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読み切り短編集  作者: おしるこ


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35/61

あなたの優しさに守られて

〜♪ "パチパチパチ…"


俺は毎週水曜日の夜

駅前の路上で歌っている

もちろん許可は毎回取っている


最初はこちらを見ることもなく通り過ぎていって

いった人たちが多かったけど

立ち止まって聴いてくれる人が増えて


ぽつぽつと何人かだった人たちは

今では30人から多いと50人くらいに増えてきた


「お疲れ様でしたー!また来週もやります?」

〔えぇ、その予定です 良かったらまた来てくださいね〕

「はいっ!あの、握手…いいですか?」

〔うん、ありがとう〕

「きゃー!」


そんなふうに話しかけてくれる子も増えてきた


そんなある日

ん?

歌ってる時に1人の女の人が立ち止まってるのが見えた 白杖を持った女の子

白杖、とは目の見えない方が安全に歩くために持っている杖のことだ


あの子は…


端の方で聴いてくれていた


歌唱が終わって、帰り支度をしていると

その女の子がほかのお客さんとぶつかってるのが見えた

〔大丈夫?〕

《あ…すみません…っ、わたしは大丈夫ですが…

あの、ぶつかった方ですか?すみません…》

〔あ、俺がぶつかったわけではないんだ〕

《あれ…その声は…先ほど歌っていた方ですか?》

〔うん〕

《そうだったんですね!何回か聴かせてもらっていて…!あの、CDとか…売ってたりしますか?》

〔あ、うん 買ってくれるの?〕

《はい!ぜひ!》

〔ありがとう!1000円です〕

《…ありがとうございます!また聴きに来ます!》

〔あ、こちらこそありがとう また来てね

って、どこまで帰るの?1人で大丈夫?〕

《家は近いので…大丈夫です!》

〔そっか でもなんか心配だな…

さっきの人、点字ブロックの上を塞いでたしさ〕

《… いえ、相手の方が怪我をしたりしていなければ わたしは…》

〔…わかった!送っていく〕

《え…っ》

〔ちょっと待ってね ギター片付けるから〕

《あ、そんな…》

〔いいからいいから!〕

《…すみません…》


俺は荷物を持って彼女と歩き出した

〔何回か来てくれてたんだ?〕

《はい あの、ご本人の前で恥ずかしいんですけど…声が、その…優しそうだなぁって》

〔そう、なんだ…照れるな ありがとう〕

《あ、いえ…》

〔っていうか、いつもこの時間に外歩いてるの?〕

《あっ、いえいえ 普段はその、家にいるんですけど…その…》

〔もしかして、俺のために?〕

《あ…はい…》

〔えーありがとう でも危ないよな この時間だと酔っ払いとかもいるしさ

CDあったら、出なくて済むね〕

《このCDには、先ほど歌っていた〇〇は入っていますか?》

〔あー入ってないんだ CDにはオリジナルで作った曲だけしか入ってないんだ〕

《そうですか…》

〔〇〇好きなの?〕

《はい!原曲を調べて聴いてみたんですが、

あなたの歌ってる時の方が好きで…》

〔あー…ちょっとアレンジっていうか、原曲通りだとキーが高すぎてさ

そっか、それ聴きたくて買ってくれたんだ

申し訳ないな〕

《あ、いえいえ!いいんです!また聴きに行きますから!》

〔ありがとう〕

《あ、ここです》

〔結構近いんだね〕

《はい 送っていただいてありがとうございました すみません》

〔ううん ありがとうね またね!〕

《はい!また聴きに伺います!》


変わってないなぁ…

わざわざ聴きに来てくれたんだ


俺のことには気がつかなかったな


でも、あんな端っこじゃなぁ…

なんか椅子とか用意するか

1人くらい大丈夫だろ



彼女は次の週も来てくれていた

歌う前に発見した俺は彼女に話しかけた

〔あ、来てくれたんだね〕

《はい!先週はありがとうございました》

〔ううん あ、こっちに来てよ〕

《え?》

〔椅子ちっちゃいけど、よかったら座って〕

《え、でも…》

〔いいから 関係者って顔してて ね!〕

《…すみません…》


ある程度歌を歌った頃、曲を聴いてくれてたお客さんが増えてきて

その人達が点字ブロックを塞ぎ始めた

〔あ!ごめんね その点字ブロックは塞ぎたくないから…みんなで、少しずつ こっちに…うんうん、

ありがとうございます!〕

《…》

〔さて、今日最後の曲です!聴いてください

〇〇…〕


この曲は俺も大好きな曲なんだ

彼女も好きだって言ってくれて嬉しかった


〔今週も聴いてくれてありがとうございました!〕


〔終わったよ 少し待ってて、送るから〕

《あ、でも…》

〔待ってて、ね?〕

《はい…すみません》


片付けしてると、また話しかけられた

『あのー…あの人、ヤマトさんのなんなんですか?

関係者?』

〔えぇ そうですけど〕

『…そうですか…』

不服そうに帰っていったその人をみて

彼女が危ないかもしれない…そう思った


こうして、特別扱いというか

そうしていることが…


〔ごめん〕

《え?なんで謝ってるんですか?》

〔んー…俺が、座らせてしまったことで

他のお客さんが不満に思うかもとか

全然考えてなかった〕

《…大丈夫ですよ ご迷惑をかけるようならもう伺いませんから》

〔…あ、違う 違うんだ〕

《え…?》

〔カラオケとか行こうよ!〕

《え?えぇ!?》

〔夜に外に出てきてもらうのも申し訳ないしさ

昼間、時間が合ったら会おうよ 迎えに行くし〕

《いやいや、そんな…》

〔あ、嫌か…初対面みたいなもんだもんな〕

《いえっ、嫌とかそういうことでは…》

〔ほんと?じゃあ決まり!ね!〕

《…はい》

〔うん あ、俺…横山大和って言います!〕

《あ…高橋愛菜です…》

〔愛ちゃん!Rileとか使ってる?〕

《Rileは使っていないんです…メッセージを送りたいときや通話をしたいときは、こっちのアプリを使っています

読み上げ機能もあるので…》

〔あ、そっか じゃあ、それ今入れる〕

《あの…》

〔ん?ちょっと待ってね ダウンロード中だから〕

《そうではなくて…どうしてこんなによくしてくれるんですか…?》

〔え?うーん…単純に、一目惚れしちゃったから?〕

《え!?》

〔別に無理やりどうこうなんて思ってないよ

友達でいい 仲良くしたいなーって思ったから〕

《…そう、ですか…》

〔引いた?〕

《あ、違うんです…こういうの、慣れていないものですから…》

〔そっか もしさ、うっとおしかったら言って

それでキレたりとかしないし

嫌われたくないからさ

それに、

純粋に俺の歌を気に入ってくれてうれしかったってのもあるんだ

愛ちゃんに聴いてほしいって思った〕

《…ありがとうございます》

〔ううん、勝手にべらべらごめんね

あ、ダウンロードできた!

アカウント作る!〕

《…あの、》

〔ん?〕

《手を、貸していただけますか?》

〔手?いいよ はい〕

《…》

なんだろ

手を触ってる

〔どうしたの?〕

《…いえ、さっき椅子から立ち上がるときに支えてくれた時に、大きな手だなって思って》

〔あーそうなんだよ

何かあったら、この手で愛ちゃんのこと助けるからさ〕

《…ありがとう》

〔これでできたかな?どう?メッセージ送ってみていい?〕

《はい、どうぞ》

"あいちゃん かわいい"

《え!?》

〔あ、読み上げるんだった 恥ず〕

《…もう…!》

やっと笑ってくれた いつも申し訳なさそうな顔をしているから

笑ってくれてうれしい


《送ってくれてありがとうございます》

〔うん じゃ、また連絡するね〕

《はい 帰り気をつけてくださいね》

〔うん!じゃ、またね〕


【愛菜point of view】


やっぱりそうだ…

大和くん…

高校の時、同じクラスになったことはなかったけど 何かあるとわたしに話しかけてきてくれて

階段の上り下りとか、助けてくれた

名前を聞いても答えてもらえなくて

卒業間近に

やっと友達に聞けて、名前を知れたのに

もう会えなくなってしまって

お礼も言えなかった


わたしだと気づいて声をかけてくれたのかな

名前を言っても

反応がなくて…わからなかった


でも、あの手の大きさも

優しいところも変わっていなくて

さっき、お礼を言いたかったんだけど…

次会えたら必ず…


"あいちゃん つぎいつあえる?おれはすいようとどようがやすみなんだ"

《どちらでも大丈夫ですよ 時間も大和くんに合わせます》

"おっけー じゃあ10じにむかえにいくよ"

《はい、わかりました 待っています》

"たのしみだなー おやすみ"

《わたしもです おやすみなさい》

"あ あいちゃんもうねる?"

《寝ないですよ》

"ちょっとつうわする?"

《はい》


〔もしもし?愛ちゃん〕

《どうしたんですか?》

〔声聴きたくなったから〕

《…》

〔なんで黙るの 意地悪だなぁ〕

《照れるから…もう…》

〔可愛いなぁ 本当に〕

《あの、大和くん》

〔ん?なに?〕

《高校生の時、たくさん助けてくれてたのは

大和くんだよね?》

〔…〕

《どうして黙るの?》

〔カッコ悪いだろ〕

《そんなことないよ お礼が言いたかったのに、

伝えられなくてごめんね

いつも助けてくれてありがとう》

〔助けてたつもりはないからさ 愛ちゃんと仲良くなりたかっただけ〕

《…そっか うれしい》

〔ほんと?〕

《うん!大和くんにまた会えるなんて思ってなかったし、本当にうれしい》

〔っしゃー!嫌われなくてよかった…

ね、愛ちゃん〕

《ん?なぁに?》

〔ほんとはさ、最初の頃俺のこと不審がってた?〕

《うーんとね…声を聴いたときにね、あれ?誰かの声に似てるなぁって…

それが、あの時聴いてた声だってすぐ思い出してたから あんまり不審とは思わなかったの》

〔えー逆に危ないなぁ 心配〕

《えー》

〔でも、そうか 声、か〕

《ん?》

〔いや、似てる声の人いたら困るなって〕

《ふふ》

〔なぁに?〕

《何の心配をしているの?誰も近寄ってこないよ》

〔近寄ってきたら困るの!〕

《…優しいんだね 大和くんはずっと》

〔…優しくないよ 好きなだけ〕

《ありがとう》

〔迷惑じゃなければさ 仲良くしてくれたらうれしい〕

《こちらこそ…!お願いします!》

〔うん!するする!〕

《ふふ》

〔愛ちゃんさ、いつもどうしてるの?〕

《ん?仕事とかってこと?》

〔そうそう〕


その後、わたしのリモートワークの話とか

大和くんの仕事の話をして

結局2時間くらい話しちゃって


楽しかったなぁ


話が途切れなくて…

最初からこんなに話しちゃって、

この先話すことなくなっちゃうんじゃ…って思うくらい


土曜日の約束の話もして

おやすみって電話を切った


【土曜日】


"ピンポン"

《はーい》

〔愛ちゃん、おはよ〕

《大和くん おはよう》


そう、今日はカラオケに行く日


毎日、夜通話をしていて

何日かあいている感覚はなかったから


目の前に大和くんがいると思うと

少し不思議


〔行こっか〕

《うん!》

〔俺昨日わくわくして眠れなくてさー〕

《大丈夫…?》

〔大丈夫大丈夫!起きれてよかったよ

遅刻なんかしたくなかったからさ〕

《大丈夫なのにー》

〔やなの!〕

《ふふ》

〔ここのカラオケBOXならさ

あの曲入ってるから〕

《あ…ありがとう!歌ってくれるの?》

〔当たり前でしょ!よろこんでほしいから〕

《ありがとう…!楽しみ!》

〔愛ちゃん、何飲む?貰ってくるよ

炭酸とコーヒー、紅茶、オレンジジュースがあるね〕

《ごめんね、ありがとう アイスコーヒーお願いします》

〔おっけー ちょっと待っててね〕


ドリンクバーがあるみたい

〔おまたせー ガムシロップとかもあるよ〕

《ありがとう!じゃあ、1つずつもらおうかな》

〔うんうん!〕

《大和くんもコーヒー?》

〔俺はレモンスカッシュにした〕

《おいしそう…》

〔飲んでみる?〕

《いいの…?》

〔もちろん!まだ口つけてないからいいよ〕

《ありがとう…ん、おいしいね!次、これにしようかな》

〔おっけー!なくなったら持ってくるよ〕

《うん!お願いします!》


それから、大和くんは何曲か歌ってくれて…

このお店は点字ディスプレイという点字で歌詞を教えてくれる機械があって

わたしでもちゃんと歌詞を間違えずに歌うことができた


〔よーし、じゃあ歌おうか〕

《うん!》

〔愛ちゃん、スマホ貸して?〕

《ん?うん、いいよ》


スマホを大和くんに渡した

〔じゃあ 歌うね〕


〜♪


《すごい…ありがとう!やっぱりいい曲…!》

〔愛ちゃん、録音しておいたよ〕

《え?ほんと!?》

〔うん、これで家でも聴けるでしょ〕

《ありがとうーうれしい》

〔ちょっと聴いてみる?途中で切れてたりしないか確認して?俺トイレ行ってくる

ここ、わかる?押したら流れるからね〕

《あ、うん ありがとう 行ってらっしゃい》

恥ずかしいのかな

ふふ…


左端を触ると音が流れてきた


〜♪


うん…

聴いたままの歌が流れてきた


うれしい…


最後まで聴いたけど

音声はちゃんと録音されていた


これ、どんなアプリなんだろう

あとで詳しく使い方を聞かなきゃ…


〔終わった?〕

《うん!ちゃんと録れてたよ!ありがとう!》

〔よかったー!〕

《これ、すぐに聴きたいときはどうしたらいい?》

〔んとね、ウィジェットを設定できるから…〕


大和くんが設定をしてくれたから

待受画面から聴けるみたい


《ありがとう…!》

〔どういたしまして でも、また一緒に来ようね〕

《いいの…?》

〔もちろん!〕

《うん!》


それから2年


わたし達は一緒に住むようになった


大和くんは、今は路上ライブはやめていて

動画サイトで歌った曲を投稿している


たまに生放送をしたりして

わたしはそれを部屋で聴いている


《大和くん》

〔ん?なぁに?〕

《そういえば、どうして高校の時名前を教えてくれなかったの?》

〔んー その方が気にならない?〕

《…確かに…すっごく気になってた…!》

〔でしょ?優しくないんだよ、俺は

どうしても愛ちゃんと仲良くなりたかったから〕

《優しいよ!誰にでも出来ることじゃないもの

ありがとう こうして仲良くなれてうれしい》

〔…!敵わないなぁ〕


だって、知ってるもん

点字ブロックが塞がれることを気にしてることも

前に障害物があると引っ張って助けてくれたり

夜に外に出なくてもいいように

明るいうちに用事を済ませるようにしてくれたり


優しいよ あの頃からずっと…


 

タイトル〘あなたの優しさに守られて〙


 

                     Fin…


こちらの記事はnote様で同一名義にて投稿しております。

再編集して投稿しております。

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