031.選ばれなかった少女
翌朝。
ミナとリリは、町を出る準備をしていた。
「昨日もらったパン、残ってる?」
「うん。半分あるよ」
リリが袋を開く。
「じゃあ、半分こね」
「うん!」
二人は並んで朝食を食べた。
一人で迎える朝とは違う。
隣には、一緒に話してくれる相手がいる。
それだけのことが、ミナには少し嬉しかった。
「……ねえ、ミナ」
「なに?」
リリが少しだけ俯く。
「昨日、私が話したこと……」
「うん」
「もう少し、話してもいい?」
ミナは頷いた。
「もちろん」
「ありがとう」
リリは小さく息を吐いた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
◇
「私を召喚した時ね」
リリは遠くを見るような目をした。
「前の召喚士は、すごく喜んでくれたんだ」
「GRが出たって?」
「うん」
リリは頷く。
「『すごい! GRだ!』って」
「私も嬉しかった」
「これからずっと一緒にいられるんだって思ったから」
ミナは黙って聞いていた。
「最初は、何度も一緒に戦ったよ」
「楽しかった?」
「うん」
リリは少し笑う。
「負けることもあったけど、勝った時は一緒に喜んでくれた」
「でも……」
その笑顔が少しずつ消えていく。
「新しいGRを手に入れてから、変わっていった」
「……使ってもらえなくなったの?」
「うん」
リリは頷いた。
「最初は、たまたまだと思ってた」
「新しい子を試してるだけだって」
「でも、何日経っても呼ばれなかった」
「……」
「そして、ある日」
リリは手元を見つめる。
「『もう使わない』って言われた」
ミナは何も言わなかった。
「理由を聞いたら……」
リリの声が小さくなる。
「『もっと強い子がいるから』って」
「……そうだったんだ」
「うん」
リリは寂しそうに笑った。
「そのあと、置いていかれた」
「……」
ミナは言葉を失った。
◇
「最初は、戻ってきてくれると思ってた」
リリは続ける。
「今日だけだって」
「明日には迎えに来てくれるって」
「でも……来なかった」
リリは空を見上げる。
「何日待っても、何週間待っても」
「誰も来なかった」
「それで……」
リリは小さく笑った。
「本当に捨てられたんだって分かった」
ミナの胸が痛む。
けれど、何と言えばいいのか分からない。
だから。
ただ、隣に座っていた。
リリも、それ以上は話さなかった。
しばらく二人の間に静かな時間が流れる。
◇
やがて。
「でもね」
リリが顔を上げた。
「ミナと出会えてよかった」
「……私と?」
「うん」
リリは笑った。
「昨日、おばあさんを助けた時に思ったの」
「ミナって、すごいなって」
「そんなことないよ」
「あるよ!」
リリは即答した。
「怪我をした人を助けられるんだよ?」
「私にはできないもん」
「でも、リリちゃんにもできることがあるよ」
「私に?」
「うん」
ミナは笑う。
「昨日、ずっと元気にしてくれたじゃない」
「……それって、できることなのかな?」
「私は嬉しかったよ」
その言葉を聞いて。
リリは少し照れたように笑った。
「……そっか」
「うん」
「じゃあ、もっとミナを元気にする!」
「ふふっ」
二人は笑った。
◇
その日の昼。
二人は街道を歩いていた。
リリは昨日よりも明るかった。
「あっ、見て!」
「どうしたの?」
「あそこに花が咲いてる!」
道端に、小さな花が咲いている。
リリは嬉しそうに駆け寄った。
「きれい!」
「本当だね」
「ミナ、こっち!」
「待って、リリちゃん」
ミナも笑いながら追いかける。
二人はしばらく花を眺めていた。
「ねえ、ミナ」
「なに?」
「ミナを召喚した人って、どんな人?」
「……え?」
突然の質問に、ミナが振り返る。
「どうして?」
「だって、ミナって優しいから」
リリは笑った。
「きっと、ミナを大切にしてくれる人なんだろうなって」
「……」
ミナの脳裏に、ユウの顔が浮かんだ。
「ミナがいると安心するよ」
以前、そう言ってくれた。
「……優しい人だよ」
ミナは微笑んだ。
「そっか!」
リリは嬉しそうに頷く。
「じゃあ、きっとミナのことを大切にしてるね」
「……うん」
ミナは小さく答えた。
それ以上は、何も言わなかった。
◇
夕方。
二人は街道沿いのベンチで休んでいた。
リリが空を見上げる。
「ねえ、ミナ」
「なに?」
「私、いつかまた誰かに召喚してもらえるかな」
ミナは少し考える。
そして。
「きっと大丈夫だよ」
「本当?」
「うん」
「どうして?」
「だって、リリちゃんは優しいし」
「……」
「一緒にいると楽しいから」
リリは目を丸くした。
「……楽しい?」
「うん」
ミナは笑った。
「私は、リリちゃんと一緒にいて楽しいよ」
「……そっか」
リリは嬉しそうに笑った。
「ありがとう、ミナ」
「こちらこそ」
二人は並んで座った。
沈みかけた夕日が、二人を優しく照らしていた。
◇
夜。
二人は宿の部屋で休んでいた。
「ミナ」
「なに?」
「明日も一緒に歩こうね」
「うん」
「その次の日も?」
「うん」
「その次も?」
ミナは笑った。
「ずっと聞くの?」
「だって……」
リリは少し恥ずかしそうに笑う。
「一人になるの、嫌だから」
ミナは優しく頷いた。
「大丈夫」
「……うん」
「今は私がいるから」
「ありがとう」
リリは安心したように目を閉じた。
やがて、静かな寝息が聞こえてくる。
ミナは眠るリリを見つめた。
「……リリちゃん」
小さく呟く。
「もう、一人じゃないよ」
ミナは布団に入り、目を閉じた。
まだ二人の旅は始まったばかり。
そして。
この出会いが、二人の心を少しずつ変えていくことになる。




