032.一緒にいよう
朝。
窓から差し込む光で、ミナは目を覚ました。
「……ん……」
まだ少し眠い。
隣を見ると、リリはまだ眠っている。
「……ふふ」
昨日までなら、一人で朝を迎えていた。
けれど今は違う。
目を覚ませば、隣に誰かがいる。
そのことが、ミナには少し嬉しかった。
「リリちゃん、朝だよ」
「……んー……」
「起きないと置いていくよ?」
「……それは嫌!」
リリが飛び起きた。
「ふふっ」
「もう、ミナ! 意地悪!」
「ごめん、ごめん」
二人は笑いながら、出発の準備を始めた。
◇
宿を出ると、朝の町はまだ静かだった。
パン屋から焼きたての香りが漂ってくる。
「いい匂い……」
リリが足を止める。
「食べたい?」
「食べたい!」
「じゃあ、買おうか」
「いいの?」
「うん」
二人でパン屋に入り、焼きたてのパンを二つ買う。
店を出てから、リリは嬉しそうにパンを頬張った。
「おいしい!」
「そんなに急いで食べなくても大丈夫だよ」
「だって、おいしいんだもん」
「ふふ」
ミナもパンを一口食べる。
温かくて、柔らかい。
「……おいしいね」
「でしょ?」
リリが嬉しそうに笑う。
こんな何気ない時間が。
ミナには心地よかった。
◇
町を出ると、二人は街道を歩き始めた。
「今日はどこまで行く?」
「うーん……」
ミナは考える。
「次の町まで行ってみようか」
「賛成!」
二人は並んで歩く。
しばらくすると、リリが突然走り出した。
「ミナ!」
「どうしたの?」
「あっちに大きな木がある!」
「待って、リリちゃん!」
ミナも追いかける。
大きな木の下には、小さな木製のベンチが置かれていた。
「ここで休もう!」
「まだそんなに歩いてないよ?」
「でも休みたい!」
「もう……」
ミナは笑いながらベンチに座った。
リリも隣に座る。
「ねえ、ミナ」
「なに?」
「こうやって二人で歩くの、楽しいね」
「うん」
「私、一人だった時はずっと下を向いてた」
リリは木の葉を見上げる。
「誰も迎えに来てくれないって思ってたから」
「……」
「でも今は違う」
リリはミナを見る。
「隣にミナがいるから」
ミナは少し照れながら笑った。
「私も、リリちゃんがいてくれてよかった」
「本当?」
「うん」
「じゃあ、ずっと一緒だね!」
「……ずっと?」
「うん!」
リリは元気よく頷いた。
「だめ?」
「……ううん」
ミナは笑う。
「いいよ」
「やった!」
リリが嬉しそうに笑った。
◇
昼過ぎ。
二人は小さな村に立ち寄った。
村の広場では、数人の人が荷物を運んでいる。
「何かやってるのかな?」
リリが興味津々に近づく。
「こんにちは」
ミナが声をかける。
すると、一人の女性が振り返った。
「こんにちは。お祭りの準備をしているのよ」
「お祭り?」
「ええ。夜にこの村のお祭りがあるの」
広場には飾り付け用の布や花が並べられている。
「でも、まだ準備が終わってなくてね」
女性が困ったように笑った。
リリはミナを見る。
ミナも頷いた。
「私たちも手伝います!」
「え?」
女性が驚く。
「いいの?」
「もちろん!」
リリが元気よく答えた。
◇
二人は村人たちと一緒に、広場の飾り付けを始めた。
リリは花を運ぶ。
ミナは飾りを取り付ける。
「リリちゃん、そこお願い」
「任せて!」
「ミナ、この布どうする?」
「そっちを持ってくれる?」
「うん!」
二人は息を合わせながら作業を進めていく。
最初はぎこちなかった村人たちも、次第に笑顔になっていった。
「助かるよ!」
「ありがとう!」
「二人とも仲がいいね」
「えへへ」
リリが照れたように笑う。
「私たち、友達だから!」
その言葉を聞いたミナは、少し驚いた。
友達。
そう呼ばれたことが、なんだか嬉しかった。
「……うん」
ミナも笑った。
「友達だよ」
◇
夕方。
準備が一段落した。
広場には色とりどりの飾りが並び、村の雰囲気が一気に明るくなっている。
「すごい!」
リリが嬉しそうに辺りを見る。
「きれいになったね」
「二人が手伝ってくれたおかげだよ」
村の女性が笑う。
「お祭りも、きっと楽しくなるわ」
「よかったです」
ミナは笑った。
「ありがとう!」
村人たちから何度もお礼を言われる。
そのたびに。
ミナの胸には、ほんのりとした温かさが広がっていった。
◇
夜。
二人は村の外れで空を見上げていた。
「今日は楽しかったね」
リリが言う。
「うん」
「ミナって、誰かに頼まれると絶対に断らないよね」
「そうかな?」
「うん」
リリは笑った。
「今日だって、すぐ手伝うって言ったし」
「困ってる人がいたら、助けたくなるから」
「やっぱり優しいね」
「ありがとう」
ミナは笑う。
リリは少し考えてから、言った。
「私も、ミナみたいになりたいな」
「私みたいに?」
「うん」
「どうして?」
「誰かを助けられる人になりたい」
ミナは少し驚いた。
「リリちゃんは、もう十分優しいよ」
「そうかな?」
「うん」
ミナは笑う。
「今日だって、ずっと村の人たちを笑わせてたじゃない」
「……それも、誰かを助けることになるのかな」
「きっとなるよ」
「そっか」
リリは嬉しそうに笑った。
◇
その夜。
二人は並んで眠った。
「ミナ」
「なに?」
「明日も一緒にいようね」
「うん」
「明後日も?」
「うん」
「その次も?」
「……ふふ」
ミナは笑った。
「ずっと聞くの?」
「だって、大事だから」
「じゃあ……」
ミナは少しだけ考えて。
「これからも、一緒にいよう」
「うん!」
リリは嬉しそうに頷いた。
二人は目を閉じた。
ミナはまだ知らない。
この旅が。
自分の心を少しずつ変えていくことを。
そして。
隣にいる少女との出会いが。
いつか、自分の「帰る場所」をもう一度見つけるきっかけになることを。




