そうは問屋が卸さない
あ…!今日も会えた!
《来てたな あのお客さん》
「見てたのか…」
《そんなに気になるなら話しかければいいのに》
「そんなことできるわけないだろ…ただのスーパーの店員と客だぞ」
《でも、この店に来だしてからもう長いだろ》
「うん この間…おはようございますって声かけたら
笑って挨拶してくれた…可愛かった…」
《そりゃよかったな でもアレだな 主婦っぽいよな》
「そんなのは分かってる…大抵この時間に買い物に来てるし…」
〔でもさぁ?あのお客さん指輪してないわよ〕
「おわっ、高野さんいたの!?」
この人はパートの高野さん
俺達よりも勤続年数の長いこの店のドンだ
〔さっきからいたわよ…指輪もしてないし、男っ気もなさそうじゃない?〕
《いつも高野さんのレジに並んでるじゃん
何人分くらい買ってそう?》
〔1人か2人分ってところかしら〕
「でも指輪なんてしない人もいるだろうし…
っていうか、見てるだけでいいんだから!
あんまり焚き付けないでくれよ…」
〔はいはい 意気地なしー〕
《あーあ 言われてら…》
声なんて…
いいんだ 俺は…見てるだけで
あのお客さんを初めて見たのは2年前だったと思う
メモを見ながら
眉間にシワを寄せて買い物をしていて
最初は、あの人イライラしてんのかな…って思って
見てたんだけど
知り合いに挨拶してる時とか
俺達に挨拶してくれる時に
ひまわりみたいな笑顔になるんだ
その笑顔を見たときに一目惚れっていうのか
一瞬で心を奪われた
でも、彼女はお客さんだし
それにほぼ毎日同じような時間に買い物に来ている
主婦だからだと思う
既婚者なら尚更手は出せないし
まぁ、声なんてかけられるわけもないから
ただの店員として
他のお客さんと同じように接するだけだ
いつものように仕事しながら
夕方の混む時間に差し掛かって来た頃
あれ?あのお客さんがレジに並んでる
珍しいな こんな時間に
あ…
となりには背の高い男性がいる
男性がカートを押して
仲睦まじく話しながら
俺が二人制で入っている高野さんのレジに並んでしまった
〔いらっしゃいませー〕
ピッピッとリズムよく高野さんが商品をスキャンしていく
〔この時間めずらしいわね?あら、ご主人?〕
えー!?聞いちゃうの!?
[あ…弟なんです…!明日から少し忙しくなるので
買いだめに付き合ってもらっちゃったんです!]
弟…はぁ…そっかぁ…
弟さんが会釈してくれた
〔そうなの!大変ねぇ…作り置きしてるの?〕
[はい!1人分なんで、そんなにいらないんですけど…]
1人分!!高野さん!ナイス質問!
〔えらいわねぇ、一人暮らしなのに自炊してるなんて!お会計は前でお願いしますねーほら!〕
横っ腹を叩かれる
「あ…5362円ですね」
[これでお願いします]
「ちょうどお預かり致します レシートです
ありがとうございました
またお越しくださいませ」
[ありがとうございます!]
わぁ…かわい…
"パシッ"〔次のお客さんもいるのよ!〕
「はい…!3180円です…」
混んでたなー…やっと落ち着いたぞ
「いやぁ…高野さんのあの会話力すごいですね」
〔アンタが意気地なしだからさぁ〕
「何回も言わないで…」
〔まぁ、彼氏はいるかもしれないけどね〕
「…わかってますよ…じゃ、抜けますね」
お客さんの流れが落ち着いたから、
事務所に戻った
あれ?青島だ 誰かと電話してんのか
《…わかった 終わったら寄るよ ん、じゃあね》
「なんだよー彼女か?」
《そ!お前と違って俺は声かけたからなー》
「え!?お客さんなのか!?」
《そういうことー》
「そっかーうまくいったんだな!良かったな」
《サンキュー》
そうかーでも俺は…
いかんいかん
集中しよ もうすぐ終わりだ
閉店作業を終わらせて帰る時間だ
「お疲れ様ー」
《おう!お疲れー》
[たっちゃん!]
え…?なん、で…
あのお客さんが手を振りながら青島を呼んでいる
《おい…!迎えに来るなって言っただろ…》
[あ…ごめんなさい…会いたくて…迷惑、だった?]
《…いや、行こう すまんな 中井》
「…うん」
あ…声をかけたお客さんって
あのお客さんのことだったんだ…
はは…言ってくれれば良かったのに
…
まぁでも…
うまくいかないのも
"恋"だもんな
あのお客さんを好きになったのは間違ってなかったんだ
次、誰かを好きになれたなら
絶対にすぐに声をかけるんだ
後悔しないために…
あー…
明日から青島とどう顔を合わせればいいんだ…
そんな風に思いながら
泣きそうになる心を
美味い飯でも買って慰めてやろうと先を急いだ
【青島point of view】
…こんなに早くバレるなんて…
でも、お迎え、なんて可愛いことしてくれた彼女を責めるわけにもいかないしな
[たっちゃん?]
《ん?》
[ごめんなさい もう、お迎えに行ったりしないから…]
《いや、怒ってないよ ただ、心配なんだよ
特に遅番だと夜も遅くなるし、1人で外に出るなよ…な?》
[うん!ありがとう!
あ!そうそう…そういえば、レジの人がね
これおすすめよ!って教えてくれたドレッシングがあってね…]
高野さんかな
おすすめされるとつい買っちゃうんだよな
亜沙美は…
あーこれか
アイツが仕入れてきたやつだな
亜沙美との会話のために進めてくれたのかな
高野さん
あー…高野さんにも嫌われちまいそうだ…
でも…
一目惚れしたのはアイツだけじゃないんだ
誰かの落とし物を届けてくれた時に
可愛いなって思っちゃったんだから
しょうがないだろ?
俺が声かけても上手くいく保証もなかったわけで
たまたま上手くいっただけなんだ
早いもん勝ちだろ
そうは思っていても
やっぱり…後味は悪いな…
このドレッシングみてぇな
友達と彼女
どっちもなんて…うまくいかねぇか
タイトル〘そうは問屋が卸さない〙
Fin…
こちらの記事はnote様で同一名義にて投稿しております。
再編集して投稿しております。




