
「わたしがしたいことしようって言ったじゃん」
『そ、それはそうなんだけど』
「円さんとデートがしたい」
『わかったよ…でも、デートなんて何したら…
さっきのもデートっちゃーデートみたいなものだったけど』
「おうちデートってあるじゃん?」
『うん』
「それでいいよ」
『この部屋にずっといるってこと?』
「うん」
『テレビしかないよ?』
「いいの!食べ物とか買い込んでこよう!」
『うん…』
お菓子や飲み物、お弁当なんかをたくさん買ってきたけど
本当にこれでいいのかな
「これ、おいしいんだね!」
『うん、私も初めて食べたよ』
「ずっと家で勉強ばかりだったから、こういうの
楽しいよ 付き合ってくれてありがとう」
『そっか、よろこんでくれたならよかった』
「円さん」
『ん?』
「最後のお願い、聞いてほしい」
『なに、最後だなんて どうしたの?』
「…わたしの"初めて"、もらってほしい」
『…』
「もうわがまま言わないから これで最後」
『だめだよ』
「どうして」
『大事にしたいから』
「大事にしてくれてるのはわかってるからお願いしてる 他の人には頼めないの」
『だめだよ』
「お願い…」
『…その"お願い"をきいたら、君はいなくなるつもりなんだろう?』
「!!どう、して…」
『君の考えてることはわかるよ』
「もう…おわりにしたいの」
『そんなこと言わないで
私のために生きてくれないか?』
「円さんの、ため?」
『うん 君がいなくなったら
私は正真正銘の"ひとりぼっち"になってしまう』
「…そんなこと言われたら…おわれないじゃん」
『おわらせないために言ってるんだよ』
「ずるいよ…」
『お互いさまだろう?』
「じゃあ…もう少し頑張ってみる」
『うん』
「約束して」
『ん?』
「11月に高卒認定試験があるの」
『うん』
「それに受かったら もう一度会って」
『うん、約束だ』
「あと1ヶ月…頑張るから」
『楽しみにしてる』
その日は彼女の希望通りお泊りして
昼間 彼女と待ち合わせた駅まで送り届けて
私も日常に戻った
相変わらずひとこと呟いてはあの子のコメントを
楽しみにしている
試験前日、お守りの写真を載せた
それから1ヶ月過ぎた頃DMが届いた
"どこで会います?"
そうか、受かったんだ!!よかった…!
"あの駅で待っています"
当日、そこにいたのは
長かった髪をバッサリ切った彼女だった
『髪、切ったんだね』
「うん!サッパリしたよ」
『おめでとう、よかったね』
「ありがとう!あなたのおかげ」
『私は何も…』
「円さん、本名教えて」
『黒田孝高』
「櫛橋光です」
『みつさん』
「デート行こ 孝高さん!」
『うん!』
『待って…速いよ、みつさん』
「早くしてよー電車行っちゃうよ!」
『…はぁ、はぁ…足、速い…』
「間に合ったーよかったぁ」
『…はぁ…はぁ…』
「息切れとかーおじさーん」
『おじさん…なんだよ…はぁ…』
「しっかりしてよーはい、お水」
『ありがと…』
電車で2時間 みつさんが行きたがっていた場所へ
「ひさしぶりだね」
『うん』
「約束、守ってね?」
『…会う約束をしただけだろう?』
「もらってくれないんだ…」
『まだだめだよ』
「いつになったらいいの?」
『そうだなぁ 君がハタチになったらかな』
「…他の人のものになっても知らないから」
『ならないよ』
「え?」
『君は私のものだからね』
「ふーん…ねぇねぇ」
『ん?』
「…これでも…ガマンできるぅ?」
『…なっ!だめだ!』
「もうー」
にっこり笑う彼女を見たら、
もうあんなことを考えることはなさそうで安心した
これからも君を見守らせて
"ひとり"にしないで
タイトル〘ぼくたちの愛のカタチ〙
Fin…
こちらの記事はnote様で同一名義にて投稿しております。
再編集して投稿しております。




