012.もっと強く
大会で優勝してから、一週間。
天城ユウの生活は、少しだけ変わっていた。
以前なら、仕事が終われば家に帰ってルナとカードをした。
夕食を食べながら、その日の出来事を話す。
勝った試合の反省をしたり、負けた試合を思い出して笑ったり。
何気ない時間が、二人にとっては大切だった。
けれど今は――。
「次の大会まで、あと三週間か……」
ユウはテーブルの上に広げたカードを眺めていた。
新しく発売されたカードパック。
期間限定のGR出現率アップパック。
そのどれもが、ユウの目には魅力的に映っていた。
「もっと強くなれる」
ユウは呟いた。
「もっと強いカードがあれば……」
前回の大会。
ユウたちは優勝した。
それでも、決勝戦は決して楽な戦いではなかった。
ルナが大きなダメージを受けた。
ミレイの回復がなければ負けていた。
モモの運が悪ければ、流れが変わっていた。
セレスを最後まで温存していなければ、勝負を決められなかった。
――まだ足りない。
そう思った。
「ユウ」
向かいに座っていたルナが声をかける。
「なに?」
「今日はカードバトル、しないの?」
「……ああ」
ユウは少し考えてから答えた。
「今日は新しいカードの研究をしたいんだ」
「研究?」
「うん。次の大会で使えそうなカードがないか調べたい」
ルナは少し黙った。
「そっか」
「ごめん。明日は一緒にやろう」
「……うん」
ルナは笑った。
けれど、その笑顔はどこか寂しそうだった。
◇
翌日。
ユウはカードショップへ向かった。
「いらっしゃいませ」
店員が声をかける。
「今日は何パックにしますか?」
「そうですね……」
ユウは財布を取り出した。
大会の賞金。
まだほとんど手をつけていない。
「二十パックください」
「二十……ですか?」
「はい」
店員が少し驚いた顔をした。
「かしこまりました」
目の前に積まれていくカードパック。
ユウはその光景を見ながら、胸を高鳴らせていた。
「これだけあれば……」
GRが出るかもしれない。
今まで持っていなかった強力なカードが出るかもしれない。
新しい戦術を作れるかもしれない。
「もっと強くなれる」
ユウはパックを受け取った。
◇
家に帰ると、さっそく開封を始めた。
「一枚目……」
N。
「二枚目」
R。
「三枚目……」
SR。
「おお……!」
ユウの目が輝く。
そして。
「GR……!」
カードから眩しい光が溢れた。
召喚陣が床に浮かび上がる。
「えっ?」
ルナが振り返る。
「またGR?」
光の中から、一人の少女が姿を現した。
紫色の長い髪。
金色の瞳。
黒と紫を基調とした戦闘服。
少女は楽しそうに笑った。
「面白そうな戦場じゃん」
腰に携えた二本の剣が、光を反射する。
「私を楽しませてよ!」
「GRクロエ……!」
ユウは思わず声を上げた。
攻撃特化型。
高いSPDとATKを誇る、人気のGRカードだ。
「召喚成功……」
クロエはユウを見つめる。
「あなたが召喚主?」
「うん。天城ユウ」
「へえ」
クロエは口元を上げた。
「なんか、面白そうな人じゃん」
その瞬間。
「……また増えた」
ルナが小さく呟いた。
「ルナ?」
「なんでもない」
ルナは笑った。
「新しい仲間ね」
「うん!」
ユウは嬉しそうに頷いた。
「これでまた強くなれる!」
クロエが笑う。
「いいね。強くなるの、嫌いじゃないよ」
◇
その後も、開封は続いた。
一パック。
二パック。
三パック。
そして――。
「またGR!」
さらに別の少女が召喚された。
静かな青い瞳。
黒に近い紺色の髪。
巨大な盾を持った少女だった。
「召喚を確認」
少女は淡々と言った。
「……あなたを守る。それが私の役目」
「GRノア……!」
ユウは驚いた。
防御型の中でも特に評価の高いカード。
HPとDEFが非常に高く、相手の攻撃を受け止める能力を持っている。
「よろしく、ノア」
「了解」
ノアは短く頷いた。
さらに。
「もう一枚……!」
今度は銀色の髪をしたメイド服の少女。
「召喚ありがとうございます」
少女は優雅に一礼した。
「あなたの勝利まで、完璧にサポートいたします」
「GRエルナ……!」
サポート特化の人気カードだ。
「よろしくお願いします」
「うん!」
ユウは笑顔になった。
次々と増えていくGR少女。
そのたびに、ユウのデッキの可能性は広がっていった。
攻撃。
防御。
回復。
サポート。
妨害。
これまで以上に、いろいろな戦い方ができる。
「すごい……」
ユウはカードを並べた。
「これなら、もっと強いデッキが作れる」
ルナはその様子を少し離れた場所から見ていた。
「……ユウ」
「ん?」
「楽しそうね」
「うん!」
ユウは即答した。
「すごく楽しい!」
「そう……」
ルナも笑った。
「よかった」
◇
数日後。
ユウの家は、さらに賑やかになっていた。
新しく仲間になったクロエ、ノア、エルナ。
ミレイ、モモ、セレス。
そしてルナ。
少女たちはそれぞれの性格で、家の中を賑やかにしていた。
「ユウ、次は私と戦おうよ!」
クロエが誘う。
「いいよ」
「やった!」
「でも、その前にノアとの組み合わせを試してみたい」
「了解」
ノアがすぐに反応する。
「防御から攻撃へ繋げる」
「そうそう!」
ユウはカードを並べる。
「ノアで相手の攻撃を受けて、クロエで反撃。エルナでサポートすれば……」
戦術を考える。
組み合わせを変える。
何度も試す。
「こっちのほうが強い」
「じゃあ次は私!」
「待って、モモの運も試したい!」
「ユウさん、回復が必要なら私を」
「セレスも火力を試してみたいですわ!」
次々と声が飛んでくる。
「ちょっと待って!」
ユウは笑いながらカードを整理した。
「順番にやろう!」
その光景は、とても賑やかだった。
以前よりずっと大勢で。
以前よりずっと多くの戦術を試せる。
ユウは充実していた。
「もっと強くなれる」
その気持ちは、日に日に大きくなっていた。
◇
その日の夜。
皆が眠った後。
リビングにはユウとルナだけが残っていた。
「……ねえ、ユウ」
「ん?」
「明日、少し時間ある?」
「明日?」
「うん」
ルナは少し考えてから言った。
「久しぶりに二人でカードバトルをしたいなって」
「ああ……」
ユウは手元のデッキを見る。
明日は新しいデッキの調整をする予定だった。
クロエ。
ノア。
エルナ。
そしてミレイ。
誰を組み合わせるのが一番強いのか。
それを確かめたかった。
「ごめん」
ユウは言った。
「明日は新しいデッキの調整をしたいんだ」
「……そっか」
「明後日ならできると思う」
「うん」
ルナは頷いた。
「じゃあ、明後日ね」
「約束」
「……うん。約束」
ルナは笑った。
それから、自分のカードを見つめた。
GR。
最高レアリティ。
この世界では、とても価値のあるカード。
でも。
ユウが最初に手にしたカード。
自分にとっては、それ以上の意味があった。
「……私は」
小さく呟く。
「まだ、ユウの相棒なのかな」
「え?」
「ううん。なんでもない」
ルナは慌てて笑った。
「おやすみ、ユウ」
「おやすみ、ルナ」
ルナが部屋へ戻っていく。
ユウは一人になった。
そして、机の上に並べたGRカードを見る。
クロエ。
ノア。
エルナ。
ミレイ。
モモ。
セレス。
そして――ルナ。
「……強いカードが、こんなにある」
ユウは嬉しそうに呟いた。
「もっと勝てる」
もっと強く。
もっと上へ。
もっと大きな大会へ。
そのためなら――。
もっとカードが必要だ。
「次の大会も、絶対に優勝する」
ユウは新しいデッキを手に取った。
その背後。
閉じたドアの向こうで。
ルナは一人、立っていた。
何かを言おうとして。
結局、何も言わなかった。
そして静かに、自分のカードを胸元で握りしめる。
――二人で過ごす時間が。
少しずつ、少なくなっている。
そのことに。
まだ誰も、気づいていなかった。




