011.最高のチーム
大会の日。
会場となった大型ホールには、朝から大勢の召喚士が集まっていた。
入口には大きなモニターが設置され、今日の大会名と参加者数が表示されている。
――参加者、五百十二名。
これまでユウが参加してきた大会とは、規模がまるで違った。
「すごい人……」
ユウが思わず呟く。
隣に立つルナも、会場を見渡した。
「そうね。これだけの人数がいると、さすがに少し緊張するわ」
「ルナでも緊張するんだ?」
「するわよ!」
ルナは少し頬を膨らませる。
「私は完璧な妖精じゃないもの」
「でも、前よりずっと強くなったよね」
「……それは、あなたもでしょ」
ルナはそう言って、ほんの少し笑った。
その笑顔を見て、ユウも笑う。
「じゃあ、今日もよろしく。相棒」
「ええ。もちろん」
ルナが右手を差し出した。
ユウもその手を握る。
それは二人がいつも試合前にする、ちょっとした儀式だった。
――一緒に勝つ。
それだけを確認するための、短いやり取り。
「ユウさん!」
後ろから声がした。
振り返ると、ミレイ、モモ、セレスがこちらへ歩いてくる。
「随分と余裕そうですわね」
「いやいや、緊張してるって」
ユウが苦笑する。
するとモモがユウの肩を軽く叩いた。
「大丈夫、大丈夫! だってユウって、すっごく運がいいもん!」
「その理屈で大丈夫って言われると、逆に不安になるんだけど……」
「むぅ。私の幸運を信じてよー」
「もちろん信じてるよ」
「ほんと?」
「ほんと」
「じゃあ今日は絶対勝てる!」
モモが嬉しそうに笑う。
その横で、セレスが腕を組んだ。
「運だけで勝てるほど、この大会は甘くありませんわよ」
「分かってるって」
「ならば、私の力を存分に使いなさい」
セレスは自信満々に胸を張る。
「今日の私は、いつも以上に燃えていますわ!」
「頼りにしてるよ」
「当然ですわ!」
そのやり取りを見ていたルナが、少しだけ笑った。
「……賑やかになったわね」
「うん」
ユウは周囲を見渡す。
ミレイ。
モモ。
セレス。
そしてルナ。
いつの間にか、自分の周りにはこんなにも頼れる少女たちが増えていた。
「最高のチームだと思う」
ユウがそう言うと、四人がそれぞれ反応した。
「最高……ですか?」
「やった!」
「ふふ。当然ですわね」
そしてルナだけは、少し驚いた顔をした。
「……最高のチーム」
その言葉を、ルナは小さく繰り返す。
以前なら――。
ユウが「最高のチーム」と言えば、それは自分とユウの二人を意味していた。
でも今は違う。
たくさんの少女たちがいて。
その中に、自分もいる。
ルナは少しだけ複雑な気持ちになった。
それでも。
「……うん」
笑って頷いた。
「私も、そう思う」
そして大会が始まった。
◇
一回戦。
二回戦。
三回戦。
ユウたちは順調に勝ち上がっていった。
「ここでミレイ!」
「はい!」
回復によって戦線を維持する。
「セレス、右!」
「お任せください!」
強烈な一撃で相手の主力を倒す。
「モモ、今!」
「いっくよー!」
運任せに見えて、絶妙なタイミングで能力が噛み合う。
そして――。
「ルナ!」
「任せて!」
最後はルナが決める。
「ムーンライト・セイバー!」
月光をまとった一撃が相手の最後の少女を倒した。
続いて、ユウの召喚士ゲージへ攻撃が入る。
――20。
――15。
――10。
――5。
そして。
――0。
「勝者、天城ユウ!」
会場にアナウンスが響いた。
「やったー!」
モモが飛び跳ねる。
「当然の結果ですわ!」
セレスも嬉しそうだ。
「皆さんのおかげですね」
ミレイが微笑む。
そしてルナはユウの隣に立った。
「……勝ったね」
「うん」
「また一緒に勝てた」
「うん」
ユウは嬉しかった。
以前とは違う。
ルナ一人に頼るのではなく、全員の力を合わせて勝つ。
それが今のユウたちだった。
◇
準々決勝。
準決勝。
相手も強かった。
GRを複数投入する召喚士。
イベントカードを駆使する戦術家。
少女たちの絆を利用した特殊デッキ。
どの試合も、一歩間違えれば負けるような接戦だった。
それでもユウは勝った。
「決勝進出――!」
その瞬間。
会場から大きな歓声が上がった。
「やった……!」
ユウは思わず拳を握った。
五百十二人。
その頂点まで、あと一勝。
控室に戻ると、全員がユウの周りに集まった。
「すごいですよ、ユウさん」
「あと一勝だね!」
「ここまで来たからには、優勝ですわ!」
少女たちが口々に声をかける。
ユウは笑った。
「みんな、ありがとう」
そのときだった。
ルナが静かに言った。
「ユウ」
「ん?」
「次も、一緒に戦おうね」
ユウは一瞬だけ目を丸くした。
そして笑う。
「もちろん」
「……絶対よ?」
「絶対」
ルナは安心したように頷いた。
◇
決勝戦。
相手は、これまでの大会でも名前を聞いたことがある実力者だった。
使用するカードは、GRクロエを中心とした高速攻撃型。
開始直後から攻撃を仕掛け、こちらの少女を次々に倒していく。
「速い……!」
ユウが驚く。
「どうする?」
ルナが尋ねた。
「焦らない」
ユウはカードを見つめる。
「相手は速い。でも、攻撃にエネルギーを使ってる」
「なるほど」
「ミレイで耐えて、モモで流れを変える。セレスは最後まで温存」
「了解!」
「そして――」
ユウはルナを見る。
「最後はルナにお願いする」
「……任せて」
ルナの目が輝いた。
試合は長引いた。
相手のクロエが猛攻を続ける。
ユウの少女たちも少しずつダメージを受けていく。
召喚士ゲージ。
ユウ――8。
相手――6。
あと少し。
しかし、相手も最後の力を振り絞った。
「ここでイベントカード――『限界突破』!」
クロエの攻撃力が一気に上昇する。
「ルナ!」
「大丈夫!」
ルナが前に出た。
強烈な攻撃を受ける。
HPが大きく削られた。
「ルナ!」
「まだ立てる!」
ルナは剣を構える。
「ユウ。今よ」
「……うん!」
ユウは最後のカードを手に取った。
「イベントカード――『月光の道標』!」
ルナの攻撃力が上昇する。
そして。
「ルナ!」
「行くよ!」
月光が会場を照らした。
「ムーンライト・セイバー!」
一閃。
相手のクロエが倒れる。
そのまま、相手の召喚士ゲージへ攻撃。
――6。
――0。
静寂。
そして――。
「勝者!」
会場が爆発したような歓声に包まれた。
「天城ユウ選手――!」
「優勝です!」
「やったぁぁぁ!」
モモが叫ぶ。
「素晴らしいです!」
ミレイが喜ぶ。
「当然ですわ!」
セレスも笑っている。
そして。
ルナがユウの前に立った。
「……勝ったね」
「うん」
「私たち」
「うん」
ユウは笑った。
「最高のチームだ」
ルナも笑った。
「……うん」
その瞬間。
ユウの端末から音が鳴った。
大会結果の通知だった。
――優勝賞金。
表示された数字を見て、ユウは目を見開く。
「……すごい」
これまでとは比べ物にならない賞金だった。
ルナが画面を覗き込む。
「かなりの金額ね」
「これなら……」
ユウは拳を握った。
「もっとカードを買える」
その言葉に。
ルナの表情が、ほんの一瞬だけ止まった。
「……カード?」
「うん」
ユウは嬉しそうに続ける。
「もっと強い少女を引けたら、もっと強くなれる」
「……そうね」
ルナは微笑んだ。
「きっと、そうね」
けれど。
その声は、ほんの少しだけ小さかった。
◇
大会から数日後。
ユウはカードショップにいた。
大会優勝者として、店員からも声をかけられるようになっていた。
「天城さん、優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「今回の賞金なら、かなりパックを買えますね」
「……そうですね」
ショーケースを見る。
新弾。
限定パック。
GR排出率アップキャンペーン。
そこには、これまで見たことのないカードが並んでいた。
ユウの胸が高鳴る。
「これ……」
欲しい。
もっと強くなりたい。
もっと勝ちたい。
もっと――。
「ユウ?」
後ろからルナの声がした。
ユウが振り返る。
「どうしたの?」
「ううん」
ルナは首を横に振った。
「なんでもない」
「そっか」
ユウは再びショーケースを見る。
その隣で。
ルナは静かにユウを見つめていた。
そして。
ほんの少しだけ、不安そうな顔をした。
――最高のチーム。
そう言ってもらえた。
だから嬉しい。
なのに。
どうしてだろう。
胸の奥に、小さな違和感が残っていた。
それが何なのか。
このときのルナには、まだ分からなかった。
ただ――。
ユウの視線が、自分ではなく新しいカードへ向いていることだけは。
はっきりと分かっていた。




