010.勝てる理由
僕たちの家に少女妖精が増えてから、二週間が経った。
最初はルナ一人だった。
次にミナ。
そしてミレイ、モモ、セレス。
気がつけば、家の中はすっかり賑やかになっていた。
「ユウさん、朝食できましたよ」
「ありがとう、ミレイ」
「今日の予定は?」
ルナがカードを並べながら聞いてくる。
「午前中はショップに行って、午後から練習」
「また大会の練習?」
「うん」
僕はデッキを持ち上げた。
「次の大会、かなり大きいらしいから」
「……そっか」
ルナが頷く。
以前なら。
僕が「大会」と言えば、ルナはすぐに嬉しそうな顔をした。
今も嬉しそうではある。
でも――。
ほんの少しだけ、違う。
「今日は私も一緒に練習する?」
「もちろん」
「じゃあ――」
「ただ」
僕は続けた。
「今日はミレイとセレスも入れて試したい」
「……」
ルナの動きが止まった。
「いろんな組み合わせを試したほうが強くなれるから」
「……うん」
「ルナも一緒だよ」
「分かってる」
ルナは笑った。
「頑張ろう」
その笑顔を見て、僕は安心した。
だから、その小さな変化に気づかなかった。
◇
カードショップの対戦スペース。
僕たちは新しいデッキを広げていた。
「まずはこの三人編成」
僕がカードを並べる。
ルナ。
ミナ。
ミレイ。
セレス。
「かなりバランスがいいと思います」
ミレイが言った。
「攻撃はセレスさん、防御と回復を私、そして中央をルナさんが担当すれば――」
「火力なら私一人でも十分ですわ」
セレスが胸を張る。
「相手の前衛を一気に吹き飛ばしますわ」
「でもセレスは防御が低いから、集中攻撃されたら危ない」
僕はカードを見る。
「ミレイで回復して、ルナで守る」
「なるほど」
「それなら――」
僕たちは何度も対戦を繰り返した。
一戦目。
勝利。
二戦目。
勝利。
三戦目。
勝利。
「……強い」
僕は思わず呟いた。
以前とは明らかに違う。
ルナ一人だけで戦っていたときより、選択肢が圧倒的に増えている。
ミレイの回復。
セレスの高火力。
ルナの安定した能力。
そして、アイテムやイベントカード。
組み合わせ次第で、いくらでも戦い方を変えられる。
「ユウさん」
ミレイが言った。
「今の戦い方、とても良かったですよ」
「ありがとう」
「私も役に立てましたか?」
「もちろん」
僕が笑う。
「ミレイがいるだけで、かなり安定する」
「……嬉しいです」
ミレイが微笑む。
その隣でセレスも頷いた。
「当然ですわ」
「セレスもありがとう」
「ふふ。私の力を見れば分かるでしょう?」
「はいはい」
「なぜ適当ですの!」
みんなが笑った。
僕も笑う。
そのときだった。
「ユウ」
ルナが声をかけた。
「ん?」
「次、私と二人だけでやらない?」
「二人だけ?」
「うん」
ルナは少しだけ笑っていた。
「前みたいに」
僕は一瞬考えた。
「……ごめん」
「え?」
「もう少し、この三人の組み合わせを試したい」
「……」
「大会で勝つなら、強い組み合わせを探したほうがいいから」
ルナは黙った。
そして。
「……うん」
小さく頷いた。
「そうだね」
「あとで時間があったら二人だけでもやろう」
「……うん」
ルナは笑った。
でも。
その笑顔は、少しだけ寂しそうだった。
◇
それから、僕はカードの研究に夢中になった。
どの少女を組ませれば一番強いのか。
どのイベントカードを入れるべきか。
召喚エネルギーをどこで使うべきか。
相手がGRを出してきたとき、どう対処するのか。
ノートまで作った。
【攻撃型】
セレス。
クロエ。
【防御型】
ルナ。
ノア。
ミレイ。
【補助型】
ミレイ。
エルナ。
そして――。
「モモの能力も面白いな」
「でしょ!」
モモが嬉しそうに飛び跳ねる。
「私、運なら誰にも負けないよ!」
「じゃあ、次はモモも試そう」
「やった!」
僕はどんどんカードを組み替えていった。
強くなっている。
それが実感できた。
勝率も上がった。
以前なら負けていた相手にも勝てる。
カードショップの常連からも、
「最近、天城くん強くなったね」
と言われるようになった。
嬉しかった。
もっと勝ちたい。
もっと強くなりたい。
次の大会では、今度こそ優勝したい。
その気持ちは日を追うごとに大きくなっていった。
◇
ある日の夜。
僕がリビングでデッキを調整していると、ルナがやってきた。
「ユウ」
「ん?」
「まだやってるの?」
「うん。あと少し」
「もう夜遅いよ」
「分かってる」
「明日もあるよ」
「うん」
僕はカードから目を離さない。
「でも、今のうちに調整しておきたいんだ」
「……」
ルナは僕の向かいに座った。
「ねえ」
「何?」
「最近、楽しい?」
僕は顔を上げた。
「もちろん」
「カードバトルが?」
「うん」
ルナは少し黙る。
「……私と戦うのは?」
「それも楽しいよ」
「じゃあ、最近なんで一緒にやらないの?」
「え?」
「前は毎日、一緒に対戦してた」
「……」
「今は、ミレイやセレスやモモとばっかり」
ルナの声は責めるようなものではなかった。
だからこそ、僕は少し困った。
「ごめん」
「謝ってほしいわけじゃない」
「じゃあ……」
「ただ」
ルナは自分のカードを見る。
「私、ちゃんと役に立ててる?」
「もちろん」
僕は即答した。
「ルナは僕の一番最初のカードだし、相棒だよ」
「……」
「それに、能力もバランスがいい」
「能力……」
ルナが小さく呟いた。
僕は続ける。
「だから、これからも使うつもり」
「……うん」
ルナは笑った。
「分かった」
「ごめんな」
「だから謝らなくていいって」
そう言って立ち上がる。
「今日はもう寝よう?」
「うん。そうする」
「おやすみ、ユウ」
「おやすみ、ルナ」
ルナが部屋を出ていく。
僕は再びカードを見る。
「……」
少しだけ、胸に引っかかった。
でも。
「もっと強くならないとな」
僕はそう呟いた。
◇
翌日。
カードショップで一人のプレイヤーと対戦することになった。
「天城くん、最近かなり勝ってるよね」
「そうですか?」
「うん。前より明らかに強い」
「ありがとうございます」
「やっぱりGRを増やしたから?」
「……」
僕は自分のデッキを見る。
ルナ。
ミレイ。
セレス。
モモ。
GRの少女たちが何枚も入っている。
「たぶん、それだけじゃないと思います」
「じゃあ何?」
「……」
僕は少し考えた。
「仲間が増えたから、かな」
少女妖精が増えた。
それぞれに違う能力がある。
だから、以前より多くの状況に対応できる。
それは確かだった。
「なるほど」
相手が笑う。
「じゃあ、次の大会も期待できそうだね」
「はい」
僕も笑った。
――勝てる。
そう思った。
◇
その日の帰り道。
「ユウ」
「ん?」
「今日はどうだった?」
ルナが聞いてくる。
「勝ったよ」
「本当?」
「うん」
僕は嬉しくなって話し始めた。
「セレスの火力を中心にして、ミレイで回復して――」
「……」
「それで、最後にモモの効果が上手く決まって――」
「……うん」
ルナは聞いている。
ちゃんと笑っている。
でも。
「……ユウ」
「何?」
「今度、二人で散歩しない?」
「もちろん」
「いつ?」
「えっと……」
僕は考えた。
「大会が終わったら」
「……そっか」
「今は大会に集中したいから」
「うん」
ルナは頷いた。
「分かった」
そして。
少しだけ僕から離れて歩いた。
「ルナ?」
「何でもない」
振り返って笑う。
「早く帰ろう」
「うん」
僕はルナの隣に戻った。
そして歩きながら思った。
最近、勝てるようになった。
仲間が増えた。
デッキも強くなった。
だから、このまま行けば――。
次の大会では、きっと優勝できる。
そう信じていた。
その一方で。
ルナの胸の中には、別の思いが芽生え始めていた。
――私は、ユウの「相棒」なのか。
それとも。
たくさんいる少女妖精の中の、一人なのか。
まだ答えは出ていなかった。
そしてユウも。
まだ、その問いの意味を理解していなかった。




