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召喚少女! ~少女たちと召喚士が紡ぐ、カードと絆の物語~  作者: 和泉きよ


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006.二人暮らし

 大会が終わってから、一週間が経った。


 あれから僕とルナは、毎日のようにカードを触っていた。


 とはいっても、ずっと対戦しているわけじゃない。

 デッキを組み直したり。

 カードショップで新しいカードを眺めたり。

 大会の動画を二人で見ながら、あの場面ではどうすればよかったのかを話し合ったり。


 そして――。


「ユウ。今日の夕飯、何にする?」


「え?」


「お腹が空いた」


「……ルナって、妖精なのに普通にお腹空くんだな」


「召喚少女だって食べるわよ」


 ルナは当然のように言った。


 召喚少女。


 カードから召喚された妖精の少女たち。


 ゲームの中の存在でありながら、こうして現実の世界で僕と会話をし、食事をして、笑っている。


 最初の頃は、それだけで不思議だった。


 でも今では――。


「じゃあ、今日はカレーにするか」


「カレー!」


 ルナの目が輝いた。


「そんなに好きなの?」


「好き。ユウの作るカレー、結構好き」


「結構って……」


「かなり好き」


「最初からそう言ってくれよ」


 僕が笑うと、ルナも小さく笑った。

 そんなやり取りが、最近は当たり前になっていた。


 大会に負けたことは悔しかった。

 でも、不思議と落ち込んではいなかった。

 むしろ、僕にはまだまだ伸びしろがある。


 そして何より――。


「次は勝とうな、ルナ」


「もちろん」


 ルナは胸を張った。


「次は絶対に、あのクロエにも負けないから」


「クロエっていうより、ノアとの組み合わせが強かったんだけどな」


「……それでも負けたのは悔しい」


「僕も」


 二人で顔を見合わせる。

 そして、同時に笑った。


 こういう時間が、僕は好きだった。


     ◇


 夕方。


 僕がカレーを作っている横で、ルナはテーブルにカードを並べていた。


「ユウ、これ」


「ん?」


「このイベントカード、入れたほうがいいと思う」


 ルナが差し出したのは、先日の大会でも使ったカードだった。


「『大ピンチ!』か」


「そう。ユウは追い込まれると、私を守ろうとしすぎるから」


「……」


「だから、このカードを使って一度盤面を立て直す」


 ルナはカードを指で叩いた。


「私が攻撃されることだけを考えるんじゃなくて、場全体を見るの」


「なるほど」


「相棒なんだから、二人で勝つ方法を考えないと」


「……そうだな」


 僕は頷いた。

 少し前までの僕なら、ルナを守ることばかり考えていた。


 ルナが倒されたら負ける。

 そう思い込んでいた。


 でも、ルナは違う。

 彼女は僕と一緒に戦いたいと思っている。


 だから僕も、ルナを信じる。


「よし。次の大会では、この構成でいこう」


「うん」


「じゃあ、夕飯食べたら対戦するか」


「うん!」


 ルナは嬉しそうに笑った。


 その笑顔を見ていると、自然と僕まで嬉しくなる。


     ◇


 夜。


「……負けた」


「勝った」


 テーブルの上には、対戦を終えたカードが並んでいた。


 結果はルナの勝利。


「もう一回」


「いいよ」


「次は負けない」


「私も負けない」


 再びカードをシャッフルする。


 そして、もう一戦。


「……また負けた」


「ユウ、カードを引くタイミングが悪い」


「分かってる」


「それと、三ターン目のイベント」


「あれは完全に読み違えた」


「うん」


「否定してくれよ」


「でも、面白かった」


「……まあ、そうだけど」


 二人で笑った。


 勝っても楽しい。

 負けても楽しい。


 それが不思議だった。


 以前は、カードゲームは勝つためのものだと思っていた。


 賞金を得るため。


 強くなるため。


 勝者になるため。


 でも今は違う。


 ルナと一緒に考えて、一緒に悩んで、一緒に喜ぶ。

 その時間そのものが楽しかった。


「ねえ、ユウ」


「ん?」


 ルナがカードを片付けながら言った。


「明日も一緒にいられる?」


「……え?」


 突然の質問だった。


 ルナは少しだけ目を伏せている。


「いや、その……」


「もちろん」


 僕は答えた。


「明日も、その次の日も。一緒にいるよ」


「……本当?」


「本当」


「大会がなくても?」


「なくても」


「カードをしなくても?」


「それでも」


「……そっか」


 ルナは安心したように微笑んだ。


「じゃあ、明日も一緒ね」


「うん」


 そのとき。

 僕の視界の端に、小さな表示が浮かんだ。


【絆ポイント】


【45 → 50】


「……?」


 僕は思わず画面を見つめた。

 最近、この表示を見ることにも慣れてきた。


 けれど。


 戦ったわけでもない。


 カードを使ったわけでもない。


 ただ、一緒にいただけ。

 それなのに、絆ポイントが上がった。


「どうしたの?」


「いや……」


 僕はルナを見る。


「なんでもない」


 そう答えて、笑った。


     ◇


 翌朝。


「ユウ、起きて」


「……ん」


「朝」


「……あと五分」


「もう三十分経ってる」


「え?」


 飛び起きた。


「うわ、寝坊した!」


「ふふっ」


 ルナが楽しそうに笑っている。


「笑ってないで起こしてくれよ!」


「ちゃんと起こした」


「もっと早く!」


「何回も起こした」


「……本当に?」


「本当」


 ルナは満足そうに頷いた。


「だから、朝ご飯できてる」


「え?」


 テーブルを見ると、簡単な朝食が用意されていた。

 もちろん、料理をしたのは僕ではない。


「ルナが?」


「うん」


「いつの間に……」


「ユウが寝ている間」


「……ありがとう」


「どういたしまして」


 僕は椅子に座った。

 ルナも向かいに座る。


「いただきます」


「いただきます」


 二人で朝食を食べる。


 特別な料理ではない。


 豪華でもない。


 ただの普通の朝だった。


 でも――。


 僕は、こういう日がずっと続けばいいと思った。


 カードゲームで勝つ日も。


 大会で負ける日も。


 カレーを食べる日も。


 何もせずに過ごす日も。


 ルナと一緒なら、それでいい。


「ユウ」


「ん?」


「今日、カードショップ行こう」


「新しいカード見たいの?」


「うん」


「分かった」


「それから、帰ったらまた対戦しよう」


「いいよ」


「今度は私が勝つから」


「昨日も勝っただろ」


「今日も勝つ」


「負けないぞ」


 そんなくだらない会話をしながら、僕たちは家を出た。


 玄関の扉を閉める。


 その隣には、ルナがいる。


「行こう、相棒」


「うん。行こう」


 僕たちは並んで歩き始めた。


 その日も、特別なことは何も起こらなかった。


 だけど僕は、この何気ない一日こそが――。


 いつまでも続いてほしいと思っていた。


 ――このときの僕は、まだ知らなかった。


 この「当たり前」が、いつか僕にとって何より大切なものになることを。


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