013.敗北
大会まで、残り一週間。
天城ユウは、毎日のようにカードと向き合っていた。
「ここを変えて……」
机の上には、何種類ものGRカードが並んでいる。
クロエ。
ノア。
エルナ。
ミレイ。
モモ。
セレス。
そして、ルナ。
以前なら、この中からどの三人を選ぶかだけでも悩んでいた。
けれど今のユウには、少しずつ答えが見えてきていた。
「攻撃はクロエ」
カードを一枚置く。
「防御はノア」
もう一枚。
「サポートにエルナ」
最後の一枚を置く。
「これならかなり強い」
ユウは満足そうに頷いた。
「攻撃、防御、サポート。役割もきれいに分かれてる」
「うん。強そうね」
隣からルナが答えた。
「ありがとう」
ユウはカードを眺め続ける。
「この三人なら、前回より安定して勝てると思う」
「……そう」
ルナは少しだけ黙った。
「ねえ、ユウ」
「ん?」
「明日の大会の練習、一緒にやらない?」
「ああ……」
ユウは少し迷った。
「明日はクロエたちとの連携を試したいんだ」
「……そっか」
「ごめん。ルナとはまた今度やろう」
「うん」
ルナは笑った。
「分かった」
その笑顔を見て、ユウは何も思わなかった。
今は大会が近い。
勝つために必要なことをする。
ただ、それだけだった。
◇
そして大会当日。
会場は前回の大会よりも小規模だった。
それでも、強豪プレイヤーが多く集まっている。
「今回も優勝する」
ユウは受付を済ませながら言った。
「うん!」
モモが元気に答える。
「私たちならできます」
ミレイも微笑む。
「当然ですわ」
セレスが腕を組む。
「……」
ノアは静かに頷いた。
クロエは楽しそうに笑っている。
「強い相手、いるかな?」
エルナは静かに一礼した。
「皆様の勝利をサポートいたします」
そして。
少し離れたところにいたルナが、ユウを見つめていた。
「ユウ」
「ん?」
「頑張ろうね」
「もちろん」
ユウは笑った。
そして第一試合が始まった。
◇
一回戦。
ユウの先攻。
召喚エネルギーを使ってクロエを召喚する。
「行くよ、クロエ」
「任せて!」
クロエが前線へ出る。
相手もすぐに少女を召喚した。
だが、ユウは冷静だった。
「エルナでサポート」
「承知しました」
クロエの攻撃力を上げる。
「そして攻撃!」
「いっくよ!」
一気に相手の少女を倒す。
そのまま召喚士ゲージにもダメージが入る。
試合はユウのペースだった。
「勝った!」
数ターン後。
相手の召喚士ゲージがゼロになる。
「勝者、天城ユウ!」
「よし!」
ユウは拳を握った。
「やっぱり、この組み合わせは強い」
クロエが嬉しそうに笑う。
「でしょ?」
ノアも頷く。
「想定通り」
エルナも微笑む。
「素晴らしい連携でした」
ユウは満足していた。
「これなら今日もいける」
そのとき。
「ユウ」
ルナが声をかけた。
「なに?」
「……ううん」
ルナは笑った。
「次も頑張って」
「うん!」
◇
二回戦。
三回戦。
ユウは勝ち続けた。
新しく組んだデッキは強かった。
クロエの高火力。
ノアの防御。
エルナのサポート。
役割が明確で、隙が少ない。
「このデッキなら……」
ユウは思った。
「前回以上に勝てる」
そして準決勝。
相手は、珍しいデッキを使う召喚士だった。
大量のイベントカードを使って、相手の戦術を崩すタイプ。
「面白い」
ユウの目が輝く。
序盤は互角だった。
クロエが攻撃。
ノアが防御。
エルナが支える。
ところが――。
「イベントカード、『幻惑の霧』!」
相手のカードが発動する。
「なっ……!」
ユウの場の少女たちの能力が一時的に無効化された。
「今だ!」
相手が一気に攻撃してくる。
クロエのHPが大きく削られる。
「クロエ!」
「まだいける!」
ユウはカードを探した。
回復カード。
防御カード。
何かないか。
だが――。
「……ない」
手札に必要なカードがない。
次のターン。
クロエが倒された。
「くっ……!」
ノアも攻撃を受ける。
エルナのHPも減っていく。
そして。
ユウの召喚士ゲージは残り三。
相手は残り五。
あと少し。
まだ逆転できる。
ユウはデッキからカードを引いた。
「……!」
必要なカードではなかった。
さらに一枚。
違う。
もう一枚。
違う。
「くそ……」
焦りが出てくる。
そして――。
「攻撃!」
相手の一撃が入った。
ユウの召喚士ゲージがゼロになる。
「勝者、・・・――!」
会場の声が遠く感じた。
「……負けた?」
ユウは呆然とした。
準決勝敗退。
前回は優勝。
その前も、順調に勝ち上がっていた。
なのに。
「なんで……」
ユウは手札を見る。
「もっと強いカードがあれば……」
自然と、その言葉が口から出ていた。
「もっと強いカードがあれば、勝てた」
そのとき。
「ユウ」
ルナが近づいてきた。
「大丈夫?」
「……うん」
ユウは俯いたまま答える。
「ちょっと考えたい」
「そっか」
ルナは少し迷ってから言った。
「じゃあ……」
一歩近づく。
「次は、私と一緒に戦わない?」
「……ルナと?」
「うん」
ルナは微笑んだ。
「二人で最初に戦ったときみたいに」
「……」
「最近、ずっと新しい組み合わせを試してるでしょ?」
「うん」
「だから」
ルナは少しだけ照れながら言った。
「たまには、私と二人で戦いたいなって」
ユウは黙った。
その言葉を聞いて。
一瞬だけ。
昔のことを思い出した。
初めて召喚した日。
初めて一緒に戦った日。
初めて賞金をもらった日。
そして――。
「相棒」
二人でそう呼び合ったこと。
でも。
ユウは首を横に振った。
「ごめん」
「……え?」
「今は、もっと強くならないといけないから」
「……」
「ルナと二人で戦うのも楽しいけど……」
ユウはカードを見つめた。
「大会で勝つなら、もっと強い組み合わせを探したい」
ルナの表情が止まった。
「……そっか」
「うん」
「分かった」
ルナは笑った。
「じゃあ、頑張ってね」
「ありがとう」
ルナはその場を離れていった。
ユウは、その背中を見送った。
そして。
「次は勝つ」
強く拳を握った。
「もっと強くならないと」
◇
帰宅後。
ユウはさっそくカードを並べた。
「クロエを外すべきか……?」
「それならセレス?」
「いや、ノアを二番手にして……」
デッキを組み替える。
一度。
二度。
三度。
気づけば、夜になっていた。
「……よし」
ユウは新しい構成を完成させた。
「これなら勝てる」
満足そうに頷く。
そのとき。
テーブルの端に、一枚のカードが置かれていることに気づいた。
ルナのカードだった。
月光を背に、こちらへ手を差し伸べているルナ。
ユウはカードを手に取った。
「……ルナ」
少しだけ胸が痛んだ。
でも。
「今度は勝つから」
カードを大切に戻した。
ユウはまだ知らなかった。
この日から。
勝つために強さを求める気持ちが。
少しずつ。
ルナとの距離を広げていくことを。
そして――。
その距離が、いつか取り返しのつかないものになることを。




