復讐の、その先に…
〔なぁなぁー駿、お前の幼馴染紹介してくれよ〕
「…は?」
クラス替えもやっと落ち着いた頃
3年になって転校してきて仲良くなった友達
村主達哉にそう持ちかけられた
俺の幼馴染
八嶋野乃花も同じ高校に通ってるけど、
今年は別々のクラスになってしまった
仲は良いし家がとなりで行き帰りも一緒に通っているから、紹介できないことはない
だけど…
「断る」
〔おい!何でだよ!付き合ってるわけじゃねーんだろ?〕
「断る」
〔何だよーお前、あの子のこと好きなのか?〕
「…悪いか?」
〔ふーん ずっと一緒にいんのに付き合ってもねーんだろ?男として見られてないんじゃねーの?〕
「!!」
痛いところを突かれた
男として見られてるか否か、なんて
俺にわかるわけないだろう…
そりゃ何かあると頼られることは何回もあるけど…
恋愛感情なのか?と聞かれると…
〔いいわ 俺自分できっかけ作るし じゃーなー〕
はぁ…
友達としてはいいやつなんだけど
女性関係ではあまりいい噂は聞かない
野々花に近づけさせたくないってのが本音だ
《しゅんくーん》
「おう、終わったのか?」
《うん!帰ろう!》
「コンビニとか寄るか?」
《いいね!》
そう言いながら歩き出したら…
〔おっと!〕
「あぶねぇ!」
《きゃっ》
野々花の腕を引いて俺の後ろに隠した
〔すまん、ぶつかりそうになっちまったわ〕
野々花に見えないように俺を睨んでくる男
「村主、気をつけろよ」
〔おー駿わりぃー 野々花ちゃん、ごめんなぁ?〕
《あ、いえ…えっと、どうしてわたしの名前…》
〔俺、駿の友達の村主達哉って言うんだ
友達になりたくてさぁ…〕
《え…わたし、と?》
〔そ!よろしくなぁ?〕
《しゅんくん…》
「ん?」
《…》
「じゃ、そろそろ帰ろう 行くぞ」
〔またなー野々花ちゃん!〕
これは…どういうリアクションなんだろうか
コンビニについて
普段なら走ってグミのコーナーに行くのに
俺のそばを離れない
「どうした?」
《ん…》
「グミ買わないのか?」
《あ!買ってくる!》
「おう」
気のせいか…?
お気に入りのグミや飴を買って戻ってきた
買い物を終えて、家に向かう
「うち、寄っていくか?」
《うん!》
「ん」
「ほら、野々花の好きなリンゴジュース」
《ありがとぉ》
「さっきどうかしたのか?」
《…え、何が?》
「何かあるなら話してみな?」
《何もないよ?なんか眠くて…》
「寝不足か?」
《うんー昨日夜中までしゅんくんが貸してくれた
漫画読んじゃってたから》
「…あぁ おもしろかったか?」
《うん!あ、そうだ さっきの人…》
「村主のこと?」
《うん》
「気になるか?」
《うーん わかんない あんなこと言われたの初めてだし》
「まぁ、俺の友達だっつっても無理に仲良くすることはないよ」
《うん》
「いや…あのさ、あいつに野々花を紹介してって頼まれてたんだよ」
《わたしを?》
「そう 断ったけどな」
《…そうなんだ》
「断ったけど、自分できっかけ作るって言ってたからさ」
《うん》
「ただなぁ あんまりいい噂聞かないんだ」
《…そうなの?》
「うん」
《そっか》
「ま、何か言われたりしたら俺に言えよ
俺があいつから野々花を守るからさ」
《うん…》
【野々花point of view】
村主達哉って言ってた
見た目が少し怖かったけど…見た目で判断しちゃだめだよね
しゅんくんは、あぁ言ってたけど…
うーん…どこかで…会ったことがある、ような…
気のせいかな…
「野々花…おーい」
《ん…あ、あれ…?》
「よく寝てたな 飯食ってくだろ?
おばさんには連絡しといたから」
《うん!ありがとう!》
いつの間にか眠っちゃってたみたい
「大丈夫か?」
《うん!しゅんママのお手伝いしてくる!》
「手伝いなんてしなくていいのにー…」
しゅんママのご飯大好き!
《しゅんママー!何かお手伝いできることある?》
〚いいのよー駿の部屋でゆっくりしてらっしゃい 出来上がったら呼ぶわね もうすぐだから!〛
《はーい!》
「な?」
《うん あ!これ、読んでいい?》
「いいぞー…ってお前…」
《え?》
「スカート!見える!ちゃんと座れ!」
《あ…見た?》
「ギリ見てない!」
《ごめーん!》
「まったく…俺も男なんだぞ?」
《ん?わかってるよー?》
「…ほんとにわかってんの?」
《え…しゅん、くん…?》
「俺、そろそろ幼馴染みじゃなくて
彼氏になりたいんだけど?」
《え!》
「やだ?」
《えっと…しゅんくん?》
「…ん 好きだ…目、閉じて」
《え?》
「キス、したい」
《まっ、て》
「…」
"ドンッ"「え」
《あ…》
唇が触れる…って思った瞬間、
思い切りしゅんくんを突き飛ばしてた
《ご、ごめんなさい…》
バッグとブレザーを持って階段を駆け下りて
《お邪魔しました!》って、外に出てしまった
❲え!?のの、あんた駿くんとこでご飯食べてくるんじゃなかったの!?❳
ママの言葉に返事も出来なくて
部屋に閉じこもってしまった
しゅんくんのこと、好き…だよね?
それなのに…なんで…
"ごめん"
しゅんくんからのRileに既読もつけられなかった
【駿point of view】
…突き飛ばされて、頭が真っ白になった
部屋を飛び出していった野々花を追いかけることもできなくて
母親に〚あれ!?ののちゃん帰っちゃったの!?〛
って聞かれても
返事ができなかった
"ごめん"
Rileしてみたけど、既読もつかない
やっちまった…
焦りすぎたよな…
明日は土曜だし
返事が来たらどっか誘ってみるか…
親にはてきとーに誤魔化してなんとかなったけど
寝る前になっても既読はつかなかった
会いに行ったほうが早いか…?
普段だったらお互いに窓を開ければ話せるくらい近くにいるのに
野々花の部屋の窓はカーテンも閉まったままだ
もう寝たのかな…
明日、でかけないか?
そう、書き込んでは消して…
返事が来てないのに、何回も送るのもな…
そんなことを考えてるうちに
寝ていたみたいだ
"ピーンポーン"❲はーい❳
「おばさん、おはようございます 野々花いますか?」
❲駿くん!おはようーののなら出かけたよ?❳
「え?そうなんだ」
❲ごめんねー昨日、のの帰ってきちゃって
宿題が思った以上に多かったんですって?❳
「うん、大丈夫!野々花に連絡してみます」
❲うん!しゅんくん、また遊びにきてね!❳
「はーい」
宿題って言ったのか…
まぁ、おばさんと気まずくならなくて良かったけど
"どっか出かけてるんだって?
用事終わったら少し話せないか?"
一応送ってみたけど…
昼過ぎても返事も来ないし、既読もつかなかった
俺も気晴らしに出かけようかなー
あ、そういえばあの作家さんの小説出たって言ってたっけ
野々花も読むだろうから…
本屋行ってこよう
えーっと…新書は…
〔あれー?奇遇だなぁ?〕
「おー、村主 お前も本見に来た…の、か…
え…な、なんで…」
村主の後ろに野々花がいるのが見えた
〔俺たちデート中なわけ
野々花ちゃんが本が見てぇって言うからさー〕
《…》
「デート…?」
は?俺たち付き合い出したんじゃなかったのか?
《…っ》
〔おい…目つきやべーぞ…〕
「え」
〔野々花ちゃん、行こうぜ〕
《う、うん…》
「野々花!」
《ごめん…》
〔じゃーな〕
なんで…
なんでこんなことになってんだよ
【達哉point of view】
朝、散歩してたら
目の前に野々花ちゃんがいて
話しかけたら暇だって言うから、
デートしねぇ?なんて軽く誘ってみたら
OKしてくれたから お互いのこと話しながら
昼飯食って、そしたら本が買いたいって言うから
本屋に行ったんだけど
〔大丈夫か?〕
《…うん》
〔デート、やめるか?〕
《ううん 行こう》
それにしても…あいつ、目つきやばかったな
執着の目だ
俺ですらちょっと引いたぞ…
《達哉くん》
〔んー?〕
《わたしね、今までずっと不思議に思ってたことがあったの》
〔どうした?〕
《誰かと仲良くなろうとすると、必ず悪いことが重なって結局離れていっちゃったりしててね》
〔うん〕
《もしかして…しゅんくんだったのかなって》
〔あー…〕
《わたしの思ってる好きとしゅんくんの好きは違うんだって、昨日気づいちゃったんだ》
〔そうなんだ〕
《キス、されそうになってね
突き飛ばしちゃったの…》
〔うん〕
それであの目、か
つか、さっきから視線感じるんだよな
あいつ、どっかから見てんじゃねーのか
《幼馴染みだと思ってたから…》
〔なぁ〕
《ん?》
〔俺とはできそう?〕
《…できなさそうなら、止めてもいい?》
〔もちろん〕
《うん》
〔…〕
《…》
〔…ん、んん…〕
《ん…ふ、ぅ…》
"バキィッ"木の枝みたいなのが折れる音がした
野々花ちゃんには聞こえてないみてぇだな
遠くに行く足音…どっか行ったのか
あー可愛いなーほんとに
〔野々花ちゃん、どうだった?〕
《…恥ずかしい、けど…好きかも》
〔そっか 良かった〕
《達哉くんが良い人だから》
〔そうかー?〕
《うん!自分の目で確かめたかったの》
〔そっか これからもそうしてくれよ〕
《うん!》
〔あ、本…どうする?〕
《今度でいい…その時はまた一緒に来てくれる?》
〔もちろんいいぜー〕
《ありがとう》
〔もうちょっとぶらっとするか?〕
《うん!》
〔あ、これ買ってやる〕
《ん?おもちゃの指輪?》
〔そう お守り〕
《ありがとう!》
〔シンプルだから着けてても変じゃないだろ?〕
《うんうん!》
《似合う?》
指輪をはめた彼女が笑顔で見せてきた
〔おう!世界一可愛い〕
《もうー口がうまいんだからー》
〔本気なんだけどなー〕
《ありがとう!》
1時間くらいぶらついたか
〔俺んちでも来てみる?〕って軽く誘ってみた
《いいの?》
〔おう〕
「待って」
《…え》
〔なんだよ…〕
「野々花、さすがにもう帰ろう?おばさんに連れて帰るように言われてんの」
《連絡しておくから大丈夫》
「ほら」
❲ののー!早く帰ってきなさい!❳
向けてきたスマホから声が聞こえた
《え!?待ってもう少しだけ 早めに帰るから》
駿がスマホをしまった
〔さ、帰ろう 野々花〕
《痛っ…しゅんくん…っ》
《ちょっと待った》
野々花ちゃんの腕を取って歩き出そうとする駿をとめた
「…何」
《野々花ちゃん、もう一回お母さんに連絡してみ》
「やめろっ」
《え…?》
「…っ」
〔お前、もうやめろよ こういうの
野々花ちゃんはお前の物じゃねーんだから〕
《達哉くん、どういう、こと…?》
〔あとでゆっくり説明してやる 行こう〕
俺たちは下を向いたまま動かない駿を置いて帰った
《達哉くん…?》
〔さっきの、音声さ
たぶん録音したやつかなんかを切り抜いたんじゃねーかな〕
《…》
〔だから、連絡してほしくなかったんだと思うよ〕
《わたし、なんだか怖いよ…》
〔大丈夫…俺がそばにいる〕
《達哉くん…》
俺は野々花ちゃんを抱きしめた
《達哉くん…》
〔ん?〕
《…あの…》
〔うん〕
《わたしと…付き合ってくれる?》
〔もちろん 好きだよ 野々花ちゃん〕
《わたしも好き…》
〔…〕
《…》
〔好きだ…〕
ーーーーー
は、はは…っ
こんなにうまくいくなんて思わなかった
この女のキスも初めても、俺のもんだ
あいつにできなかったこと
全部俺がしてやる
一か八かだったが
録音で良かったぜ あぶねー…
連れて帰られてたら終わってたからな
あいつの好きな女なら、誰でも良かった
あいつから大切なものを奪えればそれで良かった
恨むなら、あいつを恨めよ
俺はあいつにされたこと…忘れてねぇからな
【駿point of view】
くそ…録音だってバレるなんて…
あいつに連れて行かれてしまった…
あの時の野々花の目…
俺のことを心の底から軽蔑してる目だった
いつの間にか
達哉くん、なんて名前で呼んでたし…
ん…?達哉…?
どこかで…その名前…
あ…もしかして…あいつ…
篠塚…達哉…?
あ…思い出した…6年の時、
俺、あいつのこと…傷つけたんだ…
〔駿が好きだ…〕
「いやいや、達哉待ってよ 俺たち男同士じゃん」
〔付き合えるなんて思ってないけど…〕
「…仲良くすんのも、無理」
〔……〕
友達にあいつに告白されたって話したら
あいつが男が好きだってクラス中で噂になって
その後すぐに転校して行ったんだ…
あいつ…俺に復讐しに帰ってきたのか…?
俺から野々花を奪うために…
俺は外で野々花を待った
野々花は22時ごろ帰ってきた
…首にキスマークをつけて
…っ!!
「野々花…」
《最低…もう話しかけないで》
「…」
村主…いや、篠塚…
これで満足か?お前の思い通りになったのか?
昔の事とはいえ…
悪かった…
頼むから…野々花のこと、大事にしてくれ
やり捨てとか…そういうのだけは…
野々花の傷ついた顔は…見たくないんだ…
【野々花point of view】
今日は達哉くんと付き合って2年の記念日
あれから達哉くんはずっとわたしと一緒にいてくれた
高校も卒業して、お互いに就職して
やっと仕事にも慣れてきて…
そろそろ一緒に住みたいなぁ、なんて…
最近、達哉くん
疲れてるのかな…つらそうな顔してたりするし
ご飯作って待ってるんだけど…
連絡来ないなぁ
あ、Rile
"ごめん 今日行けない"
"どうしたの?残業?"
"うん"
"明日休みでしょ?何時でも待ってるから"
"ごめん"
"達哉くん、何かあった?"
"…好きだ"
"わたしも好きだよ どうかしたの?
遅くなってもいい、待ってるから"
どうしたんだろう…既読はついたけど…
結局待ってられなくて
ソファで寝ちゃってたみたい
Rileが1通来てた…1時間前…
"愛してる 別れてくれ"
…どういう、こと…?
愛してる、なんて…初めて言ってくれたのに…
通話にも出てくれないし
愛してると別れてくれがどうしても
=(イコール)にならなくて
納得が全然いかない
"愛してるって言ってくれるならどうして別れないといけないの?会って聞かせて"
"もう会えない ごめん"
わけがわからないまま
連絡が取れなくなってしまった
部屋を訪ねても開けてもらえなくて
何日か後に行った時には、
もう引っ越したあとだった
わたし、何かしたのかな…
会いたいよ…
それから1年…
達哉くんのことを全然忘れられなくて
これから、わたし
どうすればいいんだろう…なんて
考えても仕方ないんだけど
友達は合コンとかに誘ってくれるんだけど…
参加する気もなくていつも断ってた
それでも、今日だけ!なんて言われて…
はぁ…
早く帰りたい…
《初めまして…八嶋野々花です》
始まった合コンは、わたしなんていなくてもいいくらい盛り上がっていて
でも、ご飯がおいしい…
何しにきたんだろ…もぐもぐ…
[ねぇ!ここ座っていい?]
友達の鞠子が離席してる間に座ってきた人に話しかけられた
《あ…えっと》
[おれ、悠輔よろしく!]
《よろしく…》
[つまんなそうだけど…一緒に抜けない?]
《え?》
[もう1人来る予定のやつも遅れてるしさ
そいつに誘われたから来たのにさー]
《そうなんですか》
[うん!ね!抜けちゃお…]
〔っ…その人に…触るな〕
この声…
《達哉、くん…》
[え?あ!達哉やっと来たのかよ って…知り合い?わりぃわりぃ んじゃ連れ出せねぇな]
そういうとその人は盛り上がってる集団の中に入っていった
《…》
〔…〕
話したいこと、聞きたいことはたくさんあるのに
言葉が出てこない
それは、彼も同じみたいで…
〔出よう〕
《え?あ、…》
腕を引かれ連れてこられたのは
そのお店から、少し歩いたところにあるカラオケ店だった
〔ごめん〕
《この1年どうしてたの?急にいなくなっちゃうし…》
〔俺…〕
その後話してくれたのは
彼が小学生の時にしゅんくんや他のクラスメイトにされたこと、
その事を恨んでしゅんくんを傷つけたくて、
わたしに目をつけたこと
わたしのことはすぐに捨てようと思ってたのに
…本気になってしまったこと
これ以上騙していたくなくて、姿を消したこと
今回の合コンは、彼がセッティングしたということ
わたしが来ることが条件で、自分も参加するつもりだったこと
《…》
あ、思い出した…
どこかで会ったことがあるような気がしていた
付き合い始めた時は茶髪だったけど
今の髪型は黒髪で…
あの頃の面影が…
そう、この人は…
篠塚達哉くん
同じクラスになったことはなかったけれど
図書委員会で一緒になったことがあった
物静かな男の子で
本を読んでる姿を何度も見たことがあったっけ
〔俺、忘れられなくて…自分から離れたくせに
ごめん〕
《わたしも…忘れられなかったの》
〔野々花ちゃん…〕
《会いたかった…もう、どこにも行かないで…》
〔いやでも、俺…〕
《全部聞いた上で、わたしがそばにいたいの》
〔…うん〕
《騙されたなんて思ってないよ》
〔…ん〕
《今どこに住んでるの?》
〔野々花ちゃんちの…近く〕
《わたしの家、知ってるの?》
〔うん こっちに帰ってきてから偶然見かけて…〕
《声かけてくれたらよかったのに》
〔…〕
《もう!気にしないでよ ね?》
〔…うん〕
《もう…絶対に離さないんだから…》
〔野々花ちゃん…〕
《帰ろう?わたしの家に》
〔うん〕
昨日は、あれから今までの寂しさを埋めるように
求め合ってた
理由なんかどうでもよかった
あの頃に自分が選ばれた理由も
今になってまた選ばれた理由も
わたしが、一緒にいたかった
ただただ、一緒にいたかったの
【達哉point of view】
あいつに復讐することだけを考えてた
両親の離婚が決まって、転校することになったから
その時まで思っていたことを
伝えたかっただけなんだ
別に、付き合ってほしいとか、好きになってほしいとかそんなこと望んじゃいなかった
忘れないで…そう、言いたかっただけなのに
気持ちを伝えた次の日、クラス中の視線が怖かった
俺に聞こえるように、ヒソヒソと陰口を叩く連中
汚いものを見るかのような女子たちの視線
ただ、気持ちを伝えただけにしては
重すぎる代償ではないか?
あの時、教室には俺とあいつしかいないのは確認済みだったし
声を張り上げてもいなかった
それなのに、クラスのやつらの態度がこんなに変わるなんて
あいつが言いふらしたんだ
転校するまでの3日間
地獄のようだった
休みたかったんだけど
ただでさえ離婚の事で頭がいっぱいの母親に心配かけたくなくて
誰にも何も言えないまま
俺のあの学校での出来事は悪夢みたいなものになった
ーー図書室での事以外は
あの頃、本が好きだった俺は図書委員会を押し付けられて
昼休みや放課後、図書室にいることが多かった
仕事としてはやることはない
ただ、受付にいて
本を借りに来た人にカードに名前を書いてもらって
残りの時間は本を読んでいるだけだ
そこに、同じ委員会の女子が来ていた
《何読んでるの?》
〔ミステリー小説…〕
《おもしろい?》
〔うん〕
《おすすめってある?》
〔…これ、とか、これなら…読みやすいかも〕
《ありがとう!読んでみるね》
それからしばらくして、あの件が起こって
《ねぇ!読み終わっちゃった!またおすすめ教えて》
そう言ってくれた彼女に、今の俺の状況を知られたくなくて
〔俺に話しかけないほうがいいよ〕
《え…?》
〔…〕
《ねぇ、あの…》
〔うるさいな!邪魔なんだよ!〕
《…っ》
走っていってしまった彼女に、
聞こえないごめん、を呟いて
その日から図書館に行くのをやめた
その彼女が、あいつの幼馴染みだという
ふざけんな…
お前みたいなやつが、彼女に触れるな…
そんなふうに思った
自分のしたことを棚に上げて、
俺は
あいつから彼女を奪うことにした
彼女は、自分の周りから友達が離れていくのを
あいつのせいだと思ったみたいだけど
あれは俺がやったことだった
彼女に近づく男を遠ざけるように仕組んだ
うまい具合に、あいつがやったことだと思い込んでくれたおかげで
彼女はすぐに俺に靡いた
彼女の周りにはいないような性格が悪そうな俺は
逆に恋愛対象になってしまったんだろう
少し優しくしたらすぐに乗ってきたから
それはそれで心配になったけど
あの日から2年
彼女の想いは俺だけに向けられていて
本当に嬉しかったし
本当に愛してた
それでも、俺の気持ちを彼女は知らない
このままではだめだ…
そう思って離れることにしたけど
1年ももたなかった
会いたい気持ちが爆発しそうで
そして、今ーー
俺は彼女の家に転がり込んで
彼女のそばにいる
《もう絶対に離さない 離れて行かないで》
そう言ってくれた彼女に
甘えている
《達哉くん、ひとつ聞いていい?》
〔ん?〕
《あの頃、しゅんくんのこと、好きだったの?》
〔…〕
《ごめんね でも、確認したいの》
〔なにを〕
《わたしのこと、本当に好き?》
その疑問は至極真っ当だと思った
男が好きなはずなんだから、女である自分のことを好きというのは本当か…
〔信じてもらえるかわからないけど、本当に好きだよ 愛してる〕
《よかった…じゃあ、もう疑わない ありがとう》
嘘じゃなかった 本当の気持ちだった
〔…野々花ちゃん〕
《ん?》
〔これからずっと一緒にいたい〕
《結婚しよっか》
〔いいの…?〕
《わたしがしたいの》
〔うん…結婚、してください〕
《はいっ》
しばらくして、野々花ちゃんの実家にご挨拶に伺うことになって
俺と野々花ちゃんは2人で歩いていた
「…あ」
〔…〕
《…》
「まだ付き合ってたんだ」
〔あぁ 今からご挨拶に伺うところなんだ〕
「…挨拶って…結婚とか?」
〔そうだよ〕
「そっか…おめでとう」
〔…まさか、おめでとうなんて言われるとは思ってなかったけどな〕
「野々花が幸せになれるんだ おめでたいじゃんか」
《しゅんくん…》
「じゃあね」
《しゅんくん!》
〔…〕
「ん?」
《ひどいこと言って…ごめん》
「構わないよ あの時、音声を作ってたのは本当だから」
《…》
「じゃあね」
〔大丈夫か?〕
《うん》
〔…野々花ちゃん〕
《ん?》
〔駿じゃなくていいの?〕
《なんでそんな事言うの》
〔いや…せっかく仲直りできたんだ〕
《達哉くんがいいの!》
〔…そか〕
《ねぇー嫌になっちゃった?》
〔そんなわけないだろう?〕
《じゃあいこ!お寿司用意してあるって言ってたから!》
〔あぁ〕
彼女はとびきりの笑顔で、俺の腕を引っ張る
彼女が選んだのは俺なんだ
彼女のご実家に伺って、結婚の挨拶をして
祝福してもらって
とても幸せだ
【駿point of view】
「…結婚、か
今度は俺が復讐する番、だな」
あいつらよりも、幸せになってやる
俺も早く綺麗さっぱり忘れて
前を向こう
心の底から、あいつらを祝福できるように
俺自身の幸せのために
タイトル〘復讐の、その先に…〙
Fin…
こちらの記事はnote様で同一名義にて投稿しております。
再編集して投稿しております。




