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召喚少女! ~少女たちと召喚士が紡ぐ、カードと絆の物語~  作者: 和泉きよ


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004.相棒

 大会で優勝してから、僕たちは少しだけ有名になった。


 ……と言っても、街を歩いていて声をかけられるほどではない。


 カードショップに行けば、


「あ、あのときの初心者大会の優勝者ですよね?」


 と聞かれる程度だ。


「有名人みたい」


 僕がそう言うと、隣を歩いていたルナが呆れたような顔をした。


「一回優勝しただけでしょう?」


「そうだけど」


「それに、私は?」


「ルナ?」


「私も一緒に優勝したんだけど」


「……確かに」


「なら、私も有名人ね」


「カードショップの店員さんには、かなり覚えられてると思う」


「それならいいわ」


 ルナは満足そうに頷いた。


 最近の彼女は、以前よりよく笑うようになった。

 最初に出会ったときは、もっと真面目で、どこか距離があった。


 それが今では――。


「ユウ、今日はどんなデッキにする?」


「昨日と同じでいいんじゃない?」


「駄目」


「どうして?」


「同じデッキばかり使っていたら、対策されるでしょう?」


「なるほど」


「もっと色々なカードを試したほうがいいわ」


 僕の隣で、カードゲームについて熱心に語っている。

 その姿を見ていると、自然と笑ってしまう。


「何?」


「いや、ルナってカードゲーム好きなんだなと思って」


「……今さら?」


「うん」


「好きよ」


 ルナは即答した。


「だって、あなたと一緒に戦えるもの」


「……」


 不意打ちだった。


「どうしたの?」


「いや……なんでもない」


「変なの」


 ルナは首を傾げた。


 僕は前を向いた。

 何だろう。

 胸の奥が、少しだけ暖かい。


 そんな感覚だった。


     ◇


 その日の午後。


 僕たちはいつものカードショップへ向かった。


「新しいカードパックが出てる」


 店頭には、新弾のポスターが貼られていた。


『召喚少女! 新章――星空の冒険者』


「買ってみる?」


 僕が聞く。


「一パックだけなら」


「一パックだけ?」


「大会の賞金を全部カードに使うつもり?」


「……少しだけなら」


「駄目」


「厳しいな」


「せっかく勝ったお金なんだから、大事に使わないと」


 ルナは僕の財布を見る。


「生活費も必要でしょう?」


「ルナ、お母さんみたい」


「誰がお母さんよ」


「ごめん」


「……まったく」


 そう言いながらも、ルナは笑っていた。


 僕は新しいパックを一つだけ購入した。


 家に帰ってから開封する。


「今回は何かな」


 少女カードを裏返す。


『SR フローラ』


「SRだ」


「回復型ね」


「ルナと一緒に使える?」


「もちろん」


 ルナはカードを見る。


「私が前に出て、フローラが後ろから支援する」


「いいね」


「それに、こういうカードも――」


 ルナがイベントカードを手に取る。


「これは面白いわ」


『守護陣』


『味方少女一体が受ける次のダメージを半減する』


「これ、ルナに使ったら強そう」


「そうね」


「ルナを守れる」


「……」


 ルナが少し黙った。


「何?」


「……別に」


「?」


「ユウって、私を守ろうとしすぎじゃない?」


「そうかな」


「この前の大会でもそうだった」


「そうだっけ?」


「私のHPが減ったら、すぐ回復カードを使うし」


「だって、ルナが倒されたら困るから」


「……」


 ルナはカードを見つめた。


「どうして?」


「どうしてって……」


 僕は少し考えた。


「一緒に戦ってるから」


「……そう」


 ルナはそれ以上、何も言わなかった。


     ◇


 数日後。


 僕たちは初めて、初心者大会ではない通常の対戦会に参加していた。


 参加者は三十二人。

 賞金は優勝十万円。


「十万円……」


 僕は少し緊張していた。


「大丈夫」


 ルナが言う。


「私たちは一回優勝してるんだから」


「そうだけど、今回は強そうな人が多い」


「だったら、頭を使えばいい」


「ルナは本当に頼りになるな」


「当然でしょう」


 ルナは胸を張った。


 そして――。


『対戦開始』


 一回戦。


 二回戦。


 三回戦。


 僕たちは勝ち上がっていった。


 以前よりもカードの使い方が分かるようになっている。


 相手の行動を予想する。


 少女のSPDを確認する。


 召喚エネルギーを管理する。


 攻撃するタイミングを考える。


 カードゲームを始めて、まだそれほど経っていない。


 それでも僕は、少しずつ上達していた。


 何より――。


「ユウ、今!」


「分かった!」


「右のカード!」


「これだ!」


『イベントカード――守護陣』


 ルナへの攻撃が半減する。


「ナイス!」


「ルナが教えてくれたんだよ」


「そういうところは素直なのね」


「どういう意味?」


「別に」


 そんなやり取りをしながら、勝ち進んでいった。


     ◇


 準決勝。


 相手は、今大会でも有名なプレイヤーだった。


「よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 対戦が始まる。


 相手の初手は、強力なUR少女。


『UR グラン』


 攻撃力が高く、さらに味方の攻撃力を上げる能力を持っている。


「これは……強い」


「焦らないで」


 ルナが言う。


「私を出して」


「分かった」


 僕はルナを召喚した。


『GR ルナ』


『絆ポイント 25』


「行くわ」


 ルナが場に立つ。


 しかし、相手はすぐに二体目を召喚した。


「二体目……」


「エネルギー管理が上手いわ」


 ルナが相手の場を見る。


「次のターン、かなり攻めてくる」


「どうする?」


「守る」


「守る?」


「ええ」


 ルナが頷いた。


「まず相手の攻撃を受けて、次のターンに反撃する」


 僕はその作戦に従った。


 しかし――。


 相手の攻撃力は予想以上だった。


「攻撃!」


 グランの一撃がルナに直撃する。


『500ダメージ』


『ルナ HP300』


「ルナ!」


「まだ大丈夫」


「回復する!」


「待って」


「え?」


「そのカードは温存して」


「でも――」


「次のターンに使ったほうがいい」


 ルナは冷静だった。


「相手は今、攻撃にエネルギーを使っている」


「……なるほど」


「ここで回復しても、また攻撃される」


「じゃあ……」


「次のターン、一気に攻める」


 僕は頷いた。


 ところが。


 相手がカードを一枚出した。


『イベントカード――追撃命令』


『味方少女一体は、このターン二回目の攻撃を行う』


「……!」


 ルナの顔色が変わった。


「ユウ!」


「分かってる!」


 グランがもう一度攻撃する。


『500ダメージ』


『ルナ HP0』


『ルナ――退場』


「……!」


 僕の手が止まった。

 画面の中で、ルナの姿が消えていく。


「ルナ!」


 思わず声が出た。


 しかし。


『少女カード――退場』


 無情な表示が出る。


「……」


 僕は呆然としていた。


 ルナがいない。


 場に、ルナがいない。


「ユウ」


 ルナのカードから声が聞こえる。


「大丈夫」


「……ごめん」


「どうして謝るの?」


「僕が……守れなかった」


「違う」


 ルナの声は穏やかだった。


「これはゲームよ」


「でも……」


「まだ負けてないでしょう?」


 僕は画面を見る。


 召喚士ゲージはまだ残っている。

 僕には、もう一枚少女カードがある。


「……そうだ」


 僕は手札を握った。


「まだ終わってない」


「ええ」


 僕は残ったカードを召喚する。


 しかし――。


 相手の場には二体の少女。


 こちらは一体。


 さらに、ルナを失ったことで僕は焦っていた。


 判断を間違える。


 攻撃するべきところで守り。


 守るべきところで攻撃。


 そして――。


『LOSE』


 画面に敗北の文字が表示された。


     ◇


 会場を出る。


 僕はほとんど何も話さなかった。


「ユウ」


「……」


「そんなに落ち込まなくていいわ」


「でも」


「負けたのは私たちが弱かったから」


「違う」


「じゃあ何?」


「僕がルナを守れなかったから」


 足が止まった。

 ルナも立ち止まる。


「……どうして、そこまで言うの?」


「だって」


 僕は拳を握った。


「ルナが倒されるのが嫌だった」


「……」


「僕がもっとちゃんと考えていれば」


「ユウ」


「もっといいカードを使っていれば」


「ユウ」


「ルナを守れたかもしれない」


「ユウ!」


 ルナの声が、少し強くなった。


 僕は顔を上げた。


「私を守ることだけ考えなくていい」


「……」


「私は、あなたに守られるだけの存在じゃない」


 ルナはまっすぐ僕を見る。


「一緒に戦うために、私はここにいるの」


「……」


「だから、全部一人で背負わないで」


 その言葉が胸に刺さった。


「私が倒されたなら、次はあなたが戦えばいい」


「でも……」


「私が戻るまで、戦えばいい」


「……戻る?」


「ええ」


 ルナは笑った。


「召喚少女は、一度倒されたら終わりじゃないでしょう?」


「あ……」


 僕は気づいた。


 カードが手元に戻れば、次の戦いで再び召喚できる。


「そうだった」


「でしょう?」


 ルナは笑った。


「だから、そんな顔をしないで」


「……うん」


「それに」


 ルナは少しだけ照れたように目を逸らした。


「私は、あなたのカードなんだから」


「……」


「あなたが諦めない限り、何度でも一緒に戦える」


 僕はしばらく何も言えなかった。


 それから。


「……ルナ」


「何?」


「ありがとう」


「どういたしまして」


「これからは、一人で戦わせない」


「……うん」


「僕も一緒に戦う」


「うん」


 ルナが手を差し出した。

 僕はその手を握った。


 端末の画面に表示が浮かぶ。


『絆ポイント+10』


『ルナ 絆ポイント 35』


「……増えた」


「ええ」


「どうして?」


「たぶん」


 ルナは少し考えてから言った。


「私たちが、ちゃんと分かり合えたからじゃない?」


「そうなのかな」


「きっとそうよ」


 ルナが笑う。


「ユウ」


「ん?」


「私たち――」


 少しだけ間を置いて。


「いい相棒になってきたわね」


「……相棒」


 その言葉を口にすると、不思議と嬉しかった。


「うん」


 僕も笑う。


「相棒だ」


     ◇


 その夜。


 僕は大会のデッキを見直していた。


 負けた原因を考える。


 カードの選択。


 エネルギーの使い方。


 攻撃の順番。


 相手のイベントカード。


 まだまだ知らないことが多い。


「もっと強くならないとな」


「そうね」


 隣にはルナがいる。


「でも、焦らなくていい」


「どうして?」


「私たちは、まだ始まったばかりだから」


「……そうだね」


 僕は頷いた。


 そしてデッキの一番上に、ルナのカードを置いた。


 最初に引いた一枚。


 初めて召喚した少女。


 初めて一緒に勝った相手。


 そして――。


 今日、初めて一緒に負けた相手。


 僕はカードを見つめた。


「ルナ」


「何?」


「次は勝とう」


「もちろん」


「今度は二人で」


「ええ」


 月明かりが窓から差し込んでいた。


 その光を浴びながら、ルナは笑った。


「だって私たちは――」


 僕も笑う。


「相棒だから」


 その夜。


 僕たちは、次の大会に向けて新しいデッキを作り始めた。


 まだ知らないカード。


 まだ知らない少女。


 まだ知らない戦い。


 これから先、僕たちを待っているものはたくさんある。


 けれど。

 僕にはルナがいる。


 だから、大丈夫。


 ――このときの僕は、本気でそう思っていた。


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