033.すごいミナ
村の祭りを手伝った翌朝。
ミナとリリは、村人たちに見送られながら村を出た。
「ミナちゃん、リリちゃん! 本当にありがとうね!」
「またいつでも遊びに来てちょうだい!」
「はい! こちらこそ、ありがとうございました!」
リリが元気よく手を振る。
ミナも笑顔で頭を下げた。
二人は並んで歩きながら、村を離れていく。
「楽しかったね、ミナ!」
「うん。みんな優しかったね」
「うん!」
リリは嬉しそうに笑った。
少し歩いたところで、リリがふとミナの顔を見る。
「ねえ、ミナ」
「どうしたの?」
「昨日も思ったんだけど……」
リリは少し考えてから、口を開いた。
「ミナって、すごいよね」
「え?」
思いがけない言葉に、ミナは足を止めた。
「私が?」
「うん!」
リリは迷いなく頷く。
「困ってる人がいたら、すぐ助けるし」
「そんな、大したことじゃ……」
「大したことだよ」
リリは真剣な表情で言った。
「昨日だって、村のみんなが困ってたら一番に動いてたじゃん」
「それは……二人で手伝ったからだよ」
「でも、ミナがいなかったら、もっと大変だったと思う」
リリは指を折りながら話し始める。
「荷物を運ぶのも手伝ってくれたし、お花を飾るのも上手だったし、それに――」
「それに?」
「疲れてる人がいたら、ちゃんと声をかけてた」
ミナは黙ってリリを見る。
「ミナって、誰かが困ってるのを見つけるのが早いんだよ」
「……そうかな?」
「そうだよ!」
リリは胸を張った。
「私だったら、気づかないこともあるもん」
「リリちゃんだって、昨日ずっと村の人たちを笑わせてたじゃない」
「え?」
「子どもたちと遊んだり、お祭りの飾りを一緒に作ったり」
ミナは微笑む。
「リリちゃんがいたから、みんな楽しそうだったよ」
「そ、そうかな……?」
「うん」
リリの頬が少し赤くなる。
「じゃあ……私も役に立ててた?」
「もちろん」
ミナは迷わず答えた。
「誰かを笑顔にすることだって、立派なことだよ」
「……そっか」
リリは嬉しそうに笑った。
そして、しばらく歩いたあと。
またミナの横顔を見る。
「やっぱりミナって、すごい」
「またそれ?」
「だって本当だもん」
リリは笑う。
「私、ミナみたいになりたい」
「私みたいに?」
「うん」
リリは前を向いた。
「困ってる人を助けられて、誰かを安心させられる人」
その言葉を聞いて、ミナは少しだけ目を細めた。
「……ありがとう」
「どうしてお礼を言うの?」
「なんとなく」
ミナは笑った。
「でも、リリちゃんはリリちゃんのままでいいと思うよ」
「私のまま?」
「うん」
「どうして?」
「リリちゃんには、リリちゃんにしかできないことがあるから」
ミナは優しく言った。
「私にはできないことも、きっとたくさんあるよ」
「……本当に?」
「本当」
リリは少し考えてから、笑顔になった。
「じゃあ、これからも一緒に探そうよ」
「一緒に?」
「うん!」
リリは両手を広げる。
「ミナにできることも、私にできることも!」
「……そうだね」
ミナも笑った。
「一緒に探そうか」
二人は再び歩き始める。
その途中、道端に小さな店が見えてきた。
店の前には、たくさんの箱が積まれている。
その横で、一人の店主が困った顔をしていた。
「どうしたんですか?」
ミナが声をかける。
「ああ……」
店主は二人を見ると、少し困ったように笑った。
「商品を運びたいんだが、今日は人手が足りなくてね」
「それなら!」
リリがすぐに手を挙げた。
「私たちが手伝います!」
「え?」
ミナが驚く。
「いいのかい?」
「もちろんです!」
リリは元気よく答えた。
ミナも小さく笑った。
「私も手伝います」
「助かるよ!」
二人は箱を一つずつ抱える。
「よいしょ……!」
「リリちゃん、無理しないでね」
「大丈夫!」
「重かったら言ってね」
「うん!」
二人で何度も往復しながら、商品を店の中へ運んでいく。
やがて、最後の箱を運び終えた。
「ありがとう。本当に助かったよ」
店主が深々と頭を下げる。
「こちらこそ、ありがとうございました!」
リリが笑顔で答える。
ミナも隣で微笑んだ。
店を離れてから、リリが嬉しそうに言った。
「また誰かの役に立てたね!」
「うん」
「ミナと一緒だと、いろんな人を助けられる気がする」
「私も、リリちゃんと一緒だから楽しいよ」
「えへへ」
リリは照れたように笑った。
二人は並んで歩いていく。
その背中を、夕方の柔らかな光が照らしていた。
ミナはふと、空を見上げる。
青い空。
白い雲。
そして、遠くに続いていく道。
家を出てから、まだそれほど時間は経っていない。
それなのに。
不思議と、一人で歩いていたときとは違っていた。
隣にはリリがいる。
話をして。
笑って。
誰かを助けて。
そんな時間を過ごしている。
「……リリちゃん」
「なに?」
「ありがとう」
「え?」
「一緒にいてくれて」
ミナがそう言うと、リリは少し驚いたあと、にっこりと笑った。
「こっちこそ」
そして二人は、また歩き出した。
まだ、帰る場所は決まっていない。
それでも。
ミナの心には、ほんの少しだけ温かいものが生まれていた。
――この旅が終わったら、自分はどこへ行くのだろう。
その答えは、まだ分からない。
けれど今は。
隣にいる少女と、一緒に歩いていたかった。
二人の旅は、まだ始まったばかりだった。




