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召喚少女! ~少女たちと召喚士が紡ぐ、カードと絆の物語~  作者: 和泉きよ


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005.はじめての大会

 あの日の敗北から、二週間。


 僕たちは毎日のように対戦した。


「もう一回」


「まだやるの?」


「もう一回」


「ユウ、今日はもう五回目よ」


「あと一回だけ」


「その『あと一回』を三回くらい聞いた気がするんだけど」


「……」


「図星ね」


 ルナが呆れたように笑う。


 僕はカードを並べ直した。

 負けた試合を振り返って、デッキを組み直した。


 新しいカードを試して。


 実戦で使って。


 また負けて。


 また考える。


 それを繰り返した。


 そして今日。


「大会に出るわよ」


 ルナが言った。


「うん」


「今度は前回より大きい大会」


「分かってる」


「参加者は百人以上」


「……」


 僕の手が止まった。


「百人?」


「そう」


「そんなに?」


「人気ゲームなんだから、それくらい普通よ」


 ルナは平然としている。


「優勝賞金は――」


「いくら?」


「二十万円」


「……」


「どうしたの?」


「いや」


 僕は深呼吸した。


「ちょっと緊張してきた」


「ふふ」


「笑わないでよ」


「ごめんなさい」


 ルナは笑いながら僕を見る。


「でも、大丈夫」


「どうして?」


「私たち、前よりずっと強くなったから」


 僕はデッキを見る。


 そこには、ルナのカードがある。

 最初の一枚。

 そして、僕が一番信頼しているカード。


「……そうだね」


 僕は頷いた。


「行こう」


     ◇


 大会会場は、大型ショッピングモールのイベントホールだった。


 入口からして人が多い。

 あちこちで召喚少女のカードを持った人たちが話している。


「このカード、今回の環境だと強いらしいぞ」


「GR引いた!」


「見せて!」


「決勝まで行けるかなあ」


 聞こえてくる会話は、僕にはまだ知らない言葉ばかりだった。


「環境って?」


「今の大会で強いカードやデッキの流行のこと」


「へえ……」


「ユウは覚えることが多いわね」


「ルナが全部教えてくれるから助かるよ」


「なら、もっと勉強して」


「厳しい」


「勝ちたいんでしょう?」


「もちろん」


 受付を済ませる。


『参加者――128名』


 表示された数字を見て、僕は思わず息を呑んだ。


「百二十八人……」


「そのうち一人が私たち」


 ルナが言う。


「だから、7人に勝てばいい」


「簡単に言わないで」


「冗談よ」


 ルナが笑った。


「一試合ずつ勝ちましょう」


「うん」


     ◇


 第一回戦。


 相手は年配の男性だった。


「よろしくお願いします」


「よろしく」


 試合開始。


 僕は初期手札を確認した。


 ルナ。


 アイテム二枚。


 イベント二枚。


「いい手札」


 ルナが言う。


「最初から私を出せる」


「うん」


 召喚エネルギーを使い、ルナを召喚する。


『GR ルナ』


『絆ポイント 35』


「よろしく、ユウ」


「よろしく」


 相手も少女を召喚する。


『RR ロック』


 防御型の少女だった。


「防御型か……」


「なら、無理に攻撃しない」


 ルナが言う。


「まず相手の防御を崩す」


「分かった」


 二ターン目。


 相手は防御能力を使ってきた。


『防御姿勢』


『受けるダメージ-150』


「これじゃ、ルナの攻撃がほとんど通らない」


「なら、アイテムを使って」


「これ?」


『月光の護符』


『味方少女一体のATK+100』


「そう」


 僕はルナに使う。


『ATK 300→400』


「これで攻撃!」


 ルナが剣を振る。


『400ダメージ』


 相手の防御能力によって150減少。


『250ダメージ』


「少しずつ削る」


「その調子」


 しかし、相手もこちらを攻撃してくる。

 ルナのHPが減っていく。


「回復したほうがいい?」


「まだ」


「でもHPが200しかない」


「次の相手の攻撃を見て」


 僕は迷った。


 そして――。


「……分かった」


 相手の攻撃。


『攻撃――』


 しかし、相手の少女はルナではなく、召喚士を狙った。


「え?」


『召喚士ゲージ 20→17』


「直接攻撃?」


「防御型のカードは、こういう戦い方もできる」


 ルナが言う。


「相手は私を倒すより、先にユウを狙うつもりね」


「じゃあ、ルナを回復!」


 僕はポーションを使う。


『HP 200→400』


「これで大丈夫」


 その後、僕たちは少しずつ相手の防御を崩した。


 最後はルナの直接攻撃。


『召喚士ゲージ 5→0』


『WIN』


「勝った!」


「一勝目ね」


 ルナが笑う。


「いい判断だったわ」


「ありがとう」


『絆ポイント+3』


『ルナ 絆ポイント 38』


「また増えた」


「少しずつね」


 ルナがこちらを見る。


「一緒に戦うほど、絆は強くなる」


「……なんだか面白いね」


「でしょう?」


     ◇


 第二回戦。


 相手は高速型。

 三体の少女を一気に展開し、こちらが動く前に攻撃を重ねてくるデッキだった。


「速い……!」


『SPD 450』


『SPD 500』


『SPD 550』


「どうする?」


「一体ずつ倒して」


「でも、次から次へと出てくる」


「なら、相手の召喚エネルギーを見て」


「エネルギー?」


「強い少女を出したら、その分だけ使っている」


「あ……」


 画面を見る。


『相手召喚エネルギー 0』


「今、相手はエネルギーがない」


「そう」


 ルナが笑う。


「だから、次のターンまで新しい少女を出せない」


「なるほど!」


 僕は攻撃対象を選んだ。


 まず一体。


 次に二体目。


 相手の場を減らしていく。


 そして――。


「今だ!」


 僕はイベントカードを使った。


『大ピンチ!』


『自分の召喚士ゲージが10以下の場合、味方少女一体のATK+200』


 ルナの攻撃力が跳ね上がる。


「行くわ!」


 ルナの一撃。


『WIN』


「……勝った」


「危なかったけどね」


「うん」


「でも、相手のエネルギーを見ていたのは良かった」


「ルナが教えてくれたから」


「だから私たちは二人で戦ってるの」


 また、その言葉。


 僕は少しだけ嬉しくなった。


     ◇


 第三回戦。


 第四回戦。


 第五回戦。


 僕たちは勝ち続けた。


 128人。


 64人。


 32人。


 16人。


 気がつけば、残りは八人になっていた。


「……ベスト8?」


「そう」


 僕は信じられない気持ちだった。


「ここまで来たの?」


「来たのよ」


 ルナは嬉しそうだった。


「あと三試合」


「三試合……」


 その言葉を聞いた瞬間。


 手が少し震えた。


「ユウ?」


「緊張してる」


「珍しいわね」


「だって、ここまで来ると思ってなかったから」


「私もよ」


「ルナも?」


「ええ」


 ルナが笑った。


「でも、楽しいでしょう?」


「……うん」


「なら、行きましょう」


     ◇


 準々決勝。


 相手はGRを二体使う強豪だった。


『GR クロエ』


『GR ノア』


 攻撃型と防御型。


 バランスがいい。


「強い……」


「落ち着いて」


 ルナが言う。


「私がクロエを止める」


「ノアは?」


「ユウが考えて」


「僕が?」


「そう」


 僕は手札を見る。


 相手の防御役をどう崩すか。


 考える。


 考える。


 そして――。


「ルナ」


「何?」


「クロエを攻撃して」


「分かった」


「そのあと、ノアじゃなくて召喚士を狙う」


「……なるほど」


 ルナが笑った。


「いい作戦ね」


 攻撃する。

 クロエのHPを削る。


 相手がこちらを攻撃する。

 しかし、僕は防御カードを使わなかった。


「ユウ!」


「大丈夫!」


「でも!」


「今は攻める!」


 ルナのHPが残りわずかになる。

 それでも僕は攻撃を続けた。


 そして――。


『召喚士ゲージ 20→10』


 相手も僕を攻撃する。


『召喚士ゲージ 20→12』


 互いにあと一撃。


「ユウ!」


 ルナが叫ぶ。


「今ならいける!」


「うん!」


 ルナが攻撃する。


『召喚士ゲージ 12→2』


「あと少し!」


 しかし相手のターン。

 クロエが攻撃してくる。


『召喚士ゲージ 2→0』


「……!」


『LOSE』


 画面に敗北が表示された。


 僕はしばらく動けなかった。


「……負けた」


「うん」


 ルナも少し悔しそうだった。


「あと一歩だったわね」


「僕が守ればよかった」


「でも、それなら次のターンに攻撃できなかった」


「……」


「今の判断は間違いじゃない」


 ルナが言った。


「ただ、相手のほうが一手だけ上だった」


「そっか」


「だから、悔しいなら――」


 ルナが笑う。


「次に勝てばいい」


「……うん」


 僕は笑った。


「そうだね」


     ◇


 会場を出る。


 僕たちはベンチに座った。


「ベスト8」


「うん」


「すごいじゃない」


「でも、負けた」


「それでも」


 ルナが言う。


「私は嬉しい」


「どうして?」


「だって、ユウとここまで来られたから」


「……」


「一回戦で負けてもおかしくなかった」


「うん」


「でも勝った」


「うん」


「二回戦も」


「うん」


「三回戦も」


「……うん」


「だから――」


 ルナが笑った。


「今日は楽しかった」


 僕も笑った。


「僕も」


 端末を見る。


『ルナ 絆ポイント 45』


「45になってる」


「かなり上がったわね」


「もっと上がるとどうなるんだろう」


「そのうち分かるわ」


「また秘密?」


「秘密」


「教えてよ」


「駄目」


「ケチ」


「何よ」


 僕たちは顔を見合わせて笑った。


 大会には負けた。


 優勝賞金も手に入らなかった。


 それでも――。


 不思議と悔しさだけではなかった。


 ルナと一緒に戦って。


 一緒に考えて。


 一緒に負けた。


 それが、なんだか嬉しかった。


     ◇


 帰り道。


 僕は大会でもらった参加賞のパックを眺めていた。


「開けてみる?」


 ルナが聞く。


「家に帰ってからにする」


「どうして?」


「せっかくだから、一緒に開けたい」


「……」


 ルナが少し黙る。


「何?」


「ううん」


 ルナは笑った。


「そういうところ、好きよ」


「え?」


「……何でもない」


「今、何か言った?」


「言ってない」


「絶対言った」


「言ってないったら」


 ルナが先に歩いていく。

 僕はその後を追いかけた。


「待ってよ」


「早く来なさい」


「はいはい」


 夕焼けの道を、二人で歩く。


 僕はまだ知らない。


 この先、もっと強い少女が現れることを。


 もっと珍しいカードを引くことを。


 そして――。


 今日のように、ルナと笑いながら戦える日々が、永遠ではないことを。


 ただ今は。


「ルナ」


「何?」


「次は優勝しよう」


「もちろん」


「二人で」


「ええ」


 ルナは僕のほうを見て笑った。


「次は、絶対にね」


 その笑顔を見ながら、僕は思った。


 ――僕は、この子ともっと強くなりたい。


 その気持ちだけは、間違いなく本物だった。


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