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召喚少女! ~少女たちと召喚士が紡ぐ、カードと絆の物語~  作者: 和泉 きよ


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009.GRだらけの家

 ミレイが仲間になってから、一週間。


 僕の家は――。


「おはようございます、ユウさん」


「おはよう、ミレイ」


「朝食、できていますよ」


「ありがとう」


 朝からミレイが料理をしている。


「ユウ、今日の予定は?」


 テーブルではルナがカードを整理していた。


「午前中はカードショップに行って、そのあと大会の練習かな」


「分かった」


「ミレイも行く?」


「はい。もちろん」


 僕が返事をすると、ミレイは嬉しそうに微笑んだ。


 そして。


「ユウー!」


 突然、玄関から大きな声が聞こえた。


「え?」


 ドアを開ける。


「こんにちはー!」


 そこにいたのは、元気いっぱいの少女だった。

 オレンジ色の髪をふわふわのポニーテールにして、虹色のパーカーを着ている。


「……誰?」


「私、モモ!」


 少女は満面の笑顔で手を振った。


「よろしくね!」


「……え?」


 僕は慌ててカードを確認した。


 そこには――。


【GR 幸運の風精 モモ】


 と書かれていた。


「またGR……?」


 ルナが後ろから覗き込む。


 その瞬間。


「……あ!」


 モモが僕の顔を覗き込んだ。


「やっぱり!」


「何が?」


「ユウって、すっごく運がいいんだね!」


「え?」


「カードを引いたときから分かってた!」


 モモは楽しそうに笑った。


「私、幸運を扱う妖精だから、人の運の流れがちょっとだけ分かるの」


「運の流れ?」


「うん!」


 モモは僕の周りをぐるっと回る。


「普通の人なら、こんなに綺麗な運の流れはしてないよ」


「そんなに?」


「すっごく珍しい!」


 モモが僕を指差した。


「だから私、ユウに呼ばれたんじゃないよ」


「え?」


「私が、ユウを見つけたの!」


「……僕を?」


「そう!」


 モモは胸を張った。


「カードの中から、ずーっと待ってたんだよ」


「何を?」


「私と一緒に運命を楽しんでくれる人!」


 その言葉に、僕は少し驚いた。


「じゃあ……僕だから出てきたってこと?」


「たぶんね!」


 モモは笑う。


「だって、私の力とユウの幸運。絶対相性いいもん!」


「……なるほど」


 僕はカードを見る。


【幸運の風精 モモ】


 このカードを引いたのは、偶然だと思っていた。


 でも――。


 もしかしたら、モモのほうが僕を選んだのかもしれない。


「じゃあ、よろしくな。モモ」


「うん!」


 モモは嬉しそうに笑った。


「一緒に、いっぱいラッキーを起こそうね!」


     ◇


 モモは、とにかく明るかった。


「ユウって、すっごく運がいいんだね!」


「そうなのかな?」


「絶対そう!」


 モモは僕の顔をじっと見る。


「だって私を引いたんだもん!」


「それは僕の運なのか?」


「私の運もある!」


「どっちなんだよ」


「両方!」


 モモは笑った。


 その隣ではミレイが穏やかに笑っている。


「モモさんは、ずいぶん元気な方ですね」


「ミレイお姉ちゃんも優しい!」


「お姉ちゃん……」


 ミレイは少し照れたように笑った。


「ふふ。よろしくお願いしますね」


「うん!」


 その光景を見ながら、僕は思った。


 仲間が増えるって、こんなに楽しいんだ。


「ルナも――」


 僕が振り返る。


「……」


 ルナは黙っていた。


「ルナ?」


「何?」


「どうした?」


「何でもない」


 また、その言葉。

 最近、ルナは時々こうなる。


 以前ならすぐに笑ってくれた場面でも、少しだけ黙ることが増えた。


「……」


 僕は気になった。


 でも――。


「じゃあ、みんなでカードショップ行くか!」


「賛成!」


「はい」


「うん」


 ルナも小さく頷いた。


「……行く」


     ◇


 カードショップでは、新しいパックを見つけるたびにモモが騒いだ。


「これ欲しい!」


「自分で買えるの?」


「カードだから無理!」


「そっか」


「じゃあユウ、買って!」


「なんで?」


「召喚主だから!」


「理由になってないだろ」


 モモが笑う。


 ミレイも笑う。


 ルナも――。


「……ふふ」


 小さく笑った。


 その顔を見て、僕は少し安心した。


「ルナも欲しいカードある?」


「私は大丈夫」


「本当に?」


「うん」


 ルナはショーケースを見る。


 その視線の先には、新しい衣装カードがあった。


【冬制服】


 白と紺を基調にした制服姿が描かれている。


「これ、似合いそうじゃん」


「……」


「買ってみる?」


「……いいの?」


「もちろん」


「じゃあ……欲しい」


 ルナが嬉しそうにカードを受け取った。


「ありがとう、ユウ」


「どういたしまして」


 その笑顔は、以前と同じだった。


 僕も嬉しくなった。


     ◇


 その日の夜。


 僕たちは家に戻った。


 ところが――。


「……狭い」


 ルナが呟いた。


「そうだな」


 僕も部屋を見渡す。


 テーブルの上にはカード。


 ソファにはミナ。


 キッチンにはミレイ。


 そして床にはモモ。


「なんか、急に人数が増えたな」


「うん!」


 モモが元気よく答える。


「楽しいね!」


「楽しいけど……」


 僕は苦笑した。


「この家、こんなに狭かったっけ?」


「ユウさん」


 ミレイが笑う。


「そろそろ、みんなが過ごせる場所を考えたほうがいいかもしれませんね」


「確かに」


 ルナが頷く。


「私もそう思う」


「じゃあ、今度引っ越すか」


「うん」


「賛成!」


「私も手伝います」


     ◇


 そして一段落して、午前中に購入したカードパックを開けると――。


「……GR?」


 僕はカードを見つめた。


【GR 炎剣の令嬢 セレス】


 その瞬間。

 カードが強く輝いた。


「――!」


 赤い光が部屋いっぱいに広がる。


 炎のような光の中から、一人の少女が現れた。


 金色の髪。


 赤い瞳。


 上品な黒と赤のドレス。


 そして、腰には細身の剣。


 少女はゆっくりと目を開いた。


「……なるほど」


 僕を見る。


「あなたが私を引いた召喚主ですのね」


「うん。天城ユウ」


 僕が名乗ると、セレスは僕をじっと見つめた。


「……あなた」


「?」


「大会で負けましたわね」


「え?」


 僕は驚いた。


「どうして知ってるんだ?」


「カードの中から、あなたを感じていましたもの」


「カードの中から……?」


「ええ」


 セレスは腕を組む。


「大きな大会で敗北したあとも、あなたはカードを片付けて終わりにはしなかった」


「……」


「何度も対戦を振り返っていた」


 図星だった。


 大会から帰ったあと、僕は何度もあの試合を思い返した。


 あのとき別のカードを使っていれば。


 あそこでルナを守ろうとしなければ。


 もっと冷静に戦えていれば。


 そんなことばかり考えていた。


「悔しかったでしょう?」


「……うん」


 僕は素直に頷いた。


「悔しかった」


「ならば、なぜ諦めませんでしたの?」


「え?」


「負けたのなら、もうやめるという選択肢もあったはずですわ」


「……」


 僕は少し考えてから答えた。


「もっと強くなりたいから」


 セレスの目がわずかに細くなる。


「……もっと?」


「うん」


「何のために?」


「ルナと一緒に、次は勝ちたい」


 セレスは黙った。


 そして――。


「ふふ」


 小さく笑った。


「なるほど」


「何かおかしい?」


「いいえ」


 セレスは剣の柄に手を添えた。


「あなた、思っていたより悪くありませんわね」


「え?」


「私は、誰にでも召喚されるつもりはありませんの」


「……!」


「強さだけを求める人間にも、興味はありません」


 セレスは僕を見る。


「ですが、敗北してもなお、もう一度立ち上がろうとする者なら――」


 赤い瞳が輝いた。


「私が力を貸す価値はありますわ」


「セレス……」


「この私を召喚するとは幸運ですわね」


 セレスは優雅に微笑んだ。


「さあ、次は勝利を差し上げますわ!」


「ああ!よろしく!」


「よろしくお願いします」


 ミレイが頭を下げる。


「よろしく!」


 モモが手を振る。


「……よろしく」


 ルナも挨拶した。


 セレスはルナを見る。


「あなたもGR?」


「……そうだけど」


「そう」


 セレスは少し笑った。


「なら、良いライバルになりそうですわね」


「……ライバル?」


「ええ」


 ルナの表情が少し変わる。


「……負けないから」


「望むところですわ」


 二人の間に、火花が散ったように見えた。


「えっと……」


 僕は困ってしまう。


「仲良くしてくれよ?」


「もちろんですわ」


「分かった」


 二人は同時に答えた。


 ……本当に大丈夫だろうか。


     ◇


 それから数日。


 僕の家は、さらに賑やかになった。


「おはようございます」


「おはよー!」


「朝から騒がしいですわよ」


「カードバトルしよう!」


「その前に朝食です」


「ユウ、今日の予定は?」


「今日は大会の練習!」


「じゃあ私も!」


「私も参加します」


「もちろん私もですわ」


「……私も」


 気がつけば。

 僕の周囲には、少女妖精が何人もいる。


 ミナ。


 ミレイ。


 モモ。


 セレス。


 そして――。


 ルナ。


「……」


 僕は部屋を見渡した。


「すごいな」


「何が?」


 ルナが聞く。


「いや」


 僕は笑った。


「最初はルナ一人だったのに」


「……うん」


「こんなに仲間が増えるとは思わなかった」


「……そうだね」


 ルナも笑った。


 でも。


 ほんの一瞬だけ。


 その笑顔が曇った。


 僕は気づかなかった。


     ◇


 夜。


 みんなが寝静まったあと。


 ルナは一人でカードを見つめていた。


 自分のカード。


 月光の少女、ルナ。


 そして、その周りには新しく増えたGRのカードが並んでいる。


 ミレイ。


 モモ。


 セレス。


「……すごい」


 ルナは小さく呟く。


 みんな強い。


 みんな個性的。


 みんなユウと仲良くなっている。


 最初は自分だけだった。


 ユウが最初に召喚したのも自分。


 最初に一緒に戦ったのも自分。


 最初に「相棒」と呼んでもらったのも自分。


 でも。


「……今は、私だけじゃない」


 その事実が、少しだけ胸に引っかかる。


「私がいなくても……」


 ルナはそこで言葉を止めた。


「……違う」


 首を振る。


「ユウはそんな人じゃない」


 分かっている。


 ユウが優しいこと。


 誰かを大切にしようとすること。


 自分をちゃんと見てくれていること。


 だからこそ。


「……私も、もっと頑張らないと」


 ルナはカードを胸に抱えた。


「ユウの相棒でいるために」


 その夜。


 ルナの胸には、新しい感情が生まれていた。


 嬉しい。


 楽しい。


 仲間が増えるのは嬉しい。


 でも――。


 少しだけ怖い。


 自分の居場所が、なくなってしまうことが。


     ◇


 翌朝。


「ルナ」


「ん?」


「今日は一緒にデッキ調整しよう」


「……!」


 ルナの顔が明るくなる。


「うん!」


「次の大会、また勝ちに行こう」


「もちろん!」


 ルナは笑った。


 そして、僕の隣に座る。

 最初の頃と同じように。


 カードを広げて。


 二人で考える。


 二人で笑う。


 その時間は、まだ変わっていない。


 だけど。


 僕の家には、もうたくさんの少女妖精がいる。


 これから、もっと増えるかもしれない。


 もっと強いカードも手に入るかもしれない。


 そして僕はまだ知らない。


 この「仲間が増える」という喜びが。


 いつか――。


 ルナにとって、苦しいものへと変わってしまうことを。


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