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召喚少女! ~少女たちと召喚士が紡ぐ、カードと絆の物語~  作者: 和泉きよ


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008.GR少女

 ミナが仲間になってから、数日が経った。


 僕たちの生活は、少しだけ賑やかになった。


「ユウ、朝ご飯できたよ」


「ありがとう、ミナ」


「今日はパンにしました」


「助かる」


「ユウ、カードは?」


 ルナがテーブルの向こうから声をかけてくる。


「昨日組んだデッキなら、ここにある」


「見せて」


「はい」


「……ミナのカード、二枚入れたんだ」


「回復役は多いほうが安定するからな」


「ふーん」


 ルナはカードを眺める。


「じゃあ、私のカードは?」


「もちろん三枚」


「……ならいい」


「何だよ、それ」


「別に」


 ミナがくすっと笑った。


「ルナさん、嬉しそうですね」


「べ、別に嬉しくない!」


「そうですか?」


「そう!」


 そんなやり取りを見ながら、僕は笑った。

 ミナが加わったことで、家の中は以前より賑やかになった。


 それでも――。


 僕とルナの距離が変わったわけではない。


 朝起きればルナがいる。


 カードを触ればルナと相談する。


 夜になれば、その日のことを話す。


 それが僕たちの日常だった。


 ……少なくとも、このときの僕はそう思っていた。


     ◇


「今日はカードショップに行こう」


 昼過ぎ。


 僕がそう言うと、二人が振り返った。


「新しいパック?」


 ミナが尋ねる。


「うん。今日発売のやつ」


「私も行きたい」


 ルナもすぐに立ち上がった。


「じゃあ三人で行こう」


「うん!」


「はい」


 僕たちは家を出た。


 カードショップに着くと、店内はいつもより混雑していた。


「今日、凄い人ですね?」


 ミナが尋ねる。


「新弾の発売日ですから」


 店員さんが答えてくれた。


「今回はかなり注目されていますよ。特に――」


 店員がショーケースを指差す。


「GRの新規収録があるんです」


「GR……」


 ルナが小さく呟いた。


 店員さんが続ける。


「召喚少女のカードは、基本的にパックごとに少女妖精が一枚入っています。ですが、GRが出る確率はかなり低いんです」


「どれくらい?」


「正確な封入率は公開されていませんが、簡単に出るものではありません」


 僕はショーケースを見る。


 そこには新しいGRカードが飾られていた。


 銀色の箔。


 光を受けるたびに、カード全体が虹色に輝いている。


「すごい……」


 ミナが目を輝かせる。


「綺麗ですね」


「これがGR……」


 僕も思わず見入ってしまう。


 隣を見ると、ルナが黙ってカードを見ていた。


「ルナ?」


「……何でもない」


 そう言ったものの。

 ルナの視線は、なかなかカードから離れなかった。


     ◇


 僕は新弾のパックを五つ購入した。


「五つも?」


 ミナが驚く。


「せっかくだから」


「GRが出るといいですね」


「まあ、そう簡単には――」


「出たらいいね」


 ルナが言った。


 その声はいつもより少しだけ真剣だった。


「……そうだな」


 僕たちは家に帰った。


 そしてテーブルにパックを並べる。


「じゃあ、開けよう」


 一つ目。

 R。


 二つ目。

 RR。


 三つ目。

 R。


「まあ、こんなもんか」


 四つ目。

 RR。


「あと一つ」


 最後のパックを手に取る。


 ルナが僕の隣に座った。


「……」


「どうした?」


「別に」


「緊張してる?」


「してない」


「そう?」


「……少しだけ」


 珍しい。

 ルナがこんなにカードの結果を気にしている。


「じゃあ、開けるぞ」


 僕はパックを開いた。

 中のカードを一枚ずつ確認していく。


 イベント。


 衣装。


 アイテム。


 少女妖精。


 そして――。


 最後の一枚。


 裏面から見ても分かる。

 明らかに普通のカードとは違う光沢。


「……え?」


 僕の手が止まった。


「ユウ?」


 ルナが覗き込む。


「それ……」


 カードを表に返す。


 瞬間。


 部屋が、白い光に包まれた。


「――!」


 カードから溢れ出した光が、天井まで伸びる。

 キラキラと光の粒が舞い落ちる。


 ミナが目を見開く。


「これって……」


 僕はカードを見つめた。


【GR】


 その文字が、まばゆく輝いている。

 そしてカードに描かれていた少女が、ゆっくりとこちらを見た。


 淡い水色の長い髪。


 穏やかな緑色の瞳。


 白いドレス。


 水のように透き通ったマント。


 手には美しいクリスタルの杖。


 その少女が――。


 カードから現実へと姿を変えていく。


 床に光が広がる。


 風が起こる。


 そして。


「あなたが、私を呼んだのですね」


 少女が目を開いた。


「私はミレイ」


 優しい声だった。


「今日から、あなたを守ります」


 僕は言葉を失った。


 GR。


 それは、僕がこのゲームを始めた日に知った最高レアリティ。


 そして――。


 僕が最初に引いたGRがルナだった。


「……GR」


 僕が呟く。


 ミレイは微笑んだ。


「はい」


「本当に……?」


「召喚を確認しました」


 ゲーム画面に表示される。


【GR 慈愛の水精 ミレイ】


【HP 1000】


【ATK 150】


【DEF 400】


【SPD 200】


【固有能力 慈愛の水】


 SRカードのミナとは明らかに違った。


 カードそのものが放つ存在感。

 召喚された瞬間の光。

 そして、能力値。


 どれを見ても、特別なカードだと分かる。


「すごい……」


 ミナが呟いた。


「私と同じ水属性なのに……」


「GRだからな」


 僕は笑った。


 そしてミレイを見る。


「よろしく、ミレイ」


「はい、ユウさん」


 ミレイは優しく頭を下げた。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


     ◇


 その夜。


 僕はミレイを何度も眺めていた。


「GRって、やっぱりすごいな」


「そうですね」


 ミナが頷く。


「能力も高いですし、回復までできます」


「これなら次の大会でも――」


 僕はそこで言葉を止めた。


 ルナが、少し離れたところに座っていたからだ。


「ルナ?」


「……なに?」


「どうした?」


「何もないよ」


「そう?」


「うん」


 ルナは笑った。


 けれど。

 いつもの笑顔とは少し違う。


 僕はミレイを見る。

 そして、ルナを見る。


「……」


 何かがおかしい。

 そう思った。


「ルナ」


「なに?」


「ミレイが来ても、僕たちの関係は変わらないからな」


「……え?」


「この前も言っただろ」


 僕は笑う。


「ルナは僕の相棒だよ」


「……」


 ルナは黙った。


 しばらくして――。


「……本当に?」


「本当」


「ミレイのほうが強くても?」


「強さだけで相棒を決めるわけじゃない」


「……」


「僕が最初に召喚したのはルナだから」


 ルナは俯いた。


「……そっか」


「うん」


「なら……いい」


 そう言って笑った。


 だけど、その笑顔には。


 ほんの少しだけ、不安が混じっていた。


     ◇


 深夜。


 僕が寝たあと。


 リビングにはルナだけが残っていた。


 テーブルの上には三枚のカード。


 ミナ。


 ミレイ。


 そして――ルナ。


 ルナは自分のカードを見つめていた。


「……私って」


 誰もいない部屋で、小さく呟く。


「ユウにとって、どんな存在なんだろう」


 最初に召喚された少女。


 最初に一緒に戦った少女。


 最初に大会へ行った少女。


 そして――。


「……相棒」


 その言葉を口にすると、少しだけ嬉しくなる。


 でも。


 GRは自分だけではなくなった。


 これから、もっと強い少女が現れるかもしれない。


 もっと優秀な少女が現れるかもしれない。


 もっとユウを支えられる少女が現れるかもしれない。


「……私が一番じゃなくなったら」


 ルナは自分のカードを握った。

 胸の奥が、少しだけ苦しくなる。


 けれど。


「……嫌だな」


 初めてだった。


 ルナが、自分とユウの関係を「当たり前」ではなく、意識したのは。


 そして――。


 翌朝。


「ユウ、おはよう」


「おはよう、ルナ」


「……今日も一緒にカードしようね」


「もちろん」


 ルナは笑った。


 いつもと同じように。


 けれどその心の中には、小さな変化が生まれていた。


 ――私は、ユウの相棒でいたい。


 その気持ちは、以前より少しだけ強くなっていた。


 そして僕はまだ知らない。


 この日を境に。


 僕のデッキだけではなく――。


 僕たちの関係そのものが、少しずつ変わり始めていくことを。


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