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読み切り短編集  作者: おしるこ


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39/62

俺の女神様

「お疲れさまー今日もありがとうー」

《いえいえ、こちらこそ お疲れさまです

また再来週ですね!》

「あ、それがね…私来週で異動になるの」

《え…どこの店ですか?》

「■□店だよ」

《そうなんですかー俺の配達エリアじゃないや》

「そっか、じゃあ 今日で最後だね 2年くらいかな?どうもありがとう お世話になりました」

《あ…こちらこそ、お世話に…》

あれ?黙っちゃった?

「ん?どうかした?」

《あの!今日仕事終わったら飯とかどうすか!?》

「え?」

《ダメですか?》

「あ、ううん いいけど…私終わるの18時半だよ」

《全然待てます!迎えに来ますね!》

「う、うん…」

《じゃあ!またあとで!》

「うん、またあとで…」


私はスーパーで働いている

パン売り場の担当だ


早番の時は、こうして配達してもらったパンを検品して売り場に並べて、在庫の管理や発注をするのが仕事


再来週からは他の店舗で仕事をすることになるから

配達してくれたメーカーさんに挨拶したんだけど…

まさかご飯に誘われるなんて


彼は小山くん だいぶ年下だと思うんだけど…

詳しいことは何も知らない

2年前からこの店の担当で

このパンが好きとか、

他メーカーさんのこのパンがおすすめとか

パンの話しはよくしていても、そういう話しかしたことがなかったから


まぁ、もう会わない人だから断ってもよかったんだけど

なんか、どうしてだろう

つい、OKしてしまった


【小山point of view】


はぁ…須本さん、異動しちゃうんだ

俺の癒やしだったのに

優しくて、よく笑ってる そんなイメージ

好きだったのになぁ


でも、■□か

俺んちのそばじゃん

通えばいいか…売り場にいる須本さんは見たことないもんな


つか、飯誘っちゃったし…

迷惑じゃなかったかな…

いや、一応いいよって言ってくれたんだ

どこにしようかな

パンがおいしい店の方がいいかな…


シャワー浴びる時間もあるし

早めに行って待ってようっと




あー…ちょうどいいか

18時 もうちょっとで須本さんに会える…


よく考えたら、何も考えずに誘っちゃったけど

須本さん結婚してたりとか彼氏いたりすんのかな

でも須本さんの性格だと、パートナーいたら断りそうだよな

俺にも脈あるかな…

あー早く会いてぇ


「小山くん?」

《あ…須本さん、お疲れさまです》

髪下ろしてる…初めて見た 可愛い…

「お疲れさまです ごめんね?待たせちゃったよね」

《や!全然 さっき着いたとこっす!》

「そっか、じゃあ…ご飯、行く?何食べたい?」

《あ、須本さん何がいいっすか?》

「小山くんが行きたいところでいいよ!好き嫌いないから!」

《あ、じゃあ…おすすめあるんで、行きましょう》

「うん」


いつも制服で髪結んでてマスクしてるところしか

見たことなかったから

マスク取った顔も私服もやべー

可愛すぎなんだけど…

《あの、須本さん》

「ん?なぁに?」

《いきなり誘っちゃって迷惑じゃなかったですか?》

「ううん、全然 でも、私でよかったの?」

《はい!》

「そ、そっか ありがとう!誘ってくれて」

《普段、お店の人と行ったりするんすか?》

「うーん…たまに、かなぁ 飲み会とか?」

《へぇー》

「小山くんは行かないの?」

《あんま行かないっすね》

「そうなんだね」

《あのー》

「ん?」

《彼氏とか、いるんすか?》

「まさか!いないよー」

あーーーーよかったーーー!!

《そうなんすね!あ!ここです》

「あ、ステーキハウスなのかな?初めてきたよ」


《ここ、パンめっちゃうまいんすよ》

「そうなんだ!楽しみー」

席に通された俺たちは、メニューを見ながらどれにするー?なんて盛り上がった


メニュー見てる須本さん、めちゃくちゃ可愛い

こういう人好きなんだよな

何でも素直な感じでキャッキャ言える人

「小山くん?」

《え?どうしました?》

「食べないの?お肉来てるよ!」

《あ!食べましょう!》

「うん!いただきます」


《須本さん、ヒレにしたんすよね》

「うん!食べてみる?」

《え、いいんすか?》

「うん ちょっと待ってね こっちのナイフで…」

カトラリーケースから、新しいナイフとフォークを取ってきて取り分けてくれた

《そのままでいいのにー》

「え?」

《あ…なんでもない、です》

「…どうぞー足りなかったらまだあるからね?」

《少食なんすか?俺のもいります?》

「大丈夫!なんだかその…胸がいっぱいで…」

意識してくれてんのかな

うれしい…!


《なんかすみません、俺ばっかり食っちゃったのにご馳走してもらっちゃって…》

自分の方が年上だからって全然払わせてくれなかった…

男らしいとこ見せたかったのにな…


「いいのいいの!おいしいお店教えてもらって

うれしかったし!」

《あの、よかったら、その…また、飯とか…》

「えっと…」

《ダメ、ですか?》

「あ、いや、うーん だめなわけではないんだけど…私じゃなくて、歳の近い人とか…誘ったほうが…」

《須本さんがいいんですけど》

「え?」

《須本さんだから誘ったんですよ?》

「あの、でも…」

《何歳なんですか?》

「35…」

《俺、25です 年下はダメですか?》

「いや、こっちが上すぎるでしょ…」

《須本さんがいいです 俺は》

「…そっか あの、ありがとう…」

《あの!Rile交換しましょ!また誘いますから》

「え?あ、うん…」

ちょっと強引だったかもしんないけど

俺もう会えなくなるのとか嫌だし


ま、店にも通うけど…


「あの、今日はどうもありがとう」

《え、帰っちゃうんすか》

「え!?」

《もう少しだけ…ダメっすか》

「明日仕事じゃないの?」

《休みです》

「そ、そっか」

《須本さんち、近いんすか?》

「う、ち、近い…けど…え、来たいの?」

《はい!》

「いや、さすがに家は…」

《ダメっすか?》

「はぁ…散らかってるよ…?」

《気にしないっす!》

「じゃあ…どうぞ」


よっしゃ!言ってみるもんだなー

須本さん、ダメっすか?に弱いんだなーそんな気がする


歩きながら、下の名前とかいろいろ聞き出した

須本絵里子さんっていうんだ

35歳、独身、彼氏なし 趣味は食べることと寝ること 恋愛は苦手で男と2人きりでは食事もしたことなかったらしい


俺が初めてじゃん!!!

やべーこれからえっちゃんの全部、俺が初めてなんだぜ

それだけで大収穫だよなーこれ

まだ、付き合えたわけじゃないけどさ


「どうぞー」

《お邪魔しま~す え、全然綺麗だー》

「えーそうかな…こんなことになると思ってなかったから…」

《急に来てごめんね》

「あ、ううん 大丈夫」

《っていうかさ…なんか心配になってきた》

「え?」

《えっちゃん、押しに弱くない?俺が言うのもなんだけどさ》

「そんなことないと思うけど…」

《ある!俺以外を部屋にあげちゃダメっすよ!?》

「そんなことしないってば…はい、コーヒー」

《ありがとうーいただきまーす》

「あの、さっきの話だけど…」

《ん?》

「ほんとに呼んでいいの?玲央くんって」

《呼び捨てでもいいよ?》

「あ、いやいや じゃあ…呼ばせてもらうね?」

《うん!でさ!えっちゃん》

「ん?」

《付き合ってくれるんだよね?》

「え!?」

《俺えっちゃんのことずっと好きだったんだけど》

「いや、でも」

《また歳の話とかすんの?俺聞きたくねーけど》

「大事なことだよ?」

《俺とえっちゃんがよければそれでいいじゃん》

「うーん…」

《ね?えっちゃん 好きだー俺 付き合お》

「…うん、お願い、します」

《やったー!大事にするから!》

「ありがとう 玲央くん」

《ねぇ!キスしてい?》

「もう!?」

《我慢できねーよ、俺》

「も、もう…」




【絵里子point of view】


とんでもないことになってしまった…

今まで恋愛なんて全然興味もなかったのに

35にして、25歳の彼氏が出来てしまった…


でも、とても素直で

少し強引だけど いい子なんだろうなぁ


信じていないわけではないけど

きっと、すぐに他にいい子が出来るかもしれないし

それまで

大事に接していこうと思う




そう、思ってたのに…


どうして!?

玲央くんはそのまま泊まっていって

その、初めて、その…

うぅ…

年上なんだから私がしっかりしなきゃいけないのに

最後までしてしまった…


恋人って、こんなに展開が早いの…?

《えっちゃん、起きたの?おはよ》

「玲央くん…おはよう」

《身体痛くねぇ?》

「だ、大丈夫だよ」

ほんとは少し痛いし、重だるい…けど

なんだか、玲央くんの寝起きの顔見てたら

しあわせかも、なんて 思い始めていた


《ねぇーえっちゃん》

「ん?」

《■□でしょ?》

「そうそう よく覚えてたね」

《俺んちのそばだもん》

「え!そうだったの?」

《うん でさー》

「うん?」

《一緒に住まねぇ?》

「え」

《もう離れたくないんだよー俺》


一緒に住んでしまったら、他の子ができても邪魔になるんじゃ…

《今何考えた?》

「え?いや、その」

《いい えっちゃんの意見聞いた俺がバカだった》

「玲央くん…?」

《俺んちで一緒に住む 決定事項な》

「え、ちょっと」

《ダメ?》

「…だめ、じゃない」


これだ

これにとても弱いのだ

はぁ…

《来週はまだこっちの店だもんな 土曜になったら迎えにくるよ》

「え、いいの?」

《もちろん とりあえず服とか用意しといてよ》

「うん…」


とんでもないことになってしまった…


神様はどうしてこんなイタズラをするんだろう


【玲央point of view】


よーし!一緒に住めるー!

早く土曜になんねーかなー


土曜は夜までえっちゃんちにいて、

自分の部屋に帰ってきてからは

朝と夜はいつもRileしたり通話したりしてる

ほんとは会いてぇんだけどなー


えっちゃん遅番だしな

水曜は休みだっていうから

俺の仕事が終わったら迎えに行くことにした




《えっちゃん お待たせ》

「玲央くん、お疲れさま」

《会いたかった》

「ありがとう まだ3日しか経ってないのにー」

《3日も!だよ えっちゃんは俺に会いたくなかったわけ?》

「そんなことないよ!?」

《俺のこと好き?》

「ねぇ、玲央くん そ、外だよ…」

《じゃあ、耳元で言って》

「もう… す、すきだよ…」

《俺も!すっげぇ好き!》

「ちょ!声大き…!」

《さ、行こっか》

「もう!ってどこに行くの?」

《俺んち》

「今から?」

《そ!見ておきたいでしょ?》

「え?あれ、ほんとに住むの?」

《当たり前だろ!なに?もしかして、えっちゃん

何も用意してないとかないよね!?》

「いや、あは、は」

《怒った》

「ごめんね、玲央くん…許して?」

《キスしてくんなきゃやだ》

「ちょ、玲央くん!?」

《早く》

「…もう…」


なんやかんやしてくれるんだから 可愛いよなー


《えっちゃん、入って》

「あ、うん お邪魔します」

《えっちゃんちほどではないけど、綺麗にしてあるだろ?》

「うん!お部屋もう一つあるんだね?私はどこを使わせてもらえばいいのかな」

《もう一個あるにはあるけどさ》

「うん」

《ここで一緒に寝よ?》

「え!?」

《な?いいでしょ》

「疲れ、取れないんじゃ…」

《えっちゃんがいてくれたらそれだけでいい》

「…そ、そう?」

《お願いーいいでしょ?ダメ?》

「ふぅ、わかったから…」

《やったぁー!えっちゃん愛してる!》

「わっ、玲央くんったらーもうー」

《もう、じゃないでしょ》

「え?」

《俺のこと、愛してるって言って》

「…あいしてます」

《愛してる 離さないから》


その日も、えっちゃんと一緒に寝て

初めて俺の部屋で一夜を共にしたんだ


俺本当に幸せ

えっちゃんがいてくれれば

もう他には何にもいらない


えっちゃんも、そう思ってくれるでしょ?


何年かしたら結婚して

子どもも早く欲しいな

しばらくはえっちゃんと2人がいいけどさ


そんなことを考えるようになった


えっちゃんと一緒に住むようになってから

仕事もうまく回るようになった


「玲央くんが頑張ったからだよ!すごいよ!」

《えっちゃんがいてくれたからだし》

「ううん 玲央くんの力だよ!」


こんなふうにいつも俺を立ててくれるんだ


あー早く結婚してぇなー



【3年後 絵里子point of view】


最近、玲央くんとゆっくり話す時間が取れていない


あれから少しして

玲央くんの営業部の配属が決まった

営業部は玲央くんが、ずっと行きたがっていた部署だったから

決まった時は2人でよろこんで

玲央くんがしっかりお仕事ができるように

サポートしなくちゃって 私…


それはいいの

したくてしたことだから


でも、こう毎日夜も遅くて

私も仕事してるし なかなか2人で話したりする

時間がなくて 少しさびしい

そんなこと、仕事で大変な思いをしている玲央くんには言えないけど


体調が心配 いくら若くても仕事だからしょうがないのかな


《ただいま…

まだ起きてたんだ 寝ててよかったのに》

「おかえりなさい もう寝るところだよ

ご飯はどうする?」

《食べてきたから ごめん》

「大丈夫だよ じゃあ片付けておくね

お風呂はできてるから どうぞ」

《うん》


最初のうちは、こまめにくれていた連絡も

今はほとんどない


2人分作っても、次の日に私がそれを食べるという生活になっていた


そろそろ潮時かなぁ…


涙が滲む

玲央くんにバレないように早く寝なきゃ…

明日は、早番だもん…




「え?異動、ですか?」

{うん、来月から▲■店だ

あと3週間かな 引き継ぎ頼むね}

「はい…」


いい機会かもしれない

ここから▲■まではだいぶ距離がある


通えなくはないけど往復3時間…

毎日となると少しきつい


部屋探そうかな

その前に、玲央くんに話さないと…


"帰ったら話があるの 今日は早く帰って来られそうかな?"


既読はついたのに返事は23時になっても来なかった


《ふー…》

「あ、おかえり」

《起きてたの?》

「だいぶ酔ってるね?大丈夫?今お水を…」

《あっ、ねぇ 話ってなに》

「あ、今度でいいよ?疲れてるでしょ」

《いいから 何?》

「異動が決まったの ここからは少し遠くてね」

《そうなんだ》

あれ…この香り…香水?どこかで…

「うん」

《風呂入るね》

「うん、スーツ片付けておくね」

《ん 寝てていいから》

「うん」


ハンガーにかけて…

…やっぱり 香水の香り

しょうがないよね 仕事上のお付き合いでそういうお店に行くこともあるかもしれない

シュッシュと布用の消臭剤をかけておいた


ん?スマホが鳴ってる

!!!

"ほんとはもっと一緒にいたかったのにぃ

愛してる♡また明日♪"

みゆって書いてある


あ…やっぱり…

みゆ、さん

…1年前かな 玲央くんに紹介してもらった後輩の

女の子がみゆさんっていう名前だったような…

それに、そう、この香水の香りも…その子がつけていたものだ…



よかった…

この部屋には私の物は最低限しかない

何かあったときにすぐに出ていけるように私の物は増やしてないから


《何してんの》

「ううん 先に寝るね おやすみなさい」


《あっ、》

彼が何か言ったかもしれないけど

私は聞こえていない振りをした

聞きたくなかった

今はとどめを刺されたくなかったの


起こされることもなかったし、

そのことで話しかけられることもなかった




次の休み、私は

置き手紙をして家をでた

一緒に住み始めてから初めての誕生日にプレゼントしてくれた指輪も置いてきた


さ!部屋探さなきゃな…

次にどこに異動になってもいいように

エリアの中心辺りがいいかな


狭くて安いお部屋見つかるかな

家には寝に帰るだけみたいなものだし


その日のうちに、不動産屋さんに行って

すぐに入居できる部屋の中から2つまで候補を絞った


次の休みまで返事を待ってもらって

その間はビジネスホテルに泊まることにした

こういう暮らしも悪くないかも


家電なんて、そのうち揃えればいいし

とりあえずお金さえあればなんとかなるんだもん

お金だけは…あるんだから…!


新しい生活、なんていうと 少しワクワクしてくる

ほんとは泣きたいぐらいつらいけど


…通知がひとつ

"何で勝手に出て行くの 俺聞いてないけど"


返事した方がいいのかな

しなくてもいいよね


"とりあえず帰ってきて"


"説明させて お願い"


既読もつけていなかったら、何か察したのかな

次々とRileが来ていたけど…

通知をオフにして寝た

今日は疲れちゃった

明日も仕事だもの…



【玲央point of view】


念願の営業部に配属が決まって

本当にうまくいっていたんだ


1年前、俺が指導してる子をえっちゃんに紹介した

その時は食事だけして解散した


その後だ

その子、美結が俺に懐く以上にくっつくようになったのは


俺、仕事もうまくいってたし

美結がくっついてきてくれるのが

なんかうれしくなって

えっちゃんがいるのに

すぐに男と女の関係になった

美結は付き合ってると思い込んでるし

最近は、なかなか離してくんなくて

正直困っていた


えっちゃんが夜泣いてるのにも気づいてた

それでも俺の前では、顔にも出さずに笑顔でいてくれてた


それでもやはり悪いことをしたらバレるもので

通知を見られたんだと思う

確信が持てなかったのは、えっちゃんが何も言ってこなかったし、顔にも出さなかったから


でも、何日かして家に帰ってきたら

手紙を置いて出てった後だった

えっちゃん、料理の作り置きしていってくれて…

〇〇日までに食べてね、なんて…こんな俺のために…



その時に俺は

自分が何をしたのか

やっと…、やっと思い知ったんだ



えっちゃん…既読もつかない

何で…本当に愛想つかしちゃったの

もう別れんの?

嫌だよ、俺…

俺が言えたことじゃないのはわかってるけど…



俺は休みの日に、店までえっちゃんに会いに来た


《あの、須本さんって今日は来てますか》

[須本…ですか?]

〚どうしたの?〛

[あ、このお客様が、須本さんに会いたいみたいで…]

見るからに上司っぽい人が後ろから話しかけてきた

〚君はもういいよ 俺が対応するから

あの、私、この店でチーフを任されています

湯島と申します

あなたは…須本とはどういった…?〛

《あ、俺小山っていいます えっと、付き合ってます》

〚あなたが…そうですか あいにくですが須本は異動した後で、もうこの店にはいませんよ〛

《えっ、そう…なんですか…

あの!どちらの店なんですか?》

〚すみませんが従業員の事はお教えできかねます〛

《あの、どうしても会いたいんです…》

〚…付き合っているのであれば、本人に連絡を取ればよろしいのではないですか?〛

ごもっともだ…

《…すみませんでした 帰ります》


教えてもらえないなんて思わなかった


いや、そりゃそうか

家族でもない、どんなやつかもわからないのに

教えてもらえるわけないよな


えっちゃん…


"お願い 一回だけでいいから話を聞いてほしい"


"俺今日休みだから いつまでも連絡待ってるから"


あ、既読ついた


…返事、来ないな


そうだよな

俺、えっちゃんの話 全然聞いてこなかったもん

この2年なんて 特に…


嫌われたんだな、俺…




"ごめんなさい 今仕事終わりました"


あ…

夜になって返事が来た

"会える?会いたくなければ、電話でもいいんだけど"


"今どこにいるの?"

"家にいるよ"

"じゃあ、お邪魔するね"


…帰る、とは言ってくれないんだ


結構時間かかるのかな、なんて思ったけど、

すぐに、帰ってきた 


え?なんで…


《えっちゃん、何で…》

「え?」

《もう異動先に行ったって聞いたけど》

「あー…あの、チーフがね 少し意地悪したみたい」

《…俺に会わせないようにしたのか》

「心配かけちゃったから…ごめんね」

《俺に、言えないこととか あの人に話してたりしたの?》

「ううん この部屋を出た日にね 不動産屋さんに行ったんだけど、その時に会っちゃって」

《あ、ねぇ 本当に出ていくの?行かないでよ》

「ごめんね ここからは少し遠いから…」

《俺のせいなんでしょ?俺が浮気したから》

「…」

《ごめん ごめんね、えっちゃん もう二度としないから だからお願い…》

「玲央くん」

《なに?》

「信頼ってね 積み上げるのは時間がかかるけど

壊れるのはあっという間なんだよ」

《…ごめん 本当に、俺…》

「謝らないでいいから」

《?え、許して、くれるの…?》

「…次の相手の時は、ちゃんと覚えててね」

《…えっちゃん!》

「私はもうすぐ40になるし1人で生きていく覚悟も

とっくにできてるの 玲央くんはこれからの人だから 大丈夫だよ うまくいくから、ね」

《嫌だ、ごめん 本当にごめん えっちゃんがいないと、俺

あ…料理も、ありがとう…俺、えっちゃんが…》

「玲央くん!」

《…うん》

「あなたがいてくれて本当にしあわせでした

ありがとう 元気でね」

《やだ…えっちゃん、お願い…》

「私明日も仕事だから 帰るね これだけ言いに来ただけだから」

《…》

「…離してくれないと帰れないよ」

悲しそうに笑うえっちゃんを抱きしめたんだけど

スッと離れて行ってしまった


えっちゃん…だめだ 追いかけなきゃ…

今、行かせたら…




《えっちゃん!!》

「…っ」

あ…

初めて見た 号泣してるえっちゃん…

まだ、初めてなこと…あったんだ


「ごめんね こんな顔見せたくなかったのに」

《帰ろう》

「…」

《帰ろう、ね》


えっちゃんを連れて帰ってきたけど

何を話せばいいのかわからなくて


お互いに黙ったまま

それでもとなりに座って 手は繋いでた


離れて行って欲しくなかった


「ごめん、やっぱり私」

《次、休みいつ?》

「え?…明後日だけど…」

《迎えに行く》

「用事があるの ごめんね」

《用事って何》

「…」

《もしかして、さっきの不動産屋とか関係ある?》

「…うん」

《俺も行く》

「え?」

《新しい部屋一緒に探そう?》

「だめだよ」

《…っ》

初めて聞いた だめ、だった

「一回離れよう しばらく離れて、まだ私のことを好きでいてくれたら、その時は一緒にいて?」

《俺、ずっとえっちゃんが…》

「今のままではだめだよ 玲央くん」

《あ…》

そうだ 俺、全部終わらせてねーんだ…


「ありがとう じゃあね」

《…うん》


えっちゃんを見送ったあと

美結に連絡した

"会えるか?"


すぐに連絡が返ってきた

"会いたいっ!"


…俺は覚悟を決めて、会いに行った


【絵美子point of view】


「おはようございます チーフ

昨日はお手数おかけしました」

〚おはよ 彼…どうだった?〛

「ちゃんと別れましたよ」

〚そっか また来たらどうしたらいい?〛

「来ることはないと思いますが…昨日の対応で大丈夫です すみません ご迷惑をおかけして」

〚いや、どんどんかけていいよ、須本さんなら〛

「本当ですか?じゃ、遠慮なく…ふふ

では仕事しますね」

〚うん 頼むね〛


引き継ぎはだいぶ終わった

次の担当の子は覚えが早くて助かる…

玲央くんくらいの歳だ…

さすが若い子だなぁ


あー…いけないいけない

しっかりしなきゃ


…ん…なんか、胸が苦しい

緊張とはまた違う感覚…

食べすぎたりはしていないはずだけど…


何年か前から、たまにあるんだ

歳かなぁ…やだなぁ…


「お疲れさまでしたーまた明日」

〚ねぇ、良かったらご飯でも…〛


《えっちゃん…》

「え!玲央くん…!?どうしたの?その顔…」


目の前には、顔に殴られたような跡をつけた玲央くんがいた

〚おっと…じゃあ、また明日ね 須本さん〛

「あ、チーフ…はい、お疲れさまです」

《俺、別れてきた》

「…そっか」

《どうしても、えっちゃんにそばにいてほしい》

「…消毒とかはした?」

《え?あ、うん えっちゃんが揃えてくれてたやつがあったから、それ使った》

「そっか、それならよかった」

《えっちゃん》

「ん?」

《帰ろ》

「帰るよ 今はビジネスホテルに泊まってるの」

《俺んちに帰ろう お願い》

「わがまま言わないで?ね?じゃあ…ご飯だけ食べようか」

《…ん》

悲しそうな顔をしている玲央くんを見て

今すぐに玲央くんの部屋に帰りたかったけど

また何かあったらって…

そんなことになったら、もう立ち直れないから


こんなことになるなら

幸せな気持ちなんて、知りたくなかった

それでも、知ってしまったこの気持ちを

これ以上、壊されたくなかった


「玲央くん、もう少し食べられるでしょ?

これ、どうぞ 手を付けてないから」

《え?えっちゃん足りるの?》

「玲央くんがたくさん食べてるのを見てるだけで胸がいっぱいで…」

《…初めて飯食った時も、それ言ってたね》

「そうだっけ?」

《忘れちゃったのかよ…》

もちろん覚えてる

あんなにドキドキした食事は初めてだった


大切な大切な想い出だもん


「じゃあね」

《えっちゃん 俺、ずっと好きだから》

「…」


返事もせず振り返りもしないで

私は歩き出した



【玲央point of view】


えっちゃんと別れて、

また仕事がうまくいかなくなり始めた

全部俺のせいだ

美結を振ってから、あいつがあることないこと振れ回って仕事がやりにくくなったし

この顔の傷で営業に出させてもらえなくなった


でも俺のせいだから頑張ろうと思ったんだけど


《部長、お話があります》


俺は、もう一度初心に戻りたくて

異動願いを出した

引き継ぎをして、新しい部署に移って

半年…


〔おい、小山!昨日頼んだ書類どうした?〕

《出来てます!》

〔よーし 次は設備の在庫確認しといて〕

《承知しました!》


ここは総務だ 時間もきっちり定時で終わる

慣れないデスクワークはなかなかきついもんがあるけど

厳しい上司もいてやりがいがあっていい


残業がない分給料は少し下がったけど

えっちゃんと結婚したとしても

えっちゃんを養えるくらいはあるはずだ


もう住んでる場所もわからない

どこで働いてるのかも…


それでも、もう我慢できなくて

電話をかけてしまった


休みか仕事か、早番か遅番かもわからなかったけど…


直ぐに電話に出てくれた

「もしもし?」

《えっちゃん…》

「久しぶりだね、玲央くん 元気してる?」

《うん…えっちゃんは…?》

「…元気だよ」

《ねぇ、えっちゃん 俺、会いたい》

「ごめんね 会えないの」

《…やっぱり、まだ許してくれてないよね》

「ううん…そうじゃなくてね」

《…え?》

「…入院しててね」

《え!?な、なんで!?》

「ちょっと、ね」

《病院、どこ?今すぐ行く》

「ちょっと待って!落ち着いて」


面会時間が決まってるというから

その時間に言われた病院に行った


入口で名前を書いて聞いた番号の部屋に入っていく

"コンコン"「はーい」

えっちゃんの声だ…

《えっちゃん…》

「玲央くん、いらっしゃい ごめんね 少し遠かったでしょ」

《会いたかった…》


個室だったしいいかと思って、思いっきり抱きしめた

「ん…少し痩せた?」

《えっちゃんの飯食えなくなったからかな》

「ずっと食べてなかったじゃない」

《意地悪言うようになったんだーえっちゃん》

「ふふ」

《体調、どこが悪いの》

「手術したから…もう大丈夫だよ」

《っ…ごめん…辛い時に、そばにいてあげられなかった》

「気にしないで」

《退院、いつ?》

「次の土曜日だよ」

《そっか…迎えに来てもいい?》

「来てくれるの?ありがとう」

《今どこに住んでんの》

「…■◯だよ」

《え…そんなに近くにいたの…?》

隣の市じゃないか…俺の部屋から歩いて30分くらい

「ごめんね 離れたく、なかったの…」

《えっちゃん…結婚して》

「え、え!?」

《愛してる ずっと一緒にいて》

「うーん…」

《ダメ?》

「少し考えさせてくれる?」

《うん…待ってるから、ずっと》

「ありがとう」


それから時間になるまで、今までのこととか話して

また来るからって

病室を出た


土曜日…

総務は土日休みだから ちょうどよかった


その日までは、Rileで連絡を取り合った


よし…今日もぴったり定時で上がれた

夜の面会時間に間に合いそうだ

急がなきゃ…


"コンコン"「はーい?」

《えっちゃん…あ》

〚あぁ、いつぞやはどうも〛

「玲央くん、来てくれたの?

仕事の後なのにわざわざありがとう」

《…これ、お見舞い この間は何も持ってこれなかったから》

「ありがとう!」

〚じゃあ、俺は失礼するよ …考えといてね?〛

「…はい ありがとうございます」

《…何を考えとくの》

「プロポーズされちゃった」

《…そか》

あの人との方が、えっちゃんは幸せになれんのかな


「断ったけどね」

《え?》

「だって、受けられるわけないもん」

《でもあの人、考えといてって》

「意地悪したんだよ、また」

ふふ、と笑うえっちゃんを見たら

安心して、力が抜けた

「えっ!?玲央くん?大丈夫!?」

《焦った…》

「いつもなら、俺のほうがーとか言いそうなのに」

《自信なんかなくなるよ…えっちゃんのこと、幸せにできてねーもん 俺》

「しあわせだよ、私」

《嘘…傷つけてばかりじゃん》

「それでも 玲央くんがこうして私のところに来てくれるんだもん しあわせだよ」

《…えっちゃん…》

「泣かないのー…もう…」


俺の方がいつも、

いっつも幸せにしてもらってんじゃん


かっこわりぃ…

あの人みたいに、大人っぽくもできないし

余裕もなんもないけど…


えっちゃんのことだけは…諦めたくない…


《明日も来るから》

「ねぇ、玲央くん」

《ん?》

「土曜日、来てくれるんだよね?」

《もちろん 絶対来る》

「なら、その時でいいから」

《え…》

「無理、しないで」

《してない、俺は…》

「それにね、ちゃんと考えたいの」

《…連絡は、してもいい?》

「うん、もちろん」

《…わかった あの、えっちゃん》

「ん?」

《少しだけ》


あと2日、会えないから

抱きしめてえっちゃんを充電しておきたかった


「ありがとう 玲央くん…」


【絵里子point of view】


このまま、玲央くんと一緒になっていいのかな


もしまた…

"えっちゃん 着いたよ 土曜まで待てないけど

我慢する ゆっくり休んで"


"ありがとう"


これも、今だけだったら…?

一緒に住み始めてから1年で帰りが遅くなった


少し早いよね


今のこの気持ちは、何年もつのかな


やっと、また1人で暮らすのに慣れてきたのに

はぁ…


それでも、あの頃の気持ちは

とても暖かかったなぁ


手放したく、ないな…


その時、チーフが言ったことを思い出した

〚君の中ではとっくに答えは出ていると思っていたけど?俺のことも速攻で断ってくるしさ


本気だったんだけどなー俺だって〛


あぁ…本当に

何をしてるんだろう、私は


"ごめん、会いたい"


"えっちゃん、どうしたの!?明日、休み取って行く"


"うん…"




《えっちゃん!》

「玲央くん…」

《会いたくて、1時間前に着いちゃったよ

でも入れてくんないのな しょうがないけどさ》


あーこの顔…私が好きな顔だ…

《えっちゃん?》

「ん?」

《どうしたの?何か不安なこととかあった?》

「会いたかったの そばにいて」

《うん…ずっとそばにいるから ごめん、ごめんね》

「ありがとう 好き 愛してる…」

《えっちゃん…愛してる》



今までは、心のどこかで

どうせ裏切られる、どうせすぐに愛想尽かされる

なんて思ってた


今からは違う

この人のすべてを受け入れて

私のすべてを見せようって思う




「ごめんね、お仕事休ませちゃって」

《いいって!俺有給有り余ってんの!それに理由がえっちゃんなんだから またいつでも休み取るよ》

「ありがとう、玲央くん」

《俺、うれしかったんだ やっとわがまま言ってくれたんだから はい、これ》

「え?」

《薬指、出して?置いていかれて寂しそうだったんだぞーこの指輪》

「あ…持ってきてくれたんだね」

《土曜日に持ってくるつもりだったんだけど、退院したら、結婚指輪買いに行こう》

「うんっ!」


【玲央point of view】


まじか…まだ見たことなかった顔あんの!?

えっちゃん、おそるべし…

本当に可愛い…


もう二度と…傷つけないって約束する




土曜日、退院してきたえっちゃんを連れて

俺の部屋に帰ってきた

新しいえっちゃんの部屋には荷物なんて全然なかった

ボストンバッグとキャリーバッグで足りるんだもん

俺、えっちゃんの荷物が増えてないことにも気づいてなかったのか…

布団もこれじゃあ疲れ取れないだろ…

本当にこの人は…自分のことになるとこれだ


退院して1週間

「すごーい…よく取れたね?予約」

《実はさ、結構前から取ってたんだよね》

「え?」

《絶対に戻ってきてくれるはず、なんてさ

勝手に思ってたりして…》

「もう…そういうところも好きだよ」

《へへ えっちゃん》

「ん?」

《俺と結婚してください 幸せにします》

「…わ、…はい、よろしくお願いします」

《ありがと!えっちゃん!!》

「こちらこそ…うれしい!」


《えっちゃん 愛してる》

「私も…愛しています 玲央くん」


それから、また 仕事がうまくいき始めた

もうこれは

えっちゃんのおかげなんだ


俺の女神様


もう、絶対に離さないから


俺の、俺だけの女神様でいて




「ねぇ!くっつきすぎだよ?料理してるのに…」

《えー構ってよーえっちゃーん》

「作り終わったら、ね?いい子に座ってて?」

《いい子にしてたらご褒美あんの?》

「う…も、もう…わかったから、ね?」

《じゃあ 待ってる》

「うん もうすぐ終わるからね」


《えっちゃーん、まだー?》

「3分しか経ってないよ!?」

《早くしてよーねぇ、キスしてい?》

「ちょ、焦げちゃう!!だめ!」

《じゃあいいよ 首の後ろに…》

「ひゃぁ!?ね、ねぇ!もしかしてキスマークつけた!?」

《うん》

「こらぁー!もう!暑いのにー隠せないじゃない…」

《構ってくんないからー早くー》

「もうー っと、火を消して…」

《終わった?》

「まだ!でも…んんんっ」

《お、…ん、んん…》


「これでいい?」

《やべ、えっちゃんからしてくれると思ってなくてさ、見てこれ…》

「ちょっ…!!」


《ベッドいこ》



【15年後】


「ふー…」

《えっちゃん!?どうしたの!?》

「ちょっと疲れちゃって 大丈夫よ」

《もう!重い物買うなら俺に任せてよ》

「玲央くんだって疲れてるのに」

《えっちゃんがいてくれたら疲れなんて吹っ飛ぶの 遠慮しないでって言ってるのに》

「ふふ ありがとう 心強いわ」

《ねぇ!えっちゃん》

「ん?」

《新しい商品の企画が通ったんだ!》

「わぁ!すごい!玲央くん頑張ったね!」

《えっちゃんがいてくれるからだよ》

「ううん 玲央くんの力や人徳だよ!

あ!お祝いしなきゃ!」

《えっちゃんの好きなあのお店予約してあるんだ》

「ほんと?うれしい!おめかししちゃおう」

《あんまり可愛くしすぎないでよ!》

「ねぇー…誰も見てないからー!」

《可愛いのは俺の目の前だけでいいんだから》

「…もう」




【15年後】


「ねぇ、あなた」

《ん?》

「温泉、気持ちよかったね」

《うん ゆっくりできた?》

「えぇ 幸せ…」

《明日はどこに行こうか》

「あなたとなら、どこへでも」

《えっちゃん 愛してるよ》

「私も 愛してます 玲央くん」

《あ、久しぶりに呼んでくれたね》

「ふふ」

《あなた呼びもいいけど、名前もいいなぁ》

「じゃあたまには名前で呼びますね あなた」

《あぁ お茶淹れてくるよ》

「ありがとう」



【15年後】


「あなた…」

《そんな 顔、しないで》

「1人にしないで…」

《ごめんね》

「お願い…玲央くん…」

《あぁ…俺の女神様が呼んでる》

「女神様…?」

《えっちゃん》

「はい」

《幸せだった ありがとう》

「あなた!私も…ずっと幸せでした ありがとう

ずっと、愛してます」

《あいし…てる…えりこ…》


「初めて呼んでくれたのに、1回だけなんて…もう…

神様は意地悪なんですから」



穏やかな顔をして眠りについた彼に


最期の口づけをーー


タイトル〘俺の女神様〙


 

                     Fin…


こちらの記事はnote様で同一名義にて投稿しております。

再編集して投稿しております。

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